武田薬品工業(4502)が2026年7月30日に発表した2027年3月期第1四半期(2026年4〜6月)は、売上収益1兆2,199億円(前年同期比10.2%増)、営業利益2,014億円(同9.1%増)でした。ところが最終利益は1,132億円で、8.9%の減益です。
この決算は、会社自身が「為替を除いた数字」を全項目で並べて開示している点に特徴があります。そして、その数字を見ると印象が変わります。
この記事では一次資料をたどって、①円安を除くと売上と利益がどうなるのか ②最終利益だけが減った理由 ③よく検索される「負債と自己資本比率」の実態、の3つを確かめます。
| 指標 | 金額 | 円安を含む (AER) |
円安を除く (CER) |
|---|---|---|---|
| 売上収益 | 1兆2,199億円 | +10.2% | △0.5% |
| 営業利益 | 2,014億円 | +9.1% | △3.1% |
| 税引前四半期利益 | 1,627億円 | +8.0% | △6.8% |
| 親会社帰属四半期利益 | 1,132億円 | △8.9% | △23.5% |
| Core営業利益 | 3,589億円 | +11.5% | △0.5% |
円安を除くと、増収も増益も消える
武田薬品は決算短信のなかで、損益計算書のすべての行についてAER(実勢レート)とCER(恒常為替レート)の2つの増減率を並べています。CERは「前年と同じ為替レートで換算したらどうなるか」という数字です。
| 項目 | 前年同期 | 当期 | AER | CER |
|---|---|---|---|---|
| 売上収益 | 11,067億円 | 12,199億円 | +10.2% | △0.5% |
| 売上原価 | △3,847 | △4,067 | +5.7% | △4.5% |
| 販売費及び一般管理費 | △2,559 | △2,865 | +12.0% | +1.6% |
| 研究開発費 | △1,439 | △1,674 | +16.3% | +6.8% |
| 無形資産償却費及び減損損失 | △1,316 | △1,109 | △15.7% | △23.3% |
| その他の営業収益 | 220 | 83 | △62.5% | △64.3% |
| その他の営業費用 | △281 | △552 | +96.8% | +73.4% |
| 営業利益 | 1,846 | 2,014 | +9.1% | △3.1% |
| 金融損益(純額) | △334 | △392 | +17.5% | +17.1% |
| 税引前四半期利益 | 1,506 | 1,627 | +8.0% | △6.8% |
| 法人所得税費用 | △264 | △495 | +87.7% | +71.7% |
| 四半期利益 | 1,243 | 1,133 | △8.9% | △23.5% |
会社は売上について、はっきりこう書いています。「この増収は、主に円安による増収影響によるものです」。
+10.2%の増収は、円安を除くと△0.5%の減収です。+9.1%の営業増益も、円安を除けば△3.1%の減益になります。
最終利益だけが減った理由は3つ
営業利益は増えたのに最終利益が減りました。差を作ったものを順に見ます。
① 法人所得税が87.7%増えた(264億円→495億円)
最大の要因です。会社の説明はこうです。
この増加は、主に当期における繰延税金資産の回収可能性の見直しに伴う税金費用の増加、税額控除の減少および米国の国際税制に基づく追加的な税負担によるものです
231億円の増加で、最終利益の減少額110億円を大きく上回ります。税金だけで減益になった構図です。
② 事業構造再編費用が358億円増えた
「その他の営業費用」が281億円から552億円へ、96.8%増えました。会社は「主に当期におけるトランスフォーメーション・プログラムの推進により、事業構造再編費用が358億円増加した」と説明しています。
③ 前年にあった事業譲渡益が減った
「その他の営業収益」は220億円から83億円へ減りました。内訳を会社が開示しています。
- 当期:欧州で販売していた非中核製品である胃酸抑制剤RIOPANの譲渡益62億円
- 前年同期:欧州・中東・北アフリカ地域の非中核製品およびMEPACTの譲渡益179億円
前年の分母に、117億円ぶん大きい一時利益が入っていました。この形はアステラス製薬とちょうど逆です。アステラスは前年に一時「費用」があったため今期の伸び率が大きく見え、武田は前年に一時「利益」があったため今期の伸び率が小さく見えています。
Core営業利益も、円安を除けば横ばい
武田薬品は「Core財務指標」という独自指標を開示しています。
| 指標 | 前年同期 | 当期 | AER | CER |
|---|---|---|---|---|
| Core売上収益 | 11,067億円 | 12,199億円 | +10.2% | △0.5% |
| Core営業利益 | 3,218億円 | 3,589億円 | +11.5% | △0.5% |
| Core四半期利益 | 2,371億円 | 2,429億円 | +2.5% | △10.9% |
| Core EPS | 151円 | 154円 | +1.5% | △11.8% |
Core営業利益は+11.5%の増益に見えますが、円安を除けば△0.5%でほぼ横ばいです。
会社は売上の中身も分解しています。
- 既存主力製品(ENTYVIO、タケキャブ、タクザイロ、免疫グロブリン製剤など)=Core売上収益の58%を占め、CERベースで+2.3%
- 新製品(EOHILIA、リブテンシティ、アジンマ、FRUZAQLA、QDENGAなど)=Core売上収益の4%で、CERベースで+22.6%
そして会社はこう書いています。「既存主力製品および新製品が着実に伸長したものの、独占販売期間満了の影響を受けた製品および成熟製品の減収により相殺され、Core売上収益は概ね横ばいとなりました」。
特許切れの薬が、売上も費用も同時に減らしている
「独占販売期間満了の影響を受けた製品」の代表が、注意欠陥/多動性障害治療剤VYVANSE/ELVANSE(国内製品名:ビバンセ)です。
| 金額 | AER | CER | |
|---|---|---|---|
| VYVANSE/ELVANSEの売上 | 541億円 | △6.5% | △17.0% |
会社は「主に米国において後発品の市場浸透が引き続き進んだことによる」と説明しています。
ところが、同じ製品が費用の側では逆に働いています。無形資産償却費及び減損損失が1,316億円から1,109億円へ207億円減りましたが、その理由を会社はこう書いています。
VYVANSE/ELVANSEに係る無形資産の償却終了などに伴い、無形資産償却費が減少(△238億円)したことによるものです
売上を減らしている製品が、償却費も減らしている。特許切れは売上にマイナスですが、その製品を買収したときに計上した無形資産の償却が終われば、費用も消えます。この両面を見ないと、特許切れの影響を過大にも過小にも見積もることになります。
よく検索される「負債と自己資本比率」の実態
武田薬品について検索されることの多い論点です。第1四半期末の数字を確かめます。
| 項目 | 前年度末 | 当期末 | 増減 |
|---|---|---|---|
| 資産合計 | 15兆5,115億円 | 15兆6,633億円 | +1,518億円 |
| 負債合計 | 8兆809億円 | 8兆1,044億円 | +235億円 |
| 資本合計 | 7兆4,306億円 | 7兆5,589億円 | +1,282億円 |
| 親会社所有者帰属持分比率 | 47.9% | 48.3% | +0.4pt |
自己資本比率にあたる親会社所有者帰属持分比率は48.3%で、前期末の47.9%から改善しています。
より重要なのは有利子負債です。
- 社債及び借入金の合計は4兆9,400億円(社債4兆7,150億円+借入金2,250億円)
- 前期末から+581億円増えていますが、会社は「主に為替換算の影響により増加」と説明しています。新規の借り入れによる増加ではありません
- 総資産15兆6,633億円に対して31.5%、資本7兆5,589億円に対して65.4%にあたります
社債の内訳も開示されています。目立つものを挙げると、2020年7月発行の米ドル建(70億ドル)が1兆1,303億円、2020年7月発行のユーロ建(36億ユーロ)が6,628億円、2018年11月発行のユーロ建(30億ユーロ)が5,534億円。さらに2024年6月発行のハイブリッド社債(劣後特約付・2084年6月償還)が4,586億円あります。
この負債の大きさは、2019年のシャイアー買収に由来するものです。貸借対照表の見方で触れているとおり、買収で成長した会社は、のれんと有利子負債が同時に大きくなります。武田薬品の場合、当期はのれんも為替換算の影響で779億円増えています。
通期はどう見ているか:黒字化するが、Coreは減益
ここが最も注意して読むべき部分です。会社の通期予想は、2026年5月13日の発表から修正されていません。
| 指標 | 2025年度実績 | 2026年度予想 | 増減 |
|---|---|---|---|
| 売上収益 | 4兆5,057億円 | 4兆6,400億円 | +3.0% |
| 営業利益 | 62億円 | 4,200億円 | +4,138億円 |
| 税引前当期利益 | △1,424億円 | 2,520億円 | +3,944億円 |
| 当期利益(親会社帰属) | △1,524億円 | 1,660億円 | +3,184億円 |
| EPS | △96円75銭 | 104円26銭 | +201円01銭 |
| Core営業利益 | 1兆1,725億円 | 1兆1,600億円 | △1.1% |
| Core EPS | 517円 | 472円 | △8.7% |
前期は営業利益がわずか62億円、最終損益は1,524億円の赤字でした。一方で同じ期のCore営業利益は1兆1,725億円です。会計基準とCoreの差が1兆1,663億円——この開きの大きさが、武田薬品という会社の数字を読みにくくしています。
今期は会計基準では赤字から黒字へ大きく回復する見込みですが、Core営業利益は△1.1%、Core EPSは△8.7%の減益予想です。会計基準の数字だけを見ると「V字回復」に見え、Coreだけを見ると「減益」に見えます。どちらか一方だけを見ると誤る典型です。
そして、会社のガイダンスは「減少」
武田薬品はさらに、恒常為替レート(CER)ベースのマネジメントガイダンスを別に出しています。
| 指標(CERベース) | 2026年度の見通し |
|---|---|
| Core売上収益 | 一桁台前半%の減少 |
| Core営業利益 | 5%から8%の減少 |
| Core EPS | 10%台半ばの減少 |
第1四半期のCore営業利益はCERで△0.5%でした。通期では△5〜8%を見込んでいます。つまり会社は、下期にかけて悪化する前提を置いています。
為替の前提も確認できます。
| 2025年度実績 | 2026年度予想 | |
|---|---|---|
| 米ドル | 150円 | 156円 |
| ユーロ | 174円 | 182円 |
武田薬品は1ドル156円という円安前提を置いています。同じ時期に決算を出したアステラス製薬は1ドル150円の円高前提を4月のまま据え置きました。同じ業界でも為替の置き方は正反対です。だからこそ、会社をまたいで比べるときはCERのような為替を除いた数字が要ります。
地域別・分野別:円安を外すと、半分が減収
| 地域 | 売上収益 | AER | CER |
|---|---|---|---|
| 米国 | 5,689億円 | +4.1% | △5.2% |
| 欧州 | 2,821億円 | +19.1% | +4.9% |
| 日本 | 1,039億円 | △3.8% | △4.2% |
| 中南米 | 742億円 | +28.9% | +10.1% |
| 中国 | 523億円 | +21.0% | +4.3% |
| ロシア/CIS | 354億円 | +22.2% | +5.3% |
| アジア(日本・中国を除く) | 266億円 | +15.4% | +7.6% |
売上の46.6%を占める米国が、円安を除くと△5.2%の減収です。日本は円安の有無にかかわらず減収で、売上の8.5%にすぎません。
| ビジネスエリア | 売上収益 | AER | CER |
|---|---|---|---|
| 消化器系疾患 | 3,861億円 | +13.8% | +3.1% |
| 血漿分画製剤 | 2,839億円 | +8.8% | △2.1% |
| 希少疾患 | 2,060億円 | +4.9% | △5.8% |
| オンコロジー | 1,656億円 | +19.4% | +8.2% |
| ニューロサイエンス | 1,136億円 | +4.6% | △4.8% |
| ワクチン | 140億円 | +21.8% | +10.1% |
| その他 | 507億円 | △1.1% | △11.8% |
7分野のうち4分野が、円安を除くとマイナスです。伸びているのは消化器系疾患(ENTYVIOが2,683億円でCER+3.8%)とオンコロジー(アドセトリスがCER+14.4%、FRUZAQLAがCER+26.8%)です。
キャッシュ・フローと配当
- 営業キャッシュ・フローは1,276億円(前年同期比△878億円)。売上債権の増加による運転資本の変動が主因
- 投資キャッシュ・フローは△877億円(同△545億円)。無形資産の取得による支出が増加
- 財務キャッシュ・フローは△1,803億円。自己株式の取得による支出が減ったぶん、前年より支出が346億円小さい
- 現金及び現金同等物は4,610億円(前期末比△1,341億円)
- 配当は年間200円→204円の予想(中間102円・期末102円)。修正なし
注意して見たい点があります。当期の利益剰余金は454億円減っています。四半期利益1,132億円を計上した一方で、配当金の支払いが1,582億円あったためです。配当性向の観点では、四半期単位で見ると利益を上回る配当を出している状態です。
この決算から持ち帰れる5つの見方
- ① 会社がCERを出しているなら、そちらで読む。武田薬品は損益計算書の全行にCERを併記しています。売上+10.2%はCERで△0.5%です。
- ② 営業利益と最終利益の差を作った項目を特定する。ここでは法人所得税+231億円と事業構造再編費用+358億円でした。
- ③ 前年の分母に一時利益がないか確認する。前年は事業譲渡益179億円、今期は62億円。117億円の差があります。
- ④ 特許切れは売上と費用の両面で見る。ビバンセは売上をCERで△17.0%減らす一方、償却終了で費用を238億円減らしています。
- ⑤ 会計基準とCoreの差の大きさを見る。前期は営業利益62億円に対しCore営業利益1兆1,725億円。差は1兆円を超えます。
まとめ:武田薬品の将来性をどう見るか
2027年3月期第1四半期の武田薬品は、円安によって増収増益に見えるが、為替を除くと減収・減益という決算でした。そして会社自身が、その事実を全項目で開示しています。
| 見出しになりやすい事実 | 一次資料で確かめた実態 |
|---|---|
| 売上+10.2%の増収 | 会社が「主に円安による」と明記。CERでは△0.5% |
| 営業利益+9.1%の増益 | CERでは△3.1%の減益 |
| 最終利益△8.9%の減益 | 主因は法人所得税+87.7%と事業構造再編費用+358億円 |
| Core営業利益+11.5% | CERでは△0.5%で横ばい |
| 通期は赤字から黒字へV字回復 | Core営業利益は△1.1%、Core EPSは△8.7%の減益予想 |
| 負債が大きい会社 | 有利子負債4兆9,400億円、自己資本比率48.3%(前期47.9%から改善) |
この会社で次に確かめるべきことは3つです。
- CERベースのガイダンスが達成されるか。会社はCore営業利益を通期で△5〜8%と見ています。第1四半期は△0.5%でした
- 独占販売期間が満了する製品の影響がどこまで続くか。ビバンセはCERで△17.0%。ただし償却費の減少という反対の効果もあります
- 有利子負債4.9兆円をどう減らしていくか。当期の増加は為替換算によるもので、新規の借り入れではありません
円安は、売上と利益の見え方を大きく変えます。武田薬品のように会社が為替を除いた数字を出しているなら、それを使うのがいちばん確かです。出していない会社の決算を読むときにも、「この増収は何によるものか」と問う習慣が効きます。
本記事は2026年7月30日公表の決算短信、四半期フィナンシャルレポート、決算プレゼンテーション資料など、武田薬品工業が公開している一次資料に基づいて作成しています。同社はIFRSに準拠しない財務指標(Core財務指標、CERベースの増減)を追加的に開示しており、その定義は財務補足資料に記載されています。情報提供を目的としたものであり、特定銘柄の売買を推奨するものではありません。投資判断はご自身の責任でお願いいたします。
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