
株式投資やFXでの投資判断は、感情に左右されて難しいものです。損切りしなければいけないことは頭ではわかっている。だけどできない。こつこつと利益を積み重ねて、勝ちトレーダーの仲間入りをしたと思ったら、ドカンと大きく負けて、また一からやり直し。損切りしなければ、いつか大損することがわかりつつも、できないのはなぜでしょうか?この人間に特有の不思議な心理の謎をひも解いて、勝ちトレーダー(投資家)への道を案内したいと思います。
本能と実データ、そして年に一度だけ起きる例外を並べると理由が見えます。
だから「損切りできない」は意志の弱さの問題ではなく、仕組みの問題です。逆指値注文のように、決断を事前に外部化しておけば、12月と同じことが1年中できます。
投資では、ほとんどの人はコツコツドカンです。
株やFXでトレード(投資)をするとき、ほとんどの人は、利益はすぐに確定したくなるが、損は確定することができずに、ずるずると塩漬け状態になります。いわゆる損大利小になるのが普通です。
大抵の場合は、勝率は高いが、一回の負けが大きくて、トータルではマイナスになるというパターンになる人がほとんどでしょう。
沢山の投資の指南著で、損切りは早く、利益は伸ばせと書いてありますが、実際にその通りにできる人はほとんどいません。どうしてでしょうか?
損切りできないのは行動経済学のプロスペクト理論で説明できます。
普通の人のトレードが損大利小になる理由には、人間の本能が関わっています。
2002年にノーベル経済学賞(受賞者:ダニエル・カーネマン)を受賞したプロスペクト理論という行動経済学の理論があるのですが、この理論が損切りできない理由を説明しています。このことについて、もう少し詳しく説明したいと思います。
行動経済学では有名な質問ですが、次の質問を少し考えてみてください。
質問1 ここに1000万円あります。次のどちらを選びますか?
(A)何もせずに1000万円をそのままもらう。
(B)じゃんけんに勝ったら2000万円もらえるが、負けたら何ももらえない。
質問2 ある事故を起こして、あなたは1000万円の借金を背負いました。次のどちらを選びますか?
(A)じゃんけんに勝ったら、借金を帳消しにするが、負けたら借金が2000万円になる。
(B)じゃんけんをせずに、おとなしく1000万円の借金を背負う。
期待値的に考えると、上の2つの質問の選択肢は(A)(B)どちらを選んでも特に損得はありません。しかし、この2つの質問に対して、ほとんどの人が両方とも(A)の選択肢を選びます。
このことは何を意味しているかというと、人間は、「自分に有利な場面ではリスクを避けて、自分に不利な場面ではリスクをとることを好む」という性質があることを示唆しています。
このことは、一般的な生活でもよく観察されます。追い詰められた人間は、自暴自棄になって、一か八かの大勝負にでることなどは、よくあることと思います(笑)

プロスペクト理論では、この人間特有の心理を経済学で使われる効用関数で、説明しています。具体的にいうと、ロボットであれば効用関数が直線なのですが、人間の場合、この効用関数がS字に曲がっているのです。このために、人間は非合理的な判断をしてしまうのです。
上の図で、右上部分で上に凸になっているところが、利益の出ているところで利確したい心理を表します。逆に左下の部分で下に凸になっている部分が損をしている時にリスクを取りたくなる心理を表します。
もっと詳しく知りたい読者は行動経済学(プロスペクト理論)の専門書などを読んでみると良いと思います。いま、ファイナンスの心理的な側面は、行動経済学という学問で研究されていて、金融機関などで応用されています。
本能のせいで人間は投資で負けるようにできています。
さて、これプロスペクト理論を投資・トレードに応用してみるとどうなるでしょうか。我々の投資における不合理な心理が理解できます。
例えば、ドル円でエントリーして、含み益がでてきたとしたら、これは自分に有利な展開です。先ほどのプロスペクト理論によると、人間は自分に有利な場面でリスクを避けて保守的になる傾向があるので、この含み益のあるポジションを閉じたくなるのです。つまり、利益が出ている場面で利確は早くなります。(先の質問1とおなじことですね。)
では逆に、エントリーして、含み損が出てきたらどうなるでしょうか?これは、自分に不利な状況ですので、プロスペクト理論によると、人間は自分に不利な場面ではリスクを取りたがる傾向があるので、結果この含み損のポジションをクローズすることが心理的に難しくなるのです。ずるずる含み損のまま損切りできずに塩漬けにして、いつか復活することを願うということになります。。。
勝率が高く、損大利小、(いわゆるコツコツドカンってやつですね(笑))というのは、行動経済学のプロスペクト理論によると人間の本能からくる傾向なので、これを克服するのは至難の業です。
まあ、いいかえると、人間は本能的に負けるようにできているのですね(笑)。
解決策としては、FXであればシステムトレードのように機械的にするか、本能に逆らうトレードスタイル(損小利大)を身に着けられるようにトレーニングを積むことです。
また、株式投資であればファンダメンタル(理論株価)に比べて、安いか高いかで判断して売買することですね。
自分が投資(エントリー)した時の価格に比べて、上がったか下がったかで決済(エグジット)の判断をしがちですが、これは間違った考え方です。
心理的な障害を取り除いて、良いトレードをしていきたいですね。
【実データ】人は本当に損切りできないのか──10,000口座・7年分の取引記録が示したこと
ここまでは理論の話でした。では実際の投資家は、本当に「損切りできない」のでしょうか。これを大量の実データで検証した有名な研究があります。
カリフォルニア大学のテランス・オディーン教授が1998年に発表した論文「Are Investors Reluctant to Realize Their Losses?(投資家は損を確定したがらないのか)」(Journal of Finance, Vol.53 No.5, pp.1775-1798)です。米国の大手ディスカウント証券から1万口座・1987年1月〜1993年12月の全取引記録(162,948件)の提供を受け、投資家が「利益と損失のどちらを確定しやすいか」を数えました。
使われた指標はシンプルです。
- PGR(利益実現比率)=利益を確定した回数 ÷(利益を確定した回数+含み益のまま持っている数)
- PLR(損失実現比率)=損失を確定した回数 ÷(損失を確定した回数+含み損のまま持っている数)
もし人が合理的なら、この2つはだいたい同じになるはずです。結果はこうでした。
| 通年 | 1〜11月 | 12月 | |
|---|---|---|---|
| PGR(利益を確定する率) | 0.148 | 0.152 | 0.108 |
| PLR(損失を確定する率) | 0.098 | 0.094 | 0.128 |
| PGR ÷ PLR | 約1.5倍 | 約1.6倍 | 約0.84倍(逆転) |
通年では、投資家は利益を損失より約1.5倍も確定しやすい。口座単位で平均すると、PGRは0.57、PLRは0.36で、その差は0.21。統計的な確からしさを示すt値は35を超えており、偶然では説明できない差です。
つまり「自分だけが損切りが下手なのでは」という感覚は、思い込みではありません。1万口座を平均しても、人間は同じ方向に間違えます。この現象には名前もついていて、シェフリンとスタットマンが1985年に「気質効果(ディスポジション効果)」と名付けました。
★12月だけ、人は損切りできる──これは「性格」ではなく「仕組み」の問題
上の表をもう一度見てください。この記事でいちばんお伝えしたいのは、実はこの部分です。
12月だけ、PGRとPLRが逆転しています。1〜11月は利益を1.6倍確定しやすいのに、12月になると損失のほうを確定しやすくなる(PGR 0.108 < PLR 0.128)。同じ人たちが、同じ年のうちに、正反対の行動をとっているのです。
理由は税金です。米国では年内に損失を確定すると、その年の利益と相殺して税負担を減らせます。年末という「締切」と、税金という「はっきりした動機」が与えられると、人は損切りができるようになる。
これは非常に重要な発見です。損切りできない原因がプロスペクト理論の示す本能にあるのなら、本来は12月でも損切りできないはずです。ところが実際にはできている。ということは、「損切りできない」は克服不能な性格ではなく、条件次第で変えられる行動だということになります。
裏を返せば、意志の力や「今度こそ強い心で」といった精神論では変わらないということでもあります。変わったのは心構えではなく、締切と動機という外側の仕組みだったのですから。この記事の最後で、その仕組みの作り方を具体的に挙げます。
※なおこれは米国の税制下でのデータです。日本にも損益通算や繰越控除の制度があるため似た行動は起こり得ますが、税制の扱いは口座区分などで異なります。ここでの主眼は節税ではなく、「締切と動機があれば人の行動は変わる」という一点です。
「いつか戻る」は正しいのか──売った勝ち銘柄と、持ち続けた負け銘柄のその後
損切りできない人の頭にあるのは、たいてい「まだ戻るかもしれない」という考えです。これは検証可能な予測なので、オディーンは実際に追跡しました。
結果:投資家が売った「勝ち銘柄」は、その後1年間で、彼らが持ち続けた「負け銘柄」を平均3.4%ポイント上回りました(市場全体の指数に対する超過リターンで比較)。
つまり「負け銘柄はいずれ勝ち銘柄を上回る」という期待は、平均すると外れていたということです。しかも投資家は、上がっていく銘柄のほうを先に手放していました。
ここで見落とされがちなのが、塩漬けの本当のコストは「含み損」ではないという点です。含み損はすでに起きたこと。問題は、その資金が別の場所で働けたはずの時間を失っていることのほうです。研究によれば、この口座の平均的な保有期間は約15か月(月次回転率6.5%)でした。1年以上、そのお金は動けないまま置かれている計算になります。
もう一つの落とし穴──「損切りルール」が売買回数を増やすと逆効果になる
ここまで読むと「よし、こまめに損切りしよう」と思われるかもしれません。ところが、そこにもう一つの罠があります。
同じオディーン教授がブラッド・バーバー教授と2000年に発表した論文「Trading Is Hazardous to Your Wealth(売買はあなたの資産に有害である)」は、66,465世帯・1991〜1996年の口座記録を分析しました。
| 年率リターン | |
|---|---|
| 市場全体(時価総額加重指数) | 17.9% |
| 平均的な世帯(手数料を引く前) | 18.7% |
| 平均的な世帯(手数料・売買コスト差引後) | 16.4% |
| 売買が最も多い層(差引後) | 11.4% |
| 売買が最も少ない層(差引後) | 18.5% |
注目してほしいのは1行目と2行目です。手数料を引く前なら、個人投資家は市場平均に負けていません(18.7% vs 17.9%)。銘柄選びの腕がひどいわけではないのです。
ところが手数料と売買コストを差し引くと16.4%まで落ち、最も頻繁に売買する層は11.4%まで沈みます。最も売買しない層(18.5%)との差は7.1%ポイント。論文自身も「頻繁に売買する層と、あまり売買しない層とで、コスト差引前の成績にはほとんど差がない」と書いています。差をつけたのは、選ぶ力ではなく、売買回数でした。最も売買する層の年間回転率は250%超(平均的な世帯は75%)でした。
したがって、損切りの話は「早く切るか、切らないか」の二択ではありません。正しくは「そもそも頻繁に売買しなくて済む設計にしたうえで、切ると決めた線は必ず切る」です。損切りルールが売買回数を増やす方向に働いてしまうなら、それは別の形で資産を削ります。
結論:意志ではなく「仕組み」で損切りする
12月のデータが示したのは、人は締切と動機があれば損切りできるということでした。ならば、それを自分で用意すればいい。以下は、そのための考え方です。
① 買う前に、損切り価格を決めて注文まで置いてしまう。含み損を抱えてからでは、プロスペクト理論の言う「損の領域でリスクを取りたくなる心理」がすでに働いています。まだ何の感情も持っていない「買う前」が、唯一冷静でいられる瞬間です。逆指値注文なら、決めた線で自動的に執行されます。
② 「いま持っていなかったとして、この価格で買うか?」と自問する。持っているという事実そのものが判断を歪めます(保有効果)。この問いは、その歪みを一度リセットするための道具です。答えが「買わない」なら、持ち続ける理由も本当はありません。
③ 金額ではなく比率で決める。「10万円の損まで」ではなく「投資額の◯%まで」。金額で考えると、資産が増えたときも減ったときも同じ物差しを使ってしまいます。
④ 自分の「12月」を作る。四半期に一度でも、ポートフォリオ全体を点検する日をカレンダーに固定してしまう。銘柄を1つずつ眺めると感情が出ますが、全体を一覧にすると「この銘柄はもう資金を寝かせているだけだ」と気づきやすくなります。締切を外から与えるという意味で、これがいちばん12月効果に近い方法です。
⑤ 売買回数の上限を先に決める。バーバー=オディーンの結果が示すとおり、回数そのものがコストです。「月に◯回まで」と決めておくと、1回の判断が自然に慎重になります。
⑥ そもそも「損切り判断が要らない部分」を資産の中心に置く。これが最も確実です。個別株のように毎回判断を迫られる資産だけで組むのではなく、積立で買い続ける仕組みを土台にしておけば、損切り判断そのものが発生しません。具体的な考え方は積立NISAの銘柄選びで解説しています。口座をどこに作るかで手数料も変わるので、NISA証券口座の比較もあわせてどうぞ。判断回数を減らしながら現金収入を得たい方は高配当株ランキングの考え方も参考になります。
最後にもう一度だけ。損切りできないのは、あなたが弱いからではありません。1万口座を平均しても人は同じ間違いをしますし、その同じ人たちが12月には損切りできています。変えるべきは心構えではなく、判断が要る場面の数と、決断する瞬間の位置です。
参考文献(一次資料)
- Terrance Odean (1998), “Are Investors Reluctant to Realize Their Losses?”, The Journal of Finance, Vol.53, No.5, pp.1775-1798. — 1万口座・1987〜1993年の取引記録。PGR・PLR、12月の逆転、その後1年の3.4%ポイント差はすべて本論文より。
- Brad M. Barber and Terrance Odean (2000), “Trading Is Hazardous to Your Wealth: The Common Stock Investment Performance of Individual Investors”, The Journal of Finance. — 66,465世帯・1991〜1996年。
- Hersh Shefrin and Meir Statman (1985), “The Disposition to Sell Winners Too Early and Ride Losers Too Long”. — 「気質効果」の命名論文。
- Daniel Kahneman and Amos Tversky (1979), “Prospect Theory: An Analysis of Decision under Risk”. — 本記事前半のプロスペクト理論。カーネマンは2002年にノーベル経済学賞を受賞。
本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の銘柄や売買手法を推奨するものではありません。投資判断はご自身の責任でお願いいたします。
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なお、短期売買が難しい理由は心理だけではありません。板の向こう側にいる相手については高頻度取引(HFT)とは?で、金融庁とJPXの一次資料をもとに整理しています。