【初心者必見】P&G株 投資ガイド|連続増配・安定成長を支える日用品メーカーの魅力とリスクを徹底解説

ビジネスモデル概観

プロクター・アンド・ギャンブル(P&G、NYSE:PG)は、日用品の世界的メーカーです。シャンプーや洗剤、おむつ、カミソリといった、毎日の生活に欠かせない製品を幅広く手掛けています。P&Gは1837年創業の老舗企業で、現在では20以上のブランドが年間売上10億ドル超に達するなど、グローバルに巨大なブランドポートフォリオを築いています。

ビジネスモデルを日常生活にたとえると、P&Gは「生活必需品の総合デパート」のような存在です。朝の歯磨き(Oral-B)、髪を洗う(Pantene)、洗濯をする(Ariel/ボールド)、赤ちゃんのおむつ替え(Pampers)、ひげ剃り(Gillette)…と、一日を通して私たちはP&Gの商品のお世話になっています。そのため、P&Gの商品需要は景気に左右されにくく安定的です。また、各分野で高い市場シェアを持つトップブランド(例: Tide・パンパース・パンテーン等)を抱えており、ブランドロイヤルティによる収益力が強みです。

さらにP&Gは、グローバル展開により先進国から新興国まで幅広い市場で販売しています。製品カテゴリーはビューティー、グルーミング(男性・女性の身だしなみ)、ヘルスケア、ファブリック&ホームケア(洗剤・掃除用品)、ベビー・女性・ファミリーケア(おむつ・衛生用品・紙製品)の5事業セグメントです。このように、多角化された商品ライン世界的販路を持つことで、一部地域やカテゴリーの不振を他で補える構造になっています。

収益源は主に各国の小売店や通販チャネルへの製品出荷ですが、近年では自社ECサイトやサブスクリプションモデル(例: Gilletteの定期配送)など新しい販売形態にも取り組んでいます。莫大な売上の一部は、継続的なマーケティングと研究開発に再投資され、優れた商品力(品質)で市場シェアを維持・拡大する戦略です。例えばCEOは「製品・パッケージ・ブランド・販促すべてで“圧倒的な優位性(Superiority)”を追求する」と述べており、常に消費者価値を高めるイノベーションに注力しています。

まとめるとP&Gのビジネスモデルは、「世界中の家庭の日用品ニーズを、高品質なブランド製品で満たし、安定した収益を得る」ことにあります。以下では、その財務データと株価動向を初心者向けに詳しく見ていきます。

売上高・純利益の推移

図1:P&Gの売上高および純利益の推移(2015~2024年度)。売上高は2024年度に約840億ドルと過去最高水準に達し、純利益も安定的に推移している。2019年度の純利益急落は一時的な減損によるもの。

P&Gの直近10年間(2015~2024年)における売上高は、2015年の約707億ドルから2024年には約840億ドルへと緩やかに増加しました。グラフ(図1)からわかるように、2015~2017年頃は売上停滞期がありましたが、2018年以降は毎年2~5%程度の着実な成長が続いています。特に2021~2022年は価格上昇やパンデミック下の需要増もあり年5%前後の増収となりました。2024年は前年比+2.5%の増収で過去最高を更新しています。

中盤の停滞要因としては事業ポートフォリオの見直しが挙げられます。P&Gは2014~2016年にかけて美容部門の一部ブランドを売却・分離(Coty社との取引)し、また家電事業(デュラセル等)も手放しました。これにより2016年度の売上は一時的に650億ドル程度まで減少しました。しかしこれは不採算・非中核事業の整理による意図的な減収であり、その後は主力ブランドに経営資源を集中することで2017年以降の売上回復に繋がっています。

純利益(税引後利益)は全体としておおむね安定していますが、2017年と2019年に大きな凸凹が見られます。2017年度は純利益が約150億ドルと突出していますが、これは米国税制改革に伴う一時的な税負担減少や、美容事業売却益の計上など特殊要因があったためです。一方、2019年度の純利益はわずか36億ドルと異常に低くなっています。これは主に同年度に実施したGillette(ジレット)事業の減損処理によるものです。ジレットの商標権価値等を約80億ドル減額した影響で、この年は純利益が大きく落ち込みました。しかしこれは帳簿上の一過性損失であり、現金流出を伴わない会計上の調整に過ぎません。実際、翌2020年度の純利益は約128億ドルに回復し、以降2021~2024年は毎年140~145億ドル前後で推移して安定しています。

以上のように、P&Gの売上高はブランド整理を経て緩やかな成長基調にあり、純利益も特殊事情を除けば堅調な上昇トレンドと言えます。2024年度の純利益率(売上高純利益率)は約17%で、グローバル日用品メーカーとしては良好な水準です。なお、為替変動も業績に影響を与えます。例えばドル高が進行した2015年度は売上高が前年から-5%減となり(為替影響-6%ポイント)、純利益も為替だけで14億ドル押し下げられる逆風がありました。このように、為替や一時要因で一時的な凹凸はあるものの、基調としてP&Gは安定成長路線を辿っていると評価できます。

営業CF・投資CFの推移

図2:P&Gの営業キャッシュフロー(CF)と投資キャッシュフローの推移(2015~2024年度)。営業CFは概ね純利益を上回る水準で推移し、投資CFは設備投資により毎年マイナスを計上。一部年度ではブランド売却に伴うプラスも見られる。

P&Gのキャッシュフローの状況を見てみましょう。営業キャッシュフロー(営業CF、本業で稼いだ現金)は、2015~2024年の間おおむね増加傾向にあります。図2のとおり、営業CFは毎年約130~180億ドル程度で推移し、特に近年は180億ドル前後と純利益(約140億ドル)を上回る水準を維持しています。これは減価償却費等の非現金費用が利益に加算されて現金創出力を底上げしているためで、純利益以上のキャッシュ獲得ができている状態です。実際、2024年度の営業CFは約185.9億ドルで純利益の1.3倍程度となっており、収益の質が高いことを示しています。

一方、投資キャッシュフロー(投資CF)は毎年マイナス(現金流出)を計上しています。主な要因は設備投資(工場設備や機械への投資)で、P&Gは毎年売上の約4~5%(金額で30~35億ドル前後)を新設備や維持投資に充てています。例えば2020年度は設備投資に約35億ドルを費やしました。このような継続的投資によって、生産能力の維持・向上や新製品開発が支えられています。

投資CFには設備投資以外にも、企業買収や事業売却による現金の増減が含まれます。そのため年度によって変動があります。例えば2019年度はグラフ上で投資CFがプラス(+304.5億ドル)となっています。これは、おそらく一部ブランド売却に伴う現金流入や、有価証券売却益など特殊要因によるものです(注: 2019年はMerck消費者ヘルス事業の大型買収もあり、実際には売却・取得が重なった年でした)。逆に2016年度は-668.5億ドルと投資CFのマイナス幅が大きくなっていますが、これも美容事業の分離やデュラセル売却などで一時的に現金流出が増えたためと考えられます。

以上のように、営業CFは着実に稼ぎ出され配当や株主還元の原資となりつつ、一方で投資CFは安定的な設備投資と必要に応じたM&A等に充てられています。P&Gは営業CFの大半を毎年株主に還元しており、実際2024年度は約90%以上のフリーキャッシュフロー(営業CFから設備投資を差引いた額)が配当と自社株買いに使われています。このような潤沢なキャッシュ創出力株主還元は、P&Gの投資魅力の一つとなっています。

セグメント別の推移(売上・営業利益)

図3:主要セグメント別の売上高推移(2015~2024年度)。Fabric & Home Care(洗剤・掃除)が売上最大セグメントで、直近は年間約295億ドルに達する。Baby, Feminine & Family Care(おむつ・衛生・紙製品)は約203億ドル。Beauty(美容)は約152億ドル、Health Care(ヘルスケア)は約118億ドル、Grooming(グルーミング)は約66億ドル。
図4:主要セグメント別の営業利益(EBIT)推移(2015~2023年度)。Fabric & Home Careの営業利益が最大(2023年約63億ドル)で、次いでBaby & Family Care(約46億ドル)、Beauty(約40億ドル)。グルーミングは近年やや伸び悩むも利益率は高め。

まず、セグメント別の売上高推移を図3に示しました。P&Gの5つの事業セグメントのうち、Fabric & Home Care(ファブリック&ホームケア)が常に最大の売上を計上しています。洗濯洗剤や台所・住宅用洗剤などを含むこのセグメントは、2015年度に約222.7億ドルだった売上が年々順調に伸び、2024年度には約295億ドルに達しました。2020年度には新型コロナ感染拡大で衛生需要が急増し、売上も前年度比+7%と大きく伸びています(例:除菌効果を謳うファブリーズなどが好調)。

Baby, Feminine & Family Care(ベビー・女性・ファミリーケア)は紙おむつ(パンパース等)や生理用品、紙製品(バウンティ、チャーミン等)を含む部門で、売上規模はFabricに次ぐ2番手です。2015年度は約202.5億ドルでしたが、紙おむつ市場の競争激化などもあり2016~2019年頃はやや減少傾向でした。しかし2020年以降は微増に転じ、2024年度は約202.8億ドルと概ね横ばい圏で推移しています。コモディティ化しやすい紙製品分野だけに、売上成長は限定的ですが安定した需要があります。

Beauty(ビューティー)部門はスキンケア(SK-IIやOlay)、ヘアケア(Pantene等)、パーソナルケア(Old Spice等)を含みます。2015年度売上は約126.1億ドルでしたが、Coty社への美容ブランド売却で2016-2017年に一時売上が落ち込みました。その後は高級スキンケア(SK-II)や北米ヘアケアの堅調により回復し、2024年度は約152.2億ドルと過去最高を更新しています。特に中国市場でSK-IIが成功したことや、オンラインでの化粧品販売強化が成長を後押ししました。

Grooming(グルーミング)部門には男性用シェービング(Gillette)や女性用シェーバー(Venus)、電動歯ブラシ(Braun Oral-Bの一部製品)等が含まれます。売上は2010年代半ばから頭打ち傾向で、2015年度の約74.4億ドルから2019年度には約62億ドル台まで縮小しました。これはDollar Shave Clubなど新興勢力との競争や、「無精ひげトレンド」によるカミソリ需要減少が背景にあります。しかし直近では低価格モデル投入やマーケティング刷新で下げ止まり、2024年度は約66.5億ドルと微増に転じています。

Health Care(ヘルスケア)部門はオーラルケア(Oral-B、Crest)とOTC医薬品(Vicks、Prilosec等)からなります。2015年度売上は約77.1億ドルで、以降コンスタントに成長しています。2019年度にはドイツ・Merck社の消費者ヘルス事業を買収し、風邪薬・サプリメントなど商品ライン拡充したこともあり売上は拡大傾向が続きました。2024年度には約117.9億ドルと、10年間で約1.5倍に伸びています。高齢化進展で歯科・健康ケア需要が増えていることも追い風です。

次に、セグメント別の営業利益(営業利益=EBIT)の推移を図4に示します(2024年度は未公表のため2023年までプロット)。全セグメントが安定して黒字を計上していますが、利益額の面ではFabric & Home Care部門が最大です。2023年度のFabric & Home Care営業利益は約63.03億ドルとなっており、全社営業利益(セグメント合計)の約34%を稼ぎ出しています。次いで利益貢献が大きいのはBaby, Feminine & Family Care部門で、2023年度は約46.23億ドル(全社の約25%)を占めます。Beauty部門も約40.09億ドル(同約22%)と大きく、Health Care約27.59億ドル(約15%)、Grooming約18.06億ドル(約10%)と続きます。

グラフから読み取れるように、各セグメントとも概ね緩やかな増益基調にありますが、特筆すべき点を挙げます。まずBeauty部門は2015-2017年は減益でしたが、その後は高級路線が奏功し利益率が改善、2021年以降は営業利益40億ドル前後で推移しています。Fabric & Home Care部門は堅実に利益拡大しており、2020年にはコスト削減も寄与して前年比+18%と大きく利益が伸びました。一方でGrooming部門は売上減少に伴い2015年の237億円から2019年には約177億円まで利益が落ち込みましたが、近年は効率化で持ち直しつつあります。それでも依然として2000年代のGillette買収時に期待された水準には届いておらず、伸び悩むセグメントと言えます。

利益率(営業利益率)を見ると、2023年度時点でBeauty約26%、Grooming約27%、Health Care約23%、Fabric & Home約21%、Baby & Family約23%程度です。グルーミングは規模は小さいもののカミソリ替刃等の利益率が高く、逆にファブリック&ホームは洗剤など競争が激しい分やや利益率が低めとなっています。しかし総じて20%以上の堅調な営業利益率を各セグメントで維持しており、全社的にバランス良く稼ぐ体質であることが分かります。

総括すると、P&Gのセグメント別業績は売上ではFabric & Home CareとBaby & Family Careが柱であり、利益ではそれらにBeautyを加えた3本柱が全体利益の約8割を支えています。ヘルスケアとグルーミングも成長ポテンシャルはあるものの、相対的な規模は小さめです。事業分散による安定性と、主力分野への集中投資というP&Gの戦略が、このセグメント別データからもうかがえます。

株価動向の要因分析(初心者向け)

図5:P&G株価(各年末終値)と理論株価(EPS×15倍)の比較(2015~2024年)。株価(青線)は長期上昇傾向にあり、理論株価(オレンジ線)との差(プレミアム)が2019年以降拡大している。2019年のEPS落ち込みにより理論線が急低下している点に注意。

次に、P&Gの株価推移とその要因を初心者向けに解説します。図5は2015年末から2024年末までの株価(青線)を示したものです。ご覧のとおり、P&G株は長期的に上昇トレンドを描いています。2015年末の約61ドルから、2024年末には約165ドルと、この10年で株価は2.7倍に上昇しました。この間、P&G株は年率換算で約10%程度のリターンを生み出した計算になります(さらに配当も加えれば総合的な投資リターンは年12%前後に達します)。

株価の動きをざっと振り返ると、2015~2018年頃は概ね60~80ドル台で推移し、大きなブレはありませんでした。この時期は売上が伸び悩んでいたこと、また米ドル高による逆風などでマーケットの評価も横ばいだったと考えられます。しかし2018年末~2019年にかけて株価は急上昇し、2019年末には初めて100ドル台に乗せました。この背景には、新CEO就任(2019年にデビッド・テイラー氏→ジョン・ミュラー氏への交代)による経営効率化への期待や、世界的な低金利環境で高配当で安定収益の銘柄に資金が集まったことが挙げられます。実際、2019年のP&G株は年間リターン+39.7%と顕著な上昇を記録しました。

2020年にはコロナ禍がありましたが、日用品需要の拡大期待からP&G株はむしろ堅調で、2020年末までに更に株価は124ドル台へ上昇しました。2021年には一時150ドル超まで買われました。その後、2022年はインフレ高進と金利上昇への懸念から株式市場全体が下落基調となり、P&G株も年末には142ドル台と前年比-5%ほど値下がりしました。ただディフェンシブ株として下げは比較的小幅でした。2023年は年間で見るとほぼ横ばい(-0.86%)となり、インフレ下でも業績堅調なP&Gに投資家の安心感が見られました。そして2024年は年末165.57ドルと約+17%の大幅上昇で締めくくられました。これは米国のインフレ沈静化や金利ピーク感から、再びディフェンシブ優良株に買いが入ったためと考えられます。

以上をまとめると、P&Gの株価動向は基本的に堅実な業績成長と高配当に支えられ、右肩上がりを続けてきました。一時的な調整はあっても、大きく下落した局面では長期投資家の買いが入り下支えされる傾向があります。特に近年は「インフレに負けない価格決定力」「安定したキャッシュフロー」が評価され、弱気相場でも相対的に強さを発揮しています。

しかし、株価が上昇する局面では割高感も出やすく、2021年や2023年のように停滞する場面もあります。次項では、具体的にP&G株のバリュエーション(投資指標面での評価)を確認しましょう。

バリュエーション分析(PERと理論株価、図解)

株価水準を判断する指標として、PER(株価収益率)がよく使われます。PERとは「株価 ÷ 1株当たり利益(EPS)」で計算され、一般にPERが高いほど株価は割高とされます。P&Gの業種では、過去の経験則からPER15倍程度が一つの目安(理論的な適正水準)とよく言われます。つまり「現在の利益水準が今後も続くと仮定して15年で投資回収できる株価」が妥当という考え方です。

図5ではオレンジの線で、この理論株価(EPS×15倍)をプロットしています。一方、青の線は実際の株価です。青線がオレンジ線より上にあれば「理論値より株価が高い(割高)」、下なら「割安」と見ることができます。注意点として、2019年のように一時的要因でEPSが極端に低下した場合、理論線が急落し現実との乖離が大きくなります。2019年は上述の減損でEPSが$1.43と低く、理論株価は約$21となりましたが、実際の株価は$109でした。この年のPERは約76倍にも跳ね上がり一見超割高ですが、投資家は特殊損失を無視して本質的な収益力を見ていたため株価は下がらなかったのです。

2019年の特殊要因を除けば、P&GのPERはだいたい18~27倍の範囲で推移してきました。2015年末は株価$61・EPS$2.44でPER約25、2016年末は約18倍と割安でしたが、以降は市場全体のPER上昇もあり20倍超で安定しています。直近2024年末時点では株価$165.57・EPS$6.02でPER約27.5倍となっており、理論値($6.02×15=$90.3)に比べ株価は約1.8倍の水準です。これは市場がP&Gに対して「今後も安定成長し続けるだろう」というプレミアム評価を与えていることを意味します。

もっと平たく言えば、P&Gのような生活必需品メーカーは不況に強く配当も安定しているため、市場平均より高いPERが付与されやすい傾向があります。低金利環境では債券の代替としてディフェンシブ高配当株に資金が流入し、結果としてPERが上昇するケースもあります。P&G株も近年はそうした資金の受け皿となり、理論15倍以上の水準で取引されることが常態化しています。

PER以外の指標では、P&Gの

配当利回り(現在約2.5%前後)
も投資家に重視されています。P&Gは67年連続増配という実績を持ち、株価が上がりすぎて利回りが低下すると買い控えも起こり得ます。現在の利回り水準は過去平均並みで、特段の割高・割安感はありません。総合的に見て、P&G株のバリュエーションは「やや割高だが安定感を織り込んだ水準」にあると言えるでしょう。

もっとも、将来的な金利動向や業績によっては市場の評価も変わり得ます。次章ではリスク要因を確認します。

リスクと注意点(実例付き解説)

安定したP&Gとはいえ、投資にあたって考慮すべきリスク要因があります。ここでは初心者向けに主要なリスクと過去の実例を挙げて説明します。

  • 為替変動リスク:P&Gは売上の半分以上を米国外で稼いでおり、ドル高・ドル安の影響を大きく受けます。例えば2015年度はドル高が進行し、売上高が為替だけで-6%減少、純利益も約14億ドル押し下げられました。円など他通貨がドルに対して安くなると、海外売上をドル換算する際に目減りするためです。このように為替レートの変動は業績にマイナス(あるいはプラス)インパクトを与えます。ただし、為替は一時的要因でもあるため、投資家はコア業績を見る傾向があります。
  • 競争・市場シェア喪失リスク:P&Gのブランドは強力ですが、各市場での競争は激しいです。例えばシェービング市場では新興のDollar Shave Clubが台頭し、P&Gはジレットで値下げやマーケティング費用増を強いられました。その結果、2019年にジレット関連の減損(約80億ドル)を計上し純利益が急落する事態になりました。これは、競争激化で期待していた将来キャッシュフローが得られないと判断されたためです。このように競合他社との戦いでマーケットシェアを失うリスクは常に存在します。
  • 商品トレンド変化・技術革新リスク:消費者の嗜好変化や技術の進歩も脅威です。例として若年層の「ひげ離れ」トレンドはジレットの販売減につながりました。またデジタル技術の進展でD2C(直販)企業が台頭し、大手メーカーの地位を脅かすケースもあります。P&Gは莫大なマーケティング費用とR&D投資で対応していますが、新トレンドを読み違えると商品ポートフォリオの陳腐化につながるリスクがあります。
  • コスト上昇・インフレリスク:原材料価格の高騰や人件費上昇も利益を圧迫します。特に2021~2022年にかけては世界的なインフレで素材コストや物流費が上昇し、P&Gも値上げで対応しました。値上げは売上増には寄与しますが、高すぎると消費減退も招きかねません。幸いP&Gはブランド力で一定の価格転嫁が可能ですが、それでもインフレ率次第では利幅縮小のリスクがあります。
  • 規制・法務リスク:各国で製品に関する規制強化(環境規制や安全基準など)が行われれば、製造コスト増や製品改良の必要が生じます。また世界180カ国以上で事業展開しているため法規制対応やコンプライアンス順守が求められ、違反すれば罰金やリコールで損失が出る可能性もあります。もっと広義には地政学リスク(例: 中国市場への依存やロシア事業撤退など)も含め、海外事業ゆえの不確実性も意識すべきでしょう。

以上のように、P&Gは総じてディフェンシブな優良企業ですが、全くノーリスクではありません。しかし過去の事例を見ると、為替や一時的減損で業績がブレても、その後コア事業の底力で立て直してきた歴史があります。リスク管理としては、短期的なノイズよりもP&Gの競争優位の持続力(ブランド力・イノベーション力)に注目しておくことが重要です。

今後の展望(製品ロードマップなど)

最後に、P&Gの今後の展望について触れます。成熟企業ではありますが、依然として成長の余地や戦略上の焦点があります。

① 新興国市場での成長: 現在、P&G売上の約52%は北米、22%は欧州と先進国が中心です。一方、アジア新興国やアフリカ・中東(IMEA)は合計20%程度に留まっています。これら新興市場では人口増と富裕化に伴い日用品需要が拡大すると期待されます。P&Gも中国やインドでマーケティング投資を強化しており、特に中国では高級スキンケア(SK-II)がヒットしました。今後はインドやアフリカなど未開拓市場でシェアを伸ばすことで、全社のオーガニック成長を底上げできるでしょう。

② 製品イノベーションと高付加価値化: P&Gの戦略キーワードは「Supersiority(圧倒的な優位性)」です。今後も各カテゴリーで革新的な新製品投入が計画されています。例として、洗剤では環境配慮型の濃縮洗剤や詰め替えパックを開発中です。またオーラルケアではIoT対応のスマート歯ブラシ、グルーミングでは肌負担を減らした新素材のカミソリなど、技術進化によるプレミアム製品で市場をリードする戦略です。高価格でも消費者が価値を感じる商品を提供し、利益率向上も図ります。

③ デジタルトランスフォーメーション(DX)の推進: マーケティングやサプライチェーンへのAI・デジタル技術活用も加速しています。P&Gは膨大な消費者データを活かし、広告ターゲティングの精度向上や需要予測の高度化を進めています。たとえばオンライン上の消費者行動分析により、適切なタイミングで適切な商品の広告を届けるなどデータ駆動型マーケティングを展開しています。また工場オペレーションでもIoTやロボティクス導入により生産効率を高め、コスト削減と敏捷性向上を図っています。

④ ESGとサステナビリティ: 環境・社会面での取り組みも今後の重要テーマです。P&Gは2040年までに全サプライチェーンでカーボンニュートラルを目指す方針を掲げています。製品面ではプラスチック包装の削減や再生素材活用を進め、近年はリサイクル素材配合のシャンプーボトルを発売しました。消費者の環境意識の高まりに応えることでブランド価値向上にも繋げています。また多様性(D&I)の推進やコミュニティ支援など社会的責任にも力を入れており、これらESG重視経営は長期投資家からの評価を高めるでしょう。

総じて、P&Gは成熟企業ながらも持続的成長への取り組みを続けています。CEOは「我々の統合型戦略は今後も有効で、ダイナミックかつ持続可能だ」と述べており、ブランドポートフォリオの絞り込みや重点投資が実を結んでいるとしています。今後数年間も年3~5%程度のオーガニック売上成長と、それ以上のEPS成長(コスト効率化による)を目標として掲げています。もっとも為替や景気循環の影響は避けられないため、短期的なアップダウンはあり得ます。しかし長期的視野では、「人々が毎日使うもの」を提供するP&Gのビジネスモデルは堅牢であり、今後も安定成長+高株主還元を期待できるでしょう。

まとめ・免責事項

まとめ: P&Gは世界トップクラスの日用品メーカーとして、この10年間で売上・利益とも概ね順調に拡大し、株価も右肩上がりで推移してきました。幅広いブランドポートフォリオグローバル展開による安定性、そして継続的なイノベーションコスト効率化により、成熟企業でありながら年率数%の成長を維持しています。財務面では厚いキャッシュフローに支えられた連続増配や自社株買いを通じ、株主還元にも積極的です。一方、為替変動や競争激化といったリスク要因も存在しますが、過去の実績を見る限りP&Gはそれらを乗り越える底力を示してきました。

投資初心者にとって、P&Gは「わかりやすいビジネス」であり生活に密着したブランド群を持つ企業です。足元の株価はPER基準ではやや割高な水準にありますが、それだけ市場からの信頼が厚いとも言えます。長期投資で安定したリターンを狙う上では、有力な候補の一つとなるでしょう。

免責事項: 本記事は情報提供のみを目的としており、P&G株の売買を勧誘・推奨するものではありません。本記事に記載された財務データや分析内容については十分注意を払っていますが、その正確性・完全性を保証するものではありません。株式投資には市場変動等による損失リスクが伴います。最終的な投資判断は読者ご自身の責任と判断で行ってください。