ホンダ(7267)株式分析|営業利益+117.4%の倍増は本物か、会社が「実力値を上回る」と認めた四半期

本田技研工業(ホンダ・7267)が2026年8月5日に発表した2027年3月期 第1四半期(2026年4〜6月)の決算は、見出しだけ見れば文句なしの内容でした。

営業利益5,307億円、前年同期比+117.4%。四半期として過去最高です。最終利益(親会社の所有者に帰属する四半期利益)も4,509億円で+129.3%。

ところが、この「倍増」を実力と読むと、かなり大きく見誤ります。

理由は3つあります。①前年に一時的な損失があった ②増益のほぼ全額が為替と関税で説明できる ③会社自身が「実力値を上回る部分がある」と認めている——この記事では、公表資料と決算説明会の質疑応答をもとに、数字を1段ずつ実力に近づけていきます。

そして最後に、ホンダの利益をいま誰が稼いでいるのかという、もう一つの重要な事実に触れます。

図解:「+117.4%」を3段階で実力に近づける
見出しの数字から出発して、会社が開示している内訳を使って引き算するだけです。
難しい計算はありません。
STEP 1 見出しの数字
営業利益 +117.4%
2,441億円 → 5,307億円。四半期として過去最高。
▼ 前年にあった一時損失を戻す
STEP 2 前年のEV関連損失1,220億円を除く(=調整後営業利益で比べる)
+44.9%
3,661億円 → 5,307億円。前年が一時損失で沈んでいたぶん、伸び率が大きく見えていました。
▼ 増益1,645億円の中身を開く
STEP 3 為替と関税を除くと
為替影響
+908億円
関税影響
+781億円
本業の4要素
△44億円
増益1,645億円に対し、為替と関税だけで1,689億円。販売・売価/コスト・諸経費・研究開発を合計した本業の要素は44億円のマイナスでした。
結論:「営業利益が倍増」は事実ですが、その大半は前年の一時損失の反動と、円安・関税という外部要因です。会社自身も質疑応答で「第1四半期の利益水準には実力値を上回る部分も含まれている」と述べています。
出典:本田技研工業 2027年3月期 第1四半期 決算説明会資料・質疑応答(2026年8月5日)より作成

全体像 ― 数字を並べる

単位:億円 2026年3月期 Q1 2027年3月期 Q1 増減率
売上収益 53,402 60,615 +13.5%
営業利益 2,441 5,307 +117.4%
営業利益率 4.6% 8.8% +4.2pt
持分法による投資損益 42 226 +437.5%
税引前利益 2,923 6,050 +107.0%
親会社帰属の四半期利益 1,966 4,509 +129.3%
1株当たり四半期利益 46円 115円 +69円
EV関連損失 △1,220 +1,220
調整後営業利益 3,661 5,307 +44.9%
調整後営業利益率 6.9% 8.8% +1.9pt
期中平均為替(米ドル) 145円 159円 14円 円安

この表でいちばん大事な行は下から3番目です。前年の第1四半期には「EV関連損失」が1,220億円計上されていました。今期はゼロです。

つまり比較対象である前年の数字が、一時的な損失で沈んでいた。だから伸び率が実態より大きく見えます。会社はこれを踏まえて「調整後営業利益」という指標を併記しており、そちらで比べると+44.9%になります。

①「前年が低かった」という見落としやすい理由

伸び率を見るときは、分母(前年)に何があったかを必ず確認してください。今回のホンダは、その典型例です。

この構図はバークシャー・ハサウェイでも起きていました。前年同期にクラフト・ハインツ株の減損37.6億ドルが計上されていたため、今期の伸び率が実態より大きく見える——「前年側の一時要因」は、今期の資料だけを読んでいると気づけません。

ホンダの場合、EV関連損失の規模は前期通期で1兆4,536億円にのぼりました。その結果、2026年3月期は営業利益が△4,143億円、最終利益も△4,239億円の赤字です。ところが同じ期の調整後営業利益は1兆393億円の黒字でした。

会計上は大赤字、調整後では1兆円の黒字。同じ会社の同じ期間が、指標によってここまで違う顔になります(調整後利益・コア営業利益の見方)。

②増益1,645億円の中身 ― 為替と関税で説明され尽くす

調整後で比べた増益は1,645億円です。会社はこの内訳を要因別に開示しています。

要因 金額 中身
販売影響 △61 売上台数・構成変化+385、販売奨励金△290、金融事業+79、他△235
売価/コスト影響 △33 価格改定+519、原価低減等△552
諸経費 +67 品質関連費用+10、金融事業+7、他+50
研究開発費 △17
為替影響 +908 円対米ドル+430、米ドル対他通貨+110、円対アジア通貨+75、他+293
関税影響 +781
合計 +1,645

足し算で確かめられます。△61 △33 +67 △17 +908 +781 = +1,645。会社の開示と一致します。

為替 +908 + 関税 +781 = +1,689億円
本業の4要素(販売・売価/コスト・諸経費・研究開発)= △44億円

増益の全額どころか、それ以上を為替と関税が作っていました。本業の要素は合計するとマイナスです。

注目すべきは「売価/コスト影響△33億円」の中身です。価格改定で+519億円を稼いだ一方、原価低減等が△552億円。値上げの効果を、原材料高が食い切っている形です。トヨタ自動車も同じ四半期に「原価改善の努力」が△850億円とマイナスに転じており、2026年の自動車業界に共通する現象だと分かります。

③会社自身が「実力値を上回る」と述べている

ここが、この決算でもっとも価値のある情報です。決算説明会の質疑応答で、会社は次のように答えています。

第1四半期は北米生産車に対する関税減免の影響に加え、本来は前期に計上される想定だった項目の一部が期ずれで第1四半期に計上されたこともあり、関税影響は当初想定より小さくなっています。
こうした要因を踏まえると、第1四半期の利益水準には実力値を上回る部分も含まれており、関税影響だけで見れば、計画に対して約1,400億円程度の差があると認識しています。

「関税影響+781億円」の正体は、関税がかからなくなったこと(減免)と、前期に計上されるはずだった費用が今期にずれ込んだこと。どちらも繰り返される保証はありません。

会社が自分の口で「実力値を上回る」と言い、その金額感まで示している——これは決算資料としてはかなり誠実な部類です。そしてこの情報は、決算短信にも決算説明会資料の本編にも載っていません。質疑応答の要旨にしかありません。

同じことが今年、複数の会社で起きています。ソニーはグループ全体で800億円の関税還付、任天堂も同じ要因で粗利率が改善しました。2026年前半の決算は、「関税がどう効いているか」を確認しないと比較できません。

なお会社は、計画対比で約1,000億円の上振れがあったとしたうえで、「為替については期初時点で保守的な前提を置いていた」とも説明しています。上振れの一部は、前提の置き方によるものだということです。

④ホンダの利益を稼いでいるのは、四輪ではなく二輪

ここからは、この決算のもう一つの主題です。事業別に見ると、ホンダという会社の姿がはっきりします。

事業 売上収益 営業利益 営業利益率 前年の営業利益率
二輪事業 11,411億円 2,339億円 20.5% 19.9%
四輪事業 38,791億円 1,921億円 5.0% △0.8%(調整後2.6%)
金融サービス事業 10,270億円 1,058億円 10.3% 10.2%
パワープロダクツ等 944億円 △11億円 △1.2% △0.2%

売上では四輪が64.0%を占めるのに、営業利益では二輪が44.1%でトップです。四輪は36.2%。

営業利益率で見ると差はもっと鮮明です。二輪20.5%に対し、四輪はわずか5.0%。4倍の開きがあります。会社は二輪について「四半期として過去最高の営業利益/利益率を達成」と明記しています。

二輪の増益449億円(+23.8%)の中身は、販売影響+206、為替+285など。主にインド・ブラジルでの販売増によるものです。実際、二輪のグループ販売台数はアジアで4,284千台→4,753千台(+469千台)と伸びています。

質疑応答でも、インドの需要が想定以上に堅調、パキスタンも好調、ベトナムも計画超と説明され、さらに「価格改定が想定以上に浸透しており、利益の押し上げに寄与している」としています。

ホンダは「クルマの会社」として見られがちですが、利益の稼ぎ手という意味では二輪の会社です。そして二輪の主戦場はアジアです。この構造を知らずに四輪の販売台数だけ追っていると、業績の動きを読み違えます。

四輪は「売れて」いない ― 台数は6.3%減

四輪の営業利益は改善しましたが、台数は減っています。

事業 2026年3月期 Q1 2027年3月期 Q1 増減
二輪 5,143千台 5,663千台 +10.1%
四輪 839千台 786千台 △6.3%
パワープロダクツ 828千台 752千台 △9.2%

四輪の減少53千台のうち、中国が74千台の減少です。つまり中国以外は増えている計算になります。実際、北米は457→461千台と微増、日本は124→139千台と増えています。

中国での苦戦は、日本の自動車メーカーに共通しています。トヨタも同じ四半期に、中国でのトヨタ・レクサス販売台数が前年の72.0%まで落ち込みました。

四輪の増益997億円の内訳を見ると、為替+522、関税+816に対し、販売影響△386、売価/コスト影響△19ここでも本業の要素はマイナスです。

なお、この四輪の数字には航空機・航空エンジン事業の営業利益△86億円(前年△83億円)が含まれています。ホンダジェットは依然として赤字です。

⑤通期見通し ― 「赤字から黒字へ」の裏で、利益率は横ばい

通期の見通しも、同じ読み方が必要です。

単位:億円 2026年3月期 実績 2027年3月期 見通し 増減
売上収益 217,966 241,500 +10.8%
営業利益 △4,143 6,500 +10,643
営業利益率 △1.9% 2.7% +4.6pt
親会社帰属の当期利益 △4,239 4,000 +8,239
1株当たり当期利益 △106円 102円 +208円
EV関連損失 △14,536 △5,200 +9,336
調整後営業利益 10,393 11,700 +12.6%
調整後営業利益率 4.8% 4.8% ±0.0pt
為替前提(米ドル) 151円 155円 4円 円安

「営業赤字4,143億円から、黒字6,500億円へ」——1兆円を超える改善です。見出しとしては強烈です。

ですが調整後で見ると、10,393億円→11,700億円の+12.6%。そして調整後営業利益率は4.8%→4.8%で、まったく変わっていません。

売上が10.8%伸びる前提なのに、利益率が改善しない。これがホンダの現在地です。1兆円の改善は「EV関連損失が1兆4,536億円から5,200億円へ減る」ことによるもので、事業そのものの収益力が急に上がるわけではありません。

⚠今回の上方修正は「為替前提の見直しのみ」

会社は通期の営業利益見通しを5,000億円から6,500億円へ1,500億円引き上げました。ただし資料には理由がはっきり書かれています。

販売台数および原材料価格の影響等について、中東影響の先行きに不透明感があり、リスクの見極めが必要
為替前提のみ見直しを実施

為替前提を対米ドル145円から155円へ(前回見通しから10円の円安方向に)変更した、それだけです。第1四半期が計画を1,000億円上回ったにもかかわらず、販売台数の見通しは二輪22,800千台・四輪3,390千台のまま据え置き——会社は慎重な姿勢を崩していません。

質疑応答でも、通期見通しを変えなかった理由として「中東情勢をはじめとする不透明要因も残っていることから、現時点では慎重な姿勢を維持し、通期の販売台数見通しについては据え置いています」と説明されています。

⚠さらに2026年8月の熊本地震により、熊本製作所(二輪)で9日間、埼玉製作所(四輪)で6日間、鈴鹿製作所で5日間の生産休止が発生しています(8月5日時点)。この影響は今回の見通しには反映されていません。

⑥財務 ― ネットキャッシュ3.3兆円とDOE 3.0%

財務の健全性は際立っています(金融サービス事業を除く事業会社ベース)。

単位:億円 2026年3月期 Q1 2027年3月期 Q1
営業活動によるCF +3,900 +5,291
投資活動によるCF △959 △4,008
フリーキャッシュフロー +2,940 +1,283
ネットキャッシュ残高 29,079 33,318

ネットキャッシュは3.3兆円(月商2.0か月相当)。営業CFは増えていますが、投資CFの拡大でフリーキャッシュフローは2,940億円から1,283億円へ減っていますキャッシュフロー計算書の見方)。

株主還元では、DOE(純資産配当率)3.0%を目安に安定的・継続的に配当する方針を掲げ、配当は1株70円で前回見通しから変更なしとしています。

DOEを使う意味は明確です。ホンダは前期に最終赤字でした。利益を分母にする配当性向では、赤字の年に配当を決められません。純資産を分母にするDOEなら、業績が振れても配当を安定させられます。太陽誘電がDOE3.5%を下限に配当90円を維持したのと同じ考え方です(配当利回りと配当性向の見方)。

⑦トヨタと並べると、同じ四半期がまったく違って見える

トヨタ自動車も同じ2027年3月期第1四半期を発表しています。並べてみます。

トヨタ ホンダ
売上(営業収益) +10.4% +13.5%
営業利益 △8.8% +117.4%
最終利益 +75.6% +129.3%
為替の影響 +3,450億円 +908億円
関税の影響 年間1兆3,800億円のマイナス見通し +781億円(減免・期ずれ)
数字を動かした主因 豊田自動織機の売却益 約6,000億円(営業外) 前年のEV関連損失1,220億円の反動
中国 トヨタ・レクサス販売が前年の72.0% 四輪が74千台の減少

営業利益が「△8.8%」と「+117.4%」。同じ業界・同じ期間なのに、正反対です。しかしどちらも、数字を動かしたのは本業そのものではありませんでした。

トヨタは営業外の株式売却益で最終利益が膨らみ、ホンダは前年の一時損失の反動と為替・関税で営業利益が膨らんだ。見出しの方向は逆でも、読み方はまったく同じです。

そして共通点もあります。両社とも中国で販売を落とし、両社とも原価低減が原材料高に食われており、両社とも為替に大きく助けられています。

ホンダの決算を読むときの5つのチェック

  • ① 営業利益ではなく「調整後営業利益」で比べる。ホンダはEV関連損失を除いた調整後を併記しています。+117.4%は調整後だと+44.9%です。
  • ② 前年(分母)に一時損失がなかったかを確認する。前年Q1にはEV関連損失1,220億円、前期通期には1兆4,536億円がありました。
  • ③ 増減要因の表で「為替」と「関税」を除いて考える。増益1,645億円のうち1,689億円がこの2つ。本業要素は△44億円です。
  • ④ 事業別の利益率を見る。二輪20.5%・四輪5.0%。売上の6割を占める四輪より、二輪のほうが利益を稼いでいます。
  • ⑤ 質疑応答まで読む。「実力値を上回る部分がある」「関税だけで計画対比1,400億円の差」という重要な情報は、質疑応答の要旨にしかありません。

まとめ

2027年3月期第1四半期のホンダは、四半期として過去最高の営業利益5,307億円を記録しました。これは事実です。二輪事業も過去最高の利益・利益率で、在庫日数32日・インセンティブ抑制と、事業の質も悪くありません。

見出しになりやすい事実 一次資料で確かめた実態
営業利益が+117.4%で倍増 前年のEV関連損失1,220億円の反動。調整後では+44.9%
調整後でも+44.9%の増益 増益1,645億円に対し為替+908・関税+781。本業要素は△44億円
四半期として過去最高益 会社が「実力値を上回る部分も含まれている」と明言。関税だけで計画対比約1,400億円の差
通期を1,500億円上方修正 為替前提の見直しのみ(145円→155円)。販売台数見通しは据え置き。熊本地震の影響は未反映
通期は赤字から黒字へ1兆円改善 調整後営業利益率は4.8%→4.8%で横ばい

これは「悪い決算」ではありません。むしろ二輪の強さ、北米でのHEV好調(HEV比率は7月時点で17%台、前年は14%程度)、ネットキャッシュ3.3兆円という財務体力は、素直に評価できる材料です。

問われているのは、この利益水準がどこまで続くかです。為替は会社がコントロールできず、関税減免と期ずれは繰り返される保証がありません。会社自身が「実力値を上回る」と言っているのですから、投資家がそれより楽観的になる理由はありません。

PER・PBR・ROEの見方で扱ったとおり、EPSを将来に伸ばすときは「どのEPSを使うか」で答えが変わります。ホンダの場合、会計上のEPS(115円)と、EV関連損失を除いた実力ベースのどちらを使うかで、評価は大きく動きます。

本記事は2026年8月5日公表の決算説明会資料・参考資料・質疑応答要旨など、本田技研工業が公開している一次資料に基づいて作成しています。情報提供を目的としたものであり、特定銘柄の売買を推奨するものではありません。投資判断はご自身の責任でお願いいたします。

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