【2026年版】KDDI(9433)決算分析|営業利益+21.1%なのに通期見通しは+5.0%、その理由

KDDI(9433)が2026年8月7日に発表した2027年3月期 第1四半期(2026年4〜6月)の決算は、通信会社としては珍しく「本業が力強く伸びた」内容でした。

売上高1兆4,873億円(前年同期比+5.1%)、営業利益3,142億円(+21.1%)。前年の同じ四半期が営業利益△4.7%の減益だったことを考えると、はっきりした反転です。

ところが、会社が示している通期の見通しは「調整後営業利益+5.0%」です。

第1四半期が+21.1%なのに、通期は+5.0%。この差はどこから来るのか。そしてKDDIの利益をいま何が押し上げているのか。公表資料と決算説明会の質疑応答から、順に確かめていきます。

図解:第1四半期+21.1%、通期見通し+5.0%。この差の理由
数字が食い違うときは、会社が理由を書いていないかを探します。
KDDIの場合、決算説明会の資料に1行で書かれていました。
第1四半期の実績
調整後営業利益 +21.1%
2,595億円 → 3,143億円
通期予想に対する進捗率は26.0%(4分の1を超えています)
通期の見通し
調整後営業利益 +5.0%
1兆2,100億円
据え置き(修正なし)
会社の説明(決算説明会資料に明記)
「上期はサービス改定効果をはじめ、テレコムコアが増益を牽引。下期は中期成長を見据えた戦略的コスト投下を計画
もう一つの理由:楽天ローミング収入を「ゼロ」と置いている
楽天モバイルへのローミング提供は2026年9月で現行契約が終了。会社は質疑応答で「通期ガイダンスでは保守的にみており、下期以降の契約を見込まず、収入を計上していない」と述べています。一部エリアで提供は継続するため、実際には下期に収入が発生します。
読み方:「通期+5.0%」は事業が失速する予想ではありません。下期にコストを使う計画と、収入を保守的に置いた結果です。ただしコスト投下は実際に利益を圧迫します。上期の勢いをそのまま年間に伸ばすのは危険です。
出典:KDDI 2027年3月期 第1四半期 決算短信・決算説明会資料・質疑応答(2026年8月7日)より作成

全体像 ― 前年の減益から反転した

単位:百万円 2026年3月期 Q1 2027年3月期 Q1 増減率
売上高 1,415,734 1,487,316 +5.1%
営業利益 259,473(△4.7%) 314,248 +21.1%
税引前利益 256,704(△9.1%) 308,466 +20.2%
親会社帰属の四半期利益 160,069(△7.0%) 195,465 +22.1%
1株当たり四半期利益 40.23円 51.34円 +27.6%
調整後営業利益 259,473 314,262 +21.1%
親会社帰属の調整後四半期利益 159,094 193,442 +21.6%

前年の数字に付いている「△4.7%」「△9.1%」「△7.0%」に注目してください。KDDIは前年の第1四半期、減益だったのです。そこからの反転なので、伸び率はその分だけ大きく出ます。

ただしホンダのように「前年に巨額の一時損失があった」わけではありません。KDDIは営業利益314,248百万円に対し調整後営業利益が314,262百万円——差はわずか1,400万円です。一時的な損益がほとんどない、素直な決算だと分かります(調整後利益・コア営業利益の見方)。

なお会社の定義では、調整後利益は「非経常的な損益やポートフォリオ見直しに伴う一時損益を除外したもの」です。

①増益の63%は本業の通信 ― 「値上げしたのに解約が減った」

セグメント別に見ると、何が利益を押し上げたかが明確です(調整後営業利益)。

セグメント 売上(前年比) 調整後営業利益 増減率 利益率
テレコムコア(通信) 1兆836億円(+3.4% 2,107億円 +19.5% 19.4%
パーソナルグロース 2,808億円(+8.6%) 555億円 +9.3% 19.8%
ビジネスグロース 1,652億円(+11.7% 185億円 +21.6% 11.2%
その他 588億円(△1.2%) 299億円 +67.7% 50.8%

増益額544億円のうち、テレコムコアだけで344億円——全体の63.2%です。本業の通信が利益を牽引しました。

その中身が重要です。会社が挙げている数字を並べます。

指標 実績 前年比
スマートフォン稼働数 3,330万契約 +39万契約
モバイルARPU(1契約あたり月間収入) 4,400円 +160円
スマートフォン解約率 1.17% △0.06pt

ここが今回の決算でいちばん面白いところです。KDDIは2025年8月にauの料金を改定(値上げ)しました。ふつう値上げをすれば顧客は離れます。ところが解約率はむしろ0.06ポイント下がり、契約数も39万増えています。

会社は質疑応答で、「料金改定効果だけでなく、プラン構成比の上昇によって通信料収入が増加している」と説明しています。単純な値上げではなく、より高い価値のプランへ顧客が移動したということです。「次の料金改定として決まっているものはない」とも述べており、いまは既存プランの浸透に注力する方針です。

②伸びている事業ほど、利益率が低い

先ほどの表をもう一度、「売上の伸び」と「利益率」だけを並べて見てください。

セグメント 売上の伸び 利益率
テレコムコア(通信) +3.4%(最も低い) 19.4%
パーソナルグロース +8.6% 19.8%
ビジネスグロース +11.7%(最も高い) 11.2%(最も低い)

いちばん伸びている事業(ビジネスグロース)の利益率が、いちばん低い。これはNTT(9432)でも見た構造とまったく同じです。

通信会社の成長領域は、通信そのものより利益率が低い——この事実は、成長ストーリーを評価するときに欠かせません。売上構成が成長領域に移るほど、全社の利益率は下がる方向に働きます。

もっとも、ビジネスグロースの中身は悪くありません。会社によればクラウド基盤売上は前年比+30%超、さらに海外コネクティビティ・データセンターはAI推論需要を捉え、調整後EBITDA126億円(+20.7%)、EBITDAマージン44.1%と高収益を維持しています。NVIDIAが牽引するAIインフラ投資の恩恵が、通信会社にも及び始めています。

一方でパーソナルグロースの金融事業は減益です。会社は「想定通り」としており、ゴールドカード基盤は207万会員(+46万)へ拡大中。ローソンとの連携も進めています。金融は先行投資の段階だと読めます。

③EPS+27.6%と利益+22.1%の差 ― 自社株買いで株数が4.3%減

細かいようで、配当を重視する投資家には重要な数字です。

項目 2026年3月期 Q1 2027年3月期 Q1 増減
親会社帰属の四半期利益 160,069百万円 195,465百万円 +22.1%
期中平均株式数 3,978,573,272株 3,807,195,280株 △4.3%
1株当たり四半期利益 40.23円 51.34円 +27.6%

EPSの伸び(+27.6%)が利益の伸び(+22.1%)を5.5ポイント上回っています。理由は株数が4.3%減ったからです。

実際、期末の発行済株式数は41億8,785万株から40億745万株へ、約1億8,000万株減っています。自己株式も同じだけ減っており、買い戻した株式を消却したことが分かります。

自社株買いと消却は、1株あたりの価値を押し上げる株主還元です。三菱商事が1兆円規模の自社株買いを全株消却したのと同じ考え方で、配当と並ぶもう一つの還元として見る必要があります(配当利回りと配当性向の見方)。

④配当は80円→84円へ増配

年間配当金 中間 期末 合計
2026年3月期(実績) 40.00円 40.00円 80.00円
2027年3月期(予想) 42.00円 42.00円 84.00円

年間84円、前期比+5.0%の増配予想です。KDDIは長期の連続増配で知られる銘柄で、高配当株を探す投資家にとって中心的な選択肢のひとつです。

ただし配当の記事で書いたとおり、「連続増配◯期」という数字は回数しか表していません。大事なのは10年で何倍になったかと、自社株買いを含めた総還元です。KDDIの場合、今回の四半期だけで株数を4.3%減らしているので、配当利回りだけを見ると還元の大きさを過小評価します。

⑤見落とせないリスク ― 楽天ローミング終了とガバナンス

楽天ローミングは2026年9月で現行契約が終了

KDDIは楽天モバイルに対し、7年間にわたって回線のローミング(相互接続)を提供してきました。その現行契約が2026年9月で終了します。

会社の説明を整理します。

  • 楽天モバイルのエリアが拡大したため、「当社は一定の役割を果たした」と判断
  • 終了の理由は「au、UQ mobile、povoのお客さまの通信品質を堅持するため」
  • ただし一部のルーラルエリアに限定し、一定期間はインフラ維持に協力する
  • ローミング収入は第1四半期で前年比 約8億円の減収影響
  • 通期ガイダンスでは下期以降の契約を見込まず、収入を計上していない

最後の1行が重要です。実際には一部エリアで提供が続くため下期にも収入は発生しますが、会社はそれを見通しに入れていません。つまり通期予想はこの分だけ保守的だということです。

この「収入をゼロと置く」手法は、NVIDIAが第3四半期の見通しで中国のデータセンター売上をゼロと想定したのと同じ考え方です。前提を知らずに数字だけ見ると、リスクも上振れ余地も見誤ります。

⚠ガバナンス上の2つの事案

決算説明会では、業績とは別に2つの事案が報告されています。

  • 不適切取引事案…グループガバナンスの体制強化に向けて再発防止策を全社で実行
  • 不正アクセス事案行政指導を受けており、再発防止に取り組むとしている

通信インフラを担う企業にとって、信頼は事業そのものです。財務数値には表れにくい項目ですが、継続して確認すべきリスクとして押さえておく必要があります。

⑥NTTと並べて見る ― 同じ業界、違う局面

NTT(9432)も同じ通信業界の大手です。両社を比べると、通信会社の共通点と違いが見えます。

KDDI(今回のQ1) NTT(既存記事より)
売上の伸び +5.1%
営業利益 +21.1%
成長領域の利益率 ビジネスグロース11.2%(最低) 伸びている事業ほど利益率が低い
増益の主因 本業の通信(料金改定)が63% 通信以外が牽引
株主還元 配当84円(+5.0%)+自社株買いで株数△4.3% 16期連続増配予定・自社株買い累計約5.9兆円

「伸びている事業ほど利益率が低い」は両社に共通します。通信会社が成長領域(法人向けDX・金融・データセンター)へ広げるとき、本業の通信ほどの利益率は簡単には出ません。

一方でKDDIの今回の決算は、本業の通信そのものが利益を牽引した点が特徴的です。料金改定という自社の意思決定が、ARPUの上昇と解約率の低下という形で結果に出ました。

この決算から持ち帰る5つのチェック

  • ① 四半期の伸び率と通期見通しがズレていたら、理由を探す。KDDIはQ1+21.1%に対し通期+5.0%。会社は「下期は戦略的コスト投下を計画」と明記しています。
  • ② 前年(分母)が減益でなかったかを確認する。前年Q1は営業利益△4.7%でした。反転の伸び率は大きく出ます。
  • ③ 売上の伸びと利益率を並べる。ビジネスグロースは売上+11.7%で利益率11.2%。成長領域ほど利益率が低いのが通信業界の構造です。
  • ④ EPSと利益の伸び率の差=株数の変化。差の5.5ポイントは自社株買いで株数が4.3%減ったぶんです。
  • ⑤ 見通しの「前提」を読む。通期予想は楽天ローミング収入をゼロと置いた保守的な数字です。

まとめ

2027年3月期第1四半期のKDDIは、本業である通信が利益を牽引した決算でした。値上げをしたのに解約率が下がり、契約数もARPUも伸びている——これは簡単に真似できることではありません。

見出しになりやすい事実 一次資料で確かめた実態
営業利益が+21.1% 前年が△4.7%の減益からの反転。ただし一時損益はほぼなく素直な数字
好調なスタート(進捗率26.0%) 通期見通しは+5.0%のまま据え置き。「下期は戦略的コスト投下を計画」
1株当たり利益が+27.6% 利益の伸びは+22.1%。差は自社株買いで株数が4.3%減ったぶん
成長領域が二桁成長 ビジネスグロースは売上+11.7%だが利益率11.2%と最低
通期予想は保守的に見える 楽天ローミング収入を下期ゼロと置いている(実際は一部エリアで発生)

投資判断で気をつけたいのは、上期の勢いをそのまま年間に伸ばさないことです。会社自身が下期にコストを使う計画だと明言しています。進捗率26.0%という数字は「上振れ確実」を意味しません。

同時に、通期予想には保守的に置かれている部分(楽天ローミング収入)もあります。上振れ要因と下押し要因の両方が見通しに織り込まれている——だからこそ、第2四半期の決算で「戦略的コスト投下」が実際にどれだけ出たかを確認する価値があります。

PER・PBR・ROEの見方で扱ったとおり、EPSを将来に伸ばすときは前提を自分で言えるようにしておくことが大切です。KDDIの場合、自社株買いによる株数の減少がEPSを押し上げ続けるのかも、あわせて確認したい点です。

本記事は2026年8月7日公表の決算短信・決算説明会資料・質疑応答など、KDDIが公開している一次資料に基づいて作成しています。情報提供を目的としたものであり、特定銘柄の売買を推奨するものではありません。投資判断はご自身の責任でお願いいたします。

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