トヨタ自動車(7203)は世界の好景気に支えられて好調なように見えます。これから自動車業界の市場環境の変化が予想されるなか、トヨタの今後の業績と株価の予想をしたいと思います。
自動車業界は大きな変革の時代を迎えようとしています。電気自動車、AIにによる自動運転、インターネットによるシェアリングエコノミーなど、従来の自動車業界を枠組みを大きく超えるような分野横断的な技術革新が起きつつあります。
電気自動車により、自動車がコモディティ化することは間違いないでしょう。従来の自動車に比べて電気自動車は部品点数が圧倒的に少なく、製作が非常に簡素化されます。これにより、小さなベンチャー企業でも容易に自動車を製作することができるようになります。これは、ちょうど20年前くらいの液晶テレビなどのコモディティ化により、シャープや東芝などの日本の大手家電が衰退していったことを思い出します。
また、人工知能の発展に伴い運転手のいらない自動運転が実現されつつあります。この自動運転には画像認識をはじめとする人工知能技術が鍵を握っており、ライバルは同じ自動車業界の日産やホンダではなく、グーグルなどのIT企業になります。
人工知能を搭載した完全自動運転電気自動車の時代がそう遠くない将来に実現するのは間違いないでしょう。その場合、従来の車製造技術とは全く異なる人工知能や蓄電池のような技術が重要になってきます。従来のトヨタなどの自動車会社ではなく、グーグルのようなIT企業や、ITベンチャーが台頭してくることは間違いありません。これはトヨタをはじめとする自動車業界にとって脅威です。
また、シェアリングエコノミーから受ける影響も見逃せません。ITの発展により、すでに自転車などは無人のレンタルスペースなどが都内に続々とできつつあります。特に自動運転が実現すれば、特に自動車を所有する必要もなく、無人のタクシーが大量に道路を走っている感じで、公共機関のように自動車に乗る時代がやってくるでしょう。現在でも、日本はまだ規制で出来ませんが、世界的にはウーバーなどいわゆる安全な白タクがITによりもたらされており、個人の車が公共的に利用されています。現在の自動車の稼働率は10パーセント程度と低いですが、このようなシェアリングエコノミーにより自動車の稼働率があがり、相対的に自動車の総数は減少するでしょう。
電気自動車や人工知能による自動運転そしてシェアエコノミーの影響は、これからトヨタを始めとする従来の自動車業界にはマイナスに働くと予想されます。また、これらの技術は従来の自動車産業の枠外にある技術のため、トヨタのような図体の大きい企業には大きな変革が難し不利で、テスラのような新興の自動車ベンチャーにとって有利になります。
先日、トヨタの社長が、「我が社でも終身雇用の継続が難しい」という趣旨の発言をして世の中を驚かせましたが、上記のような変化が待っている自動車業界では、従来の自動車技術に長けた人材は不要になり、ITや人工知能などにたけた全く異種の人材が大量に必要になるので、不要となった人材を終身雇用で雇い続けるのは難しいのは当然なわけで、社長の発言の趣旨が納得できます。
下図で、トヨタ自動車の一株あたりの売上高(緑)と純利益(青)をみてみましょう。
トヨタの売上高は過去最高を更新しています。ただ売上高利益率はあまり高くありません。これは、トヨタそして自動車業界一般に言えることですが、損益分岐点が高く売上高が減ると簡単に赤字になることを示唆しています。また、上図の2009年あたりの利益の推移をみても分かる通り、景気が悪くなると業績に大きな影響があり、簡単に赤字になることがわかります。トヨタは景気循環株ですね。
次の図はトヨタの営業キャシュフロー(青色)と投資キャシュフロー(赤色)の図です。
営業キャシュフローと投資キャシュフローが見事に横軸を中心として対象の形をしています。本業で儲けたキャシュをそのまま投資に回していますね。少し気になるのが、アマゾンやフェイスブックのように営業キャシュフローと投資キャシュフローが右に口が開くワニ口のように広がっていないところです。これをみると、トヨタは過去最高売上を達成したといっても、バリバリの成長企業とは言えないようです。
次にトヨタのセグメント別の売上高と利益の表を見てみましょう。
上の表を見てもわかる通り、トヨタには大きく自動車と金融の二つのセグメントがあります。トヨタというと自動車のみの会社のイメージがありますが、実は金融も売上高、営業利益の1割くらいを占めています。主な事業は自動車ローンなど、自動車を売る際に副次的な出てくる金融サービスで利益を出しています。
次の表が、トヨタの地域別の売上高と営業利益の表です。
トヨタというと世界的な企業のイメージがあります。売上高では海外比率は50%と高いですが、営業利益でみると大部分の利益を日本で出していて、海外での利益率はあまり高くありません。高齢化人口減を迎えている日本での利益に頼っている現状だと今後が心配ですね。
次の図は、トヨタの株価と理論株価の推移です。理論株価は、一株あたりの利益の15倍で計算しています。
2010年前後のリーマンショックとそれに続く欧州債務危機の頃は理論株価が大きく低迷して、株価は割高状態でしたが、現在の株価は理論株価を下回っており表面的には割安に見えます。
ただ、電気自動車によるコモディティ化、人工知能による自動運転、シェアエコノミーなどの今後の市場環境の変化、そして最近のトヨタの業績の伸びの弱さ、そして海外市場での利益率の低さを総合的に考えると、トヨタの株は売り目線で考えた方が良いと思われます。