高頻度取引(HFT)とは?金融庁データで見る「登録53社中、日本法人は1社」という実態

高頻度取引(HFT/High Frequency Trading)とは、コンピューターのプログラムが1秒に満たない時間で売買を繰り返す取引のことです。日本語では「高速取引」とも呼ばれます。

言葉は知られていても、実際に日本で何社が行っていて、どれくらいの速さで、個人投資家にどう影響するのかは、あまり整理されていません。この記事では金融庁と日本取引所グループ(JPX)が公表している一次資料だけを使って、事実を確認していきます。

最初に結論を書きます。

  • 日本でHFTを行うには金融庁への登録が必要で、登録業者は53社(2026年7月23日現在)
  • そのうち日本の法人はわずか1社。残り52はすべて海外の法人・個人
  • 東証の注文応答時間は約0.2ミリ秒=人間が反応できる速度ではない
  • 「HFTで儲けませんか」という勧誘はすべて詐欺です(金融庁が明記)
  • 個人投資家がとるべき対応は「同じ土俵に乗らないこと」

高頻度取引(HFT)とは何か

HFTは、次の3つを同時に満たす取引を指します。

要素 内容
自動 人間が判断せず、あらかじめ組んだプログラムが売買を決める
高速 1秒の1000分の1(ミリ秒)、さらにその1000分の1(マイクロ秒)の単位で動く
高頻度 1日に何万回、何十万回と注文と取消を繰り返す

よく似た言葉にアルゴリズム取引がありますが、こちらはもっと広い概念です。「大口注文を小分けにして少しずつ出す」といったプログラムもアルゴリズム取引で、必ずしも高速ではありません。HFTはアルゴリズム取引のうち、速度を武器にするものと考えると整理しやすくなります。

収益の源泉も、一般的な投資とは違います。企業が成長して株価が上がるのを待つのではなく、ごくわずかな価格のズレを、大量の回数こなして積み上げるのがHFTです。1回あたりの利益は1円に満たないこともあります。

「速い」とは、どれくらい速いのか

感覚をつかむために、東京証券取引所の売買システムarrowheadの公表スペックを見てみます。

arrowhead の性能(JPX公表) 時間
注文応答時間 約0.2ミリ秒
情報配信時間 約0.5ミリ秒

出所:日本取引所グループ「現物取引システム概要(arrowhead)」

0.2ミリ秒は、1秒の5000分の1です。 人間がまばたきをする時間が約0.1〜0.15秒ですから、まばたき1回のあいだに、システムは500回以上の注文を処理できる計算になります。

さらにHFT業者はコロケーションというサービスを使います。これは取引所のデータセンターの中に、自社のサーバーを物理的に置かせてもらう仕組みです。光ファイバーを流れる信号にも距離の分だけ時間がかかるため、「取引所からの物理的な近さ」そのものが競争力になるという世界です。

自宅のパソコンやスマホから注文を出す個人投資家と、取引所の隣にサーバーを置いた業者。速さの勝負は、始まる前に決着しています。

日本でHFTをするには、金融庁への登録が必要です

日本では2018年に施行された改正金融商品取引法によって、高速取引を行う者は「高速取引行為者」として金融庁(財務局)に登録しなければならないと定められました。無登録での高速取引は違法です。

この登録一覧は金融庁が公表しています。最新版を見ると、実態がはっきり分かります。

高速取引行為者 登録一覧(2026年7月23日現在)
登録されている全行為者数 53
うち日本の法人(法人番号あり) 1社のみ
海外の法人・個人(法人番号欄が「―」) 52

出所:金融庁「高速取引行為者登録一覧」(令和8年7月23日現在)。日本法人か否かは法人番号の有無で判定。

53のうち、日本の会社は1社だけ。 唯一の日本法人はダルマ・キャピタル株式会社(東京都中央区)で、登録は2018年8月です。

残りはオーストラリア、シンガポール、香港、オランダ、アメリカなどに拠点を置く専業のトレーディング会社です。登録第1号は2018年6月6日のSusquehanna Pacific Pty Ltd(オーストラリア)でした。

つまり日本株の板の向こう側で高速に動いているのは、ほぼ海外の専業業者です。 「日本の証券会社が個人を狙い撃ちしている」というイメージとは、実態がかなり違います。

【重要】「HFTで儲かる」という勧誘は、すべて詐欺です

この記事で最もお伝えしたいのがこの点です。金融庁は登録一覧の冒頭に、はっきりとこう書いています。

高速取引行為者を詐称する者に注意!
高速取引行為者が日本国内の一般の方へ投資勧誘を行うことは、法令上認められていません。
金融庁や財務局が個別の金融商品取引業者や高速取引行為者と業務提携することはありません!

整理すると、こうなります。

  • 高速取引行為者は、日本の一般の人に投資を勧誘できません(法令上できない)
  • したがって「HFTのシステムで運用します」「AIの高速取引で必ず増えます」という勧誘は、その時点で違法または詐欺です
  • 金融庁が特定の業者と提携することもありません。「金融庁公認」を名乗る話はすべて嘘です

HFTは言葉の響きが専門的で、仕組みも分かりにくいため、詐欺の口実として使われやすいのが実情です。金融庁はこの相談窓口も案内しています(金融サービス利用者相談室 0570-016811)。

「HFT」「アルゴリズム」「AI自動売買」といった言葉が出てきたら、まず疑ってください。

板の向こう側にいるのは誰か – 委託取引の68%は海外投資家

HFT業者の多くが海外勢だという話は、東証の売買データとも整合します。JPXが毎週公表している投資部門別売買状況を見てみましょう。

東証プライム・委託取引の内訳
2026年8月第1週(8/3〜8/7)・売買代金ベース
比率
海外投資家 68.0%
個人 25.6%
法人 6.0%
証券会社 0.4%

出所:日本取引所グループ「投資部門別 株式売買状況(東証プライム・金額)」

日本株の売買のうち、およそ3分の2は海外投資家によるものです。 この中には長期の年金基金もあれば、HFT業者も含まれます。

ここで押さえておきたいのは、「日本株なのに、値動きを作っているのは日本人ではない」という事実です。日々の細かい上下に理由を求めても、その多くは海外勢の資金の出入りとプログラムの反応であって、企業の価値とは関係がありません

HFTがあると、個人投資家は不利になるのか

結論から言えば、取引のしかたによって答えが変わります。

あなたの取引 HFTの影響
数秒〜数分で売買する短期売買 非常に不利。 速度・情報・設備のすべてで勝ち目がない
数日〜数週間のスイング 売買のたびに薄く削られるが、致命的ではない
数年単位の長期投資 ほぼ無関係。 売買回数が少ないので接点がない

公平のために書き添えると、HFTには良い面もあります。 常に売り注文と買い注文を出し続ける業者がいることで、売りたいときに買い手がいる状態(流動性)が保たれ、売値と買値の差(スプレッド)は縮む方向に働きます。実際、日本株の売買手数料や価格差は、20年前より大幅に小さくなりました。

一方で問題も指摘されています。相場が急変したときに、HFTが一斉に注文を引き上げて流動性が消えるという現象です。ふだんは流動性を供給するが、いちばん必要なときにいなくなる、という批判です。

個人投資家がとるべき、現実的な対応

速さで勝てない相手がいる。ではどうするか。答えはシンプルで、同じ土俵に乗らないことです。

HFTが戦っているのは「ミリ秒後の価格」です。決算書を読んで「3年後にこの会社はどうなっているか」を考える投資とは、そもそも競技が違います。 プログラムは0.2ミリ秒で注文を出せますが、企業の利益が5年で2倍になるかどうかを判断することはできません

具体的には、次の3点になります。

  • 売買の回数を減らす。 接点が減れば、削られる量も減ります
  • 値動きでなく、企業の中身で判断する。 決算の読み方は損益計算書の見方ファンダメンタル分析入門にまとめています
  • 「今日の値動きの理由」を探さない。 その多くは説明のつかないノイズです

なお、短期売買がうまくいかない理由はHFTだけではありません。人間の側にも、損失を確定できないという仕組み上の弱さがあります。この点は損切りができない心理で、実際の研究データをもとに扱っています。

また、株価が割安か割高かを自分で判断できるようになれば、日々の値動きに振り回される必要がなくなります。その考え方は理論株価とPERの見方で解説しています。

補足:アメリカで問題になった「先回り取引」

HFTが広く知られるきっかけになったのが、2014年に出版された『フラッシュ・ボーイズ』(マイケル・ルイス)という本です。アメリカ市場で実際に起きていたことを扱っています。

アメリカの株式市場は日本と違い、同じ銘柄が複数の取引所で同時に取引されています。そして「顧客の注文は、その時点で最も有利な価格を出している市場で執行しなければならない」というルールがあります。一見すると投資家保護のための合理的なルールです。

ところが、このルールを逆手に取る手口が指摘されました。おおまかにはこういう流れです。

  • HFT業者が、ある市場にごく少量だけ最良の価格で注文を出しておく
  • 大口注文を抱えた証券会社は、ルール上まずその市場に注文を出さざるを得ない
  • その瞬間に「大口の買いが来る」ことがHFT業者に伝わる
  • HFT業者は他の市場へ先回りして買い集め、証券会社は高くなった価格で買わされる

速度が数ミリ秒でも速ければ成立する手口で、当時は回線を短くするために山を掘って光ファイバーを通すといった投資まで行われました。

日本の株式市場は東証にほぼ集約されているため、この本の手口がそのまま当てはまるわけではありません。 ただし「速さが利益に直結する」という構造は同じで、だからこそコロケーションに需要があります。

投資の歴史として読む価値のある一冊です。関連する読み物は投資本の紹介でも扱っています。

まとめ

  • HFTとは、プログラムがミリ秒単位で大量に売買を繰り返す取引のこと。アルゴリズム取引のうち、速度を武器にするものを指します
  • 東証の注文応答時間は約0.2ミリ秒。まばたき1回のあいだに500回以上を処理する速度で、人間が競う対象ではありません
  • 日本では金融庁への登録が義務で、登録53社のうち日本法人は1社だけ。板の向こう側にいるのはほぼ海外の専業業者です
  • 「HFTで運用します」という勧誘はすべて詐欺です。 高速取引行為者は日本の一般の人に勧誘できないと法令で決まっています
  • 東証プライムの委託取引の68.0%は海外投資家。日々の値動きの多くは、企業の価値とは無関係に生まれています
  • 個人投資家の対応は「同じ土俵に乗らない」こと。売買回数を減らし、値動きでなく企業の中身で判断する——これがHFTに対する唯一有効な姿勢です