【2026年版】アステラス製薬(4503)決算分析|最終利益2倍、それでも通期を上げなかった3つの理由

アステラス製薬(4503)が2026年8月5日に発表した2027年3月期第1四半期(2026年4月〜6月)は、売上収益6,409億円(前年同期比26.7%増)、最終利益1,418億円(同107.3%増)でした。会社は「四半期の業績としてはアステラス発足以来、過去最高」と説明しています。

ところが、通期の業績予想は4月に出したまま、1円も動かしていません。

第1四半期だけで通期予想の営業利益の46.7%、最終利益の47.3%を稼いでいます。3か月で1年の半分近くに届いたのに、なぜ据え置いたのか。会社はその理由を、決算説明会で3つに分けて説明しています。この記事では一次資料をたどって、その3つを金額で確かめます。

この決算を1枚で(2027年3月期 第1四半期)
段階 金額 前年同期比
売上収益 6,409億円 +26.7%
コア営業利益 2,214億円 +55.6%
営業利益(会計基準) 1,845億円 +94.9%
税引前四半期利益 1,865億円 +106.3%
親会社帰属四半期利益 1,418億円 +107.3%
下に行くほど伸び率が大きくなる。これは「前年に何かあった」ことのサインです。

まず気づくこと:下に行くほど数字が良くなる

損益計算書は上から下へ、費用を差し引きながら進みます。ふつうは下に行くほど伸び率が小さくなります。売上の増加分が、原価や販管費や税金に削られていくからです。

アステラスは逆でした。売上+26.7%が、営業利益では+94.9%、最終利益では+107.3%へとふくらんでいます

この形が出るときは、たいてい前年(分母)に一時的な費用があったためです。短信の損益計算書を見ると、その正体がはっきりわかります。

項目 前年同期 当四半期
その他の費用 213億円 43億円 +170億円
 うち無形資産の減損損失 136億円 0億円 +135億円
 うちリストラクチャリング費用 28億円 19億円 +9億円
無形資産譲渡益 37億円 △37億円
持分法による投資損益 △16億円 △8億円 +7億円

前年の第1四半期には、無形資産の減損損失が136億円ありました。今期はゼロです。これだけで営業利益が135億円ぶん、見かけ上よくなります。

営業利益の増益899億円を要素に分けると、次のようになります。

  • 売上総利益の増加:+1,072億円
  • 販管費の増加:△181億円
  • 研究開発費の増加:△100億円
  • 無形資産償却費の増加:△29億円
  • 無形資産譲渡益の消滅:△37億円
  • その他の費用の減少:+170億円
  • 持分法・その他の収益:+3億円

合計で+898億円(会社発表の増益899億円との1億円の差は、億円未満の四捨五入によるものです)。増益の約19%は「前年にあった費用が今期はなかった」ことで説明できます。

コア営業利益のほうが、数字が悪い

アステラスは会計基準の利益(フルベース)とは別に、コアベースという独自指標を開示しています。無形資産償却費、減損損失、リストラクチャリング費用などを除いた、本業の稼ぐ力を示す数字です。

指標 前年同期 当四半期 伸び率
コア営業利益 1,423億円 2,214億円 +55.6%
営業利益(会計基準) 946億円 1,845億円 +94.9%

ここが面白いところです。コア(+55.6%)のほうが、会計基準(+94.9%)より数字が悪い。

会社独自の調整後利益は「本業を良く見せるための数字」と受け取られがちですが、実際には逆になることがあります。今回のように前年の一時費用が大きかった年の翌年は、その費用を最初から除いているコアベースのほうが、伸び率が小さく出ます。

同じ現象はリクルートホールディングスでも起きていました。調整後の指標が会計基準を下回ったとき、それは「調整後が悪い」のではなく「前年の会計基準が悪かった」ことを意味します。

覚えておくと使える見方:調整後の指標と会計基準の指標を並べたとき、差がどちらに開いているかを見ます。調整後のほうが良ければ「今期に一時費用がある」、調整後のほうが悪ければ「前年に一時費用があった」。どちらも、比べている2つの期のどちらかに特殊要因があるという合図です。

為替を除いても、実質+15%だった

2026年4月〜6月の平均為替レートは1ドル159円(前年同期145円)、1ユーロ185円(同164円)。大幅な円安です。

会社は為替の影響額を金額で開示しています。

  • 売上収益:+600億円(増収1,351億円の44.4%)
  • コア営業利益:+255億円(増益791億円の32.2%)

そのうえで、決算説明会で社長の北村直樹氏はこう述べています。

円安による後押しもありましたが、為替影響を除いた実質ベースでも売上収益はプラス15%、コア営業利益はプラス38%と、大きく成長しました

為替を除いても、売上+15%・コア営業利益+38%。これは為替の追い風だけで作った数字ではありません。

ここが、同じ日本の製薬大手である第一三共との決定的な違いです。第一三共は同じ四半期に、コア営業利益の増益63億円に対して為替の増益影響が97億円でした。為替を除くと増益が消えます。アステラスは為替を除いても大幅増益です。

同じ「円安で増収増益」でも、中身はまったく違います。為替の影響額を会社が開示しているなら、それを引いた数字で比べるべきです。

利益率が34.5%に乗った

コア営業利益率は28.1%から34.5%へ、6.4ポイント上昇しました。北村社長は説明会でこう述べています。

第1クォーター、34.5%というコア営業利益(率)、3カ月の1クォーターの話ですけれども、多分我々30%以上というものを出したのは今回が初めて

利益率が上がった理由は、費用の伸びが売上の伸びに追いついていないからです。

項目 前年同期 当四半期 伸び率 為替を除くと
売上収益 5,058億円 6,409億円 +26.7% +15%
販管費 1,970億円 2,151億円 +9.2% +0.1%
研究開発費 717億円 817億円 +14.0% +5.9%

販管費は、為替を除くとほぼ横ばい(+0.1%)です。売上を15%伸ばしながら、費用を増やしていない。販管費率は26.5%から23.0%へ3.5ポイント改善しました。

これを支えているのが、会社が「SMT(Sustainable Margin Transformation)」と呼ぶコスト最適化の取り組みです。第1四半期に販管費・研究開発費・売上原価あわせて約80億円を削減しました。ただし社長は、通期の目標は400億円で「第2クォーター以降、加速させていかなくちゃいけない」とも述べています。進捗としては20%です。

本題:47%も稼いだのに、なぜ通期を上げないのか

ここからが、この決算のいちばん面白いところです。

指標 第1四半期実績 通期予想 進捗率
売上収益 6,409億円 22,200億円 28.9%
コア営業利益 2,214億円 6,200億円 35.7%
営業利益 1,845億円 3,950億円 46.7%
最終利益 1,418億円 3,000億円 47.3%

3か月で1年の47%。それでも通期予想は2026年4月に公表したものから変更なしです。理由は会社の資料と説明会の発言から3つ取り出せます。

理由①:主力のXTANDIは、通期で減収を見込んでいる

アステラスの最大の製品は前立腺がん治療剤XTANDIです。第1四半期の売上は2,766億円で、全社売上6,409億円の43.2%を占めます。5つの重点戦略製品の合計(1,603億円)より、はるかに大きい。

そのXTANDIは第1四半期に+18.7%と伸びました。ところが通期予想では9,608億円→9,100億円(△5.3%)の減収を見込んでいます。

会社の説明はこうです。

XTANDIは特に円安の影響が売上増加に大きく寄与しており、為替影響を除いた成長率は約7%となっております。通期予想に対して高い進捗率となっていますが、期初にもお伝えしたとおり、今年度後半にかけては米国における価格引下げや、一部の国での特許満了の影響により、売上減少を見込んでおります。そのため、第1四半期の進捗は通期予想に対して想定どおりとなっております

「進捗率が高い」ではなく「想定どおり」だと会社は言っています。後半に落ちることを最初から織り込んでいるからです。

補足資料の米国売上をドル建てで見ると、この話が数字で裏づけられます。

米国売上(百万ドル) 前年同期 当四半期 伸び率
米国 合計 1,555 1,812 +16.5%
うちXTANDI 848 826 △2.6%
うちPADCEV 219 285 +29.9%
うちIZERVAY 110 169 +53.5%

XTANDIの米国売上は、ドル建てではすでに減っています。円建てでは+7.4%の増収に見えますが、それは為替の効果です。米国売上全体も、円建て+28.5%に対してドル建ては+16.5%。12ポイントの差が為替です。

理由②:研究開発費を、下期に増やす計画

第1四半期の研究開発費は817億円、売上収益比で12.8%でした。ところが通期予想では3,550億円、売上収益比16.0%を見込んでいます。

前期実績 第1四半期 通期予想
研究開発費 3,148億円 817億円 3,550億円(+12.8%
売上収益比 14.7% 12.8% 16.0%

社長は「第3相試験の開始に加え、臨床試験の進捗に伴い、患者の組入れも伸展していくことから、第2四半期以降はさらなる投資の拡大を見込んでおります」と説明しています。第1四半期の低い費用水準は、続かない前提です。

販管費についても同じ構図があります。通期予想は8,603億円→8,000億円(△7.0%)と減る前提ですが、第1四半期は+9.2%で増えています。

理由③:為替の前提を、4月のまま動かしていない

ここがいちばん見落とされやすい点です。

前期実績 第1四半期実績 通期予想の前提
米ドル/円 151円 159円 150円
ユーロ/円 175円 185円 180円

第1四半期の実績は159円。それに対して通期予想の前提は150円です。これは4月に公表した前提のままで、8月の発表でも変えていません。

この前提が通年で成り立つには、残り9か月の平均が147円程度まで円高になる必要があります。第1四半期の実績(159円)とは12円の開きです。

会社は為替感応度も金額で開示しています。

  • ドルが1円安くなると:売上+約81億円、コア営業利益+約23億円
  • ユーロが1円安くなると:売上+約38億円、コア営業利益+約17億円

つまり、今の為替水準が続くだけで、通期の利益は予想を大きく上回る計算になります。会社は「上振れる可能性の高い前提」を、あえてそのまま置いています。

ここでも第一三共との対比が効きます。第一三共は通期のコア営業利益を据え置いた理由に「円安による減益影響」を挙げました。アステラスは円高の前提を置いたまま据え置いています。同じ「据え置き」でも、前提の向きが正反対です。

据え置きを読むときの3点セット:①その会社の主力製品に、期の後半でマイナス要因が予定されていないか(特許満了・薬価引下げ・契約終了)②費用を後半に増やす計画になっていないか③為替の前提が、直近の実績とどれだけ離れているか。ブリヂストンは①のコスト増、アステラスは①②③のすべてが揃った例です。

特許が切れた薬が、切れたから稼いでいる

説明会の質疑で、思わぬ話が出てきました。第1四半期に想定を上回ったのはXTANDIではなく、過活動膀胱治療剤のミラベグロン(ベタニス/ミラベトリック/ベットミガ)だったという説明です。

米国のミラベトリックはドル建てで107百万ドル→201百万ドル(+88.4%)。ほぼ倍増しています。すでに特許が切れている製品です。理由を、チーフコマーシャルオフィサーのクラウス・ツィーラー氏がこう説明しています。

アメリカにおけるジェネリックからのロイヤリティの支払という部分もあります。以前にもお伝えしたとおり、いくつかのジェネリックのメーカーと和解しています

後発品メーカーから受け取るロイヤリティが、売上として立っている。特許が切れて自社の販売が落ちても、和解によって後発品の売上の一部が入ってくる形です。

製薬会社の売上には、こういう「薬を売って得たのではないお金」が混ざります。伸び率だけを見ていると、その中身は見えません。

製薬3社で、お金の流れる向きが違う

この夏に決算を読んだ日本の製薬大手3社は、いずれも海外企業と組んでいます。しかしお金の流れる向きが3社とも違い、それが損益計算書の別の場所に現れます。

会社 相手 お金の向き 損益のどこに出るか
中外製薬 ロシュ 受け取る(ロイヤルティ・輸出) 売上収益が増える
第一三共 アストラゼネカ 払う(プロフィット・シェア) 売れるほど販管費が増える
アステラス製薬 ファイザー 両方 XTANDI共同販促費用675億円を払い、PADCEVの米国売上はコ・プロモーション収入として受け取る

アステラスの販管費2,151億円のうち、675億円は米国XTANDIの共同販促費用です。これを除いた販管費は1,476億円(+10.1%)。会社が2つの数字を併記しているのは、この費用が「自社の経費」とは性質が違うからです。

一方でPADCEVの米国売上は、補足資料に「Pfizer社からのコ・プロモーション収入」と注記されています。同じ相手に払いながら、別の製品では受け取っている。

提携の形がわかると、「売上が伸びたのに利益が増えない」「利益率が急に上がった」といった動きの理由が見えます。

売上の中身:新薬が伸びても、まだXTANDIが4割

製品 前年同期 当四半期 伸び率
XTANDI(前立腺がん) 2,330億円 2,766億円 +18.7%
重点戦略製品 計 1,120億円 1,603億円 +43.2%
 PADCEV(尿路上皮がん) 555億円 755億円 +36.0%
 IZERVAY(加齢黄斑変性) 159億円 272億円 +70.3%
 VYLOY(胃がん) 140億円 211億円 +50.7%
 VEOZAH(更年期症状) 96億円 149億円 +54.8%
 XOSPATA(白血病) 170億円 216億円 +27.3%
プログラフ(免疫抑制) 512億円 585億円 +14.2%
ベタニス等(過活動膀胱) 430億円 634億円 +47.5%

重点戦略製品5つの合計は1,603億円で+43.2%。伸び率は高いのですが、金額ではまだXTANDI1品(2,766億円)に届きません。

会社は通期で重点戦略製品を4,803億円→6,100億円(+27.0%)に伸ばし、XTANDIの9,608億円→9,100億円(△5.3%)を補う計画です。この入れ替えが進むかどうかが、アステラスの数年の課題です。

地域別:インターナショナルマーケットが+60.5%

地域 当四半期 伸び率 構成比
米国 2,888億円 +28.5% 45.1%
エスタブリッシュドマーケット(欧州・カナダ等) 1,522億円 +18.2% 23.7%
インターナショナルマーケット 854億円 +60.5% 13.3%
日本 796億円 +15.5% 12.4%
チャイナ 321億円 +8.9% 5.0%

すべての地域で増収です。伸びが最も大きいインターナショナルマーケット(中南米・中東・アフリカ・東南アジア・韓国・台湾・豪州など)は、XTANDIが202億円→425億円(+110.4%)と倍増したことが効いています。

日本は売上の12.4%にすぎません。米国が45.1%です。日本の製薬会社の決算を読むときは、日本の数字より米国の数字のほうが業績を左右します。

財務と配当

  • 総資産3兆6,925億円、親会社所有者帰属持分比率52.6%(前期末51.3%)
  • のれん4,505億円、無形資産1兆227億円=合わせて総資産の39.9%。買収で製品を取得してきた会社の形です
  • 営業キャッシュ・フロー865億円(前年同期比316億円増)。法人所得税の支払額624億円(同290億円増)
  • 現金及び現金同等物2,447億円(前期末比369億円減)。配当699億円の支払いが効いています
  • コマーシャル・ペーパー300億円を新たに発行(前期末はゼロ)
  • 配当は年間78円→80円の予想(中間40円・期末40円)。修正なし

財務の形を中外製薬と比べると違いが際立ちます。中外製薬の親会社所有者帰属持分比率は82.8%で、のれんはほとんどありません。自社で創薬してロイヤルティを受け取る会社と、買収で製品を取得してきた会社の差が、貸借対照表に出ています。

この決算から持ち帰れる5つの見方

  • ① 伸び率が下に行くほど大きくなったら、前年を見る。アステラスは売上+26.7%→最終+107.3%。前年の減損136億円が消えたことが効いています。
  • ② 調整後のほうが数字が悪いこともある。コア営業利益+55.6%<会計基準の営業利益+94.9%。「調整後は都合のいい数字」とは限りません。
  • ③ 為替の影響額を会社が出しているなら、必ず引いて見る。アステラスは実質+15%、第一三共は実質減益。同じ円安でも結論が逆になります。
  • ④ 進捗率が高いのに据え置いたら、理由は3つのどれか。後半のマイナス要因、後半に増やす費用、動かしていない為替前提。アステラスは3つとも該当します。
  • ⑤ 提携の「お金の向き」を確認する。受け取るのか、払うのか、両方か。中外製薬・第一三共・アステラスで3通りに分かれます。

まとめ

2027年3月期第1四半期のアステラス製薬は、為替の追い風を受けながら、それを除いても大きく伸びた決算でした。同時に、会社はその好調が続く前提を、通期予想に反映していません。

見出しになりやすい事実 一次資料で確かめた実態
最終利益が2倍(+107.3%) 前年の減損136億円が消えた効果を含む。コアでは+62.8%
売上+26.7%の大幅増収 うち為替が600億円。ただし為替を除いても+15%
コア営業利益率34.5% 社長が「30%以上を出したのは今回が初めて」と明言
3か月で通期の47%を稼いだ それでも据え置き。XTANDIの通期は△5.3%の減収前提
XTANDIが+18.7%と好調 米国はドル建てで△2.6%の減収。為替を除く成長率は約7%
ミラベグロンが想定超え 正体は後発品メーカーからのロイヤリティ(和解による)

この会社で次に確かめるべきことは3つです。

  • XTANDIの減収が、いつどれだけ来るか。売上の43.2%を占める製品が、通期で△5.3%の前提です
  • 重点戦略製品が、その穴を埋められるか。通期+27.0%の計画に対し、第1四半期の進捗は26.3%
  • 為替の前提を、いつ見直すか。150円の前提と159円の実績の差は、そのまま上振れ余地です

「過去最高」と「通期据え置き」が同時に出てくる決算は、珍しくありません。そのとき会社は、たいてい理由を説明しています。探す場所は、決算短信ではなく説明会資料と質疑応答です。

本記事は2026年8月5日公表の決算短信、決算補足資料、決算説明会資料および説明会の書き起こしなど、アステラス製薬が公開している一次資料に基づいて作成しています。同社はコアベースの業績を独自指標として開示しており、その定義は決算短信に記載されています。情報提供を目的としたものであり、特定銘柄の売買を推奨するものではありません。投資判断はご自身の責任でお願いいたします。

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