【2026年版】中外製薬(4519)決算分析|配当272円→132円は減配ではない。営業利益率49.6%の中身

中外製薬(4519)が2026年7月24日に発表した2026年12月期 第2四半期(中間期・1〜6月)の決算は、同じ会社の数字が2通りに見えるという点で、読む練習にちょうどいい決算でした。

  • 売上収益 6,633億円(前年同期比+14.7%)
  • Core営業利益 3,291億円(+21.0%)/営業利益率49.6%
  • IFRSの営業利益は 3,196億円(+16.9%)
  • 年間配当は 272円 → 132円

配当が272円から132円へ半減しています。ところがこれは減配ではありません。前年には創業100周年の記念配当150円が入っていたためで、普通配当だけを比べると122円→132円の増配です。

そしてもう一つ。この会社が公表する業績予想は、そもそも「Coreベース」です。会計基準どおりのIFRSの数字ではなく、会社が「非経常」と判断した項目を調整した独自の数字で予想を出しています。

見出しの数字をそのまま受け取ると、2か所で読み違えます。順に確かめていきます。

図解:中外製薬の数字は2通りある
「Core」と「IFRS」、そして「配当」の見え方。
中間期(1〜6月)の営業利益
Core営業利益(会社が予想に使う数字)
2,720 → 3,291億円(+21.0%)
IFRS営業利益(会計基準どおりの数字)
2,733 → 3,196億円(+16.9%)
Coreのほうが95億円多く、伸び率も4.1ポイント高い。会社は「非経常事項と捉える事項の調整を行ったもの」と定義しています。
配当272円→132円は「減配」ではない
2025年12月期:普通配当122円 + 記念配当150円(創業100周年) = 272円
2026年12月期(予想):132円(中間66円・期末66円)
普通配当だけで比べると122円→132円の増配。Core配当性向44.7%
進捗率はすべて前年超え。それでも予想は据え置き
Core営業利益の進捗率 49.1%(前年同期は43.6%)/売上収益 49.3%(前年46.0%)
★CFOの回答=「ファーストハーフ、最初の6カ月というところでは、想定どおりだと思います。想定よりちょっといいかなというぐらいですかね」
読み方:会社が使っている数字と、会計基準の数字。どちらが正しいかではなく、どちらを見ているかを意識することが大事です。
出典:中外製薬 2026年12月期 第2四半期(中間期)決算短信・決算説明会資料・説明会スクリプト(質疑含む)(2026年7月24日)より作成

全体像 ― 売上の半分が営業利益になる会社

Core(億円) 2025年 1-6月 2026年 1-6月 増減 前年比
売上収益 5,785 6,633 +848 +14.7%
製商品売上高 5,114 5,665 +551 +10.8%
 国内 2,233 2,379 +146 +6.5%
 海外 2,881 3,286 +405 +14.1%
その他の売上収益 670 968 +298 +44.5%
売上原価 △1,752 △1,959 △207 +11.8%
製商品原価率 34.3% 34.6% +0.3pt
研究開発費 △863 △902 △39 +4.5%
販売費及び一般管理費 △454 △490 △36 +7.9%
営業利益 2,720 3,291 +571 +21.0%
営業利益率 47.0% 49.6% +2.6pt
金融収支等 △15 96 +111
法人所得税 △770 △1,004 △234 +30.4%
中間利益 1,935 2,384 +449 +23.2%
EPS 117.57円 144.84円 +27.27円 +23.2%

営業利益率49.6%。売上収益6,633億円のうち、3,291億円が営業利益として残っています。売上の半分が利益になる——これがこの会社の最大の特徴です。

ここまで本サイトで見てきた会社と並べると、水準の違いがはっきりします。

会社 営業利益率(直近四半期)
中外製薬(4519) 49.6%
オリエンタルランド(4661) 26.4%
JR東日本(9020) 16.2%
スズキ(7269) 9.3%
日本製鉄(5401) 5.2%(ROS)

製薬という業種は、開発に成功すれば製造コストが相対的に小さいため、こうした利益率になります。ただし研究開発費902億円(売上の13.6%)を毎期使い続けなければ、その利益率は維持できません。

①「Core」と「IFRS」――会社が予想に使うのはCoreのほう

中外製薬の決算を読むうえで、最初に押さえるべきはここです。

当社が公表する業績予想は、当社社内の管理指標である国際会計基準(以下、「IFRS」という)のCoreベースで株主・投資家の皆さまに開示するものであります。Core実績とは、IFRS実績に当社が非経常事項と捉える事項の調整を行ったものであります。なお、当社が非経常事項と捉える事項は、事業規模や範囲などの違いによりロシュと判断が異なる場合があります。当社ではCore実績を、社内の業績管理、社内外への経常的な収益性の推移の説明、並びに株主還元をはじめとする成果配分を行う際の指標として使用しております

ここには3つのことが書かれています。

  • 業績予想そのものがCoreベース——IFRSの通期予想は出ていません
  • 配当(株主還元)もCoreを基準にしている——だから「Core配当性向」という指標が短信に載っています
  • 親会社であるロシュとは判断が異なる場合がある——同じ「Core」でも中身が違いうる、と会社が明記しています

実際の差は次のとおりです。

中間期 IFRS Core
売上収益 6,633億円 6,633億円
営業利益 3,196億円(+16.9%) 3,291億円(+21.0%) +95億円
当社株主帰属 中間利益 2,317億円(+19.2%) 2,384億円(+23.2%) +67億円
1株当たり中間利益 140.82円 144.84円 +4.02円

Coreのほうが営業利益で95億円多く、伸び率も16.9%と21.0%で4.1ポイント違います。どちらも会社が同じ日に開示している数字です。

会社が独自の指標を作るのは中外製薬だけではありません。日本製鉄(5401)は「実力ベース事業利益」を開示していますが、あちらは独自指標のほうが数字が悪くなります(事業利益+535億円に対して実力ベースは△653億円)。

会社が作った指標は、良く見せるためとは限りません。どちらの向きに調整されているかを確かめるのが読み方です(調整後利益・コア営業利益の見方)。

②増益571億円の中身 ― 為替188億円、ロイヤルティ298億円

会社はCore営業利益の増減を要因ごとに開示しています。

要因 金額
薬価改定 △75億円
国内 数量影響等 +221億円
輸出単価 △199億円
海外 数量影響等 +416億円
為替影響 +188億円
その他の売上収益の増加 +298億円
売上原価の増加 △207億円
諸費用の増加等 △70億円
営業利益の増加 +571億円

ここで注目すべきは3つです。

1つ目は輸出単価の△199億円。海外売上は+405億円伸びていますが、単価は下がっています。数量(+416億円)と為替(+188億円)で押し上げた形です。

2つ目は為替の+188億円。増益571億円の33%にあたります。会社は為替影響を別表でも開示しており、前年実績レートとの比較では営業利益+198億円、一方で今期の想定レートとの比較では△12億円としています。つまり「前年より円安で得をしたが、会社の想定どおり」ということです。

3つ目は「その他の売上収益」の+298億円。これは製品を売った売上ではなく、ロイヤルティ収入と一時金収入です。中間期で968億円(+44.5%)あります。

「その他の売上収益」968億円という異質な項目

この968億円には、ほとんど原価がかかりません。営業利益3,291億円の29%に相当する規模です。

中身は主に2つです。

  • NEMLUVIO(ネモリズマブ)——ガルデルマ社へ導出。会社によれば上半期のグローバル売上は433百万ドルで、新規患者処方シェアは結節性痒疹で約42%、アトピー性皮膚炎で約9%
  • ヘムライブラ——ロシュ向けのロイヤルティ

ただしこの項目の通期進捗率は39.5%と、他より低くなっています。一時金収入は毎期同じように入るものではないためです。

質疑応答では、この収入の読みにくさが話題になりました。あるアナリストが「ロシュからの収入を除くと第1四半期が41億円、第2四半期も41億円。NEMLUVIOの売上は増えているのに、なぜ変わらないのか」と質問し、CFOは「ロイヤルティですので、料率もティアード(段階制)でいきますので、ある程度、クォーターごとに変わってきたりする部分もあります」「詳細、計算式については非開示」と答えています。

外から積み上げて計算することはできない収益だということです。

③海外が国内を上回っている ― 単一製品で売上の26%

製商品売上高(億円) 2026年 1-6月 通期予想 進捗率 (前年の同時期)
国内 2,379 4,980 47.8% 47.3%
海外 3,286 6,020 54.6% 47.6%
 うちヘムライブラ 1,737 3,540 49.1% 43.7%
 うちアクテムラ 901 1,363 66.1% 54.9%
 うちアレセンサ 313 604 51.8% 49.2%

海外3,286億円が国内2,379億円を上回っています。そして海外ヘムライブラ1,737億円だけで、中間期の売上収益6,633億円の26%を占めます。

この「海外売上」の実態は、親会社ロシュへの輸出です。中外製薬が製造し、ロシュが世界で販売する——その仕組みが、この会社の収益構造の土台になっています。

国内は薬価改定と後発品浸透の影響を受けながら、主力品(バビースモ、ポライビー、エンスプリング、フェスゴ)と新製品(エレビジス、ルンスミオ)が伸びて+6.5%でした。国内血友病Aの患者シェアは39.6%(+2.6ポイント)と会社は開示しています。

④すべての進捗率が前年超え。それでも予想は動かさない

Core 中間期実績 通期予想 進捗率 前年同期の進捗率
売上収益 6,633億円 13,450億円 49.3% 46.0%
製商品売上高 5,665億円 11,000億円 51.5% 47.4%
その他の売上収益 968億円 2,450億円 39.5% 37.2%
営業利益 3,291億円 6,700億円 49.1% 43.6%
当期利益 2,384億円 4,850億円 49.2% 42.9%
EPS 144.84円 295.00円 49.1% 42.9%

営業利益の進捗率49.1%は、前年同期の43.6%を5.5ポイント上回っています。売上も、利益も、EPSも、すべて前年より速いペースです。それでも会社は通期予想を1円も動かしませんでした。

説明会では、アナリストがこの点を正面から突いています。

質問:「ヘムライブラとアクテムラ、その他に含まれるNEMLUVIOについては……今回の御社の実績の進捗率も高いので、やや上振れにも見えるんですけれども、どういった状況なのか」

CFO:「端的に申し上げると、非常に順調に進捗しているという状況でございます。輸出は……毎月平準化された金額ではないので、ある程度、私どもは年末に向けて、オーダーフォーキャストを6カ月間いただいています。そういったものも踏まえて、順調で、非常に堅調に推移していますけれども、現状は特に業績予想を見直すタイミングではないという判断をしておりますが、確かに進捗率は順調だと思います」

質問:「御社はあまり計画の見直しはされませんので、されないのは当然かなと思うんですけど、計画に対しては上振れて進捗していると考えていいんですか。順調という意味がちょっといまいち

CFO:ファーストハーフ、最初の6カ月というところでは、想定どおりだと思います。想定よりちょっといいかなというぐらいですかね

「想定よりちょっといいかなというぐらい」。これが会社の温度感です。

ロシュ向けの輸出は、6か月先までの注文予測(オーダーフォーキャスト)で動いている——この説明も重要です。四半期ごとの数字は平準化されていないため、進捗率だけで年間を割り戻すことはできません。

「進捗率が良くても通期を動かさない」形は、KDDI(9433)オリエンタルランド(4661)でも見ました。ただし中外製薬の場合、理由は「後ろに費用がある」ではなく「輸出の入り方が読めない」です。

⑤配当272円→132円が「減配」ではない理由

年間配当金 2025年12月期 2026年12月期(予想)
中間 125.00円 66.00円
期末 147.00円 66.00円
合計 272.00円 132.00円
 うち普通配当 122.00円 132.00円
 うち記念配当 150.00円(創業100周年)

2025年12月期の272円のうち、150円は創業100周年の記念配当でした。短信の注記に内訳がそのまま書かれています。

普通配当だけを比べると122円→132円で、8.2%の増配です。予想EPS295円に対して132円ですから、Core配当性向は44.7%配当利回りと配当性向の見方【図解】)。

配当の推移を見るときは、必ず内訳を確認する。記念配当や特別配当が入っていた年の翌年は、機械的に比較すると「減配」に見えます。

⑥財務 ― 株主帰属持分比率82.8%

単位:百万円 2025年12月期末 2026年 中間期末
資産合計 2,468,595 2,449,914
資本合計 2,025,732 2,027,663
当社株主帰属持分比率 82.8%

株主帰属持分比率82.8%。本サイトで扱ってきた会社と比べると異常な高さです(JR東日本は29.1%、日本製鉄は37.1%)。

製薬は工場や設備への投資が相対的に小さく、借入に頼らずに事業を回せます貸借対照表の見方【図解】)。同じ製薬でも、大型買収を重ねた武田薬品(4502)とは財務の形がまったく異なります。

なお販管費が7.9%増えた理由として、会社は「法人事業税(外形標準課税)及び一時的な諸経費等の増加」を挙げています。外形標準課税は利益ではなく事業規模にかかる税で、販管費に計上されます。

⑦次に効いてくる論点 ― 米国の薬価とパイプライン

説明会では、米国のMFN(最恵国待遇)薬価について質問が出ました。米国の薬価を他国の水準に合わせようという動きです。

「アメリカが推進しているInternational Reference Pricingのことを言われていると思うんですが、なかなか今後の見通しが非常に不確かなことで、そういう状況の中でも、中外製薬としては、何とか革新的な医薬品を継続的に患者さんにお届けしたいと考えています」(社長)

海外売上が国内を上回り、その多くが米国市場に届く製品である以上、この論点は無視できません。ただし会社自身が「見通しが非常に不確か」と述べている段階です。

一方、成長の材料も具体的に示されています。

  • NXT007(次世代の血友病薬)——2つのフェーズ3試験を開始。ヘムライブラの次を担う候補
  • AQUA07——3つ目の中分子。2026年5月に米国FDAからFast Track指定を取得し、ALK陽性非小細胞肺がんでフェーズ1を開始
  • 国内で8件の承認申請を実施。会社は「過去最多の申請計画達成に向けて順調」と説明
  • FOUNDAYO——2026年4月に米国で肥満症を対象に発売。ただし販売はイーライリリー(LLY)が担当し、中外製薬は売上を開示していません(社長「イーライリリーが責任を持ってしていただいておりますので、そちらにぜひ問い合わせを」)

この決算から持ち帰る5つのチェック

  • ① どの数字で予想が出ているかを確認する。中外製薬の業績予想はCoreベース。IFRSの営業利益は3,196億円(+16.9%)、Coreは3,291億円(+21.0%)です。
  • ② 配当は内訳を見る。272円→132円は減配ではなく、前年に記念配当150円が入っていたため。普通配当は122円→132円の増配です。
  • ③ 増益の中身を分解する。+571億円のうち為替+188億円、ロイヤルティ等+298億円。一方で輸出単価は△199億円と下がっています。
  • ④ 進捗率が良くても、会社の言葉を読む。すべての進捗率が前年超えでも、CFOは「想定よりちょっといいかなというぐらい」と答えています。
  • ⑤ 利益率の水準を業種で比べる。営業利益率49.6%は製薬だから成立する数字で、その裏に研究開発費902億円(売上の13.6%)があります。

まとめ

2026年12月期中間期の中外製薬は、本業も為替もロイヤルティもそろって伸び、それでも会社は通期予想を動かさなかった決算でした。

見出しになりやすい事実 一次資料で確かめた実態
配当が272円から132円へ半減 前年に創業100周年の記念配当150円。普通配当は122円→132円の増配
営業利益+21.0% これはCoreの数字IFRSでは+16.9%(3,196億円)
海外が好調 事実。ただし輸出単価は△199億円で、数量と為替(+188億円)が押し上げた
進捗率49.1%で上振れ確実? 会社は据え置き。CFO「想定よりちょっといいかなというぐらい
ロイヤルティ収入が急増 968億円(+44.5%)。ただし料率はティアードで計算式は非開示、進捗率は39.5%
肥満症薬を持っている FOUNDAYOは販売がイーライリリーで、中外製薬は売上を開示していない

この会社で次に確かめるべきことは3つです。

  • 下半期のロイヤルティ・一時金が計画どおり積み上がるか。その他の売上収益の進捗率は39.5%で、通期2,450億円のうち1,482億円が下半期に残っています
  • 輸出単価の低下が続くか。数量と為替で覆えているうちは問題になりませんが、前提が変われば効いてきます
  • 米国の薬価政策がどう決まるか。社長自身が「見通しが非常に不確か」と述べています

同じ会社の同じ期間について、数字が2通り開示されている。それは珍しいことではなく、どちらを見ているかを自分で意識できるかどうかが、決算を読む力の分かれ目になります。

本記事は2026年7月24日公表の決算短信、決算説明会資料、説明会スクリプト(質疑含む)など、中外製薬が公開している一次資料に基づいて作成しています。同社は12月期決算のため、本記事の「中間期」は2026年1〜6月を指します。情報提供を目的としたものであり、特定銘柄の売買を推奨するものではありません。投資判断はご自身の責任でお願いいたします。

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