リクルートホールディングス(6098)が2026年8月7日に発表した2027年3月期 第1四半期(2026年4〜6月)の決算は、数字だけ見ても異常な伸びです。
- 売上収益 1兆453億円(前年同期比+18.9%)
- 営業利益 2,554億円(+66.1%)
- 親会社の所有者に帰属する四半期利益 2,026億円(+67.5%)
- 1株当たり四半期利益 145.48円(+73.2%)
- 通期見通しを5月から3ヶ月で大幅上方修正(EBITDA+Sを9,490億円→1兆1,050億円へ)
しかし、この決算の本当に驚くべき点は伸び率ではありません。
Indeedを運営するHRテクノロジー事業の米国売上は、四半期として過去最高の16.4億ドルを記録しました。同じ期間、米国の求人総数は前年より約4%減っています。
求人が減っているのに、売上は過去最高。何が起きているのか、決算短信・決算説明資料・電話会議の書き起こしから確かめていきます。
4年前の記録的な四半期と並べると、変化の大きさがはっきりします。
(水準は現在より約57%高い)
US ARPJ成長率:1%
(求人は減っている)
US ARPJ成長率:35%
2026年度は求人が減るなかで単価が35%上がったから売上が伸びた
広義の人件費(従業員給付費用+業務委託費)の売上比 約48% → 約37%
全体像 ― すべての利益指標が過去最高
| 単位:億円 | 2026年3月期 Q1 | 2027年3月期 Q1 | 前年比 |
|---|---|---|---|
| 売上収益 | 8,788(△2.5%) | 10,453 | +18.9% |
| 営業利益 | 1,537 | 2,554 | +66.1% |
| 税引前四半期利益 | 1,589 | 2,635 | +65.8% |
| 親会社帰属 四半期利益 | 1,209 | 2,026 | +67.5% |
| EBITDA+S | 1,871 | 2,928 | +56.5% |
| EBITDA+Sマージン | 21.3% | 28.0% | +6.7pt |
| 四半期包括利益 | 908 | 2,317 | +155.0% |
| 1株当たり四半期利益 | 83.97円 | 145.48円 | +73.2% |
| 親会社所有者帰属持分比率 | 56.8%(前期末) | 61.0% | +4.2pt |
いくつか補足します。
- 前年の第1四半期は売上が△2.5%の減収でした。そこからの+18.9%です
- 営業利益+66.1%に対し、最終利益は+67.5%。ほぼ同じ伸びで、トヨタや日立のように「本業の外」が数字を作ったわけではありません
- 1株当たり利益の伸び(+73.2%)が最終利益の伸び(+67.5%)を5.7ポイント上回っています。自社株買いで株数が減っているためです
「EBITDA+S」とは何か
リクルートは独自指標を主軸に置いています。定義は短信に明記されています。
末尾の「S」はShare-based payments(株式報酬費用)を指します。株式報酬は現金の支出を伴わないため、それを足し戻した数字を「実力」として示すという考え方です。
ただし株式報酬は、既存株主の持ち分を薄めるコストでもあります。会計上の費用を足し戻す指標は「本業の実力」を見やすくする一方で、都合の悪い費用を消してしまう危険もあります(調整後利益・コア営業利益の見方)。
実際、この四半期は営業利益+66.1%に対しEBITDA+Sは+56.5%と、会計上の利益のほうが大きく伸びています。「調整後のほうが数字が良い」という通念が当てはまらない例です。
①増益の91%は、Indeedだけで作られている
| 単位:億円 | 売上 25年Q1 | 売上 26年Q1 | EBITDA+S 25年Q1 | EBITDA+S 26年Q1 | マージン |
|---|---|---|---|---|---|
| HRテクノロジー(Indeed等) | 3,417 | 4,554(+33.2%) | 1,194 | 2,157(+80.6%) | 35.0%→47.4% |
| 人材派遣 | 4,081 | 4,552(+11.5%) | 268 | 282(+5.2%) | 6.6%→6.2% |
| マッチング・ソリューション(MMT) | 1,368 | 1,418(+3.7%) | 432 | 511(+18.3%) | 31.6%→36.0% |
| 全社 | 8,788 | 10,453(+18.9%) | 1,871 | 2,928(+56.5%) | 21.3%→28.0% |
EBITDA+Sの増加額1,057億円のうち、HRテクノロジーが963億円。全体の91.1%です。
そして3つの事業の利益率がまったく違うことに注目してください。
- HRテクノロジー:47.4%——プラットフォーム型のビジネス
- MMT:36.0%——ホットペッパー、SUUMO、ゼクシィなど
- 人材派遣:6.2%——人を雇って派遣する労働集約型
売上では人材派遣(4,552億円)がHRテクノロジー(4,554億円)とほぼ並びます。しかし利益では2,157億円対282億円で、7.6倍の差があります。
この構造はNTTやKDDIで見た「伸びている事業ほど利益率が低い」とは逆です。リクルートは、いちばん利益率の高い事業がいちばん伸びています。
②US ARPJとは何か ― 4年前と並べると変化が分かる
この決算を理解する鍵が、US ARPJ(米国平均単価)です。会社は電話会議で定義を丁寧に説明しています。
つまり、「US ARPJ」は「Indeed上の求人データ1件当たりの平均売上収益」であって「Indeed上の有料求人広告1件当たりの平均単価」ではない、ということです。
分母の「米国求人総数」には、有料広告でない求人も含まれます。企業がIndeedに直接投稿する「Hosted Jobs」と、各社の採用サイトや採用管理システム(ATS)からIndeedが収集する「Indexed Jobs」の両方です。
だからこの指標は「Indeed上にある求人1件あたり、リクルートがいくら稼げているか」を示します。求人市場全体が縮んでも、そこから多く稼げるようになっていれば数字は上がります。
4年前と比べると、何が変わったかが分かる
会社は2022年度第1四半期(当時の四半期売上の過去最高)と今回を並べて説明しました。
| 米国 | 2022年度 Q1 | 2026年度 Q1(今回) |
|---|---|---|
| 米国売上収益 | 16.1億ドル(+24.9%) | 16.4億ドル(+30.0%) |
| 米国求人総数 | YoY +24%(水準は今回より約57%高い) | YoY △約4% |
| US ARPJ成長率 | 1% | 35% |
売上金額はほぼ同じです。しかし作り方がまったく違います。
- 2022年度は「求人の量」が売上を作った。求人総数が24%増え、単価はほぼ横ばい(+1%)
- 2026年度は「単価」が売上を作った。求人総数は4%減り、単価が35%上がった
会社の言葉を引きます——「検索エンジン・クリック課金ベースの有料求人広告を主軸とする当時のビジネスモデルから、AIを活用した、より高精度・高速、高付加価値のマッチング・プラットフォームへの進化によって実現した、現在のマネタイゼーションの進化の過程とスピードを、このUS ARPJ成長率の差から実感して頂けると思います」。
景気が良くて求人が増えたから儲かった会社と、景気が悪くても単価を上げられる会社は、まったく別のものです。後者のほうが、次の不況で強い。この比較は、その転換が実際に起きたことを数字で示しています。
通期の見通しも大きく引き上げられました。米国売上収益は期初予想のYoY+13.6%から+25.1%(66.5億ドル)へ、US ARPJ成長率は約30%を見込みます。これまでの通期最高は2022年度の60.0億ドルでしたが、そのときは求人総数+3%・売上+4.9%・ARPJ成長率2%でした。
③マージン47.4%の正体 ― 人件費率が48%から37%へ
売上が伸びただけなら、利益率が12ポイントも上がることはありません。会社はコスト側の変化を数字で示しています。
売上に対する人件費の比率が、1年で11ポイント下がりました。売上が33%増えるなかで人件費の伸びを抑えたということです。
もう一つ、投資家が気にする点にも会社は先回りして答えています。
AIで稼いでいる会社なのに、AIのコストはまだ利益率を左右する水準にない。これはNVIDIAにGPU代を払う側の会社としては重要な情報です。ただし「今はまだ」という但し書きでもあります。今後この費用が膨らめば、利益率の前提は変わります。
④社長が語った「AIで何が起きているか」
電話会議での出木場社長の説明は、この決算でいちばん具体的な部分です。
まず前提として、需要環境は良くありません——「第1四半期の米国の採用需要は想定通り対前年でマイナスが継続をしました」。
そのうえで、売上が想定より強かった理由を2つに分けています。
中小企業 ― 「コストより速さ」
「人数の少ない中小企業にとっては、空いているポジションがいつまでも採用できないことは、事業の死活問題」。AIプロダクトで手作業が自動化され、「Time to Hire(採用までにかかる時間)」が短縮される。
この状況では「コストというより採用の速さを重視するお客様が多い傾向にあり、結果として、中小企業の顧客数と単価の両方の伸びが、全体の成長を引っ張ってくれた」としています。
大企業 ― 「リクルーター数人分の仕事」
大手顧客は導入判断に時間がかかります——「予算変更の意思決定プロセスに時間がかかったり、特にAIのプロダクトに関して法務部との確認という非常に時間を要することが多くて、使い始めていただくまでに時間がかかる」。
その大手が動き始めた例が語られました。
「こういった大企業の中には、数十人、会社によっては数百人ものリクルーターの方々がいて、そこに膨大なマニュアル作業のコストが発生しているのが実態です。ここに対して私たちのAIプロダクトを導入していただき、生産性を圧倒的に引き上げてもらう。これこそが、私たちのこれからの成長の大きな源泉」
売上の伸びを、会社は「AIによる価値提供が増えたことによる単価の上昇」と「顧客数の増加」の2つのドライバーが噛み合った結果だと説明しています。
社長自身が挙げているリスク
強気一辺倒ではありません。2つの慎重な発言が記録されています。
- 「お客様当たりの単価が短期間で上がってきているのも事実なので、中長期の成長が揺らがないように、お客様の満足度は本当に細かくモニタリングをしていきます」——単価上昇が顧客離れを招くリスクを認識しています
- 「予想していたよりかなり早いスピードでAIを活用してお客さまの生産性を上げられるようになってきていまして…正直なところ、精度高く業績を予測するのがどんどん本当に難しい状況になっている」
「業績予測が難しくなっている」と経営者が公の場で言うのは、珍しいことです。今回3ヶ月で通期予想を大きく引き上げたこと自体が、その難しさの表れでもあります。上振れも下振れも起こりうる、と読むべきでしょう。
⑤残り2つの事業 ― 派遣とMMT
人材派遣 ― 海外が日本を追い越した
売上4,552億円(+11.5%)、EBITDA+Sマージン6.2%。全社の売上の4割以上を占めながら、利益では1割弱です。
- 日本:+3.5%の2,202億円
- 欧州・米国・豪州:+20.3%の2,350億円
海外の派遣売上が日本を上回りました。ただし通期見通しは5月開示から「微修正」にとどまり、マージンは5.6%と前期(5.9%)より低い前提が置かれています。
MMT ― 通期は完全据え置き、そして課金モデルの転換
ホットペッパー、SUUMO、ゼクシィなどを含むMMT事業は、売上1,418億円(+3.7%)とほぼ横ばいですが、EBITDA+Sは+18.3%、マージンは31.6%→36.0%へ改善しました。
| MMT 領域別売上 | 2026年度 Q1 | 前年比 |
|---|---|---|
| ライフスタイル領域 | 768億円 | +9.6% |
| 住宅領域 | 386億円 | +2.8% |
| その他 | 264億円 | △9.3% |
注目すべきは、MMTの通期見通しが5月開示から一切変更されていないことです。HRテクノロジーを大幅に引き上げた一方で、こちらは据え置き。会社が上方修正の根拠をHRテクノロジーに限定していることが分かります。
そのMMTで進んでいるのが課金モデルの転換です。会社はこう説明しています——「月額固定の掲載課金から『GMV連動モデル』への転換を図ることにより、今後のAIテクノロジーの浸透や進化の中でも、当社の売上収益の持続的な成長を実現出来る」。
掲載料をもらう形から、実際の取引額に連動して受け取る形へ。これはHRテクノロジーで起きていることと同じ方向です。「広告枠を売る」から「成果に応じて受け取る」への移行が、グループ全体で進んでいます。
会社は2029年3月期にMMTのEBITDA+Sマージンを35%程度にする目標を維持しています(今期の通期見通しは30.0%)。
⑥3ヶ月で通期を大幅上方修正 ― その中身
| 単位:億円 | 前期実績 | 5月15日 予想 | 8月7日 予想 | 引き上げ幅 |
|---|---|---|---|---|
| 売上収益 | 36,973 | 40,300(+9.0%) | 42,300(+14.4%) | +2,000 |
| EBITDA+S | 7,943 | 9,490(+19.5%) | 11,050(+39.1%) | +1,560 |
| EBITDA+Sマージン | 21.5% | 23.5% | 26.1% | +2.6pt |
| 親会社帰属 当期利益 | 4,969 | 6,230(+25.4%) | 7,550(+51.9%) | +1,320 |
| 1株当たり当期利益 | 349.78円 | 447.00円 | 543.00円(+55.2%) | +96円 |
| 想定為替(1ドル) | 150.7円 | 154.0円 | 159.0円 | +5円 |
EBITDA+Sの引き上げ幅1,560億円を、セグメント別に見ると理由がはっきりします。
| 通期EBITDA+S(億円) | 5月15日 予想 | 8月7日 予想 | 差 |
|---|---|---|---|
| HRテクノロジー | 6,774 | 8,340 | +1,566 |
| 人材派遣 | 1,005 | 1,025 | +20 |
| MMT | 1,815 | 1,815 | ±0 |
引き上げ分は、実質的にすべてHRテクノロジーです。第1四半期の増益構造(91%がHRテクノロジー)が、そのまま通期見通しにも反映されました。
ただし、為替前提が154円から159円へ引き上げられている点は差し引いて見る必要があります。HRテクノロジーの売上の大半はドル建てなので、円安が進めば円換算の数字は自動的に増えます。会社がドル建て(66.5億ドル)でも開示しているのは、そのためです。
⑦利益+67.5%でも、配当は+4%
| 2026年3月期 | 2027年3月期(予想) | |
|---|---|---|
| 年間配当金 | 25.00円 | 26.00円(+4.0%) |
| 1株当たり当期利益 | 349.78円 | 543.00円(+55.2%) |
| (参考)配当性向 | 約7.1% | 約4.8% |
利益が5割以上伸びる見通しなのに、配当は1円しか増えません。配当性向は5%を下回ります。
還元の主軸は自社株買いです。
- 総額3,500億円の自己株式取得プログラムが進行中
- 7月末時点で1,200億円(総額の34.3%)を費消し、1,251万株を取得
- 6月末のグロス現預金は9,085億円
配当利回りだけでこの銘柄を評価すると、還元の実態を大きく見誤ります。配当利回りと配当性向の見方【図解】で書いたとおり、還元は配当と自社株買いを合わせて見る必要があります。
実際、1株当たり利益の伸び(+73.2%)が最終利益の伸び(+67.5%)を上回っているのは、買い戻しで株数が減っているからです。
この決算から持ち帰る5つのチェック
- ① 売上の伸びを「量」と「単価」に分ける。米国は求人総数△4%・単価+35%で過去最高でした。同じ売上でも、量で作ったのか単価で作ったのかで意味がまったく違います。
- ② 会社独自の指標は定義を読む。「US ARPJ」は有料広告1件の単価ではなく、Indeed上の求人データ1件あたりの売上です。「EBITDA+S」も、株式報酬を足し戻した数字です。
- ③ 利益率の変化はコスト側で確認する。マージン12.4ポイント改善の正体は、広義の人件費率が48%→37%へ下がったことでした。
- ④ 上方修正はセグメント別に分解する。通期EBITDA+Sの引き上げ1,560億円はほぼ全額がHRテクノロジーで、MMTは完全据え置きでした。
- ⑤ 還元は配当だけで測らない。利益が5割超伸びる見通しでも配当は+4%(配当性向約4.8%)。主軸は3,500億円の自社株買いです。
まとめ
2027年3月期第1四半期のリクルートホールディングスは、売上・利益・EPSのすべてが過去最高という決算でした。しかし重要なのは伸び率ではなく、伸びの作られ方が変わったことです。
| 見出しになりやすい事実 | 一次資料で確かめた実態 |
|---|---|
| 米国売上が四半期過去最高 | 米国求人総数はYoY△約4%。単価(US ARPJ)が35%上がって達成 |
| 営業利益+66.1%の大幅増益 | EBITDA+S増加1,057億円の91%がHRテクノロジー1つ |
| 利益率が大きく改善 | 正体は広義の人件費率48%→37%。AI関連費用は「まだマージンに大きく影響する水準にない」 |
| 通期を大幅上方修正 | 引き上げ1,560億円はほぼ全額HRテクノロジー。MMTは据え置き。為替前提も154→159円へ |
| 好調な会社 | 社長は「米国の採用需要は対前年でマイナスが継続」「精度高く業績を予測するのが難しい」と明言 |
| 増配で株主還元 | 配当は25→26円(+4%)のみ。還元の主軸は3,500億円の自社株買い |
この会社を追いかけるうえで、いちばん見るべき数字はUS ARPJ成長率です。会社が四半期ごとに開示すると決めた指標であり、「求人市場の良し悪しと関係なく、単価を上げられているか」を1つの数字で示します。
同時に、リスクも同じ場所にあります。単価の上昇が顧客の許容範囲を超えれば、離反が起きます。社長が「お客様の満足度は本当に細かくモニタリングをしていきます」と述べたのは、そのリスクを意識してのことでしょう。
AIで顧客の生産性を上げ、その対価として単価をもらう。このモデルが続くかどうかは、次の四半期のUS ARPJ成長率と、HRテクノロジーの顧客数の動きで確かめられます。
本記事は2026年8月7日公表の決算短信、決算サマリー、決算説明電話会議の書き起こしなど、リクルートホールディングスが公開している一次資料に基づいて作成しています。情報提供を目的としたものであり、特定銘柄の売買を推奨するものではありません。投資判断はご自身の責任でお願いいたします。
【2026年版】JR東日本(9020)決算分析|運輸収入+381億円のうち200億円は値上げ。それでも最終利益は13.6%減った
- 調整後利益・コア営業利益の見方 — 「EBITDA+S」のような独自指標をどう読むか
- 損益計算書の見方【図解】 — 売上を「量」と「単価」に分解する
- 配当利回りと配当性向の見方【図解】 — 自社株買いを含めた還元で見る
- PER・PBR・ROEの見方 — どのEPSを使うかで評価が変わる
- 決算書分析の始め方 — セグメントを開くという原則