日本製鉄(5401)が2026年8月4日に発表した2027年3月期 第1四半期(2026年4〜6月)の決算は、見出しだけを読めば完璧なV字回復でした。
- 売上収益 2兆8,211億円(前年同期比+40.4%)
- 事業利益 1,455億円(+58.1%)
- 親会社の所有者に帰属する四半期利益 752億円(前年は1,958億円の赤字)
- 通期の事業利益予想を5,300億円→6,300億円へ1,000億円の上方修正
ところが会社自身が使っている「実力ベース事業利益」という指標を見ると、まったく逆の絵が出てきます。
実力ベースの事業利益は1,736億円から1,084億円へ、653億円の減益。そのうち国内だけで943億円減っています。そして通期の実力ベース事業利益は、1,000億円の上方修正のあとも7,000億円で据え置きです。
会社が自分でそう書いています。数字はすべて資料に載っています。順に確かめていきます。
★今期はゼロ。黒字転換の2,710億円のうち、2,315億円はこの反動です。
★ただし実力ベース事業利益は7,000億円で据え置き——上方修正の中身は在庫評価差+700/営業外・連結調整+300。
★実力ベースの内訳は国内△900/海外+900(うちU. S. Steel +800)
全体像 ― 2つの利益が反対を向いている
| 単位:百万円 | 2026年3月期 Q1 | 2027年3月期 Q1 | 前年比 |
|---|---|---|---|
| 売上収益 | 2,008,749 | 2,821,196 | +40.4% |
| 売上総利益 | 298,723 | 388,904 | +30.2% |
| (売上総利益率) | 14.9% | 13.8% | △1.1pt |
| 事業利益 | 92,023 | 145,511 | +58.1% |
| 事業再編損 | △231,583 | — | — |
| 営業利益 | △139,559 | 145,511 | 黒字転換 |
| 金融収益 | 6,318 | 8,033 | +27.1% |
| 金融費用 | △11,952 | △39,645 | 3.3倍 |
| 税引前四半期利益 | △145,193 | 113,899 | 黒字転換 |
| 親会社所有者帰属 四半期利益 | △195,833 | 75,299 | +2,710億円 |
| 1株当たり四半期利益 | △37.47円 | 14.40円 | — |
| 親会社所有者帰属持分比率 | 37.7%(前期末) | 37.1% | △0.6pt |
まず押さえるべきは、前年の営業損失1,395億円の正体です。事業利益の段階では920億円の黒字だったものが、事業再編損2,315億円を引いて赤字になりました。会社の注記によれば「事業撤退損失△2,315(AM/NS Calvert持分譲渡影響)」です。
今期はこれがゼロ。最終利益が2,710億円改善したうち、2,315億円はこの一項目の反動で説明できます。
もう一つ、金融費用が119億円から396億円へ3.3倍になっている点も見逃せません。事業利益が535億円増えても、その半分以上にあたる277億円が金利負担の増加で消えています。2025年6月に完了したU. S. Steelの買収に伴う借入が効いています(損益計算書の見方【図解】)。
①「実力ベース事業利益」は653億円の減益だった
日本製鉄は、事業利益とは別に「実力ベース事業利益」という指標を開示しています。会社の定義はこうです。
在庫評価差とは、原料価格が動いたときに、過去に安く仕入れた在庫を使うことで見かけ上の利益が増えたり減ったりする分です。鉄鋼のように原料を大量に抱える産業では、これが利益を大きく揺らします。
| 単位:億円 | 2025年 Q1 | 2026年 Q1 | 増減 |
|---|---|---|---|
| 実力ベース事業利益 | 1,736 | 1,084 | △653 |
| 国内 | 1,414 | 471 | △943 |
| 海外 | 322 | 613 | +290 |
| うちU. S. Steel | — | 322 | +322 |
| 在庫評価差 | △620 | +502 | +1,122 |
| 営業外・連結調整等 | △197 | △131 | +66 |
| 事業利益 | 920 | 1,455 | +535 |
事業利益は535億円の増益。実力ベースでは653億円の減益。向きが正反対です。差を作ったのは在庫評価差の1,122億円——原料価格が上がったことで生じた、会社が「実力ではない」と位置づけている利益でした。
国内で943億円が消えた理由
会社は国内の減益943億円をさらに分解しています。
| 要因 | 金額 |
|---|---|
| 生産出荷 | △50億円 |
| マージン(為替影響含む) | △830億円 |
| コスト改善 | +50億円 |
| その他 | △120億円 |
| 鉄グループ会社 | △10億円 |
| 非鉄3社 | +20億円 |
ほとんどが「マージン」の悪化です。売る値段と、原料や燃料にかかる費用の差が縮んだ——それだけで830億円が失われました。
会社はQ1について、「中東影響(△250億円)等を受け、実力ベース事業利益1,084億円、当期利益752億円にとどまる」と書いています。「とどまる」という表現を、会社自身が使っています。
諸元を見ると、状況がさらにはっきりします。
| 当社諸元 | 2025年 Q1 | 2026年 Q1 | 増減 |
|---|---|---|---|
| 連結粗鋼生産量 | 946万t | 1,426万t | +481万t(U. S. Steel) |
| 単独粗鋼生産量 | 827万t | 851万t | +25万t |
| 鋼材出荷量 | 764万t | 753万t | △11万t |
| 鋼材価格 | 139.7千円/t | 141.8千円/t | +2.1千円 |
| 為替 | 145円/$ | 160円/$ | 15円の円安 |
| (参考)全国の鋼材消費 | 1,203万t | 1,185万t | △18万t |
売上収益が40.4%増えたのは、U. S. Steelが連結に加わって粗鋼生産量が481万t増えたからです。日本製鉄本体の出荷量はむしろ11万t減っており、全国の鋼材消費そのものも減っています。
鋼材価格は2.1千円/t上がりましたが、原燃料コストの上昇に追いついていません。それが「マージン△830億円」の中身です。
②通期は上方修正、ただし「実力ベース」は据え置き
| 単位:億円 | 2025年度 実績 | 2026年度 見通し | 対前回(5/13) |
|---|---|---|---|
| 売上収益 | 100,632 | 112,000 | +2,000 |
| 実力ベース事業利益 | 6,504 | 7,000以上 | ±0(据え置き) |
| 国内 | 5,276 | 3,800 | △900 |
| 海外 | 1,228 | 3,200 | +900 |
| うちU. S. Steel | △56 | 1,800以上 | +800 |
| 在庫評価差 | △432 | 800 | +700 |
| 営業外・連結調整等 | △931 | △1,500 | +300 |
| 事業利益 | 5,141 | 6,300 | +1,000 |
| 個別開示項目 | △2,712 | △300 | — |
| 親会社所有者帰属 当期利益 | 171 | 2,900 | +700 |
| 1株当たり当期利益 | 3円 | 55円 | +13円 |
事業利益を1,000億円上方修正しながら、実力ベース事業利益は7,000億円のまま動かしていません。上方修正の中身は在庫評価差+700億円と営業外・連結調整+300億円——つまり本業の実力が上がったからではありません。
そして実力ベースの内訳では、国内を900億円下げ、海外を900億円上げています。会社の説明を引きます。
「コスト低減等の収益改善施策に取り組むものの、原燃料等コストの上昇を含めた環境悪化により、前回公表に対し減益」
【海外】実力ベース事業利益 3,200億円(対前回公表+900億円)
「うちU. S. Steel 実力ベース事業利益 1,800億円以上(対前回公表+800億円)。米国鋼材市況の上昇や、シナジー及び高炉再稼働を中心とする収益改善施策の効果発揮により当社グループの収益を牽引」
前回公表からの変動要因も、会社が金額で示しています。
| 要因 | 金額 | 中身 |
|---|---|---|
| ①環境変化(中東影響含む) | △1,000億円 | 物流費・エネルギーコスト上昇、スクラップ・原料炭・市況原料価格上昇、円安進行 |
| ②コスト改善 | +100億円 | 低コスト原料使用拡大、原燃料費削減、修繕費厳選等 |
| ③U. S. Steel | +800億円 | 米国鋼材市況上昇、高炉再稼働効果のフル発揮、シナジー進展等 |
| ④原料事業 | +100億円 | 原料炭高騰や円安による増益(本体国内製鉄事業のコスト上昇を緩和) |
環境変化で1,000億円失う分を、U. S. Steelの800億円で埋めた。これが2026年度の日本製鉄の構図です。
③「U. S. Steelが当社グループの稼ぎ頭」
会社は説明会資料に、この一文をそのまま書いています。
2025年度のU. S. Steelは56億円の赤字でした。それが2026年度は1,800億円以上の黒字予想です。会社はこの1,800億円の作り方も分解しています。
| 要因 | 金額 |
|---|---|
| 2025年度実績 | △56億円 |
| 前年のトラブル影響等の解消 | +200億円 |
| 高炉改修費用等 | △300億円 |
| 外部環境(米国鋼材市況+1,200/インフレ影響△1,100) | +100億円 |
| 収益改善(コスト改善+400/既投資効果+600/その他+100) | +1,100億円 |
| (前回公表) | 1,000億円以上 |
| 米国鋼材市況の上昇(コストアップ含む) | +600億円 |
| 収益改善努力 | +200億円 |
| 2026年度見通し | 1,800億円以上 |
会社は「2026年に見込むシナジー(操業改善効果)は3億ドル/年まで拡大」とし、Gary/第14高炉の改修を踏まえてGranite City/#B高炉を再稼働させています。
そして、この投資の背景として資料に並んでいる事実が1つあります。
米国の粗鋼生産量が、44年ぶりに日本を上回りました。日本の鉄鋼メーカーが米国の会社を買い、その米国の会社が稼ぎ頭になる——その背景には、こういう構造変化があります。
④なぜ国内が苦しいのか ― 中国・通商措置・地域間格差
会社の経営環境認識は、率直です。
ここには3つのことが書かれています。
- 「AIや電力関連の需要は堅調」——需要がある分野は限られている
- 「中国の過剰生産能力に伴う安価な鋼材輸出」——価格が上がらない理由
- 「市況の地域間格差が一層拡大」——北米・欧州は上がり、それ以外は上がらない
だから会社は「以前よりこうしたグローバルの構造変化を見据え、北米・欧州など、中国の影響を受けにくく成長が見込める地域に集中して投資を実施してきた」と説明します。U. S. Steelの買収は、この文脈の上にあります。
欧州でも同じ動きが進んでいます。会社が挙げているEUの規制強化はこうです。
- 無税輸入枠 18.3百万t(47%の削減)
- 超過関税 50%(従来25%から引き上げ)
- EU向け鋼材輸入量の見通しは20百万t(25年)→12百万t(27年)(EUROFER試算)
- 域内鋼材市況は7月に€30/t上昇
会社はスロバキアの高炉一貫拠点NSSK(粗鋼能力4.5百万t/年)を2026年10月1日に直接保有化し、スウェーデン・フィンランドのOvakoも2027年4月1日に直接保有化する予定です。
「関税でブロック化した市場の内側に、生産拠点を持つ」——これがいまの日本製鉄の戦略です。関税を避けるのではなく、関税の内側に入るという考え方です。
⑤素材を「売る側」も、原燃料高で削られている
ここは、他の企業の決算と並べると見え方が変わる部分です。
2026年の決算では、原材料価格の上昇で利益を削られた会社が相次ぎました。
| 会社 | 原材料・原燃料の影響 |
|---|---|
| デンソー(6902) | 部材費△395億円で営業利益△21.5%(「銅やアルミニウム、白金などの素材及び半導体メモリなどの部材価格上昇」) |
| スズキ(7269) | 原材料高△601億円(うちインドが△513億円) |
| 日本製鉄(5401) | マージン△830億円(国内)。通期でも環境変化△1,000億円 |
デンソーやスズキが「値上がりした素材を買う側」なら、日本製鉄は「素材を売る側」です。ところが日本製鉄もまた、原燃料コストの上昇で削られています。
理由ははっきりしています。鉄鋼メーカーが買うのは鉄鉱石・原料炭・スクラップ・エネルギーであり、それらが上がった分を鋼材価格に転嫁できていないからです。国内の鋼材価格は+2.1千円/tしか上がっていません。
そして転嫁できない理由が、中国からの安価な輸出です。——ここまでが一つながりの話になります。
⑥下期の増益は「値上げの浸透」に依存している
通期の実力ベース事業利益7,000億円は、上期2,500億円・下期4,500億円という配分です。下期に2,000億円積み増す計画で、その内訳も開示されています。
| 要因 | 金額 |
|---|---|
| ①生産出荷(輸出販売環境の改善、国内活動水準戻り等) | +200億円 |
| ②コスト上昇分の価格反映等 | +1,000億円 |
| ③コスト改善(名古屋次世代熱延設備の立ち上げ効果等) | +100億円 |
| ④グループ会社季節差他(鉄グループ会社+400、非鉄3社+160等) | +500億円 |
| ⑤海外グループ会社(AM/NS Indiaのマージン改善、USSK改善等) | +200億円 |
下期の増益2,000億円のうち、半分の1,000億円は「コスト上昇分の価格反映」です。会社は具体的に「原燃料価格上昇分の紐付分野での価格反映、国内市況分野の値上げ浸透」と書いています。
つまり下期の計画は、値上げが通ることを前提にしています。ここが達成できるかどうかが、通期予想の最大の変数です。
この「値上げで利益を作る」構図は、同じ時期のJR東日本(9020)にも共通します。あちらは運賃改定で約200億円の増収を得ましたが、単体の営業利益は1億円しか増えませんでした。値上げが増収を作っても、コスト上昇に食われれば利益は残りません。
⑦財務・株主還元 ― 有利子負債4.8兆円
| 単位:億円 | 2025年 Q1 | 2026年 Q1 | 増減 |
|---|---|---|---|
| 有利子負債(劣後ローン・劣後債の資本性調整後) | 46,199 | 48,007 | +1,808 |
| D/Eレシオ | 0.85 | 0.76 | △0.09 |
| EBITDA | 1,886 | 3,128 | +1,242 |
| ROE(年率換算) | △15.1% | 5.4% | +20.5pt |
資産合計は15.2兆円、親会社所有者帰属持分比率は37.1%。買収で膨らんだ借入を、利益とEBITDAの回復で返していく段階にあります(貸借対照表の見方【図解】)。D/Eレシオは0.85から0.76へ改善しました。
配当は1株24円(中間12円・期末12円)で据え置きです。会社は「2030中長期経営計画で導入した下限配当等を踏まえ」と説明しています。予想EPS55円に対して配当24円ですから、配当性向は約44%です(配当利回りと配当性向の見方【図解】)。
なお同社は2025年10月1日に1株を5株に分割しています。過去の株価や配当と比べるときは注意が必要です。
この決算から持ち帰る5つのチェック
- ① 会社が独自に作った指標を探す。日本製鉄の「実力ベース事業利益」は、事業利益から在庫評価差等を除いたもの。事業利益+535億円に対し、実力ベースは△653億円で向きが逆でした。
- ② 黒字転換のときこそ前年を見る。前年の赤字1,958億円には事業再編損2,315億円が含まれていました。改善2,710億円の大半がその反動です。
- ③ 上方修正の中身を分解する。事業利益+1,000億円の上方修正は、在庫評価差+700/営業外+300。実力ベースは据え置きでした。
- ④ 地域別の増減を見る。通期の実力ベースは国内△900/海外+900(U. S. Steel +800)。会社が「U. S. Steelが稼ぎ頭」と明記しています。
- ⑤ 会社が置いている前提を確認する。下期の増益2,000億円のうち1,000億円は「コスト上昇分の価格反映」——値上げが通る前提です。
まとめ
2027年3月期第1四半期の日本製鉄は、前年の事業再編損の反動で黒字に戻り、原料高が生んだ在庫評価差で事業利益を伸ばし、その裏で国内の実力が943億円失われた決算でした。
| 見出しになりやすい事実 | 一次資料で確かめた実態 |
|---|---|
| 最終利益が1,958億円の赤字から752億円の黒字へ | 改善2,710億円のうち2,315億円は前年の事業再編損の反動 |
| 売上収益+40.4%の大幅増収 | U. S. Steelの連結(粗鋼生産量+481万t)。本体の鋼材出荷量は△11万t |
| 事業利益+58.1% | 実力ベースでは△653億円の減益。差は在庫評価差+1,122億円 |
| 通期を1,000億円の上方修正 | 実力ベースは7,000億円で据え置き。中身は在庫評価差+700/営業外+300 |
| グローバル展開が成功 | 事実。ただし国内は通期△900億円で、埋めているのがU. S. Steel +800億円 |
| 素材を売る側だから原料高は追い風? | 国内マージンは△830億円。原燃料の上昇を鋼材価格に転嫁できていない |
| 下期は大幅増益の計画 | +2,000億円のうち1,000億円は「値上げの浸透」が前提 |
この会社で次に確かめるべきことは3つです。
- 下期の値上げが通るか。会社は「国内市況分野の値上げ浸透」で1,000億円を見込んでいます。中国からの安価な輸出が続く限り、ここは簡単ではありません
- U. S. Steelが1,800億円を達成するか。米国鋼材市況の上昇+600億円と収益改善努力+200億円が前提。市況は会社が動かせません
- 国内の実力ベース事業利益3,800億円が守れるか。すでに前回公表から900億円下げています
会社が「実力ベース」という指標をわざわざ作って開示しているのは、そこを見てほしいからです。見出しの数字と、会社が本当に見せたい数字は、必ずしも同じではありません。
本記事は2026年8月4日公表の決算短信、決算説明会資料(本編・参考資料)、補足説明資料など、日本製鉄が公開している一次資料に基づいて作成しています。同社は2025年10月1日を効力発生日として1株を5株とする株式分割を実施しており、1株当たりの数値は分割後換算です。情報提供を目的としたものであり、特定銘柄の売買を推奨するものではありません。投資判断はご自身の責任でお願いいたします。
- 調整後利益・コア営業利益の見方 — 「実力ベース事業利益」のような独自指標をどう扱うか
- 損益計算書の見方【図解】 — 事業利益から最終利益までに何があるか
- 貸借対照表の見方【図解】 — 有利子負債4.8兆円とD/Eレシオ0.76
- 配当利回りと配当性向の見方【図解】 — 下限配当という考え方
- PER・PBR・ROEの見方 — 株式分割があった年の比較