配当利回りが脅威の7.8% (2020年4月21日現在)を超え個人投資家に大人気のJT株(日本たばこ産業[2914])。東証1部の平均配当利回り(2.28%)の3倍を優に超える配当株の王様のようなJT株ですが不安材料も多く聞こえてきます。利益は減少していないか、タバコは時代に逆風なのでは、コロナで更に厳しくなるのでは、こんなに高い配当を維持できるのか。この記事では大注目のJT株をリスクとプラス材料を網羅しながら徹底分析したいと思います。
株式の鉄則であるファンダメンタルズ分析をベースに先ずはリスクから分析していきます。
リスク1:止まらぬ減益
2020年2月に発表された2019年12月期の売上高は微減、営業利益、経常利益、EPSが前期比減、連結最終利益は3481億円となり前期比9.7%減となりました。2020年12月期は更に3050億円に減る見通しとなり5期連続減益となる可能性が高いです。止まらぬ減益はJT株最大のリスクの1つです。
リスク2:減配リスク
上記の通り当期純利益が減っている中でも際立つのが配当の高さです。利益の8割を配当に回していることになり、後述の通りプラスの側面もありますが減配リスクは常に意識する必要があります。為替リスクもあることから配当利回りの高さのみで投資をすると日産のように株価暴落と大減配のリスクがあるため危険です。
リスク3:国内たばこ市場の縮小
事業別の売上収益を見てみると国内たばこ事業は4期連続で減少しています。禁煙の波は会社や飲食店を始め日本全体で加速の見通しであり、国内たばこ事業の苦戦は続くでしょう。昨今の新型コロナウイルスにより禁煙が更に進めば今後の市場縮小に拍車がかかる可能性もあります。
加えてたばこ税も増税の一途であり、これはたばこの販売に対してJTの取り分が減ることになります。喫煙率は低下し販売本数も減少傾向の国内たばこ市場は非常に厳しい状況と言えます。
リスク4:ESG投資の逆風
国内たばこ市場に加えて世界の投資傾向としても厳しく、昨今のESG投資のように機関投資家にとってJTはリスクとみなされ投資方針から外される可能性が高く、日本でもGPIFなど巨大な機関投資家の方針から外れる傾向があります。実際に外国法人等の株主比率は5年で約半減しております。(2019年12月で約15%)
リスク5:減損リスク
JTは海外のたばこ会社のM&Aを進めており日本有数ののれんを抱えています。貸借対照表を見ると現在のれんは約2兆円であり今後M&Aが失敗とみなされるなど巨額の減損リスクを抱えております。
ここまで読むと市場は縮小し世の中も投資戦略も逆風で、事実利益も減っているJT株はとても買う気になれないと思いますが、次にプラス材料を分析していきます。
プラス材料1:海外たばこ事業の伸び
リスクの項目で国内たばこ事業の縮小を分析いたしました。確かに国内は縮小の一途であり今後も縮小、よくて横ばいの可能性が高いでしょう。しかし、実はそもそもJTは海外たばこ事業の方をメインとしており国内たばこ事業の1.6倍、自社製品の売上収益においては国内の倍以上となっております。
そのためJTの利益は海外のたばこ市場をより分析する必要があります。その海外たばこ市場について、日本のような先進国ではなく新興国や発展途上国、アフリカなどのまだたばこすら買えない国の市場は今後の経済発展に伴い拡大していきます。人口減少の日本と異なり世界全体の人口は増加していきます。実際にJTの海外たばこ事業における自社製品売上収益は4年連続で増益となっております。JTの経営を考える上では国内ではなく海外こそ注目すべきではないでしょうか。
プラス材料2:営業利益率の高さと独占市場
リスクの項目では売上高、営業利益、経常利益、EPS、連結最終利益全てが減少とお伝えしました。確かに決して良好な指標とは言えず、JT株を推奨していない多くの方がこの利益の悪化を理由としております。ただ、減少傾向にあるもののそもそもJTの営業利益率は高く20%を超えております。これはたばこ事業そのものがJTの独占状態にあるためであり、ビジネスモデルとして有利な状況に変わりはありません。
また、実はたばこ産業というのは利益率が高くキャッシュフローも安定し、配当性向も高い傾向があります。世界最大のたばこ企業であるアルトリアはJTと同じく利益は下げっているものの利益率は30%に達しており、利益はその性質まで見る必要があると思います。
プラス材料3:経営層の株主意識
このように売上から利益まで軒並み減少している状況においても現状高配当は維持されております。確かに減配リスクには注意が必要ですがこれは経営層の株主還元意識とも捉えられます。配当に利益の8割を使わず再投資に使うべきという意見もありますが、依然として日本の多くの企業のように株主意識が低いよりも投資家としては良いのではないでしょうか。
プラス材料4:政府筆頭株主
これは賛否が分かれる点ではありますがJTの持ち株の33%が事実上日本政府となっております。前述の通り海外法人等の株主比率が下がる中で株価の下支えになると共に、昨今の日銀によるETF買入で数々の日本企業の筆頭株主が日銀となるなど投資環境も変わってきている中では筆者はプラス材料と判断しております。
プラス材料5:M&A戦略
日本企業は日本電産などのごく一部を除いてはM&Aが非常に苦手であり失敗例と巨額損失が度々報道されております。JTも巨額ののれん減損リスクは抱えており例外ではありませんが、ここまで述べてきた通り海外市場開拓が必須の状況において必要な手段だと考えます。リスクとリターンは表裏一体であり海外収益が成長し続ける限りはプラス材料と判断しております。
まとめ
JT株は非常に幅広い層から注目の高い株の1つです。初心者の方には何より圧倒的な配当利回りが魅力的であり、時価総額3兆円を超える大企業が継続して高配当を出していれば買いたくなる気持ちはよく分かります。しかし、たばこという社会的にも好き嫌いの分かれる事業を扱うことや利益の減少から、実は否定的な投資家の方が多い印象を受けます。事実、新型コロナの影響もあるものの株価は2年半で半減いたしました。JTは高配当で初心者が騙される株のように書かれている記事をいくつも見てきました。
ただ、この記事にて分析してきた通り、可能な限り網羅的にリスクもプラス材料も考えた場合、リスクである国内市場の低迷を覆う形で海外市場に注力していること、たばこという根強いビジネス形態、すでにその結果が海外で出始めていると思われることからも、このまま株価が下がり続けることは外部要因を抜きにしては低いと考えております。
投資判断のご参考にしていただければ幸いです。
※参考ページ
有価証券報告書https://www.jti.co.jp/investors/library/securities_report/index.html
決算短信https://www.jti.co.jp/investors/library/result/index.html
業績・財務状況https://www.jti.co.jp/investors/individual/finance/index.html
決算通信https://www.jti.co.jp/investors/library/report/pdf/tsushin_19Q4.pdf
その他株主向け資料(筆者も株主のため入手)
*本稿は協力執筆者による記事です。