ブリヂストン(5108)が2026年8月7日に発表した2026年12月期 第2四半期(中間期・1〜6月)の決算は、売上・利益とも過去最高でした。
- 売上収益 2兆3,217億円(前年同期比+10%)——過去最高
- 調整後営業利益 2,809億円(+20%)/利益率12.1%——過去最高
- 営業利益 2,802億円(+70.4%)
- 親会社の所有者に帰属する中間利益 2,062億円(+79%)
それでも会社は、通期の業績予想を2月の発表から1円も動かしていません。
理由は資料にはっきり書かれています。「中東情勢に伴うコスト上昇影響試算:600億円強/下期、約700億円/年間」。
そして上期の増益要因のトップは「原材料+230億円」でした。デンソーやスズキ、日本製鉄が原材料高に削られていたのと、逆の立場です。ただしその前提は、すでに崩れ始めています。順に確かめていきます。
営業費 △190(うち米国関税コスト影響 △180)/加工費 △10/その他 △17
★除く為替では+263億円。為替が増益の43%を占めます
天然ゴム〈RSS#3〉:221 → 278 ¢/kg(+26%)/原油〈WTI〉:64 → 93 $/bbl(+45%)
★会社の試算=「中東情勢に伴うコスト上昇影響:600億円強/下期、約700億円/年間」
★前年の中身は「事業・工場再編費用702億円」=主に海外のタイヤ工場(米州、欧州等)の再編
★今期も111億円の再編費用(アジア・大洋州等)。地域を変えながら再編は続いています
全体像 ― 「除く為替」で見ると景色が変わる
| 継続事業(億円) | 2025年 2Q累計 | 2026年 2Q累計 | 前年比 | 除く為替 |
|---|---|---|---|---|
| 売上収益 | 21,164 | 23,217 | +10% | +2% |
| 調整後営業利益 | 2,346 | 2,809 | +20% | +11% |
| (利益率) | 11.1% | 12.1% | +1.0pp | +1.0pp |
| 営業利益 | 1,645 | 2,802 | +70.4% | — |
| 親会社帰属 中間利益 | 1,152 | 2,061 | +78.9% | — |
| 1株当たり中間利益 | 85.11円 | 163.30円 | — | — |
| 親会社所有者帰属持分比率 | 63.7%(前期末) | 64.1% | +0.4pp | — |
売上は+10%ですが、為替の影響を除くと+2%です。会社が自分でその線を引いています。8ポイントが円安によるものということになります。
調整後営業利益も、+20%が除く為替では+11%。増益463億円のうち為替が200億円(43%)を占めます。
ただし利益率の改善(11.1%→12.1%)は、為替を除いても同じ+1.0ポイントです。ここは実力の部分だと言えます。
営業利益+70.4%は、前年の工場再編費用の反動
営業利益が調整後より大きく伸びているのは、調整項目が前年と今期で大きく違うためです。
| 単位:百万円 | 前年中間期 | 当中間期 |
|---|---|---|
| 調整後営業利益 | 234,644 | 280,871 |
| 調整項目(収益) | 1,665 | 11,148 |
| 調整項目(費用) | 71,825 | 11,790 |
| 営業利益 | 164,484 | 280,229 |
前年の費用718億円の中身は、注記に書かれています。
- 事業・工場再編費用 702億円——「主に海外のタイヤ工場(米州、欧州等)の再編に関連する費用」
今期も同じ項目が111億円あり、こちらは「主に海外のタイヤ工場(アジア・大洋州等)と内製事業の再編に関連する費用」。地域を変えながら、工場の再編が続いています。
本サイトでは、会社独自の利益指標を持つ会社を続けて見てきました。富士通(6702)は前年に大きな「利益」(売却益1,419億円)があったために最終利益が減って見えたケースでしたが、ブリヂストンは前年に大きな「費用」があったために営業利益が増えて見える——ちょうど逆の形です(調整後利益・コア営業利益の見方)。
①上期は原材料で+230億円。ただし市況はすでに逆を向いている
調整後営業利益の増減を、会社は要因ごとに開示しています。
| 要因 | 金額 | 内訳 |
|---|---|---|
| 原材料 | +230億円 | うち米国関税コスト影響 △70億円 |
| 為替 | +200億円 | — |
| MIX | +110億円 | — |
| 売値 | +80億円 | うち指数連動価格影響 △10億円 |
| 数量 | +60億円 | — |
| 加工費 | △10億円 | うち生産現場改善活動による効果 +100億円 |
| 営業費 | △190億円 | うち米国関税コスト影響 △180億円 |
| その他 | △17億円 | — |
| 合計 | +463億円 | (除く為替 +263億円) |
増益要因のトップが「原材料+230億円」です。2026年の決算では、原材料高に削られた会社が並びました。
| 会社 | 原材料・原燃料の影響 |
|---|---|
| デンソー(6902) | 部材費△395億円で営業利益△21.5% |
| スズキ(7269) | 原材料高△601億円 |
| 日本製鉄(5401) | マージン△830億円(国内) |
| ブリヂストン(5108) | 原材料+230億円(上期) |
タイヤメーカーは、上期については原材料で得をしていました。天然ゴムや原油の市況が、前年より低い水準にあったためです。
ところが、その前提はすでに崩れています。会社が付録に載せている相場推移がこれです。
| 相場(四半期平均) | 2025年 2Q | 2026年 1Q | 2026年 2Q | 前年同期比 |
|---|---|---|---|---|
| 天然ゴム〈TSR20〉¢/kg | 168 | 191 | 218 | +30% |
| 天然ゴム〈RSS#3〉¢/kg | 221 | 229 | 278 | +26% |
| 原油〈WTI〉$/bbl | 64 | 73 | 93 | +45% |
すでに第2四半期の時点で、天然ゴムは30%、原油は45%上がっています。
タイヤの原材料は、仕入れてから製品になるまでに時間がかかります。上期の「+230億円」は、それ以前の安い時期に仕入れた分が効いていた結果です。いま上がっている市況は、これから原価に乗ってきます。
②だから通期を上げなかった ― 会社の試算は「年間700億円」
| 2026年通期(億円) | 2025年実績 | 2026年予想 | 前年比 |
|---|---|---|---|
| 売上収益 | 44,295 | 45,000 | +2% |
| 調整後営業利益 | 4,937 | 5,150 | +4% |
| (利益率) | 11.1% | 11.4% | +0.3pp |
| 親会社帰属 当期利益 | 3,273 | 3,400 | +4% |
| 1株当たり配当金 | 115円 | 125円 | +10円 |
調整後営業利益の進捗率は54.5%(2,809億円÷5,150億円)。中間期としては高い水準です。それでも通期は据え置きでした。
会社の説明は、これ以上ないほど明確です。
◼ 上期業績は計画対比で上振れて着地したものの、下期は中東情勢に伴う原材料等コスト上昇影響の顕在化により、計画対比下振れを見込む。様々な対策に取り組み、通期では期初計画の達成を目指す。
◼ 中東情勢に伴うコスト上昇影響試算:600億円強/下期、約700億円/年間」
「上期は上振れ、下期は下振れ、通期は計画どおり」——会社がそう書いています。上期の好調は、下期のコスト増で相殺される前提です。
ここで、同じ「中東情勢」が別の会社ではどう出ていたかを並べておきます。
| 会社 | 中東情勢の影響 |
|---|---|
| 日本郵船(9101) | ホルムズ海峡封鎖でタンカー・バルカーが大幅増益(自動車船は減益) |
| スズキ(7269) | Q1で△211億円、通期△1,100億円を想定 |
| ブリヂストン(5108) | 年間約700億円のコスト増を試算 |
原油が上がると得をする会社と、損をする会社がある。ブリヂストンは原油から作る合成ゴムを買う側なので、はっきり後者です。
③米国関税の影響は250億円 ― 会社が金額で開示している
もう一つのコスト要因が米国の関税です。会社は影響額を明示しています。
- 米国関税影響:第2四半期累計 前年比250億円(計画並)
- 内訳は増減分析の中にあり、原材料で△70億円、営業費で△180億円
- 26年通期見込:2月対外発表から変更なし
「計画並」「変更なし」と書かれている点が重要です。関税は想定内で、いま予想を動かしている要因ではありません。会社が心配しているのは、あくまで中東情勢による原材料コストのほうです。
それでもブリヂストンは、上期に売値+80億円・MIX+110億円を確保しています。値上げと商品構成の高級化で、コストの一部を吸収している形です。
④北米は需要が落ちているのに、販売は伸びている
| セグメント(億円) | 2025年2Q累計 | 2026年2Q累計 | 利益 前年比 | 利益率 |
|---|---|---|---|---|
| 日本 売上/利益 | 6,037/825 | 6,344/1,139 | +38% | 13.7%→17.9% |
| アジア・大洋州・インド・中国 | 2,468/292 | 2,780/310 | +6% | 11.8%→11.2% |
| 米州 | 10,259/918 | 11,353/1,030 | +12% | 8.9%→9.1% |
| 欧州・中近東・アフリカ | 4,113/185 | 4,585/341 | +85% | 4.5%→7.4% |
日本が利益率17.9%、欧州が+85%の増益。日本については会社が「為替円安に加え、原材料良化、市販用タイヤの販売増、売値・MIX改善」「特に新商品FINESSAの販売好調」と説明しています。
そして注目したいのが米州です。会社はタイヤ需要と自社販売を、本数の対前年比で並べて開示しています。
| 北米(本数・対前年) | 市販用の需要 | ブリヂストンの販売 |
|---|---|---|
| 乗用車・ライトトラック用(PS) | 92% | 97% |
| トラック・バス用(TB) | 88% | 99% |
市場は8〜12%縮んでいるのに、自社の販売は1〜3%減で踏みとどまっています。会社の言葉では「需要が前年を下回る中、市販用新商品やマルチブランド戦略が貢献し、2Qも市販用にてPS/TB共に需要を上回る販売を達成」——縮む市場でシェアを取っているということです。
需要が減っている事実と、自社が伸びている事実は両立します。決算を読むときは、この2つを分けて見る必要があります。
財別ではSpecialties(鉱山・建設車両用など)の利益率が22.9%と際立っています。会社は「鉱山用の超大型ORタイヤが対前年で販売伸長」と説明しており、タイヤ事業全体(利益率14.1%)の中でも別格の収益性です。
⑤配当230円→125円は減配ではない ― 株式分割があった
| 年間配当金 | 2025年12月期 | 2026年12月期(予想) |
|---|---|---|
| 中間 | 115.00円 | 60.00円 |
| 期末 | 115.00円 | 65.00円 |
| 合計 | 230.00円 | 125.00円 |
数字だけ見ると半減ですが、これは減配ではありません。会社は2026年1月1日付で普通株式1株につき2株の株式分割を実施しており、2025年12月期の金額は分割前のものだからです。
分割後の基準にそろえると、前年は115円、今期は125円。10円の増配です。説明会資料でも「1株当たり配当金 115円→125円(+10円)」と、分割後換算で並べられています。
本サイトでは中外製薬(4519)でも同じ形を見ました。あちらは前年に創業100周年の記念配当150円が入っていたため、272円→132円と半減して見えましたが、普通配当では増配でした。
配当の増減を見るときは、株式分割と記念配当の2つを必ず確認する。これは覚えておく価値のあるチェックです(配当利回りと配当性向の見方【図解】)。
あわせて自社株買いも大規模に進んでいます。
- 期末発行済株式数:14億2,739万株→13億3,403万株(分割考慮後)
- 期中平均株式数:13億5,737万株→12億6,296万株(△7.0%)
- 自己株式取得の7月末時点進捗率:約87%
財務面では営業キャッシュ・フローが2,791億円→3,418億円、フリーCFが1,582億円→2,215億円と改善。一方で有利子負債は8,270億円→8,998億円と増えており、会社は「自己株式の取得、負債の活用を着実に推進」「1,500億円の資金調達完了」と説明しています。意図的に負債を使って株主還元を進めているということです。
この決算から持ち帰る5つのチェック
- ① 「除く為替」の数字を探す。売上+10%は除く為替では+2%、調整後営業利益+20%は+11%です。
- ② 調整項目は前年と今期の両方を見る。営業利益+70.4%の正体は前年の工場再編費用702億円でした。
- ③ 原材料の「実績」と「市況」を分ける。上期は原材料+230億円ですが、天然ゴムは+30%、原油は+45%まで上がっています。
- ④ 会社が「下期は下振れる」と書いていないか確認する。ブリヂストンは年間約700億円のコスト増を試算しています。
- ⑤ 配当は株式分割を確認する。230円→125円は、1株→2株の分割後で見れば115円→125円の増配です。
まとめ
2026年12月期中間期のブリヂストンは、円安と安い原材料と工場再編の一巡が重なって過去最高になり、それでも下期のコスト増を見込んで通期を据え置いた決算でした。
| 見出しになりやすい事実 | 一次資料で確かめた実態 |
|---|---|
| 売上・利益とも過去最高 | 事実。ただし除く為替では売上+2%(実績+10%) |
| 営業利益+70.4%の大幅増益 | 前年の工場再編費用702億円(米州・欧州)の反動。調整後では+20% |
| 原材料が追い風 | 上期は+230億円。ただし市況はすでに天然ゴム+30%・原油+45% |
| 好調だから通期も上振れ? | 会社は「下期は計画対比下振れを見込む」と明記。年間約700億円のコスト増 |
| 北米が好調 | 需要は92%・88%と縮小。その中で販売97%・99%とシェアを取っている |
| 配当が230円→125円に半減 | 2026年1月1日に1株→2株の株式分割。分割後では115円→125円の増配 |
この会社で次に確かめるべきことは3つです。
- 下期のコスト増600億円強が、実際にどこまで出るか。会社は「様々な対策に取り組み、通期では期初計画の達成を目指す」としています
- 売値とMIXで、どこまで吸収できるか。上期は売値+80億円・MIX+110億円でした
- 北米の需要が下げ止まるか。市販用は92%・88%まで落ちています。シェアだけで支え続けるのは簡単ではありません
原材料の値動きは、決算に遅れて効いてきます。「今期は原材料で得をした」という数字と、「相場はもう上がっている」という事実は、同じ資料の中に並んで載っていました。
本記事は2026年8月7日公表の決算短信、決算補足資料、決算説明会スライドなど、ブリヂストンが公開している一次資料に基づいて作成しています。同社は防振ゴム事業を非継続事業に分類しており、売上収益・調整後営業利益は継続事業のみの金額です。また2026年1月1日付で1株につき2株の株式分割を実施しています。情報提供を目的としたものであり、特定銘柄の売買を推奨するものではありません。投資判断はご自身の責任でお願いいたします。
- 調整後利益・コア営業利益の見方 — 調整項目は前年と今期の両方を見る
- 損益計算書の見方【図解】 — 営業利益と調整後営業利益の差
- 貸借対照表の見方【図解】 — 負債を使って株主還元を進めるということ
- 配当利回りと配当性向の見方【図解】 — 株式分割があった年の配当比較
- PER・PBR・ROEの見方 — 分割後のEPSで比べる