トヨタの今後の業績と株価は厳しいか?

トヨタ自動車(7203)は言わずと知れた、自動車メーカー最大手です。自動車製造とともに、金融業も営んでいます。このため、自動車部門と金融部門を合わせた連結の財務諸表は、まったくビジネスモデルの異なる2つの異業種のが混じっていて、そのままでは分析しにくいです。

とりあえず、連結の財務諸表を分析したあとに、セクターごとの財務諸表の分析を行います。

トヨタの貸借対照表

トヨタの貸借対照表(連結)は次のような形をしています。

toyota_2015_balance_sheet_all

貸借対照表(連結)は、負債がおおくて、自己資本比率は35パーセント程度と、最強自動車メーカーにしては低いように見えますが、これは金融業の負債が大きいせいで、本業での自己資本比率は、60%弱あり申し分ないです。

金融業の自己資本比率は小さい傾向があるので、金融業の負債の大きさは問題ないでしょう。連結でみても、セクターごとにみても、流動資産よりも固定資産のほうが大きく、巨大装置産業であることが読み取れます。

トヨタの損益計算書

トヨタの損益計算書は次のような形をしています。

toyota_2015_PL_all

損益計算書(連結)を見ると、売上高の約2割が売上総利益で、さらに売上高の1割が営業利益です。これは、自動車セクターと金融セクターが混ざった結果で、それぞれのセクターを分離してみると、また違った姿がみえます。

自動車セクターのほうが金融セクターより金額が大きいので、自動車セクターの損益計算書は、連結したものとあまり変わらないです。しかし金融セクターの損益計算書は、これとはかなり違う姿をしているのです。これについては、また次回以降のブログで紹介します。

トヨタの総資産経常利益率と経常利益率

トヨタは米国基準の決算なので、経常利益の項目がありません。そこで、経常利益の代わりに税引前利益を使います。トヨタは、連結ベースで、総資産税引前利益率は6パーセント、売上高税引前利益率は10パーセント程度です。総資産税引前利益率が6パーセントとは、少し低い気がしますが、これも金融セクターの負債が原因で、セクターごとにみてみると、問題ないことがわかります。(これもセクターごとの分析でお話します。)

トヨタのキャッシュフロー計算書

トヨタのキャッシュフロー計算書(連結)は以下のようになります。

toyota_2015_cash_flow_all

これをみると、営業キャッシュフローに比べて、投資キャッシュフローのマイナスが大きすぎる気がします。しかし貸借対照表と同じように、これも自動車セクターと金融セクターに分離すると、自動車セクターのキャッシュフロー計算書は理想的な形になっていることがわかります。

トヨタのセグメント

トヨタのセグメント営業利益率の比率は以下のようになります。

toyota_2015_sector

これをみると、大部分の利益は、自動車セグメントが稼いでいて、金融セグメントの稼ぎはあまり大きくないことがわかります。やはり、トヨタは自動車中心の会社であることがわかりますね。

トヨタの地域別セグメント

トヨタの地域別の売上高は以下のようになります。

toyota_2015_segment_place

これを見ると、3分の1が日本、3分の1がアメリカ、残りの3分の1がそれ以外の国々という売上割合になっていることがわかります。トヨタは、日本以外では、アメリカへの売上依存度が高いです。

現在(2015年5月)は、アメリカの景気は好調なので、トヨタも好調でいることができますが、アメリカの景気が悪くなってくると、トヨタは影響を大いに受けて、業績が悪くることが予想できます。

トヨタのセグメントごとの貸借対照表

トヨタの連結の貸借対照表とセグメントごとの貸借対照表は以下の通りです。

toyota_2015_balance_sheet_segment

一番左の図が、前々回にもお見せした連結の貸借対照表です。これは、自動車セグメントと金融セグメントが合算されています。真ん中の図が、自動車セグメントの貸借対照表で、一番右が金融セグメントの貸借対照表です。

これを見てもお分かりのように、自動車セグメントと金融セグメントでは、貸借対照表の構造が全く違っており、金融セグメントでは負債の大きさが際立っています。

これは、負債が大きいことは金融ビジネスの特徴で、これ自体は特に問題はありません。ただ、これを自動車セグメントと合算して、連結の貸借対照表をつくると、見かけ上トヨタの負債が大きく見えてしまいます。ただ、真ん中の図をいただいてもわかるように、自動車セグメントの負債は特に大きいわけではありません。

また、次に注意していただきたいポイントは、自動車セグメントの総資産の大きさと、金融セグメントの総資産の大きさが、あまり違わないことです。トヨタは、ほとんど(8割くらい)の利益を、自動車セグメントが稼ぎだしており、金融セグメントの利益は2割程度でしかありません。

それにもかかわらず、2つのセグメントで、総資産の大きさが変わらないのは、金融セグメントでは、ローンなどで、どうしても総資産が膨らんでしまうことが原因です。これも金融ビジネスの特徴です。この結果、トヨタのROAなどの、資産に対する利益率の指標が、見かけ上小さくなる傾向にあります。

最後に一点注意していただきたポイントは、トヨタは連結でみても、セクターごとにみても、流動資産よりも固定資産のほうが大きく、巨大装置産業であることが読み取れることです。

トヨタには、自動車セグメントと金融セグメントの2つのビジネスが共存しています。

トヨタのセグメントごとの損益計算書

トヨタの連結とセグメントごとの売上高税引前当期純利益率と総資産税引前当期純利益率は以下の通りです。本当は経常利益率を見てみたいのですが、決算が米国基準で経常利益がないので、税引前当期純利益率をみてみます。

toyota_2015_PL_segment
まず、左図の売上高税引前当期純利益率に注目してみますと、自動車セグメントに比べて、金融セグメントのほうが2倍程度も売上高に対して利益率が大きいことがわかります。売上高に対する利益率が10パーセントを超えていることは儲かりやすいビジネスであることを示しています。なので、金融ビジネスはとても儲かりやすいことがわかります。

ただ、金融セグメントの利益の事業全体に多する割合はあまり大きくないので、連結でみると、売上高税引前当期純利益率は自動車セグメントとあまり変わらなくなってしまいます。一方、右図の総資産税引前当期純利益率をみると、今度は自動車セグメントのほうが、金融セグメントより利益率が高くないます。左図とは逆の結果になりました。これはどうしてでしょうか?

答えは、金融セグメントは、貸出資産などで、大きく資産が膨らんでいるからです。資産効率が悪いのは銀行などの金融ビジネスの特徴です。まとめると、金融セグメントは、売上高に対しては、利益率が高いけど、総資産に対しては利益率が低くなるのです。一見矛盾した結果ですが、売上高税引前当期純利益率と総資産税引前当期純利益率は同じ利益率でも、分母が違うので、逆の結果がでるのです。

トヨタは、金融セグメントもありますが、やはり本業は自動車です。その自動車は電気自動車や自動運転車への世界的なシフトもあり、トヨタにとっては逆風です。テスラなどの新興企業が伸びてきており、電気自動車、AI自動運転車へのシフトで従来トヨタが強みとしていたエンジン回りの技術の重要性が低下しています。新しい分野への転換は人材の転換なども必要で規模の大きいトヨタにとっては難しい局面が多く訪れるでしょう。中長期的にはトヨタの業績と株価は厳しいといえるでしょう。