マーケットが大きく動いたり、出来高が大きくあったりすると、今や日本の財務大臣などの政治家までが超高速取引の動きに懸念を表明したります。この超高速取引、英語名でHFT(High・Frequency・Trading)と言います。
今回はその解説をしてまいりましょう。
今や日本の株式市場の6割強を占める、HFT
日本の株式市場はある理由によってこのHFT取引が出来高の6割強がこのHFTの出来高になります。
このように売買の占有率が高いHFTに関して、まともに語ることができない方が数多くいらっしゃいます。もちろん、FXでもこの占有率は非常に高いものですが、公式な統計がありませんのでその詳細なデータがありません。
なぜならインターバンク市場という民間のレートを使い取引をしていますので公式な統計が存在ないからです。株式市場でもそういうシェアを握っていますので外国為替相場ではそれなりのシェアがあることは間違いないと思います。
HFTというのは、かんたんに説明をすると、人間が感知できないほどのスピードで値段を約定させるコンピューター売買のことになります。人間が感知できないスピードというのは具体的にいえば、マイクロ秒とかナノ秒単位ということです。1秒なんて時間がかかりすぎというのが昨今の常識です。
100パーセント儲かるとはどういうことか?
みなさんが興味を持つ点はこの点ですよね。
このことに関して、説明するためにはある経済学の概念をお話をしなければなりません。
経済学には一物一価制度という決まり事があります。これが一番有名な話は、金本位制度で通貨の王様であった貴金属の金になります。
現在、世界で流通している金は、世界、どこにいっても同じ価格になります。たとえば、ニューヨークで金がグラム当たり1000円で東京で2000円であったとしたらみなさんどうしますか?
みんなこういう行動に走ると思います。
ニューヨークで割安な金を買って、東京で割高の金を売却します。この消費行動を経済学では合理的な経済行動といい、みなさん安いところで買って高いところで売るには当然の話になりますよね。
そういう行動を続けていれば、当然、ニューヨークと東京の金の価格差というのは同じ値段に収斂をしていきますよね。ニューヨークの方が値段が安いということは需給がだぶつき、東京は需給がひっ迫をしているのですから東京で売る人が多いということは、そのひっ迫を解消する動きになって価格差を解消する動きになりますよね。
そう考えていくと、世界の投資家はできるだけ高い国で金を売却し、安い国で金を購入することを考えます。つまり、金が足りないところに金が供給され、充足しているところは海外に流出するから、同じモノ、質量であれば値段は必ず同じ値段になるのです。
HFTは、そもそものこういう原則からスタートしました。ですから、東京とニューヨークの金の値段差がかい離をしていた場合、高い方を売り、安い方を買うという行動にHFT取引業者は出るのです。
この取引のこと、安い方を買い、高い方を売るというのをアービトラージといい、昔からある取引手法になります。日本ではさや取りといいます。
これを為替で考える
たとえば、みなさん、ドル円、ユーロドル、ユーロ円の3つの通貨ペアがあった場合、ドル円×ユーロドル=ユーロ円になることはご存じでしょうか?
知らない方はその計算を今すぐにやってみてください。きちんと、そのような計算になるはずです。
でも、突発的な事件があって、たとえばドル円が大きく上下動をした場合、ユーロ円が常にその値段になるとは限りません。ほんの数分か、数秒、掛け算で出た答えとかい離する場合がしょっちゅうあります。
それを上記の掛け算で出た答えに収斂するようにポジションを組むのが、アービトラージで、理論上、損失は出ません。
それを人間の頭でやっていたら、気がついた人がポジションを構築してそれを解消するのにはどんなに頑張っても10秒はかかりますよね。ところがそのポジションの構築と解消を、プログラムを組んでやれば、現在ではマイクロ秒とかナノ秒単位でやるのが常識なのです。
高まるスピード競争
このスピード競争が始まったのはやはり米国でIT革命が起こった近辺からです。アイディア自体は、1970年代からありましたが、実際のスピードが早くなったのはここ数年のことになります。
古くから株式投資や為替取引をやっている方はご存じだと思いますが、昔は、リアルタイムの値段なんて表示なんてされることが珍しいことです。証券会社へ行ってもなかなかリアルタイムでトレードなんてできるものではありません。
せいぜい、やっても寄り付きで買って、引けに売るくらいがその早い取引であって、通常は1990年代半ばまでは日またぎ商いといって、前日に買って、翌日に売るというのが早いトレードでした。
でも、あなたの画面に表示される値段、実はリアルタイムなんかじゃないのですよ、と言ったら驚きますか?
要するに上記のHFT取引業者というのはできるだけ早く、注文を約定させたいのです。早く約定をさせれば、他人よりは大きい利益を得ることができますよね。
そのスピード競争がものすごいことになっているのです。
かんたんな話、あなたが株式取引をやっている場合、一番、正確なリアルタイムの値段を知る場合はどこに行けばいいでしょうか?答えはかんたんですよね、東京証券取引所に行けばいいだけの話です。実際、アメリカではウォール街のニューヨーク証券取引所の界隈の土地というのはこの取引が流行したときは暴騰をしたのです。
なぜなら、取引所が近くにあったほうが、より正確な値段を知ることができるからです。
取引所から100キロ離れたところと50メートルも離れていないところとどちらが正確な値段表示になりますか?断然、近いほうですよね。
証券会社が必ず兜町界隈に本社や支店を構える理由というのは、昔は受け渡しの関係上その利便性だったのですが今は、正確な値段情報を得るためなのです。とにかくナノ秒でもいいからライバルより早く、正確な値段を知りたいということになるのです。
だから、あなたのパソコンの画面上に表示をされる株価や為替レートなんて本当の意味でいえば取引所のサーバーやFX会社のサーバーを経由して配信される値段なんて、遅すぎてHFT業者にはお話にならないのです。
つまり、あなたのパソコンに表示されるレートはリアルタイムなんかではないのです。
現代のHFT
現代のHFTはものすごいことになっています。たとえば、株式市場で私たちの年金資産が運用していることはみなさんご存知ですよね。
その年金が買う前にHFTが買い、年金が買うと同時にその注文を決済をするのです。これも理論上100パーセント儲かります。
つまり、年金運用の担当者が注文を出す、マイクロ秒、ナノ秒前に買い注文を入れ、その年金の運用というのは大きい金額になりますから、値段が必ず上昇してしまいます。その値段が上昇をしたときに手じまいをかけるのです。
これなら100パーセント儲かりますよね。
100パーセント儲かる取引なのですから、誰でもこの取引をやりたい。
その結果がスピード競争につながり、現在ではマイクロ秒、ナノ秒単位になるのです。
なぜ、東京証券取引所の売買比率の6割強がHFTに占有されているのかは、一つ一つの取引の利益は少ないのですが、その量や頻度を上げればものすごい利益になるのは想像に難くありませんよね。
だから、HFT取引の占有率が高くなるのです。
今後のHFT
この極限のスピードに達してしまったHFTですが、今後はどのようになっていくのでしょうか?
FXの場合は公式の統計がありませんので何とも言えませんが、株式の場合、特に日本の場合はまだまだ続くでしょう。
その理由というのは、東京証券取引所の地盤沈下にあります。商いでは上海、香港等に抜かれているのですからHFT取引業者を排除する動きにはなりません。しかし、アメリカではナスダックを筆頭にその業者を排除する動きになっています。またアメリカの投資銀行もHFT取引に利益をかすめ取られないような施策もとっています。
つまり、この100パーセント儲かる取引というのは縮小傾向になっていくと思われます。
でも、忘れてはならないのは、みなさんも投資をやる以上、100パーセント儲かる取引をやらなければならないということになります。この確実に儲かる方法を強化するのがHFT取引業者の宿命でした。
リーマンショック以降、この取引が全盛でしたが、今後、世界はこの取引を排除する傾向にいくでしょう。
こういう話を聞いて、スキャルピングなんて、人間の認識できるスピードでトレードを行うことがバカらしくなってきませんでしょうか?
私たち投資家は常に、新たな投資手法を考えていかなくてはいけないということですね。