【2026年版】富士通(6702)決算分析|最終利益△76.6%と+40.7%。同じ四半期に2つの数字がある

富士通(6702)が2026年7月30日に発表した2027年3月期 第1四半期(2026年4〜6月)の決算は、同じ四半期の最終利益が、2通りに読めるという点で、決算の読み方そのものを問う内容でした。

  • 売上収益 7,793億円(前年同期比+3.9%)
  • 営業利益 525億円(+56.9%)
  • 親会社の所有者に帰属する四半期利益 401億円(△76.6%)
  • 調整後四半期利益 418億円(+40.7%)

会計基準どおりの最終利益は76.6%の減益。会社が使う調整後の利益は40.7%の増益です。

理由ははっきりしています。前年の第1四半期に、新光電気工業の売却益1,419億円が入っていたからです。会社はそのことを説明会資料に1行で書いています。

そしてこの決算には、もう一つ読むべきものがあります。AIが自社のビジネスモデルそのものを変え始めている——会社がそれを、価格の付け方の話として説明しています。順に確かめていきます。

図解:最終利益が△76.6%と+40.7%の2通りになる理由
前年に一度きりの利益が入っていた四半期と、比べている。
第1四半期(億円)
売上収益
7,498 → 7,793(+3.9%)
調整後営業利益
351 → 549(+56.4%)
調整後当期利益
297 → 418(+40.7%)
- 調整項目(当期利益)
+1,419 → △17
当期利益(会計基準どおり)
1,717 → 401(△76.6%)
前年の1,419億円の正体
会社の説明資料に1行——「前年に調整項目として、新光電気工業の売却益(非継続事業からの当期利益)を計上」
★短信のキャッシュ・フロー計算書にも「子会社株式売却益 △142,045百万円」として現れます。
増益197億円は、どこから来たか
サービスソリューション +149(利益率9.3%→11.4%)
消去・全社 +136(△223→△86)★川崎地区再開発に伴う不動産売却益を含む
ハードウェア △50(13→△37の赤字転落)/ユビキタス △37(△45.8%)
読み方:「調整後」はこの会社を継続的に比べるための数字です。ただし調整後にも、一度きりの利益は混じります。
出典:富士通 2027年3月期 第1四半期決算短信・2026年度第1四半期決算概要(2026年7月30日)より作成

全体像 ― 「調整前」と「調整後」で符号が変わる

単位:億円 2025年度 1Q 2026年度 1Q 増減 前年比
売上収益 7,498 7,793 +295 +3.9%
調整後営業利益 351 549 +197 +56.4%
(調整後営業利益率) 4.7% 7.0% +2.3pt
調整後当期利益 297 418 +121 +40.7%
調整項目(営業利益) △16 △23 △7
調整項目(当期利益) +1,419 △17 △1,437
営業利益 334 525 +190 +56.9%
当期利益 1,717 401 △1,316 △76.6%

営業利益は調整前でも調整後でも+56%台。ほとんど差がありません。差が出るのは最終利益だけです。

会社は調整項目を「事業再編、事業構造改革、M&A等に伴う損益ならびに制度変更等による一過性の損益」と定義しています。前年の1,419億円は、その中でも最も大きな一件でした。

本サイトでは、会社が独自の利益指標を持つ例を続けて見てきました。

会社 独自指標 会計基準との向き
日本製鉄(5401) 実力ベース事業利益 独自指標のほうが悪い(事業利益+535億に対し△653億)
中外製薬(4519) Core実績 独自指標のほうが良い(+21.0%と+16.9%)
富士通(6702) 調整後利益 最終利益で符号が逆になる(△76.6%と+40.7%)

どれが正しいという話ではありません。会社が何を「経常的」とみなし、何を外したのかを確かめる——それが読み方です(調整後利益・コア営業利益の見方)。

①増益197億円の中身 ― サービスと「全社」で稼いだ

セグメント(億円) 売上 2025年度1Q 売上 2026年度1Q 調整後営業利益 2025年度1Q 調整後営業利益 2026年度1Q
サービスソリューション 5,146 5,489(+6.7%) 478 628(+31.3%)
ハードウェアソリューション 2,021 2,112(+4.5%) 13 △37(赤字転落)
ユビキタスソリューション 479 344(△28.1%) 82 44(△45.8%)
消去・全社 △148 △152 △223 △86(+136)
連結 7,498 7,793 351 549

増益197億円のうち、サービスが149億円、「消去・全社」が136億円です。ハードウェアとユビキタスが合計87億円のマイナスなので、この2つで全部を作ったことになります。

ここで注目すべきは「消去・全社」の+136億円です。会社の説明はこうです。

川崎地区再開発に伴う不動産売却益
◼ フィジカルAI・次世代CPU・量子などのテクノロジー開発投資の増加

不動産の売却益が、調整後営業利益に入っています。調整項目は「事業再編、M&A等」に限られるため、不動産売却はそこに含まれません。つまり「調整後」の数字にも、一度きりの利益が混じっているということです。

会社が作った指標を使うときも、その中身は確かめる必要があります。

ハードウェアの赤字転落とユビキタスの反動

マイナス側の2つも、理由は明確です。

  • ハードウェアソリューション(△37億円)——売上は+4.5%で伸びていますが、「海外向けが為替影響を中心に増収、国内向けは前年大型商談反動により減収」「売上構成変化に部材コスト上昇もあり減益」部材コストの上昇という言葉は、デンソー日本製鉄の決算でも見たものです
  • ユビキタスソリューション(売上△28.1%)——「前年あったWindows10サポート切れ需要や金融機関向けロット商談の反動」。パソコンの買い替え需要が一巡しました

ユビキタスは通期でも売上2,298億円→1,600億円(△30.4%)と、大幅な減収を計画しています。これは想定内の落ち込みです。

②AIが、価格の付け方を変えている

この決算でいちばん興味深いのは、サービスソリューションの採算改善の説明です。

まず数字から。利益率は9.3%→11.4%(+2.1ポイント)で、会社は増益149億円を3つに分解しています。

要因 金額
増収効果(売上+343億円、+6.7%) +99億円
採算性改善(グロスマージン率 35.7%→37.2%) +78億円
投資拡大等(AIデリバリ基盤、経営基盤強化) △28億円

そして、その採算性改善の中身がこれです。

▎AIドリブンデリバリ
・裾野の拡大:SIプロジェクトのほぼ全てにおいてAIを活用
・適用の深掘:AIトップガンプロジェクト——特定プロジェクトにハイスキル人材を集中投入、工期の大幅短縮を実現し実践知を展開
・商談へ展開:AIドリブンモダナイゼーションサービス(26/7〜)——最先端AI技術(マルチAI)+専門エンジニアの知見でシステム刷新を加速(移行期間の40%短縮

▎プライシング戦略
人月型から提供価値ベースプライシングへ
データ量/コード量ベースの従量型、成果報酬型など
・オファリングビジネスの拡大/自社IPで付加価値の高いUvance Vertical商材の拡大

この2つは、セットで読む必要があります。

システム開発の売上は、伝統的に「何人が何か月働いたか」で決まってきました。ところがAIで工期が40%短くなれば、人月で請求する限り売上も減ります。効率化が、そのまま減収になる構造です。

だから会社は「人月型から提供価値ベースプライシングへ」と書いています。AIの導入と価格モデルの変更は、切り離せないということです。

グロスマージン率は35.7%→37.2%へ改善し、年間では38.7%を計画しています。この数字が伸び続けるかどうかが、AIがこの会社の利益になっているかの判定材料になります。

③Uvanceが売上の35%へ ― 受注は+51%

富士通が成長の中核に据える「Uvance」(社会課題を起点としたクロスインダストリーの事業)の数字も明確です。

Uvance(億円) 2025年度1Q 2026年度1Q 前年比
売上収益 1,467 1,922 +31.0%
 Vertical(4分野) 498 734 +47%
 Horizontal(3つの基盤) 969 1,188 +23%
受注高 1,276 1,933 +51%
サービス売上に占める構成比 29% 35% +6pt

年間では2024年度4,828億円→2025年度7,093億円(+47%)→2026年度計画8,400億円(+18%)という推移です。売上の伸び(+31%)より受注の伸び(+51%)が大きい点は、先行きにとって良い材料です。

受注の状況(国内)も開示されています。

国内受注(前年同期比) 2025年度 年間 2026年度 1Q
国内 合計 102% 110%
エンタープライズ 101% 101%
 製造 99% 106%
 流通 106% 96%
パブリック 101% 114%
 金融 94% 91%
 パブリック&ヘルスケア 105% 115%
 ミッションクリティカル・ナショナルセキュリティ他 102% 139%

ナショナルセキュリティ(防衛関連を含む)の受注が139%。会社はパブリックの増収要因として「金融・自治体・公営競技・防衛を中心に増収」と説明しており、パブリックの利益率は9.6%→12.9%(+3.3ポイント)まで上がっています。

一方で金融は91%と、受注が前年を下回っています。国内サービスの中でも、需要のある分野とない分野が分かれています。

④通期予想は据え置き ― 海外サービスは11.3%の減収計画

単位:億円 2025年度 実績 2026年度 予想 前年比
売上収益 35,029 35,100 +0.2%
調整後営業利益 3,905 4,250 +8.8%
(調整後営業利益率) 11.2% 12.1% +0.9pt
調整後当期利益 2,982 3,200 +7.3%
(参考)当期利益 3,100 △31.0%

通期でも同じ構図です。調整後では+7.3%の増益、会計基準どおりでは△31.0%の減益。前年に新光電気工業の売却益があったためです。

予想は期初から変えていません。調整後営業利益の進捗率は12.9%(549億円÷4,250億円)と低く見えますが、この会社は下期に利益が集中する季節性があります。

セグメント別の通期計画には、注目すべき点があります。

通期計画(億円) 2025年度 2026年度 前年比
サービスソリューション 売上 23,469 24,700 +5.2%
 国内 17,717 19,600 +10.6%
 海外 5,752 5,100 △11.3%
サービス 調整後営業利益 3,614 4,300 +19.0%
(利益率) 15.4% 17.4% +2.0pt
ユビキタスソリューション 売上 2,298 1,600 △30.4%

国内サービスは+10.6%で伸ばす一方、海外サービスは11.3%の減収を計画しています。為替前提を円高側(米ドル151円→150円、ユーロ175円→170円、英ポンド202円→195円)に置いていることもありますが、それだけでは説明できない下げ幅です。

この会社の成長は、いま国内に寄っています。同じIT・電機で日立製作所(6501)が海外のエナジー事業(欧州の大型HVDC)で伸びたのとは、対照的な形です。

⑤財務・株主還元 ― ネット有利子負債はマイナス4,642億円

単位:億円 2025年度末 2026年度 1Q末
資産 34,166 33,085
負債 13,681 12,539
資本(純資産) 20,484 20,545
親会社所有者帰属持分比率 59.4% 61.5%
有利子負債 1,330 1,336
ネット有利子負債 △3,172 △4,642

ネット有利子負債がマイナス4,642億円。借入より手元資金のほうが多い、実質無借金の状態です(貸借対照表の見方【図解】)。

キャッシュ・フローでは、コア・フリー・キャッシュ・フローが2,303億円→2,177億円とほぼ横ばい。会社は増減要因として「法人税や賞与の支払い、不動産売却収入」を挙げています。

年間配当金 2026年3月期 2027年3月期(予想)
中間 15.00円 25.00円
期末 35.00円 30.00円
合計 50.00円 55.00円

年間で5円の増配です。予想EPS182.43円(調整後188.31円)に対して55円ですから、配当性向は約30%配当利回りと配当性向の見方【図解】)。あわせて期中平均株式数が17億7,734万株→17億3,478万株(△2.4%)と、自社株買いも進んでいます。

なお会社は2025年12月22日に株式会社ブレインパッドの株式86.30%を取得しました。理由として「急拡大するData&AI市場を中長期の成長エンジンとしてとらえて」いることを挙げています。M&A関連費用が10億円→24億円に増えているのは、この案件の影響です。

この決算から持ち帰る5つのチェック

  • ① 「調整前」と「調整後」を必ず並べる。富士通の最終利益は△76.6%と+40.7%。差は前年の新光電気工業の売却益1,419億円です。
  • ② 調整後にも一度きりの利益は混じる。「消去・全社」の+136億円には川崎地区再開発の不動産売却益が含まれています。
  • ③ セグメントの符号を見る。増益197億円はサービス+149・全社+136で作られ、ハードウェアは赤字転落、ユビキタスは△45.8%でした。
  • ④ AIの効果は「価格の付け方」に出る。会社は「移行期間の40%短縮」と同時に「人月型から提供価値ベースプライシングへ」と書いています。
  • ⑤ 通期計画の国内と海外を分ける。サービスは国内+10.6%、海外△11.3%。成長の場所が偏っています。

まとめ

2027年3月期第1四半期の富士通は、本業の採算が明確に改善し、前年の売却益がなくなったために最終利益は大幅減益に見えた決算でした。

見出しになりやすい事実 一次資料で確かめた実態
最終利益が76.6%の大幅減益 前年の新光電気工業の売却益1,419億円の反動。調整後では+40.7%の増益
調整後営業利益+56.4% サービス+149億円と「消去・全社」+136億円で作られ、後者には不動産売却益を含む
AIで生産性が上がっている 事実。ただし「移行期間の40%短縮」は人月型では減収要因。だから価格モデルを変えている
Uvanceが成長ドライバー 売上1,922億円(+31.0%)・受注+51%・構成比35%。通期計画8,400億円
グローバル企業として成長 通期計画は国内+10.6%に対し海外△11.3%
PC需要が支える ユビキタスはWindows10サポート切れ需要の反動で△28.1%、通期も△30.4%の計画

この会社で次に確かめるべきことは3つです。

  • グロスマージン率が計画どおり上がるか。第1四半期は37.2%(前年35.7%)で、年間計画は38.7%。AIと価格モデルの成果はここに出ます
  • 海外サービスの△11.3%が計画どおりに収まるか。下振れすれば通期の増益計画に効いてきます
  • Uvanceの受注(+51%)が売上に変わるか。通期計画8,400億円に対し、第1四半期は1,922億円です

「AIで効率が上がると売上が減る」という矛盾に、会社が価格モデルの変更で答えようとしている。システム開発という業種の決算は、これから数年、この一点を見続けることになりそうです。

本記事は2026年7月30日公表の決算短信および2026年度第1四半期決算概要(プレゼンテーション資料)など、富士通が公開している一次資料に基づいて作成しています。同社の「調整後」の数値は、事業再編・事業構造改革・M&A等に伴う損益および制度変更等による一過性の損益を控除したものです。情報提供を目的としたものであり、特定銘柄の売買を推奨するものではありません。投資判断はご自身の責任でお願いいたします。

実際に買うところまで進むなら
決算の読み方はどの証券会社でも同じように使えます。違うのは手数料・取扱商品・使い勝手です。