【2026年版】第一三共(4568)決算分析|売上+21.1%、最終利益△19.7%。「売れるほど払う」構造がある

第一三共(4568)が2026年7月31日に発表した2027年3月期 第1四半期(2026年4〜6月)の決算は、損益計算書を上から下へ読むほど、数字が悪くなっていくという珍しい形をしていました。

  • 売上収益 5,747億円(前年同期比+21.1%)
  • コア営業利益 1,073億円(+6.2%)
  • 営業利益 851億円(△12.0%)
  • 親会社の所有者に帰属する四半期利益 686億円(△19.7%)

売上は21%伸びたのに、最終利益は20%減っています。

そして通期についても、会社は売上を600億円上方修正しながら、コア営業利益は据え置き、最終利益は90億円下方修正しました。

その理由が、この会社の構造をよく表しています。「エンハーツの売上伸長に伴うプロフィット・シェアの費用増加」——売れるほど、パートナーに払うのです。順に確かめていきます。

図解:売上+21.1%、最終利益△19.7%。段差は4か所
上から下へ、1段ずつ数字が削られていきます。
売上収益
4,745億 → 5,747億円(+21.1%)
売上原価+43.9%/販管費+25.5%(アストラゼネカとのプロフィット・シェア増)/研究開発費+9.0%
コア営業利益
1,010億 → 1,073億円(+6.2%)
コア外の費用 51億 → 222億円(EUスペシャルティ事業の再編費用など)
営業利益
967億 → 851億円(△12.0%)
金融費用の増加 / ─ 法人税等の増加
親会社帰属 四半期利益
855億 → 686億円(△19.7%)
為替を除くと、コア営業利益も減益
会社の開示=売上収益に係る為替の増収影響 419億円コア営業利益に係る為替の増益影響 97億円
★コア営業利益の増益は+63億円為替の+97億円を除くと、実質は減益です
通期は「売上+600億、コア営業利益±0、最終利益△90億」
会社の説明=「円安による減益影響に加え、エンハーツの売上伸長に伴うプロフィット・シェアの費用増加等が見込まれるため、前回予想を据え置きました」
★最終利益の下方修正理由は「法人税等の増加が見込まれるため」
読み方:円安は売上では増収要因ですが、この会社では利益の減益要因にもなります。
出典:第一三共 2027年3月期 第1四半期決算短信・決算補足資料・決算経営説明会資料(2026年7月31日)より作成

全体像 ― 売上より費用の伸びが速い

コアベース(百万円) 2026年3月期 Q1 2027年3月期 Q1 前年比
売上収益 474,597 574,740 +21.1%
売上原価 87,568 126,026 +43.9%
販売費及び一般管理費 180,072 225,992 +25.5%
研究開発費 105,950 115,455 +9.0%
コア営業利益 101,005 107,265 +6.2%
コア外の収益 760 70 △90.7%
コア外の費用 5,053 22,239 +340.1%
営業利益 96,711 85,097 △12.0%
税引前四半期利益 105,442 91,341 △13.4%
親会社帰属 四半期利益 85,500 68,637 △19.7%
1株当たり四半期利益 46.03円 37.72円

売上が21.1%伸びるあいだに、売上原価は43.9%、販管費は25.5%増えています。だからコア営業利益は+6.2%にとどまりました。

そして為替の影響を、会社は金額で開示しています。

  • 売上収益に係る為替の増収影響:419億円(増収1,001億円の42%)
  • コア営業利益に係る為替の増益影響:97億円
  • 営業利益に係る為替の影響額(利益増):67億円

コア営業利益の増益は63億円です。為替が97億円押し上げているので、それを除けば実質は減益ということになります。

為替レートは1米ドル144.60円→159.49円、1ユーロ163.81円→185.38円。かなりの円安が進んでいます。

①販管費+459億円の理由 ―「売れるほど払う」

販管費が25.5%も増えた理由を、会社は一言で説明しています。

「販売費及び一般管理費は、アストラゼネカとのプロフィット・シェアの増加による費用増等により、459億円(25.5%)増加の2,260億円となりました」

プロフィット・シェアとは、共同で開発・販売する製品の利益を分け合う契約です。第一三共の主力品エンハーツ(トラスツズマブ デルクステカン)とダトロウェイ(ダトポタマブ デルクステカン)は、英国のアストラゼネカと共同で展開しています。

だから、これらが売れるほど相手に払う金額も増えます。売上の伸びが、そのまま利益の伸びにならない構造です。

ここが、前回取り上げた中外製薬(4519)と正反対です。

会社 パートナーとの関係 損益への出方
中外製薬(4519) ロシュへ製品を輸出し、ロイヤルティを受け取る 「その他の売上収益」968億円(+44.5%)
ほとんど原価がかからない
第一三共(4568) アストラゼネカと利益を分け合う(払う側) 販管費+459億円
売れるほど費用が増える

同じ製薬でも、提携の形が違えば損益計算書の形も変わります。「売上が伸びている」という事実だけでは、利益がどうなるかは決まりません。

なお研究開発費は1,155億円で、売上収益の20.1%にあたります。会社は増加の理由を「5DXd ADCs(トラスツズマブ デルクステカン、ダトポタマブ デルクステカン、パトリツマブ デルクステカン、イフィナタマブ デルクステカン、ラルドタツグ デルクステカン)及びDS3790への研究開発投資の増加等」と説明しています。

②通期は「売上を上げ、コア営業利益を据え置き、最終利益を下げた」

単位:百万円 前回予想(5/11) 今回予想 増減
売上収益 2,280,000 2,340,000 +60,000
コア営業利益 360,000 360,000 ±0
営業利益 315,000 320,000 +5,000
税引前利益 329,000 334,000 +5,000
親会社帰属 当期利益 260,000 251,000 △9,000

同じ発表のなかで、売上を600億円上げ、コア営業利益を据え置き、最終利益を90億円下げています。会社の説明を、そのまま並べます。

売上収益:「円安による増収影響に加え、米国のエンハーツの製品売上が想定を上回り好調に推移していること等により、前回予想を600億円上回る2兆3,400億円に修正」

コア営業利益:「売上収益の増加に伴う売上総利益の増加を見込む一方、円安による減益影響に加え、エンハーツの売上伸長に伴うプロフィット・シェアの費用増加等が見込まれるため、前回予想を据え置きました」

営業利益・税引前利益:「第1四半期にコア外の費用のマイナスとして、小田原工場の投資中止関連補償引当の戻入を計上したことにより、前回予想を50億円上回る」

当期利益:「法人税等の増加が見込まれるため、前回予想を90億円下回る」

注目すべきは「円安による減益影響」という一文です。売上のところでは「円安による増収影響」と書かれているのに、コア営業利益では減益要因として挙げられています。

これは矛盾ではありません。海外での売上が円換算で膨らむ一方、アストラゼネカへ支払うプロフィット・シェアや海外の費用も、同じだけ円換算で膨らむためです。費用のほうが大きければ、円安は利益にとってマイナスになります。

第2四半期以降の想定為替レートは1米ドル155円、1ユーロ180円です。

また「エンハーツが想定を上回って好調」だから売上を上げたのに、その好調がプロフィット・シェアを増やすので利益は上げられない——この関係も、資料の2行を並べて初めて見えます。

③ユニット別 ― オンコロジー+50.5%、日本は△3.9%

ユニット 売上収益 前年比 現地通貨ベース
オンコロジー(米国・欧州のがん製品) 1,974億円 +50.5% +36.4%(1,238百万米ドル)
ジャパン 1,200億円 △3.9%
EUスペシャルティ 747億円 +17.1% +3.4%(403百万ユーロ)
ASCA(アジア・中南米) 687億円 +21.0%
アメリカンリージェント 422億円 △14.3% △22.3%(265百万米ドル)
第一三共ヘルスケア 226億円 +7.9%

成長しているのはオンコロジーだけと言っていい構造です。会社は「欧米におけるエンハーツ及びダトロウェイ等の伸長により」と説明しています。

ここでも現地通貨ベースの数字が効いてきます。EUスペシャルティは円建てで+17.1%ですが、ユーロ建てでは+3.4%。差の大半は円安です。

逆に日本は△3.9%。エンハーツやタリージェは伸びているものの、リクシアナ等の減収が上回りました。特許切れを迎えた製品の落ち込みが出ています。

アメリカンリージェント(米国のジェネリック・注射剤事業)は△14.3%、現地通貨では△22.3%と大きく落ちています。ヴェノファー、インジェクタファーの減収です。

第1四半期の主な進捗として、会社は次を挙げています。

  • 2026年5月:米国でエンハーツのHER2陽性の早期乳がんの術前・術後療法が承認
  • 2026年5月:米国でダトロウェイのトリプルネガティブ乳がんの1次治療が承認
  • 2026年6月:欧州でエンハーツのHER2陽性の複数の固形がんが承認

いずれも「より早い段階の治療」「より広い対象」への拡大です。がん治療薬は、適応が広がるほど対象患者が増えます。

④「コア営業利益」の定義が、今期から変わっている

この決算を読むうえで、もう一つ押さえるべき点があります。

「当社グループは、2027年3月期よりコア営業利益の定義を変更しており、事業の本質的な収益性を示す指標として、営業利益から以下の項目を除外したコア営業利益を開示しています。
・製品に関する無形資産の償却費 ・リストラクチャリングに伴う損益 ・有形固定資産、無形資産、のれんに係る減損損失 ・損害賠償や和解等に伴う損益 ・買収関連費用 ・為替差損益(2028年3月期から適用) ・その他
なお、本表に記載する2026年3月期のコア営業利益についても、当該定義変更を反映しています」

前年の数字も新しい定義で組み替えられているので、比較そのものは正しく行えます。ただし過去の資料に載っている数字とは一致しません。

そして「為替差損益」は2028年3月期から除外される予定と書かれています。つまり来々期には、同じ「コア営業利益」がまた別の中身になります。

本サイトでは、会社独自の利益指標をここまで5社で見てきました。

会社 指標 会計基準との関係
日本製鉄(5401) 実力ベース事業利益 独自指標のほうが悪い
中外製薬(4519) Core実績 業績予想そのものがCoreベース
富士通(6702) 調整後利益 最終利益で符号が逆転
NEC(6701) Non-GAAP利益 株式報酬まで控除
第一三共(4568) コア営業利益 コアは+6.2%、会計基準は△12.0%定義を今期変更

指標の名前が同じでも、中身は会社ごとに違い、しかも年によって変わります。定義の注記を読むことが、そのまま決算を読むことになります(調整後利益・コア営業利益の見方)。

なお今期のコア外の費用222億円について、会社は「当期にEUスペシャルティビジネスユニットの事業再編費用をコア外の費用に計上したこと等により、減益となりました」と説明しています。

⑤配当78円→100円 ― 累進配当と調整後DOE10%以上

年間配当金 2026年3月期 2027年3月期(予想)
中間 39.00円 50.00円
期末 39.00円 50.00円
合計 78.00円 100.00円(+22円)

最終利益が減益予想(△10.3%)のなかで、配当は28.2%の増配です。その根拠を、会社は方針として明示しています。

「第6期中期経営計画期間(2026年度-2030年度)においては、配当金は原則として維持・増配し続ける累進配当のもと、各年度の調整後DOEを10.0%以上とすることを配当水準の指標として掲げています」

「累進配当」は減配しないという約束、「DOE」は純資産に対する配当の割合です。利益ではなく純資産を基準にすると、利益が振れても配当は安定します配当利回りと配当性向の見方【図解】)。

自己株式についても「2025年5月1日から2026年3月24日にかけて、取得総額2,000億円または取得株数8,000万株を上限とした自己株式の取得枠を設定し、当該期間中に取得した全株式(3,145万株)を2026年6月10日に消却」と実績が示されています。

財務は資産4兆1,145億円、親会社所有者帰属持分比率41.4%(前期末42.1%)。中外製薬の82.8%とは対照的な水準で、同じ製薬でも財務の形はまったく違います(貸借対照表の見方【図解】)。

この決算から持ち帰る5つのチェック

  • ① 売上と費用の伸び率を並べる。売上+21.1%に対し売上原価+43.9%・販管費+25.5%。だからコア営業利益は+6.2%です。
  • ② 為替の影響額を探す。会社は売上+419億円、コア営業利益+97億円と開示。増益63億円は為替を除けば減益です。
  • ③ 提携の形を確認する。第一三共はプロフィット・シェアを払う側。中外製薬はロイヤルティを受け取る側で、損益への出方が逆です。
  • ④ 修正の方向がバラバラなときこそ読む。売上+600億円/コア営業利益±0/最終利益△90億円。理由はそれぞれ違います。
  • ⑤ 独自指標の定義変更に気づく。第一三共は今期から定義を変更し、為替差損益は2028年3月期から除外する予定です。

まとめ

2027年3月期第1四半期の第一三共は、エンハーツが伸びるほどパートナーへの支払いが増え、円安が売上を膨らませる一方で費用も膨らませた決算でした。

見出しになりやすい事実 一次資料で確かめた実態
売上収益+21.1%の大幅増収 うち為替が419億円(増収1,001億円の42%)
コア営業利益+6.2%の増益 為替の増益影響97億円を除けば実質は減益
最終利益△19.7%は業績悪化? コア外費用(EU事業の再編費用)・金融費用・法人税等が段階的に効いた
エンハーツが好調 事実。ただし売れるほどアストラゼネカへのプロフィット・シェアが増える
売上を600億円上方修正 コア営業利益は据え置き、最終利益は90億円下方修正
減益予想でも増配 78円→100円累進配当・調整後DOE10.0%以上が方針

この会社で次に確かめるべきことは3つです。

  • プロフィット・シェアの負担が、どこまで増えるか。エンハーツが伸びるほど増える費用です
  • 日本とアメリカンリージェントの減収が止まるか。△3.9%と△14.3%(現地通貨△22.3%)で、オンコロジーの伸びを削っています
  • 法人税等の増加がどこまで続くか。通期の最終利益を90億円下げた直接の理由です

「売上が伸びている」と「利益が増える」は、別のことです。とくに他社と利益を分け合う契約を持つ会社では、その差がはっきり数字に出ます。

本記事は2026年7月31日公表の決算短信、決算補足資料、決算経営説明会資料など、第一三共が公開している一次資料に基づいて作成しています。同社は2027年3月期よりコア営業利益の定義を変更しており、前年同期の数値も変更後の定義で表示されています。情報提供を目的としたものであり、特定銘柄の売買を推奨するものではありません。投資判断はご自身の責任でお願いいたします。

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