なぜ、米国のIBMの株価は下落しているのか?今後の株価を予想!

米国のIBMの企業業績の推移とファンダメンタルズの要因、そしてこれまでの株価の動きを振り返り、今後のIBMの業績と株価を予想したいと思います。

米国のIBMは老舗のITの会社です。コンピューターが世の中に登場した初期のころからITビジネスをしている世界最大手のIT企業の一つです。昔はパソコンも作っていたので、IBMのパソコンを使っていたひとも多いのではないのでしょうか。

IBMは過去何度ものビジネスモデル転換を図っていて、ハードからITシステム・インフラ、そして現在はAI・クラウド系にビジネスモデルを転換している最中です。昔ハードからITシステム・インフラに移行したときは、Think Padブランドで知られるパソコン部門をそっくりレノバに売却したのが記憶に新しいところです。また、業績が悪化していた数年前には、日本にあるIBMの研究所も大きなリストラをしていたようです。

伝説的な投資家のバフェット氏がこのIBM株に大規模な投資をしていますが、最近になって投資額を縮小しているようです。

さて、ビジネスモデル転換をしている最中のIBMですが、現状を振り返り今後の投資戦略を考えてみたいと思います。

ここ数十年、長い目でみるとIBMは右肩上がりに売り上げ、利益ともに伸ばしています。ただ、ここ数年売り上げも利益の伸びも止まっていて、どちらかというと減少傾向にあります。この辺がIBMの株価が振るわない原因ですね。

セグメント別にみると、大きく分けて4つの部門があります。(セグメントは4つ以上あるのですが、大きいものだけに絞ります。)

まず、一つ目はコグニティブ部門ですね。コグニティブとは聞きなれない言葉かもしれませんが、いわゆるAI(人工知能)と思ってもらえればOKです。IBMでは、このコグニティブをワトソンというブランドでビジネスしています。医療機関向けに、人工知能による疾患の情報の問い合わせのようなビジネスをしているようです。IBMとしては、このコグニティブ部門が将来の稼ぎ頭になると期待しているようです。2016年の決算書をみると、実際にこの部門の業績は伸びています。人工知能がますます重要になる今後、この部門の成長には期待が持てます。

2つめの部門は、WBS(World Bussiness Service)部門です。いわゆる従来型のITシステム・インフラ系のビジネスですね。金融機関などのITインフラのマネジメントなどでビジネスしています。今後、顧客企業は自社でITインフラをかかえるのではなく、クラウドに移行していくと予想されますので、この部門のビジネスは少しづつ厳しくなっていくでしょう。実際にIBMの2016年の決算をみても、この部門の業績は悪化しています。

3つめの部門はクラウド関連のビジネスです。クラウドとは、手元のコンピューターではなくて管理会社(この場合IBM)のコンピューターに自社のシステムを乗っけて、インターネット経由で操作するシステム形態です。このクラウドサービスを提供するビジネスは今後ますます伸びていきそうな市場です。ただし、クラウドにはアマゾンという強敵がいますので、かなりハードな戦いになりそうです。ただ、昨年(2016)のIBMの決算では、この部門の業績は伸びています。

最後の4つ目の部門はシステム部門です。これは、ハードウェアのビジネスで、ハードはコモディティ化していますし、クラウド時代を迎える今後はますます厳しいでしょう。実際にIBMでもこの部門の業績は落ちています。

セグメント別でみたIBMをまとめると、新しいビジネスのコグニティブ(人工知能)とクラウドが伸びて、従来型のITシステム・インフラとハードで業績を落としています。新しいビジネスの伸びに比べて、旧来ビジネスの下落幅が大きいのでトータルとしてIBMの業績は下落しています。まあ、今後新しいビジネスであるコグニティブとクラウドが順調に成長していけば、IBMもまた成長路線に復活できると期待できます。

次に、ビジネス上重要な指標である利益率を見てみましょう。IBMのROEは70%と、日本企業から見ると驚異的に高い数字です。これは、自己資本率が小さく、利益を内部留保せずに自社株買いや配当に回して余剰資金を持たないようにしているためです。さすがアメリカの会社という感じですね。売上高営業利益率を見ても20%と、利益率の高いビジネスをしています。これはITの2次請負の会社などに比べて、とても高くて安心材料です。まあ、基本的に言い値で商売ができていて、買い叩かれていないということですね。

また、IBMの業績をみると、リーマンショック時に売り上げ、利益ともにそれほど大きな痛手を受けていないのが印象的です。ITインフラ事業は景気悪化に強い傾向にあるようです。これはクラウドになっても同じでしょう。クラウドにある顧客企業の基幹システムは景気が悪くなっても、止めるわけには行きませんからね。。。ただ、景気が悪くなると顧客が新規投資をためらって、コグニティブ部門には影響がでるかもしれません。

現在(2017/8/17)、IBMの株価は142ドルとだいぶ落ち込んでいます。PERで12倍、配当4.2%なので割安といえるでしょう。今後、IBMがAIやクラウド部門の新ビジネスの方向に、従来型のビジネスからうまくビジネスモデル転換できると考えれば、今はIBMの株の買い時かもしれません。

ただし、これの裏表でリスクも当然あります。もし、今後コグニティブ部門、特にワトソンブランドのビジネスがうまく伸びていかない場合、そしてクラウド部門が伸びない場合には、さらにIBMの業績は悪化するでしょう。この時は、IBMの株価はさらに下落すると思われます。

今後、IBMのコグニティブ部門、クラウド部門の成長に注目です。