📊 この記事の結論(先に要点)
- 太陽誘電はMLCC(積層セラミックコンデンサ)大手で、売上の約71%をコンデンサが占めます。スマホ・AIサーバー・車載に使われる、小さいけれど不可欠な「電子部品のコメ」です。
- この会社は典型的な景気循環株。営業利益率はFY2022/3のピーク19.5%からFY2024/3の谷2.8%まで乱高下し、純利益はピークから約96%減(544億円→23億円)。最新FY2026/3はEPS118円へ回復しましたが、まだピーク(EPS433円)の3割弱です。
- にもかかわらず、AIサーバー・車載への期待で株価は1年で約4倍(52週で約¥2,500→¥24,000)。急落を挟んでも実績PERは約100倍という異常な水準です。これは「循環株の谷で低EPSだからPERが高い」のではなく、「株価が先にバブル化した高PER」——因果が逆の二層構造です。
- 読み解く鍵は、①利益はまだ回復途上(ピークの3割弱)という事実と、②現在の株価が理論株価(EPS×15)バンドを大幅に超えていること。派手なAIの物語と、地味な決算の数字の乖離をどう見るかです。
「AIサーバーに欠かせない部品を作っている」——そう聞くと、さぞ高収益で株価も正当に評価されているのだろう、と思うかもしれません。太陽誘電(6976)はまさにその文脈で、2025年からの1年間で株価が約4倍に跳ね上がった銘柄です。ところが決算を開くと、そこにあるのは営業利益率5.6%、純利益はピークの3割弱、そして実績PER約100倍という、物語と数字の大きな乖離です。太陽誘電が作るMLCC(積層セラミックコンデンサ)は、スマホやAIサーバーの基板に数千〜数万個も載る「電子部品のコメ」。地味ですが不可欠で、そしてスマホ市況に振り回される典型的な景気循環株でもあります。本記事のテーマは、「AIの期待で急騰した循環株を、決算の実データでどう検証するか」。前回のSKハイニックス(HBMメモリ)やAI半導体市場の全体地図で見た「AI相場×循環株」の構図が、日本の受動部品でも起きていることを、公式決算の数字で図解します。
📌 会計と数値の前提に注意:太陽誘電の会計年度は3月末締め(例:FY2026/3=2025年4月〜2026年3月)、会計基準は日本基準(連結)で、営業利益・経常利益・純利益の3段階があります。金額は円建て・億円単位。株式分割は過去10年ありません。最新の確定通期はFY2026/3(2026年5月8日発表)、FY2027/3は会社予想です。株価・PER等は2026年7月中旬時点の概算で、太陽誘電の株価はこの1年で約¥2,500〜¥24,000という極端な値動きをしており(AI半導体株の急騰・急落と連動)、お読みになる時点では大きく異なる可能性があります。

ビジネスモデル概観 – 「電子部品のコメ」MLCCの会社
- コンデンサ(≒MLCC・売上の約71%):電気を一時的にためて放出し、電流を安定させる部品。スマホには1台に約1,000個、AIサーバーには1台に1〜2万個も使われる、極小・大量消費の「電子部品のコメ」。太陽誘電の屋台骨です。
- インダクタ(約18%・第二の柱):電流を安定させるコイル部品。会社が「第二の柱」として育成中の成長分野。
- 複合デバイス・その他(約11%):通信モジュールやアルミ電解コンデンサなど。
- 用途の変化:かつてはスマホ依存が高かったが、近年は自動車(EV・ADAS)とAIサーバー・情報インフラを成長の軸に据え、注力2市場で売上の約6割を目指しています。
MLCC市場で太陽誘電は世界3〜4番手。首位は村田製作所(6981)で、以下サムスン電機、太陽誘電・TDKが3番手グループで拮抗します。
まず全体像 – 「28期増収」ではなく「利益が激しく振れる」会社
左軸=売上高、右軸=営業利益。単位 億円。日本基準・3月期。売上は緩やかに増えるが、営業利益はFY2022/3の682億円をピークにFY2024/3の91億円へ約7分の1に急落し、FY2026/3に200億円へ回復。

太陽誘電を理解する出発点が、図1の「売上はそこそこ安定なのに、営業利益は激しく振れる」という姿です。売上高は10年でほぼ倍増(2,307億円→3,553億円)と底堅い一方、営業利益(緑の線)はまったく違う動きをします。FY2022/3に682億円(営業利益率19.5%)という過去最高をつけたあと、スマホ・PCの在庫調整でFY2024/3には91億円(同2.8%)まで約7分の1に急落。そしてFY2026/3は200億円(同5.6%、前年比+91%)へ回復しました。この「山あり谷あり」がMLCCという商売の本質です。MLCCはスマホやPCに大量に使われるため、それらの在庫調整が起きると需要が一気にしぼみ、工場の稼働率が落ちて利益率が急低下する。SUMCOやSKハイニックスで見たメモリ・ウエハーと同じ「シリコンサイクル」の一族です。
利益率で見る「谷の深さ」 – 純利益はピークから96%減
単位 %。営業利益率はFY2022/3の19.5%からFY2024/3の2.8%へ。純利益率はさらに深く、FY2025/3に0.7%(純利益23億円)まで沈んだ。

谷の深さを利益率で見ると、循環株の怖さが分かります。図2のとおり、営業利益率は19.5%(FY2022/3)→2.8%(FY2024/3)へ。純利益率はさらに深く沈み、FY2025/3にはわずか0.7%(純利益23億円)という10年で最低の水準になりました。ここで大事な区別が2つあります。①営業利益の谷はFY2024/3、純利益の谷はFY2025/3と1年ずれていること(FY2025/3は減損21億円などの特別損失が純利益をさらに押し下げました)。②純利益はピークのFY2022/3(544億円)から谷のFY2025/3(23億円)まで約96%も減ったこと——好況期は儲かるが、不況期はほぼ利益が消える。これがMLCC・受動部品という事業の振れ幅です。コマツやSUMCOで学んだ「循環株は複数年をならして実力を見る」という原則が、ここでも効きます。
キャッシュフロー – 設備投資が利益を先食いする「装置産業」
単位 億円。フリーCF=営業CF−設備投資。FY2023〜2025の3年間はフリーCFが連続赤字(MLCC増産投資が営業CFを上回った)。

MLCCメーカーは巨額の設備投資が必要な「装置産業」です。図3を見ると、投資CF(橙)は不況期のFY2024/3に−828億円まで膨らみました。これは売上高の約25%を設備投資に回した計算で、車載・AIサーバー向けの生産能力を借入で増強したためです。その結果、フリーCF(太い青線)はFY2023〜2025の3年連続で赤字となり、財務体質は「実質ネットキャッシュ」から「実質ネット有利子負債」へ転じました。ただし自己資本比率は56%と健全な水準を保っています。もう一つ重要なのは、FY2026/3は減価償却費491億円が設備投資411億円を上回ったこと。過去数年の大型投資が今、減価償却費として利益を圧迫する「構造的な重し」になっており、これが利益率の回復が鈍い一因です。派手な投資の「請求書」は、数年遅れて損益計算書に届きます。
この自己資本比率という数字は、業種が違えば意味も変わります。2026年8月発表の決算で8社を実測したところ、貸借対照表の見方【図解】|自己資本比率の目安は業種で変わるのとおり95.3%から4.8%まで20倍の開きがありました(太陽誘電は59.7%で、装置産業としては標準的な水準です)。
【核心その1】売上の約7割はMLCC – スマホから車載・AIサーバーへ
単位 億円。コンデンサ(ほぼ全量がMLCC)が2,518億円で全体の約71%を占める屋台骨。インダクタが第二の柱。

太陽誘電の中身を製品別に見ると、図4のとおりコンデンサ(ほぼ全量がMLCC)が2,518億円・全体の約71%という圧倒的な屋台骨です(前年比+8.5%)。次いでインダクタが約643億円(約18%)で、会社が「第二の柱」として育成中。つまり太陽誘電は実質的にMLCCの会社であり、MLCC市況がそのまま業績を左右します。この会社の物語で注目すべきは用途(エンドマーケット)の変化です。次の図5で見るように、かつてスマホ中心だった売上が、いまは自動車とAIサーバー・情報インフラへ軸足を移しつつあります。MLCCはEV1台に約1〜1.5万個、AIサーバー1台に約1〜2万個使われ(会社見通し)、スマホ1台の約1,000個を大きく上回るため、車載・AIサーバーは「1台あたりの搭載個数が桁違いに多い」成長市場なのです。ただしこれは会社の中長期見通しであり、実際の搭載数や太陽誘電のシェアは今後の検証事項です。
用途の分散 – スマホ依存を下げ、車載を最大市場に
単位 %。自動車が最大の30%に。かつて主力だった通信機器(スマホ等)は20%まで低下。※通期でなく第4四半期のスナップショット。

図5は太陽誘電の「体質改善」の証拠です。用途別売上(FY2026/3第4四半期時点)は、自動車30%・情報インフラ/産業機器26%・通信機器(スマホ等)20%・情報機器17%・民生機器7%。かつてスマホ(通信機器)が最大顧客だった同社は、いまや自動車が最大市場で、注力2市場(自動車+情報インフラ/産業機器)で約56%を占めます。これは、スマホ市況の乱高下に振り回される体質から、より安定的で単価の高い車載・産業へシフトしようという戦略の表れです。とはいえ、通信機器20%+情報機器17%を合わせればモバイル関連は依然約37%残っており、スマホ在庫循環の影響を完全には脱していません。「AIサーバーの会社」というイメージが先行しがちですが、実際には自動車が主戦場で、AIサーバーはこれから伸ばす成長領域という位置づけが正確です。
【核心その2】株価は理論株価(EPS×15)を大きく超えている
単位 円。分割なし。株価は暦年末終値の概算で直近は乱高下(52週で約¥2,500〜¥24,000)。理論株価はピーク益のFY2022/3でも¥6,502で、現在株価はそれをも大きく上回る。

当ブログ定番の「理論株価=EPS×15」を当てはめると、いまの太陽誘電株の特異さが浮かび上がります。図6の橙の破線(EPS×15)を見てください。最も利益が出たピークのFY2022/3(EPS433円)でも理論株価は¥6,502、直近FY2026/3(EPS118円)では¥1,777にすぎません。ところが現在の株価は約¥11,855——ピーク益の理論株価の約1.8倍、直近実績の理論株価の約6.7倍という水準です。ここで重要なのが、SKハイニックスやコマツとの因果の違いです。コマツやSUMCOは「循環株の谷で利益(EPS)が小さいからPERが高く見える」という罠でした。しかし太陽誘電の場合、EPSはFY2026/3に+536%回復済み。それでもPERが約100倍と高いのは、利益の回復スピードをはるかに超えて、株価がAI相場で先に跳ね上がったからです。つまり「谷の低EPSによる見かけの高PER」ではなく、「株価バブルによる高PER」——同じ高PERでも中身が違います。派手なAIの物語に、決算の数字が追いついていない状態です。
配当 – 谷でも90円を維持した「DOE下限」の底力
単位 円/%。配当はDOE(純資産配当率)3.5%を下限とする方針で、利益が急減したFY2024〜2025も90円を維持。谷のFY2025/3は配当性向が482%(利益を超える配当)に。

これだけ利益が振れると配当はどうなるか。太陽誘電は「配当性向30%かつDOE(純資産配当率)3.5%を下限」という方針を採っています。ポイントはDOE下限です。利益連動の配当性向だけなら、利益が急減した年は減配せざるを得ません。しかしDOE(純資産に対する配当割合)を下限に置くことで、利益が谷でも配当を維持できる仕組みです。実際、図7のとおり1株配当は2015年の10円から2023年の90円まで9倍に増え、その後は利益が急減しても90円を4年間維持しました。その結果、谷のFY2025/3は配当性向が482%(利益23億円に対し配当は約110億円)という異常値になりましたが、これは「無理をしている」のではなくDOE下限が配当を下支えしたことの表れです。ただし利回りは株価急騰で約0.8%まで低下しており、この株は配当で持つ銘柄ではありません。
配当を実際に受け取るには、当然ながら株を保有している必要があります。同じ考え方で選んだ銘柄を並べた高配当株ランキングTOP20と、口座ごとの違いをまとめたNISA対応の証券口座比較もあわせてどうぞ。
【核心その3】PER約100倍 – 何と比べても割高な水準
単位 倍。2026年7月中旬の株価(約¥11,855)に基づく概算。実績・予想いずれも東証平均やピーク益換算を大きく上回る。

現在の株価水準を、いろいろな物差しで測ってみましょう。図8のとおり、実績PER(FY2026/3のEPS118円ベース)は約100倍、予想PER(会社計画のEPS144円ベース)でも約82倍。仮に過去最高益だったFY2022/3のEPS(433円)で計算しても約27倍で、東証プライムの平均(約15倍)を大きく上回ります。つまり、どの利益で計算しても割高な水準です。参考までに、業界首位の村田製作所のPERは概ね20〜30倍程度で推移してきました。太陽誘電のPER約100倍は、①AIサーバー・車載での飛躍的な利益成長を織り込んでいる、②あるいは需給・テーマ性で買われすぎている、のいずれか(または両方)です。会社の中期経営計画2030は「売上4,800億円・営業利益率15%」という高い目標を掲げていますが、現状の営業利益率5.6%との差は大きく、計画の達成を前提にしても、現在の株価はかなりの先取りと言えます。SKハイニックスの記事で見たとおり、期待が極限まで織り込まれた株は、良い材料が出ても失望売りを浴びやすい——実際、太陽誘電株もAI半導体株安に連動して急落する場面がありました。
競争環境 – MLCC世界3〜4番手、首位は村田
単位 %。調査会社により数値は異なる推計値。村田が突出した首位で、太陽誘電はTDKと並ぶ3番手グループ。

太陽誘電のMLCCにおける立ち位置を確認しておきましょう。図9のとおり、世界シェア(金額ベース・推計)は村田製作所が約35〜40%で突出した首位、次いでサムスン電機が約18〜24%、そして太陽誘電とTDKが各10〜13%の3番手グループで拮抗しています(シェアは調査会社により幅があります)。太陽誘電の伝統的な強みはスマホ向けの小型・大容量MLCCで、ここでは高い技術力を持ちます。一方で注意したいのは、AIサーバー向けのハイエンドMLCCは、村田とサムスン電機で市場の8割超を握るとの調査もあること。つまり「AI特需の最大受益者」という単純な物語は割り引いて見る必要があり、太陽誘電がその領域でどれだけシェアを取れるかは未知数です。中国勢(Yageo等)の追い上げによる価格競争も、受動部品共通のリスクです。
【2027年3月期・最新】第1四半期 – 赤字から黒字へ。そして通期は営業利益+125%の計画に修正されました
本記事の核心は「良い会社と良い株価は別物」——業績はまだ谷なのに、株価だけがAI相場で先に走ってしまい、実績PERが約100倍になっている、というものでした。2026年8月5日に発表された2027年3月期 第1四半期決算は、その「業績のほうが株価に追いつき始めた」ことを示す内容です。
| 2027年3月期 第1四半期 | 実績 | 前年同期比 |
|---|---|---|
| 売上高 | 938億97百万円 | +10.7% |
| 営業利益 | 48億18百万円 | +53.3% |
| 経常利益 | 42億63百万円 | +1,560.4% |
| 親会社株主に帰属する四半期純利益 | 25億04百万円 | 前年は8億76百万円の赤字 |
| 1株当たり四半期純利益(EPS) | 19.82円 (潜在株式調整後 18.16円) |
前年 △7.02円 |
出所:太陽誘電「2027年3月期 第1四半期決算短信〔日本基準〕(連結)」(2026年8月5日)。
経常利益が16.6倍になった理由は、為替でした
まず目を引くのが経常利益+1,560.4%という異常な数字です。営業利益は+53.3%ですから、この差はすべて営業利益の下で起きています。
数字を並べると分かりやすくなります。前年同期は営業利益31億42百万円 → 経常利益2億56百万円。営業外で約29億円が消えていました。今期は営業利益48億18百万円 → 経常利益42億63百万円で、目減りは5億円台にとどまっています。
短信は理由を「為替差損益の影響など」と書いています。第1四半期の期中平均レートは1米ドル158.8円で、前年同期の146.18円から12.62円の円安でした。
本業の実力(営業利益)は+53.3%で、それはそれで立派です。しかし「経常利益16.6倍」は本業の話ではありません。 営業利益と経常利益のあいだで何が起きているかを見る作業は、損益計算書の見方(5つの利益の違い)で解説しています。為替は追い風にも向かい風にもなるので、来期以降が同じとは限りません。
通期予想は大幅に上方修正されました
会社は5月8日に公表した通期予想を引き上げました。
| 2027年3月期 会社予想(修正後) | 金額 | 前期比 |
|---|---|---|
| 売上高 | 4,240億円 | +19.3% |
| 営業利益 | 450億円 | +125.0% |
| 経常利益 | 420億円 | +74.1% |
| 親会社株主に帰属する当期純利益 | 290億円 | +95.9% |
| 1株当たり当期純利益 | 219.03円 | — |
修正の理由として会社が挙げたのは①情報インフラ・産業機器向けの需要増加 ②販売価格影響 ③為替の円安の3点です。第2四半期以降の為替前提は1米ドル160円としています。
ここで、本記事の【核心その1】で扱った営業利益率を思い出してください。前期は5.6%で、村田製作所の3分の1程度でした。今回の通期予想は450億円 ÷ 4,240億円 = 10.6%。1年で約2倍になる計画です。同社が中期計画で掲げる2030年の目標15%に対して、ちょうど中間点まで来たことになります。
PER約100倍の「分母」が、大きく変わります
本記事の【核心その3】では、実績PER約100倍という水準を扱いました。ただしこれはコマツやSUMCOのような「業績の谷で低PER」の逆で、利益が小さいのに株価が先に上がった結果でした。
その分母が動きます。会社予想の1株当たり当期純利益は219.03円。株価が変わらなければ、PERは業績の回復ぶんだけ自動的に下がります。
もっとも、これで「割安になった」と結論づけるのは早いと考えます。理由は3つです。
- 今回の増益には為替と販売価格という、自分でコントロールできない要素が大きく効いている
- MLCCは循環産業であり、業績のピークでPERが最も低く見えるのが常
- 会社予想はあくまで予想で、下期の需要は確定していない
本記事が一貫して言ってきたのは「EPS×15の理論株価を機械的に当てはめても、この銘柄は測れない」ということでした。PERが下がってきたときこそ、その分母がどこから来た利益なのかを確かめる——注意すべき方向が変わっただけで、姿勢は同じです。
製品構成 – コンデンサ依存はむしろ強まりました
| 製品別売上高(第1四半期) | 金額 | 前年同期比 | 構成比 |
|---|---|---|---|
| コンデンサ(積層セラミックコンデンサなど) | 690億22百万円 | +14.7% | 73.5% |
| インダクタ | 159億34百万円 | +7.4% | 17.0% |
| その他 | 89億41百万円 | △8.5% | 9.5% |
本記事では「売上の約7割がMLCC」と書きましたが、今回は73.5%とさらに比重が上がりました。会社は「インダクタを強化して第二の柱に」と掲げていますが、伸び率で見るとコンデンサ+14.7%に対しインダクタ+7.4%。柱を増やす計画は、まだ数字には現れていません。
なお、この四半期から従来の「複合デバイス」区分は量的な重要性が低下したため「その他」に統合されました。過去の資料と製品別の数字を比べるときは注意してください。
配当90円は据え置き。ただし「配当性向482%」は終わります
配当予想は年間90円(中間45円・期末45円)で据え置き、修正はありません。
本記事の「谷でも90円を維持した『DOE下限』の底力」の節で、業績が谷だった年の配当性向が482%——つまり利益の5倍近くを配っていた——ことを紹介しました。
今期はどうなるか。予想EPS219.03円に対して配当90円なら、配当性向は41.1%です。482%が41%になる。 配当額は1円も変えていないのにです。
これがDOE(純資産配当率)を基準にする会社の姿です。配当性向は利益で割った数字なので、利益が振れる会社では意味を失います。同じ会社の同じ配当が、年によって482%にも41%にも見える——この一例だけで、配当性向という指標の使いどころが分かるはずです。
【注意】転換社債の株式化で、1株利益が薄まっています
財務で見逃せない動きがありました。転換社債型新株予約権付社債が230億83百万円減少し、その一部権利行使によって資本金が115億22百万円、資本剰余金が115億22百万円増加しています。
つまり社債が株式に変わったということです。効果は2つあり、方向が逆です。
- 良い面:負債が減り自己資本が増えるので、自己資本比率は56.0%から59.7%へ改善しました
- 悪い面:株式数が増えるので、1株当たりの利益は薄まります
その薄まりは決算書に出ています。EPS19.82円に対し、潜在株式調整後EPSは18.16円。約8%の差です。「1株当たり」と付く指標を見るときは、必ず潜在株式調整後の数字も確認してください。
| 財政状態 | 2026年3月末 | 2026年6月末 |
|---|---|---|
| 総資産 | 6,155億円 | 6,169億円 |
| 自己資本比率 | 56.0% | 59.7% |
| 1株当たり純資産(BPS) | 2,754.19円 | 2,827.24円 |
| 現金及び預金 | 1,001億円 | 985億円 |
| 借入金合計 | 1,204億円 | 1,206億円 |
この四半期の読み方
まとめると、本記事が指摘した「株価だけが先に走っている」という状態は、業績側が追いついてくることで解消に向かい始めた——それがこの決算です。赤字から黒字へ、営業利益率5.6%から10.6%(計画)へ。
ただし冷静に見るべき点も残ります。増益の中身には為替と値上げが大きく、コンデンサ依存はむしろ強まり、転換社債の株式化で1株利益は薄まっています。
MLCCという同じ市場で、利益率が3倍違う村田製作所(6981)と比べながら見ると、太陽誘電がどこまで「質」を上げられるかがより鮮明になります。業界全体の地図はAI半導体市場の全体地図にまとめています。
太陽誘電という銘柄の全体像
「事実」と「計画・推計」を区別して整理。

リスクと注意点
- バリュエーションの高さ(最大):実績PER約100倍は、AI・車載での大幅増益を織り込んだ水準。中計2030(営業利益率15%)が達成されても現状株価はかなりの先取りで、期待が剥落すれば下値は深い。
- スマホ在庫循環:モバイル関連が依然売上の約37%。スマホ市況の調整が起きれば、FY2024〜2025のような利益急減が再来しうる。
- AI受益の程度が未知数:AIサーバー向けハイエンドMLCCは村田・サムスンが優勢との調査もあり、太陽誘電の実シェアは限定的な可能性。「AI最大受益」の物語は要検証。
- 減価償却の重し:過去の大型投資が減価償却費(491億円)として利益を圧迫。利益率の回復が計画通り進むかは不透明。
- 価格競争・地政学:中国勢(Yageo等)の追い上げ、中国スマホ・EV需要の変動、円高転換(円安の為替差益が経常利益を底上げしている点の反転)がリスク。
- 株価のボラティリティ:52週で約¥2,500〜¥24,000と極端な値動き。AI半導体株全体のセンチメントに強く連動し、テーマ相場の反転に脆弱。
今後の展望
太陽誘電の中期の焦点は3つです。第一に車載・AIサーバーへのシフトが利益率を構造的に引き上げるか。中計2030は営業利益率15%(現状5.6%)という高い目標を掲げており、この差を埋められるかが最大の論点です。第二に過去の大型投資が減価償却の重しから利益貢献へ転じるタイミング。第三にスマホ市況の次の循環——回復が続けばFY2027/3会社計画(営業利益300億円)の達成も見えますが、在庫調整が再来すれば話は変わります。株価はAIテーマで大きく動くため、目先のPERやテーマ性ではなく、複数年をならした実力(ピーク益と谷のあいだ)と、中計の進捗を冷静に追うのが、この循環株との賢い付き合い方です。
まとめ
太陽誘電は、「AIの期待で急騰した循環株を、決算でどう検証するか」を学ぶのに格好の題材です。ポイントは3つ。①実体は循環株——MLCCが売上の7割を占め、利益は営業利益率19.5%→2.8%、純利益はピークから約96%減という激しい振れ幅を持つ。今のEPS118円は「回復途上」でピーク(433円)の3割弱にすぎない。②高PERの中身が特殊——実績PER約100倍は、コマツ・SUMCOのような「谷の低EPSによる見かけ」ではなく、EPSが回復してもなお株価がAI相場で先に跳ね上がった「株価バブル型」。同じ高PERでも因果が逆で、理論株価(EPS×15)を大幅に超えている。③AI受益は要検証——車載への体質転換は本物だが、AIサーバー向けハイエンドMLCCは村田・サムスンが優勢との見方もあり、「AI最大受益」の物語は割り引いて見るべき。派手なテーマと地味な決算の乖離を、数字で確かめる——それがこの銘柄を読み解く鍵です。
同じ「AI半導体の地図」の他の会社
- 東京エレクトロン(8035) — 過去最高純利益なのに営業−10.4%の正体
- レーザーテック(6920) — 決算翌日−13.5%。PERは8.7〜101倍
- アドバンテスト(6857) — 後工程テスタの複占。営業利益率44.2%
- 村田製作所(6981) — MLCC世界王者とAIバブル価格
データソース & 検証
- 財務・決算:太陽誘電 公式IR/2026年3月期 決算短信〔日本基準〕(連結、2026年5月8日発表)・有価証券報告書・決算説明会資料。クロスチェックにIRBANK・官報決算データベース・kabutan・EE Times・日本経済新聞。
- 株価・バリュエーション:株価は2026年7月中旬時点の概算(約¥11,855、52週レンジ約¥2,522〜¥24,065)。発行済株式数130,218,481株(自己株式除き約1億2,505万株)、株式分割は過去10年なし。時価総額・PER・PSR・PBRはこの株価に基づく概算で、株価は日々大きく変動しています。
- セグメント・シェア・計画:製品別・用途別構成、中期経営計画2030(売上4,800億円・営業利益率15%等)は会社開示。MLCC世界シェアはTSR/富士キメラ等の市場推計で、調査会社により数値が異なります。用途別構成比はFY2026/3第4四半期のスナップショットです。
本記事は公開情報を複数系統で二重検証していますが、数値には集計方法による軽微な差異が含まれる場合があります。会計年度は3月末締め、日本基準(連結)で営業利益・経常利益・純利益の3段階があります。1株当たり数値(EPS・配当)は株式分割がないためそのまま比較しています。FY2026/3の主要数値は決算短信で確認済み、それ以前の年度の一部やセグメントの一部(インダクタ売上等)は概算・説明会資料由来を含みます。図6の株価は暦年末終値の概算で、直近は極端に変動しており(AI半導体株の急騰・急落と連動)、掲載時点の実際の株価と大きく異なる場合があります。図6の「EPS×15」は説明のための便宜的な目安です。経常利益が営業利益を上回っているのは営業外の為替差益(FY2026/3で約47.6億円)による一時的要因を含みます。FY2027/3の会社予想・中期経営計画2030は会社の計画であり実績ではありません。MLCC世界シェア・AIサーバー向け搭載個数などは市場推計・会社見通しで、確定値ではありません。実績PER・予想PER・PBR・PSR・時価総額・配当利回りは2026年7月中旬時点の株価に基づく概算です。本記事は情報提供を目的としたものであり、特定銘柄の売買を推奨するものではありません。投資判断はご自身の責任でお願いいたします。
PR・広告
太陽誘電(6976)などの日本株は、ネット証券の株式口座で売買できます。マネックス証券は日本株の取引手数料や取扱いも充実しています。詳細・口座開設は公式サイトでご確認ください。
上のボタンからマネックス証券の公式サイトに移動します。口座開設・口座維持の手数料は無料です。取扱商品・手数料の最新情報は公式サイトでご確認ください。当サイトはアフィリエイトプログラムにより広告収益を得ています。
実際に買うところまで進むなら
この記事で見てきたような決算の読み方は、どの証券会社で買っても同じように使えます。口座そのものの違いは手数料・取扱商品・使い勝手なので、下の記事で比べてみてください。