【2026年版】日立製作所(6501)決算分析|売上+20%・本業+39.5%なのに、最終利益が減った理由

日立製作所(6501)が2026年7月29日に発表した2027年3月期 第1四半期(2026年4〜6月)の決算は、見出しだけ並べると文句のつけようがありません。

  • 売上収益 2兆7,095億円(前年同期比+20.0%)——第1四半期として過去最高
  • 調整後営業利益 2,942億円(+39.5%)
  • Adjusted EBITA 3,235億円(+36.2%)、利益率は10.5%→11.9%へ改善
  • 4つの事業セクターすべてが増収増益
  • 通期見通しを上方修正(Adjusted EBITAを1兆4,200億円→1兆5,200億円へ)

ところが、親会社株主に帰属する四半期利益は1,894億円。前年の1,922億円から28億円減っています。△1.4%の減益です。

本業が4割近く伸びて、事業は全部が好調で、通期見通しまで上げているのに、最終利益は減った。この差はどこで消えたのか。

結論を先に書くと、会社自身がその内訳を決算説明資料に載せています。順に確かめていきます。

図解:本業で832億円増えたのに、最終利益が28億円減った理由
日立は減益の理由を4行で開示しています。足し算がそのまま合います。
前年 第1四半期(親会社株主帰属)
1,922億円
+ 調整後営業利益(本業)
+832億円
− 受取配当金(前期の空調事業再編に伴う特別配当の反動等)
△451億円
− 為替差損益
△219億円
− その他の営業外損益・税金費用ほか
△190億円
今期 第1四半期
1,894億円(△28億円)
損益計算書で確かめると、正体は「金融収益」
金融収益 726億円 → 86億円(前年の12%)
法人所得税 716億円 → 919億円(実効税率 26.3% → 31.2%
非支配株主に帰属する利益 82億円 → 136億円(+67%)
読み方:前年に一度きりの特別配当が入っていたため、比較の相手(分母)が高くなっていました。本業が悪くなったわけではありません。
出典:日立製作所 2027年3月期 第1四半期決算短信・決算説明資料(2026年7月29日)より作成

全体像 ― 損益計算書のどこで止まったのか

単位:億円 2026年3月期 Q1 2027年3月期 Q1 前年比
売上収益 22,583 27,095 +20.0%
売上総利益 6,614(29.3%) 8,096(29.9% +22.4%
販売費及び一般管理費 △4,504 △5,153 +14.4%
調整後営業利益 2,110(9.3%) 2,942(10.9%) +39.5%
金融収益 726 86 △88.1%
持分法による投資損益 75 28 △62.1%
EBIT 2,737(12.1%) 2,941(10.9%) +7.4%
税引前四半期利益 2,720 2,951 +8.5%
法人所得税費用 △716 △919 +28.4%
四半期利益 2,004 2,031 +1.4%
親会社株主に帰属する四半期利益 1,922 1,894 △1.4%
非支配持分 82 136 +66.8%
1株当たり四半期利益 42.01円 42.24円 +0.5%

表を上から下へ追うと、どこでブレーキがかかったかがはっきりします。

  • 売上総利益率は29.3%→29.9%に改善。売上が20%伸びるなかで利益率も上がっています
  • 販管費の伸びは+14.4%と、売上の伸び(+20.0%)より小さい。だから調整後営業利益率は9.3%→10.9%へ1.6ポイント改善しました
  • ところが金融収益が726億円から86億円へ、640億円も減っている
  • さらに法人所得税が203億円増え、実効税率は26.3%→31.2%へ上昇
  • 最後に非支配株主の取り分が54億円増えて、親会社株主の分が削られた

本業(調整後営業利益より上)はすべて良い方向に動いています。減益を作ったのは、その下の行です。

ちなみに1株当たり利益だけは+0.5%とプラスです。純利益が減ったのにEPSが増えたのは、自社株買いで期中平均株式数が45.75億株→44.85億株(△2.0%)と減ったからです(配当利回りと配当性向の見方【図解】)。

①消えた640億円の正体 ― 前期の「特別配当」

金融収益が726億円から86億円へ落ちた理由を、会社は決算説明資料でこう書いています。

FY25の空調事業再編に伴う特別配当の反動等
「前期事業再編に伴う特別配当の反動影響約△500億円を含む」

日立は前期(2026年3月期)に空調事業の再編を行い、その過程で一度きりの特別配当を受け取っていました。それが今期はありません。

ここが読み方の要点です。「減益」と聞くと事業が悪くなったように感じますが、実際に起きたのは「前年の数字が特別に高かった」ということです。比較の相手(分母)に一度きりの利益が入っていたのです。

この「分母に一時要因が入っている」パターンは、2026年の決算で繰り返し現れています。

会社 何が起きたか
ホンダ(7267) 前年にEV関連損失1,220億円があったため、営業利益が+117.4%に見えた
トヨタ(7203) 営業利益△8.8%なのに最終利益+75.6%——豊田自動織機の売却益約6,000億円
日立(6501) 前年に特別配当があったため、本業+39.5%でも最終は△1.4%

トヨタと日立は、まったく逆向きの同じ現象です。トヨタは「本業の外で作られた利益」で最終利益が膨らみ、日立は「本業の外にあった利益が消えた」ことで最終利益が縮みました。

どちらも、営業利益と最終利益の伸び率が食い違っているときは、その間の行を開く——それだけで正体にたどり着けます(損益計算書の見方【図解】)。

税金と非支配株主の分も見ておく

減益の残り2つの要因も押さえておきます。

  • 実効税率が26.3%→31.2%へ4.9ポイント上昇。税引前が231億円増えたのに、税金は203億円増えました。増えた利益の大半が税金で持っていかれた形です
  • 非支配株主に帰属する利益が82億円→136億円へ(+66.8%)。連結子会社のうち、日立が100%持っていない会社の利益が伸びたということです。日立の株主の取り分ではありません

②増収の40%は為替 ― 実力はどこまでか

もう一つ、見出しの数字をそのまま受け取れない理由があります。会社は増収・増益を要因別に分解して開示しています。

売上収益の増減(単位:億円) 金額
2026年3月期 Q1 22,583
事業規模増 他 +2,347
中東影響 △160
一過性影響(大口案件など) +505
為替影響 +1,820
2027年3月期 Q1 27,095

増収4,512億円のうち、為替が1,820億円——40.3%を占めます。会社も「売上収益+20%[為替影響除き+12%]」と併記しています。

実際の為替レートは、1ドル145円→159円、1ユーロ164円→185円と大きく円安に振れました。

利益側も同じように分解されています。

Adjusted EBITAの増減(単位:億円) 金額
2026年3月期 Q1 2,375(利益率10.5%)
事業規模増 他 +518
コーポレート戦略投資 △78
中東影響 △70
一過性影響 +255
為替影響 +235
2027年3月期 Q1 3,235(利益率11.9%)

増益860億円のうち、事業の伸びによるものは518億円(60.2%)。為替が235億円(27.3%)、一過性の大口案件が255億円(29.7%)で、中東影響と戦略投資が合計148億円のマイナスです。

それでも実力部分だけで+518億円、前年比21.8%相当の増益です。「為替のおかげだけ」ではありません。ただし+39.5%という見出しをそのまま来期に伸ばすのは危険だ、ということです。

なお「中東影響」を金額で開示している会社はほとんどありません。日立はQ1で売上△160億円・利益△70億円、通期で売上△260億円・利益△170億円と具体的に示しています。影響が読めないものを「読めない」と隠さず数字にする姿勢は、投資家にとって助かります。

③エナジーが全部を持っていった ― 受注が+87%

セグメント別に見ると、この決算の主役がはっきりします。

単位:億円 Q1 受注(前年比) Q1 売上(前年比) Adjusted EBITA 前年比 利益率
デジタルシステム&サービス 10,070(+7%) 7,190(+11.2%) 856 +19.8% 11.9%
エナジー 19,063(+87%) 9,119(+36.6%) 1,291 +64.5% 14.2%
モビリティ(鉄道) 5,690(+25%) 3,444(+20.7%) 305 +40.2% 8.8%
コネクティブインダストリーズ 9,382(+25%) 7,610(+13.3%) 834 +31.9% 11.0%
その他・全社消去 △268 △50
合計 27,095 3,235 +36.2% 11.9%

エナジーの増益は506億円。全社の増益860億円の58.8%を、この1セグメントが作りました。しかも利益率14.2%は4セクターで最も高く、前年から2.4ポイント改善しています。

そしていちばん目を引くのが受注です。

エナジーのQ1受注は1兆9,063億円で前年比+87%。同じ四半期の売上9,119億円の2.1倍にあたります。受注が売上の倍のペースで入っているということは、この先の売上が積み上がっているという意味です。

会社の説明はこうです——「引き続き堅調な送電機器需要に加え、欧州における複数の大型HVDCプロジェクトが貢献」。

HVDC(高圧直流送電)は、長距離を効率よく電気を送るための設備です。洋上風力から陸へ、国と国のあいだで電気をやり取りする——そうした用途で需要が急増しています。背景には再生可能エネルギーの拡大と、AI・データセンターによる電力需要の増加があります。

NVIDIAが牽引するAIブームは、半導体だけでなく「その電気をどこから、どうやって運ぶか」という設備の需要を生んでいます。日立のエナジー事業は、そこに直接つながっています。

実際、日立は通期の設備投資を6,700億円(前期比+1,721億円)へ引き上げ、その理由を「エナジーのパワーグリッドを中心にCAPEXを拡大」と説明しています。受注が来ているから、作る能力を増やしているということです。

④通期上方修正1,000億円のうち、760億円がエナジー

通期見通しは、4月時点の予想から引き上げられました。

単位:億円 前回見通し 今回見通し 前期比
売上収益 111,000 117,000 +6,000 +11%
Adjusted EBITA 14,200 15,200 +1,000 +15.9%
Adjusted EBITA率 12.8% 13.0% +20bps +60bps
親会社株主帰属 当期利益 8,500 9,000 +500 +12.2%
1株当たり当期利益 188.78円 201.14円 +12.36円 +13%
ROIC 12% 13% +1pt

この上方修正を、セグメント別に分解するとこうなります。

通期上方修正額 売上収益 Adjusted EBITA
デジタルシステム&サービス +300億円 +80億円
エナジー +3,600億円 +760億円
モビリティ +1,000億円 +90億円
コネクティブインダストリーズ +1,000億円 +140億円

Adjusted EBITAの上方修正1,000億円のうち、760億円(76%)がエナジー1つで説明されます。売上でも6,000億円のうち3,600億円(60%)です。

いまの日立は、事実上「エナジーの会社」として評価されていると言っていい状況です。

ただし注意点もあります。通期の親会社株主帰属利益9,000億円への道のりを、会社はこう分解しています。

  • 前期実績 8,023億円
  • +2,087億円(調整後営業利益、税引前)
  • △1,327億円(営業外損益)——事業再編等損益の反動、持分法投資損益の減少(構造改革関連費用の反動はプラス)
  • +217億円(税金費用ほか)
  • = 9,000億円

第1四半期で起きたのと同じ構造が、通期でも続く見込みだということです。本業で2,087億円積み上げても、営業外で1,327億円が消える。最終利益の伸び(+12.2%)が、Adjusted EBITAの伸び(+15.9%)より小さいのはそのためです。

この「本業と最終利益の伸び率が違う」構造は、三井住友FGKDDIとも共通します。どの決算でも、営業利益と最終利益の伸び率を並べるところから始めるべきだと分かります(調整後利益・コア営業利益の見方)。

⑤総還元8,000億円 ― 稼ぐ利益の9割を株主に返す計画

株主還元の規模は、この決算でいちばん見落とされやすい数字かもしれません。

2027年3月期(計画) 金額 前期比
配当額 2,500億円 +450億円
自己株式取得額 5,500億円 +1,980億円
総還元額 8,000億円
(参考)親会社株主帰属 当期利益 9,000億円 +976億円

総還元8,000億円に対し、稼ぐ予定の利益が9,000億円。総還元性向はおよそ89%です。

第1四半期の時点で自社株買いを1,479億円(30.1百万株)実施済み、年間5,500億円に対する進捗率は27%。取得株数の上限は1億6,000万株と決議されています。

実際、自己株式は3,580万株から6,455万株へ増え、期中平均株式数は2.0%減りました。純利益が減っても1株当たり利益がプラスを維持できたのは、この買い戻しがあったからです。

配当については一点、注意が必要です。2027年3月期の中間配当予想は28円(前期の中間23円から増配)ですが、期末配当は「未定」とされています。年間の配当額が確定していないため、予想配当利回りを計算するときは前提の置き方に注意してください。

⑥財務とキャッシュ ― 運転資金の回転が17日速くなった

単位:億円 2026年3月末 2026年6月末 変化
資産合計 150,412 150,414 +1
現金及び現金同等物 13,234 15,044 +1,810
売上債権及び契約資産 40,048 36,187 △3,861
有利子負債 10,090 10,569 +478
親会社株主持分 65,683 65,737 +53
運転資金手持日数 36.6日 19.6日 △17.0日
D/Eレシオ 0.15倍 0.16倍 +0.01

売上が20%増えているのに、売上債権は3,861億円減りました。運転資金手持日数が36.6日から19.6日へ17日短縮しています。売上の伸びに運転資金を吸われていない——増収局面としてはかなり良い形です。

もっとも、この改善には理由があります。会社は「大口前受金影響 約+2,138億円」と説明しています。大型プロジェクトの前受金がキャッシュとして入っているということで、通期のコアFCF見通しには逆に「大口前受金影響 約△3,400億円」が織り込まれています。

つまりこれは恒久的な改善ではなく、大型案件の入金タイミングによるものです。コアFCFは第1四半期3,650億円(+136億円)でしたが、通期見通しは9,000億円で前期比△2,702億円となっています。

財務の安全性は高い水準です。親会社株主持分比率43.7%、D/Eレシオ0.16倍——重電メーカーとしては軽い負債です(貸借対照表の見方【図解】)。

⑦同じ「電機大手」を並べて読む

2026年に決算を確かめた電機・重工大手を並べると、それぞれ違う顔が出てきます。

会社 この四半期の特徴
日立(6501) 本業+39.5%・全事業増収増益・通期上方修正。それでも最終利益は△1.4%(前期の特別配当の反動)
パナソニックHD(6752) 営業利益+110.0%で41年ぶりの第1四半期最高益。ただし増収は為替のみで実質横ばい、増益の約350億円は構造改革効果
三菱重工業(7011) 利益ほぼ倍増だが、牽引したのは防衛ではなくエナジー。航空・防衛・宇宙の受注は2,298億円減
ソニーグループ(6758) 増益の89%がイメージセンサーとゲームの2事業。ただし800億円の関税還付が上方修正に含まれる

面白いのは、日立も三菱重工も「エナジーが主役」だったことです。電力インフラへの投資が、日本の重電メーカー2社を同時に押し上げています。

そして4社に共通するのは、見出しの数字と実態がずれていることです。パナソニックは増収が為替だけ、三菱重工は防衛でなくエナジー、ソニーは関税還付、日立は前期の特別配当の反動。どの会社も、一次資料を開かないと正体が分かりません。

この決算から持ち帰る5つのチェック

  • ① 本業の利益と最終利益の伸び率を並べる。日立は調整後営業利益+39.5%に対し最終利益△1.4%。方向が違ったら、その間の行(営業外損益・税金・非支配持分)を開きます。
  • ② 前年(分母)に一時要因がないか確認する。今回の減益は前期の空調事業再編に伴う特別配当の反動です。事業が悪化したわけではありません。
  • ③ 会社が示す「為替影響を除いた数字」を探す。売上+20%は為替を除くと+12%。増収4,512億円のうち1,820億円が為替でした。
  • ④ 受注は売上の先行指標。エナジーのQ1受注1兆9,063億円(+87%)は売上の2.1倍。ここが今後の売上になります。
  • ⑤ 株主還元は配当だけで測らない。配当2,500億円に自社株買い5,500億円を足した総還元8,000億円は、当期利益9,000億円の約89%です。

まとめ

2027年3月期第1四半期の日立製作所は、事業としては文句なしの四半期でした。売上収益とAdjusted EBITAはともに第1四半期として過去最高、4セクターすべてが増収増益、利益率も改善し、通期見通しまで引き上げています。

最終利益が1.4%減ったのは、前期に一度きりの特別配当があったからです。

見出しになりやすい事実 一次資料で確かめた実態
最終利益が減益(△1.4%) 前期の空調事業再編に伴う特別配当の反動。本業(調整後営業利益)は+39.5%
売上収益+20%の大幅増収 会社が併記——為替影響を除くと+12%。増収の40.3%が為替
Adjusted EBITA +36.2% 増益860億円のうち事業の伸びによるものは518億円(60.2%)
全事業が好調 事実。ただし増益の58.8%はエナジー1つ、通期上方修正の76%もエナジー
通期を上方修正 Adjusted EBITA +15.9%に対し最終利益は+12.2%。営業外△1,327億円が通期でも効く
運転資金が大幅改善 大口前受金による一時的なもの。通期コアFCFには△3,400億円の反動が織り込み済み

この会社を追いかけるうえで、いちばん見るべき数字はエナジーの受注です。第1四半期の受注1兆9,063億円は同じ期間の売上の2.1倍で、欧州の大型HVDCプロジェクトが中心。AI・データセンターの電力需要と再生可能エネルギーの拡大が、そのまま日立の受注残になっています。

同時に、設備投資を通期6,700億円(+1,721億円)へ拡大している点も見逃せません。受注を売上に変えるには作る能力が要ります。その投資が計画どおり利益に変わるかどうかが、次に確かめるべきことです。

本記事は2026年7月29日公表の決算短信および決算説明資料など、日立製作所が公開している一次資料に基づいて作成しています。情報提供を目的としたものであり、特定銘柄の売買を推奨するものではありません。投資判断はご自身の責任でお願いいたします。

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