SUMCOの今後の業績と株価

SUMCO(3436)は信越化学工業と並ぶ半導体用シリコンウェーハの大手で、世界シェア3割を握る企業です。SUMCOのビジネスモデルは、シリコンウェーハ事業の一本足打法であり、半導体市況の影響を強く受ける企業だという点です。今回はSUMCOの決算を通して、新型コロナウィルスの影響が半導体市況にどのように影響を与えるのかを確認することで、半導体業界全体の動きを確認していきたいと思います。

 

SUMCOは12月決算の会社です。したがって新型コロナウィルスの影響を確認するためには2020年第一四半期(2020年Q1)の決算を確認することになります。

 

SUMCOの2020年Q1決算は、売上が722億円で昨年のQ1決算と比べると12.0%減、営業利益が116億円となり昨年のQ1と比べると41.2%減となりました。非常に大きな減収減益決算となっています。しかし半導体用シリコンウェーハ市場は、300ミリ、200ミリともに前四半期を底に緩やかな回復基調となり、想定通りの内容だったと会社側は説明しています。

 

四半期業績推移グラフでこれまでの業績推移を確認してみると売上、利益ともに底打ちし、反転増加してきていることが確認できます。半導体の市況は、会社側の説明の通り2019年Q4で底うちし最悪の状況は脱したといえるでしょう。

 

同じ結論ですが、SUMCOの営業利益の増減分析を対前年比で比較した資料からも販売、生産関係の減少から利益が下押しされているのがわかります。そして今後の2020年Q2の決算見通しでは、販売、生産量の増加トレンドが維持されると予想されています。つまり、会社側は新型コロナウィルスの影響が出ている2020年4月〜6月の期間でも、マイナスの影響が出ないどころか順調に売上げが回復すると想定しているのです。

 

また2020年Q2の決算見通しでは、減価償却費が増加していることがわかります。新たな需要が膨らむ可能性をみて、設備更新や修繕などを増やしている可能性すらあります。これは会社側の攻めの姿勢が表れていると解釈できます。

 

地域別に比較した資料を確認すると、SUMCOの売上げはアジアが半分以上を占めていることがわかります。そのアジアでの売上げは、2019年Q1をピークに売上げの下落が目立っていました。またSUMCOの売上げのおよそ四分の一を占める日本も、2019年Q1をピークに売上げが下落していました。しかしアジア、日本国内向けの売上げの下落が、足元では落ち着いてきたようです。その一方で、欧州、北米向けの売上げは低迷したままとなっています。

 

ところで自動車は、たくさんの部品を組み合わせて作られている製品です。したがって一部の部品が納入されないために、全ての生産工程を停止しなければならないサプライチェーンのリスクをはらんでいます。今回のようにパンデミックが発生し世界のどこかで都市機能や工場の生産能力がマヒすると、その都市や工場から部品供給がなされず、日本の自動車メーカーに影響が出るのです。この動きが自動車向けの半導体分野にも波及した可能性があります。自動車向けの半導体分野は200ミリウェーハを利用する設備が多く、そうした需要に大きく左右されるのですが、2020年Q2の決算見通しにも新型コロナウィルスによりサプライチェーンに影響が出ていると説明があります。そして2Q年後半にかけてウェーハ需要にどう影響するかは不透明であり、それ以降も自動車・産業関連需要の回復が先行き不透明であると述べられています。

 

しかしSUMCOにとって、新型コロナウィルスの影響は負の側面ばかりではありません。テレワークが普及したことで、二つの側面から半導体の需要増加が期待できるのです。

 

一つ目の側面ですが、2020年Q2の決算見通しのところでも、テレワークの普及によりPC・タブレット・データセンター等には強い需要が発生していると説明されています。そしてシミュレーションも提示されています。世界の人口のうち、2019年のテレワーク人口は3億9000万人です。このテレワーク人口が2割増加し新規PCを購入するケースでは、300ミリウェーハに換算して月18万枚の需要が生まれると試算されています。また、テレワーク人口が5割増加し新規PCを購入するケースでは 、300ミリウェーハに換算して44万枚の需要が発生すると説明されています。

 

半導体の需要増加が期待できる二つ目の側面は、通信量が拡大する点です。SUMCOでは通信関連の報道をベースにし、2020年の通信量は2019年の2倍になると予測しています。この通信量の増大により、サーバー関連のシリコン需要推定は2020年に18万枚の増加予想となっています。

 

テレワーク人口が増加し、2020年の通信量が2019年の2倍になるだけで合計300ミリウェーハに換算して月36万枚〜月62万枚の増加予想となります。これだけでも大きな数字であるといえます。

 

そして今後の通信量の増加に関してSUMCOの資料では、ケース(A) 2021年以降は通信量フラットになるケースと(B) 2021年以降も通信量の成長率を維持するケースを提示しています。これによると、(B) のケースでは2021年〜2022年にかけて月50万枚の増加が示唆されています。(B) のケースでは、さらに半導体の需要が増加するということです。

 

次に第5世代移動通信システム(5G)が半導体需要にもたらす影響も確認していきます。SUMCOのアニュアルレポートでも、会長兼CEOの橋本眞幸は「5Gにより、社会のコミュニケーションのあり方などが大きく変わることになります。そして、この実現のために欠かせないのが、大容量・超高速の情報伝達を担うロジック、メモリ向け300ミリウェーハの技術です」と述べています。5Gは数少ない日本の成長分野といえます。

 

SUMCOの資料ではスマートフォンの出荷予想が掲載されています。これによると、2020年におけるスマートフォンの出荷台数は前回の予想よりも下方修正されています。ただし興味深いのは、2020年から5G対応のスマートフォンの割合が急増していくという点です。スマートフォンに占める5Gの割合は2020年に14%程度ですが、2023年には50%を超える予想となっています。これにより、5Gに対応した高性能のスマートフォンが出荷されることになっていくのです。これまでの機種に比べて、使用される300ミリシリコン面積は1.7倍になると説明されています。出荷台数が横這いでも、スマートフォンの高性能化により、半導体需要は増加していくのです。

 

SUMCOの決算資料から半導体用シリコンウェーハ市場の市況と今後の予測を確認したところ、300ミリ、200ミリともに2019年10〜12月期を底に緩やかな回復基調となっています。今後の市場予測に関しては、新型コロナウィルスの影響により、自動車・産業関連需要の回復等が不透明なことから、200ミリ以下の需要の予測は困難な状況です。しかし、テレワークの普及によりパソコン・タブレット・データセンター等において、今後とも底堅い需要が期待できます。また5Gの浸透により、スマートフォンなどの高性能化が進めば、必要な半導体も増えていくとのことです。

 

参考URL
SUMCO決算説明会資料

https://www.sumcosi.com/ir/library/presentations/

SUMCOアニュアルレポート

https://www.sumcosi.com/ir/library/annual/

 

*本稿は協力執筆者による記事です。

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