サイバーダイン株式会社(7779、CYBERDYNE)のこれまでの業績と株価を見て、今後の業績と株価を予想(見通し)をしたいと思います。
この記事の内容をザックリまとまると次の4点になります。
⑴ サイバーダインが研究開発しているロボット技術は、インターネット、人工知能に続く次世代の主要産業になるだろう。
⑵ サイバーダインは研究開発に多くの資金を投入しており、売上高は徐々に上がっているが大きな研究開発費がかかっていて、まだ利益は出ていない。
⑶日本人技術者は伝統的にロボットのような精密技術に強く、この点でサイバーダインも将来が期待できる。
⑷ サイバーダインの手がけるロボット技術の研究開発は、新薬開発に似ており、当たれば業績を大きく飛躍させることができるであろう。
サイバーダインのビジネスの概要
サイバーダイン(CYBERDYNE)は大学発のベンチャーで、HALのブランドで知られるサイボーグ型のロボットを研究・開発しています。特に、脳から筋肉に流れる神経信号をセンサーで把握して、人間の腕や足などの動きを補強、増強させたりするロボットの開発で世界的に知られています。このHALの技術は医療ロボット、清掃ロボット、搬送ロボットなどに応用されており、医療、清掃、搬送用として開発したロボットのレンタルサービスなどを提供しています。
サイバーダインは2004年に設立され、2014年に東証マザーズに上場したまだ若い会社です。今後、世の中はインターネットの時代から人工知能そしてロボットの時代がやってくると予想されます。サイバーダインはロボット産業のパイオニアとして、その将来の成長が期待されています。
サイバーダインの決算書の業績を、損益計算書(PL)、貸借対照表(BS)、キャッシュフロー計算書の3つの財務諸表の主要項目の年ごとの推移を順番に見てみたいと思います。ファンダメンタル投資では(実は短期投資でも)決算書の主要項目の変化をみていくことは重要ですね。
サイバーダインの売上高、純利益の推移
まず、下の表がサイバーダインの最近5年間の損益計算書の主要項目の売上高、経常利益(損失)、純利益(純損失)、包括利益の推移です。下の表はサイバーダインの有価証券報告書からの引用です。
サイバーダインの売上高は右肩上がりに上がっていますが、純利益はマイナスのままで黒字化できていませんね。後でも詳しく書きますが、研究開発費が多くかかりまだまだ利益を残す体制にはなっていません。
ただ、サイバーダイン(CYBERDYNE)はロボットのような新しい技術で勝負しているので、今の段階では利益を残すことを考えることより、どんどん研究開発に資金を投入した方が良いと思われます。アマゾンのような巨大企業でも、利益よりも新規投資に資金を回しており、売上高は多くなっていますが利益はほとんど出てきません。というよりアマゾンは利益を出さないようにしていると考えるべきでしょう。
サイバーダインも今は赤字が続いていますが、新しい技術による新興企業で研究開発費に投資する時期なので、それほど気にする必要はないでしょう。
サイバーダインの総資産・純資産などの推移
次の表は、サイバーダインの貸借対照表(バランスシート)の主要項目である総資産、純資産、一株あたりの純資産、一株あたりの純利益(EPS)、自己資本比率の最近5年の推移です。
純資産と純資産が2015年に大きく上昇しています。これは、2014年11月に実施された410億円にのぼる資金調達によるものです。資金調達の内訳は公募増資が約210億円、CB(転換社債)で約200億円によるものです。CBでの調達を引き出すには契約で、HAL医療用の米国や日本の政府機関(FDAなど)からの承認が必要となっています。
サイバーダインの決算説明の資料などで、日米欧などの政府機関からの医療器具としての承認を得たことを強調しているのは、このCBでの調達の契約が背後にあるようです。
2017年では、総資産は変わらずに純資産が大きく上昇しています。(それとともに自己資本比率も55%程度から98%くらいまで大幅に増えています。)これは先ほどの2015年の転換社債などの権利行使による株式転換によるものです。
サイバーダインのキャッシュフローの推移
次の表は、サイバーダインのキャッシュフローのここ5年間の推移です。
ビジネスで重要な営業キャッシュフローがほとんどの年でマイナスになっていませんね。。。
営業キャッシュフローは大雑把に行って、営業利益に原価償却費を足したものなので、通常は営業利益よりも営業キャッッシュフローの方が大きくなります。なので、営業利益がマイナスでも営業キャッシュフローがプラスであれば、今後の成長が見込めます。ここ2年間で営業キャッシュフローのマイナスの幅が小さくなっていますので、この点は評価できますね。
投資キャッシュフローは、ほとんどの年で大きくマイナスですが、これは有形固定資産の取得など先行投資によるものです。成長している(成長しようとしている)新興企業では、よく見られる現象なので、特に問題ないでしょう。
サイバーダインの研究開発費
サイバーダインの売上高が上がっているにも関わらず、営業利益や営業キャッシュフローがマイナスの原因の一つに、研究開発費が挙げられます。下の図が、サイバーダインの売上高、研究開発費、営業利益などの表です。
上の図で赤丸で囲ったところを見てもわかる通り、研究開発費は、プラスの売上純利益を帳消しにしています。このほかに一般的な販管費がかかりますので、営業利益は大きくマイナスになっています。
このようにサイバーダインは研究開発型のビジネスをしていますので、常に莫大な研究開発費がかかります。この辺が、日用品や食品などをビジネスにしている企業との大きな違いです。どちらかというと、新薬製薬会社に似ているでしょうか。
サイバーダインは、まだまだ売上をあげても、それをさらに研究開発につぎ込んでロボットの改良をしていく必要があります。ロボットはこれからの分野ですので、いくら研究開発に費用をつぎ込んでも足りないくらいでしょう。
サイバーダインのような研究開発型の企業は社会的意義は高いですが、投資家目線から見るとそれほど美味しい投資分野ではないかもしれません。。。
ちなみに、研究開発費は営業キャッシュフローとして分類されますので、莫大な研究開発費用は営業キャッシュフローのマイナス要因になります。
サイバーダインのバランスシート,損益計算書,時価総額の比較
企業を損益計算書、貸借対照表、時価総額の3つの異なる視点から比較すると、その企業を立体的に見ることができます。
サイバーダインの貸借対照表(BS)の最も重要な数字(総資産、自己資本)、損益計算書(PL)の最も重要な数字(売上高、純利益)、そして株価に比例する時価総額を下記で見てみましょう。
(サイバーダインの2018年3月期決算書より)
(1)BS(貸借対照表)
総資産 463億円、 自己資本 455億円
(2)PL(損益計算書)
売上高 17.2億円、 純利益 −5.9億円 (来期予想 −0.4億円BD)
(3)時価総額 1800億円 (2018年9月5日)
BSの総資産、PLの売上高、時価総額の3つの数字はだいたい同じオーダー(桁数)になることが多いですが、サイバーダインの場合は総資産、売上高に比べて時価総額が大きく、サイバーダインへの投資家の期待が現れています。
また、サイバーダインは売上高に比べて総資産が大きく、会社としては、まだまだ売上を伸ばして総資産にに見合うレベルまで引き上げなければならないでしょう。この総資産のレベルだとあと10倍程度の売上高が欲しいところです。サイバーダインはまだまだこれからといったところですね。
これらの数字から、投資に重要な指標を計算すると以下の通りになります。
自己資本比率:98%
売上高純利益率:−34%
ROA:−1.2%、
ROE:−1.3%
PER:−305倍
PBR:3.8倍
自己資本比率が非常に高く、まだまだ研究開発に資本をつぎ込むことができそうです。ただ、残りの数字はPBRを除いてマイナスです。純利益がマイナスなので、こうなるのは当然なのですが、サイバーダインはビジネスとしてはまだ成立していないことがわかります。サイバーダインの今後の成長に期待ですね。
サイバーダインの株価の推移
ここまでサイバーダイン(CYBERDYNE)のファンダメンタルを分析してきましたが、次は株価の推移をみてみましょう(下図)。
サイバーダイン(CYBERDYNE)は、まだまだ売上も小さく、利益も赤字の為に一株純利益から導出する理論株価が計算できません。(言い換えるとPERが良い指標ではないですね。ちなみに理論株価は一株あたりの純利益を15倍して計算します。)
そこで、サイバーダインの資産面から株価の水準を評価してみましょう。サイバーダインのPBRの方を見ると3.8倍とそれほど高くはありません。よって、サイバーダインがこれからも成長を続けることができれば、株価は決して高すぎる水準ではありません。
インターネット革命、人工知能と新しい技術が出てきて、世の中の技術産業の変化が激しいですね。ロボットは次世代の技術の中心になるでしょう。
インターネットや人工知能はソフト技術であり、日本は欧米に遅れをとっていました。しかし、ロボットのような精密技術が必要になるハード分野では伝統的に日本人は強いですね。自動車やコモディティ化する前までの家電も日本は世界で強さを発揮していました。サイバーダインは次世代の主要技術になるであろうロボット開発をしていますので、今後の伸びが期待できます。
ただ、懸念としてはロボットのような新しい技術には莫大な研究開発費が必要で、また今後ロボット分野に次々と新しい競合も出てくると思いますので、これからサイバーダインは先行者利益がどれくらい取れるかを注視する必要があります。
投資家として見ると、研究開発費が多くかかるサイバーダインへの投資は、新薬開発をする製薬会社への投資に似ていますね。当たれば大きな利益を得られますが、上手く研究開発が進まない場合は資金だけ食いつぶすリスクもあります。
個人的には、サイバーダインへの長期投資は様子見としたいですね。