【2026年版】小野薬品工業(4528)の今後の業績と株価の見通し|稼ぎ手は「自分で売る薬」ではなくなった

小野薬品工業(4528)が2026年7月31日に発表した2027年3月期第1四半期(2026年4〜6月)は、売上収益1,162億円(前年同期比8.9%減)、営業利益306億円(同39.4%増)、親会社の所有者に帰属する四半期利益241億円(同36.7%増)でした。

減収なのに、営業利益は4割近く増えています。そして通期予想を見ると、もっと奇妙なことが起きています。

2027年3月期 通期予想 金額 前期比
売上収益 4,550億円 △11.8%
営業利益(IFRSフルベース) 940億円 +1.9%
コア営業利益 1,240億円 △9.6%

同じ会社の同じ年度について、ひとつの利益は増益で、もうひとつの利益は減益です。符号が逆になっています。そして会社自身は、説明資料で「前期比で減収減益を見込む」と書いています。

この記事では、決算短信・決算説明資料・説明会スクリプト(質疑応答つき)をたどって、①減収の正体 ②2つの利益が逆を向く理由 ③この会社が実際に何で稼いでいるかの3点を確かめます。3つ目がいちばん重要で、小野薬品の稼ぎ手は、すでに「自分で売る薬」ではなくなっています。

この決算を1枚で(2027年3月期 第1四半期)
指標 当期(2026年4〜6月) 前年同期 増減率
売上収益 1,162億円 1,275億円 △8.9%
 製品商品売上 679億円 878億円 △22.6%
 ロイヤルティ・その他 482億円 398億円 +21.2%
営業利益(IFRSフル) 306億円 220億円 +39.4%
コア営業利益(率) 387億円(33.3%) 316億円 +22.5%
四半期利益(親会社帰属) 241億円 177億円 +36.7%
 うちオプジーボのロイヤルティ 347億円 292億円 +18.9%
 うち国内オプジーボ売上 282億円 294億円 △4.1%
親会社所有者帰属持分比率 79.9% 76.9%(前期末) +3.0pt
ロイヤルティ482億円が、製品商品売上の国内分481億円を上回りました。そしてオプジーボは、自社で売る金額よりロイヤルティのほうが大きくなっています。

減収114億円の正体は、契約が終わったことです

まず売上がどこで減ったのかを見ます。会社は3つに分けて開示しています。

売上収益の内訳(億円) 前年同期 当期 増減
国内 製品商品売上 741 481 △260
海外 製品商品売上 137 198 +61
ロイヤルティ・その他 398 482 +85
合計 1,275 1,162 △114

減ったのは国内だけで、その内訳がこうなっています。

国内の主要製品(億円) 前年同期 当期 増減率 通期予想
フォシーガ錠 251 0 計上なし
オプジーボ点滴静注 294 282 △4.1% 1,200
オレンシア皮下注 70 48 △31.6% 190
ベレキシブル錠 30 32 +4.6% 120
オンジェンティス錠 23 26 +16.9% 100
パーサビブ静注透析用 22 24 +10.0% 100
ビラフトビカプセル 13 20 +51.1% 85

国内の減収260億円のうち、251億円はフォシーガ錠ひとつです。アストラゼネカとの共同販売契約が終了し、売上計上そのものがなくなりました。薬が売れなくなったのではなく、売る権利がなくなったということです。

これは事業の悪化とは意味が違います。損益計算書の見方で整理したとおり、売上が減った理由が「需要が落ちた」のか「範囲が変わった」のかで、読み方はまったく変わります。

残りの減少は薬価改定の影響です。関節リウマチ治療剤オレンシア皮下注が「薬価引き下げの影響を大きく受け」△31.6%。数日前に読んだ明治ホールディングスでは薬価改定が「+5億円」とプラスに効いていましたが、こちらは通常どおりマイナスです。同じ薬価改定でも、抗菌薬のように安定供給が課題の領域と、そうでない領域で向きが変わります。

そして主力のオプジーボ点滴静注は、国内で△4.1%。会社は「競争環境の激化により」と説明しています。がん免疫療法の競合が増えているということです。

稼ぎ手は、すでに「自分で売る薬」ではありません

ここがこの決算でいちばん重要な部分です。売上の構成を割合で見ます。

売上収益の構成 当期Q1 構成比 通期予想 構成比
国内 製品商品売上 481億円 41.4% 2,700億円 59.3%
海外 製品商品売上 198億円 17.0%
ロイヤルティ・その他 482億円 41.5% 1,850億円 40.7%
合計 1,162億円 100% 4,550億円 100%

ロイヤルティ482億円が、国内で自社が売った481億円を上回りました。通期でも売上の4割がロイヤルティです。

その中身を見ると、さらにはっきりします。

ロイヤルティの内訳(億円) 前年同期 当期 増減率
オプジーボに係るロイヤルティ 292 347 +18.9%
キイトルーダに係るロイヤルティ 65 79 +20.5%
その他 41 56
合計 398 482 +21.2%

2つ、注目すべきことがあります。

ひとつ目は、オプジーボのロイヤルティ347億円が、国内で自社が売ったオプジーボ282億円を65億円上回っていることです。オプジーボはブリストル・マイヤーズ スクイブ社が世界で販売しており、小野薬品はその売上に応じたロイヤルティを受け取ります。自分で売るより、他社に売ってもらうほうが大きい。しかも国内売上が△4.1%で減るなか、ロイヤルティは+18.9%で増えています。

ふたつ目は、キイトルーダからのロイヤルティ79億円です。キイトルーダはMSD(米メルク)のがん免疫療法薬で、オプジーボの最大の競合です。その競合品が売れるほど、小野薬品の収入が増える構造になっています。免疫チェックポイント阻害に関する特許のライセンスによるものです。

つまりこの会社は、がん免疫療法という分野が伸びれば、勝者が誰であっても収入を得る位置にいます。国内のオプジーボが競合に押されていても、その競合からロイヤルティが入る。第1四半期はまさにその形になりました。

会社は説明会で「オプジーボやキイトルーダなどに係るロイヤルティ収入が、販売増に加えて円安の影響もあり」と述べており、円安も追い風になっています。質疑応答では、ロイヤルティの進捗について次のように答えています。

質問:ロイヤルティ・その他の進捗について、オプジーボ、キイトルーダ以外の増分に一時要因等はなく、実態ベースの数字が第1四半期に計上されていると考えてよいか。

回答(CFO):「売上に関しては、当初の計画以上に売上が進んでいますので、その分、予想を上回る進捗になっています。(一時要因はないかとの確認に対し)はい。おっしゃる通りです」

一時的な要因ではなく、実力で計画を上回っているという回答です。ロイヤルティ収入は、他社の販売実績に連動するため自社ではコントロールできませんが、逆に言えば販売コストもかかりません。入ってきた金額がほぼそのまま利益になります。営業利益率がコアベースで33.3%という高さは、ここに支えられています。

同じ年度で、ひとつの利益は増益、もうひとつは減益

小野薬品はIFRSを採用しており、「IFRS(フル)ベース」と「コアベース」という2つの利益を並べて開示しています。第1四半期の調整表がこれです。

(億円) IFRS(フル) 無形資産に係る償却費 その他 コアベース
売上収益 1,162 1,162
売上原価 △287 +60 +20 △206
売上総利益 875 +60 +20 955
販売費及び一般管理費 △239 △239
研究開発費 △324 △324
営業利益 307 +60 +20 387
営業利益率 26.4% 33.3%
四半期利益(親会社帰属) 242 +45 +15 302

コアベースは、IFRSベースから「無形資産償却費」60億円と「公正価値評価された棚卸資産の費用化分」20億円を除いたものです。どちらも買収などで取得した資産に関する会計上の費用で、現金の支出を伴いません。前年同期はそれぞれ62億円・27億円でした。

会社が本業の実力と考えているのはコアベースのほうです。調整後利益・コア営業利益の見方で整理したとおり、中外製薬は業績予想そのものをCoreベースで出していますし、武田薬品アステラス製薬も同様の併記をしています。製薬業界では、この2本立てが標準です。

問題は、第1四半期と通期で、2つの利益の向きが変わることです。

IFRS(フル)ベース コアベース
第1四半期 営業利益 306億円(+39.4% 387億円(+22.5%
通期 営業利益(予想) 940億円(+1.9% 1,240億円(△9.6%

第1四半期はどちらも増益ですが、通期になるとIFRSは増益、コアは減益。符号が逆転します。

なぜこうなるかというと、除外している「無形資産償却費」などが、前期より今期のほうが小さくなる見込みだからです。IFRSベースの利益は、その費用が減るぶん押し上げられます。コアベースはもともとその費用を除いているので、押し上げは起きません。結果として、実力ベースでは減益、会計上は増益という形になります。

ここで大事なのは、会社自身がどちらを「本当の姿」として語っているかです。決算説明資料の見出しには、こう書かれています。

会社の説明(決算説明資料):「業績予想の修正は無し。2027年3月期通期では前期比で減収減益を見込む」

「コア営業利益:積極投資と減収の影響等を受け、1,240億円(前期比▲9.6%)を想定」

会社は「減益」と言っています。IFRSベースで+1.9%の増益が出ていても、それを増益とは呼んでいません。見出しの数字が2つあるとき、会社がどちらで語っているかを見れば、どちらを信じているかが分かります。

第1四半期の増益は、費用が減ったからです

では、なぜ第1四半期はコアベースでも+22.5%の増益だったのか。会社の説明は明快です。

会社の説明(説明会スクリプト):「売上収益が減収となった一方で、売上原価、研究開発費、そして販売費及び一般管理費の各費目が前年同期比で減少し、減少の合計額が売上の減収額を上回り、営業利益は増加となりました」

金額で確かめます。

コアベース(億円) 前年同期 当期 増減 理由
売上収益 1,275 1,162 △114 フォシーガ契約終了ほか
売上原価 281 206 △75 フォシーガの売上減少に伴う原価減
研究開発費 362 324 △38 前年の創薬提携契約費用・開発一時費用の反動減
販管費(研究開発費を除く) 311 239 △72 フォシーガのコ・プロモーション費用減、経費効率化
コア営業利益 316 387 +71 費用減185億円 − 減収114億円

売上が114億円減った一方で、費用は185億円減りました。差し引き71億円が増益です。フォシーガの契約終了は売上を251億円失わせましたが、同時にその原価と販促費も消えています。利益の面では、失ったものは売上ほど大きくなかったということです。

ただし、研究開発費の減少38億円は性質が違います。会社は質疑応答でこう答えています。

質問:研究開発費は計画どおり使うという説明だが、昨年度と比べても進捗が低い。今後どういったものがトリガーになって予算消化まで増えていくのか。

回答:「第1四半期につきましては、進捗が少し遅いのではないかというご指摘はあるかもしれませんが、この後、ONO-4578ですとかONO-2808の国際共同第3相試験などの大型のフェーズ3の準備が始まりますので、費用は増えていくというふうに見込んでおります」

第1四半期に研究開発費が少なかったのは、単にこれから使うからだ、という説明です。通期では「研究開発費:将来成長を見据え、売上収益比約30%水準の投資を継続」とされています。売上4,550億円の30%なら約1,365億円で、第1四半期の324億円を4倍しても1,296億円ですから、下期に向けて増えていく計算です。

つまり第1四半期のコア+22.5%は、通期では続きません。通期がコアベースで△9.6%になる理由は、会社の言葉どおり「積極投資と減収の影響」です。好スタートに見えても、費用の後ろ倒しによる部分が大きい——ここは差し引いて読む必要があります。

海外の自社製品は、静かに伸びています

ロイヤルティの話が目立ちますが、海外で自社が売る製品も伸びています。

海外 製品商品売上(億円) 前年同期 当期 増減率 通期予想
キンロック(消化管間質腫瘍) 89 117 +31.5% 430
ロンビムザ(腱滑膜巨細胞腫) 11 41 +289.3% 190
オプジーボ(韓国・台湾) 33 35 +7.3% 130
合計 137 198 +44.8%

いずれも米デサイフェラ社の買収で得た製品です。ロンビムザは「既存患者への継続投与に加えて、欧州を含む販売エリアの拡大などにより」約4倍。キンロックは通期予想430億円に対して第1四半期117億円と、会社は「順調に推移」としています。

先ほど見た「無形資産償却費」60億円は、この買収に伴うものです。買った製品が売れれば売上は立ちますが、買収価格の償却が利益を削る。この構図は、積水ハウスの米国戸建住宅事業(PPAで年326億円の控除)や、大和ハウスの住友電設(営業利益44億円がのれん償却後7億円)でも見たものです。コアベースという指標が存在する理由も、ここにあります。

財務は極めて健全です。親会社所有者帰属持分比率は79.9%(前期末76.9%)。資産合計1兆844億円に対して資本合計8,727億円で、実質的に無借金に近い構造です。配当は年間80円(中間40円・期末40円)の据え置きで、コアEPS予想197.91円に対する配当性向は約40%になります。

この決算から言えること

整理します。

  • 減収114億円の正体は、フォシーガ錠の共同販売契約終了(前年同期251億円)です。薬が売れなくなったのではなく、売る権利がなくなりました。国内の減収260億円のほぼ全部がこれです。
  • それでもコア営業利益は+22.5%。売上が114億円減る一方で、費用が185億円減ったためです(売上原価△75、研究開発費△38、販管費△72)。
  • ただし研究開発費の減少は「これから使う」だけ。会社は大型フェーズ3の準備で「費用は増えていく」と明言しており、通期は売上収益比約30%の投資水準を維持します。第1四半期の増益率は通期では続きません。
  • 通期はIFRSベースで+1.9%の増益、コアベースで△9.6%の減益と、符号が逆転します。そして会社自身は資料に「前期比で減収減益を見込む」と書いています。
  • ロイヤルティ482億円が、国内の製品商品売上481億円を上回りました。通期でも売上4,550億円のうち1,850億円(40.7%)がロイヤルティです。
  • オプジーボのロイヤルティ347億円は、国内で自社が売ったオプジーボ282億円を65億円上回っています。国内売上が△4.1%で減るなか、ロイヤルティは+18.9%で増えました。
  • 競合であるキイトルーダからも79億円(+20.5%)のロイヤルティ。がん免疫療法が伸びれば、勝者が誰であっても収入が入る位置にいます。
  • 国内オプジーボは「競争環境の激化」で△4.1%。オレンシア皮下注は薬価引き下げで△31.6%です。
  • 海外の自社製品は好調。キンロック+31.5%、ロンビムザ+289.3%。ただしこの買収に伴う無形資産償却費60億円が、IFRSベースの利益を圧迫しています。
  • 親会社所有者帰属持分比率79.9%。配当は年間80円で据え置きです。

次の四半期で確かめたいのは4点です。①研究開発費が計画どおり増えてコアの増益率が縮むか ②国内オプジーボの減少が止まるか ③ロイヤルティが計画超過のペースを保てるか ④キンロック・ロンビムザが通期予想(430億円・190億円)に届くか。

この決算を一言でまとめるなら、「売る薬は減っているのに、他社が売る薬から入る金が増えている」ということになります。小野薬品は、自社で売る製薬会社であると同時に、特許を他社に使わせて収入を得る会社でもあります。そして第1四半期は、後者のほうが大きくなりました。

この構造には、強さと弱さの両面があります。強さは、販売コストのかからない収入が売上の4割を占め、営業利益率33.3%という高収益を支えていること。そして競合が勝っても収入が入ること。弱さは、自社ではコントロールできない他社の販売実績と、特許の残存期間に業績が左右されることです。ロイヤルティはいつか終わります。会社が売上収益比30%という高い水準で研究開発に投資し続けているのは、その先を作るためでもあります。

読み手として押さえておきたいのは、この会社を「オプジーボの会社」と一括りにすると、数字を読み違えるということです。国内で売るオプジーボと、他社が売るオプジーボのロイヤルティは、別の動き方をします。第1四半期は、前者が減って後者が増えました。同じ薬の名前でも、どの行に入っているかで意味が変わります。

※本記事は2026年7月31日発表の2027年3月期第1四半期決算短信、同日公表の決算説明会資料および説明会スクリプト(質疑応答を含む)に基づいています。他社の数値は各社の決算資料によります。特定の銘柄の売買を推奨するものではありません。投資判断はご自身の責任でお願いいたします。

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