損益計算書(P/L)は、会社がその1年でどれだけ稼いだかを示す成績表です。決算短信を開いたとき、最初に目に入るのがこの表になります。
貸借対照表が「その時点の財産の状況」を写したストック情報であるのに対して、損益計算書は「1年間の利益の流れ」を表すフロー情報です。毎年の損益計算書の結果が積み重なって、良い(あるいは悪い)貸借対照表ができあがります。
たとえるなら、体に良いものを食べ続ければ(黒字の損益計算書)健康な体になり(自己資本比率の高い貸借対照表)、悪いものを食べ続ければ(赤字の損益計算書)病気の体になる(自己資本比率の低い貸借対照表)——という関係です。
損益計算書には、売上高に加えて代表的な5つの利益が並びます。バラバラの指標ではなく、上から順に費用を引いていく1本の流れになっているので、まず全体の形を見てください。
どの段で削られたのかが分かると、会社の姿がはっきり見えます。
5つもあると、どれを見ればよいのか迷います。日本基準を採用している会社であれば、まずは経常利益を中心に見ておけば大きく外しません。本業の稼ぎ(営業利益)に、利息の支払いのような毎年発生する本業以外の損益まで含めた、いわば「その会社の実力値」だからです。
ただし、この「経常利益がいちばん大事」という原則には重要な例外があります。それは記事の後半で説明します。先に、実際の会社で「どの段を見るかによって会社の姿がまるで変わる」例を3つ見ていきましょう。
【実例】同じ「利益」でも、どこを見るかで会社の姿はまるで変わります
ここからは、実際の上場企業の決算を使って「損益計算書を上から下まで読む」とはどういうことかを見ていきます。教科書的な説明よりも、実例のほうが速く身につきます。
例①:営業利益は黒字なのに、最終赤字が7年続いた会社
楽天グループ(4755)は、本業のもうけを示す営業利益が黒字だった年でも、最終的な当期純利益は7年連続で赤字でした。
なぜそうなるのか。営業利益より下で、次の2つが大きく削っていたからです。
- 金融費用(支払利息など)約994億円 … 借入が多い会社ほどここで削られます
- 法人税など約937億円 … 税引前が赤字なのに税金が発生することもあります(赤字の子会社では税金が戻らないため)
「営業利益が黒字だから大丈夫」と読んでしまうと、この会社の実態を完全に取り違えます。損益計算書は、いちばん上(売上高)からいちばん下(当期純利益)まで、どこで何が引かれたかを追って初めて意味を持ちます。
例②:営業利益4,088億円が、たった3週間後に62億円へ
武田薬品工業(4502)は2026年5月13日、2026年3月期の決算として営業利益4,088億円を発表しました。ところが約3週間後の6月5日、これを62億円へ訂正しています。
原因は、米国での訴訟をめぐる4,025億円の引当金でした。裁判の評決を受けて、将来支払う可能性のある金額を費用として計上したためです。売上高は1円も変わっていません。
同じことはJT(日本たばこ産業・2914)でも起きました。カナダの訴訟和解を受けて、公表済みの営業利益6,972億円が3,234億円へ、約半分に訂正されています。
決算発表の数字は、必ずしも最終確定ではありません。そして訴訟や減損のような一時的な損失は、営業利益より下ではなく営業利益の中に入ってくることもある——だからこそ「今年の利益がなぜこの水準なのか」を毎回確かめる必要があります。
例③:売上も粗利も増えたのに、営業利益は減った会社
イエローハット(9882)の2026年3月期第1四半期は、売上高が前年から増え、売上総利益(粗利)も2億36百万円増えました。ところが営業利益は5億91百万円の減益です。増収なのに減益、という決算でした。
理由は、引き算をすればその場で分かります。
| 段 | 前年からの増減 |
|---|---|
| 売上総利益(粗利) | +2億36百万円 |
| 販売費および一般管理費 | +8億27百万円(費用なので利益からは引かれる) |
| 差引=営業利益 | △5億91百万円 |
粗利で稼いだ増加分を、販管費の増加が丸ごと飲み込んだ、ということです。図解でいえば粗利の段では前に進んでいたのに、次の営業利益の段で押し戻された形になります。
「増収」という言葉だけを見て良い決算だと判断すると、この構造は見落とします。逆に、どの段で差がついたのかを確かめれば、次に見るべきものもはっきりします。この会社の場合は「販管費が何に使われたのか」——出店なのか、人件費なのか、広告なのか——が次の論点です。
粗利の段と営業利益の段——その差が、会社の戦い方を語ります
図解の上から2段目と3段目、つまり売上総利益(粗利)と営業利益は、並べて見ると意味が出てきます。売上高で割って率にすると比べやすくなります。
キーエンス(6861)を例にとります。この会社の粗利率は83%、営業利益率は51%です。どちらも日本の製造業では異例の高さですが、注目してほしいのは83%から51%へ、32ポイント落ちているという事実のほうです。
この32ポイントが販売費および一般管理費です。キーエンスは代理店を使わず、営業担当が顧客の工場に入り込んで課題を聞き出す直販体制をとっています。当然、営業部隊の人件費は重くなります。
ここが大事なところで、この32ポイントは無駄な費用ではありません。顧客の課題を聞き出して「世界初・業界初」の機器を提案するという活動そのものが、83%という粗利率を作っています。販管費を使って粗利を生んでいる関係です。
だから「販管費が多い会社は非効率」と単純に判断してはいけません。見るべきなのは、使った販管費以上に粗利を作れているかです。先ほどの例③のイエローハットは、販管費を8億27百万円増やしたのに、粗利の増加は2億36百万円にとどまりました。同じ「販管費が増えた」でも、キーエンスとは意味が正反対です。
粗利率と営業利益率を何年か並べて、その差が開いているのか、縮んでいるのかを見る——これだけで、コスト構造の変化に気づけます。
「経常利益がいちばん大事」は、会計基準によっては通用しません
本記事の前半で「5つの利益のうち経常利益が最重要」と書きました。これは日本基準(日本の会計ルール)を採用している会社に限った話です。
| 会計基準 | 経常利益 | 採用している例 |
|---|---|---|
| 日本基準 | あり | MonotaRO、イエローハット、多くの中堅企業 |
| IFRS(国際基準) | 存在しない | 楽天、JT、武田薬品、ユニ・チャーム、村田製作所など |
| 米国基準 | 存在しない | コマツ、オリックス、米国企業全般 |
IFRSや米国基準の会社では、探しても経常利益はありません。代わりに「営業利益 →(金融収益・費用)→ 税引前利益 → 当期利益」という並びになります。決算短信を開いて経常利益が見当たらないときは、会社が悪いのではなくその会社がIFRSを使っているだけです。
「一時的な利益」で膨らんだ純利益を見分ける方法
逆のパターンもあります。本業は伸びていないのに、純利益だけが跳ねるケースです。
見分け方は簡単で、「純利益 ÷ 経常利益(またはIFRSなら税引前利益)」の比率を何年か並べるだけです。この比率は普通、法人税率を反映しておおむね一定になります。ある年だけ跳ねていたら、そこに一時的な利益が入っています。
東京エレクトロン(8035)の例を見てください。
| 年度 | 1年目〜9年目 | 10年目 |
|---|---|---|
| 純利益÷経常利益 | 72.6%〜78.6%(安定) | 91.1% |
9年間ずっと72〜79%だった比率が、突然91.1%へ跳ねました。正体は政策保有株式の売却益1,155億円です。この年、営業利益はむしろ減っていました。
SBIホールディングス(8473)も同じ構図です。実績PERが4倍という異常な安さに見えましたが、中身は子会社株式の売却益など一過性の利益で、それを除くと約7倍でした。「PERが安い」の正体が一時的な利益だった、というのはよくあります。
この主題だけを掘り下げた記事として調整後利益・コア営業利益の見方を用意しました。オリックス・JT・ユニ・チャーム・武田薬品の実例で、確認すべき4点を整理しています。
Core利益・調整後利益という「もう一つの損益計算書」
会社によっては、決算資料に「Core営業利益」「調整後EPS」「Non-GAAP利益」といった独自の数字が併記されています。買収に伴う償却費や一時的な損失を除いた、会社が考える「実力値」です。
武田薬品の2026年3月期は、この差が極端でした。
| 金額 | |
|---|---|
| 会計上の1株当たり利益(EPS) | △96.75円(赤字) |
| 会社が示すCore EPS | 517円(黒字) |
同じ会社の同じ1年が、赤字にも黒字にも見えます。どちらかが嘘というわけではありません。Coreは事業の実力を、会計上の利益は株主が最終的に負う結果を表しています。訴訟の引当金はCoreからは除かれますが、実際に支払う可能性のある現実のお金です。
大事なのは「調整後」という言葉を見たら、何を除いたのかを必ず確認すること。それだけで、都合の良い数字に乗せられずに済みます。
当期純利益は、全部が株主のものとは限りません
図解のいちばん下、当期純利益の手前には「非支配株主に帰属する分」という段があります。ここは見落とされやすいのですが、会社によっては効いてきます。
連結決算では、支配している子会社の売上と利益をいったん100%取り込みます。出資比率が60%でも、売上は全額が連結されます。そのうえで、最後に「他の株主の取り分」を引きます。これが非支配株主に帰属する当期純利益です。
RSテクノロジーズ(3445)が分かりやすい例です。2025年12月期は売上高が+29.6%(767億円)と絶好調なのに、純利益は−1.6%(93.0億円)と減益でした。
理由の一つが、この段です。中国子会社のGRITEK(上海STAR上場)は連結対象ですが、RSの実効出資は約40%。つまりGRITEKが稼いだ利益のうち、6割は他の株主のものとして出ていきます。売上が伸びるほど連結売上高は膨らみますが、最後に残る分は比例して増えません。
EPS(1株あたり利益)もPERも、「親会社株主に帰属する当期純利益」で計算されます。ここを見ずに連結の売上や営業利益だけで判断すると、株主の取り分を過大に見積もることになります。
確かめ方は簡単です。決算短信の損益計算書の最後の2行を見てください。「非支配株主に帰属する当期純利益」がいくらか、それが親会社株主分に対してどのくらいの大きさかを見れば、この会社が子会社を通じてどう稼いでいるかが分かります。
損益計算書を読むときの5つのチェック
最後に、実際に決算短信を開いたときの手順としてまとめます。
- ① 売上高と営業利益を、5年〜10年並べる。1年だけ見ても良し悪しは判断できません。
- ② 営業利益率(営業利益÷売上高)を計算する。金額より比率のほうが、会社の性格がはっきり出ます。
- ③ 純利益÷経常利益(または税引前利益)の比率を並べる。跳ねた年には一時的な利益・損失があります。
- ④ 会計基準を確認する。IFRS・米国基準なら経常利益はありません。決算の締め月も会社ごとに違います。
- ⑤「調整後」の数字があれば、何を除いたのかを見る。除いたものが毎年出てくるなら、それは一時的ではありません。
そして忘れてはいけないのが、損益計算書だけでは会社は読めないということです。利益が出ていてもお金が減っている会社はありますし、その逆もあります。キャッシュフロー計算書の見方と貸借対照表(バランスシート)の見方をあわせて読むと、3つの表がつながって見えてきます。
なお、個別企業の決算を読むのが難しいと感じる方は、積立NISAの銘柄選びのように決算を読まなくても続けられる仕組みを土台に置くのも、十分に合理的な選択です。
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