デンソー(6902)が2026年7月31日に発表した2027年3月期 第1四半期(2026年4〜6月)の決算は、今回取り上げてきた大型株のなかで、いちばん厳しい内容でした。
- 売上収益 1兆9,139億円(前年同期比+9.1%)——増収です
- 営業利益 842億円(△21.5%)——2割超の減益
- 親会社の所有者に帰属する四半期利益 679億円(△14.4%)
- 通期見通しも営業利益△9.5%の減益予想
売上が9%伸びているのに、営業利益は230億円減りました。
その理由を、会社は決算説明会の質疑応答で1つの数字に絞って答えています。「部材費が△395億円」。そしてその中身が、いま世界で起きていることを映しています。順に確かめていきます。
為替 +170
合理化 等 +145
人への投資(賃上) △150
開発投入(IT・知財・人財) △135
価値創造基盤投入 △80/品質 △35/構造改革 △25
全体像 ― 増収の中身は「為替」
| 単位:億円 | 2026年3月期 Q1 | 2027年3月期 Q1 | 前年比 |
|---|---|---|---|
| 売上収益 | 17,541(±0.0%) | 19,139 | +9.1% |
| (うち物量ベース/為替影響除く) | — | — | +2.6% |
| 営業利益 | 1,072(△11.1%) | 842 | △21.5% |
| 営業利益率 | 6.1% | 4.4% | △1.7pt |
| 税引前四半期利益 | 1,402 | 1,126 | △19.7% |
| 親会社所有者帰属 四半期利益 | 793(△16.1%) | 679 | △14.4% |
| 1株当たり四半期利益 | 28.50円 | 25.51円 | △10.5% |
| 為替(1ドル) | 144.6円 | 159.5円 | 14.9円の円安 |
まず押さえたいのは、増収+9.1%のうち実際の物量の伸びは+2.6%だという点です。会社は為替影響を除いた「物量ベース」を併記しており、残りの6.5ポイントは円安によるものだと分かります。
前年の第1四半期も営業利益△11.1%の減益でした。2年続けての減益です。営業利益率は6.1%から4.4%へ、1.7ポイント下がりました。
得意先別の内訳も開示されています。
| 売上収益(億円) | 2025年6月期 | 2026年6月期 | 前年比 | 物量ベース |
|---|---|---|---|---|
| トヨタグループ | 9,710 | 10,619 | +9.4% | +3.6% |
| トヨタグループ外 | 6,321 | 6,876 | +8.8% | +0.9% |
| 市販・非車載事業ほか | 1,510 | — | — | — |
| 合計 | 17,541 | 19,139 | +9.1% | +2.6% |
トヨタグループ向けが売上の55.5%を占めます。物量ベースでもトヨタグループが+3.6%と伸びる一方、グループ外は+0.9%とほぼ横ばいでした。トヨタの生産動向がそのまま業績に効く構造です。
①部材費395億円の中身 ― AIのメモリ高騰が自動車部品に届いた
この決算でいちばん重要なのは、質疑応答のこのやり取りです。
A:銅やアルミニウム、白金などの素材及び半導体メモリなどの部材価格上昇によるもの。部材費の高騰はもともと計画に入れていたが、さらに影響が出ている。
「半導体メモリ」がコスト増の要因として名指しされています。
この1年、当サイトで追いかけてきた決算を並べると、同じ現象が別の場所から見えます。
- NVIDIA——AI半導体の需要が爆発
- 信越化学——「300mmウエハーは各社フル稼働で能力律速」、6月の出荷は単月として過去最高
- 日立製作所——データセンター向け電力需要でエナジーの受注が+87%
- デンソー——その半導体メモリの値上がりが、コストとして跳ね返っている
AIブームは、半導体を「売る側」には追い風ですが、「買う側」には向かい風です。自動車には数百個の半導体が使われます。データセンター向けにメモリが取られ、価格が上がれば、車をつくる会社の原価が上がります。
同じニュースが、業種によって正反対の意味を持つ——決算を横断して読むと、こういう構造が見えてきます。
なお会社は「部材費の高騰はもともと計画に入れていたが、さらに影響が出ている」とも述べています。想定はしていたが、想定を超えたということです。
②地域別 ― 日本の営業利益率は0.7%、欧州は営業損失
所在地別のセグメントを見ると、この会社の収益構造がはっきりします。
| 地域 | 売上収益 | 前年比 | 営業利益 | 前年比 | 営業利益率 |
|---|---|---|---|---|---|
| 日本 | 11,100億円 | +9.5% | 76億円 | △43.3% | 0.7% |
| 北米 | 5,381億円 | +13.7% | 253億円 | +12.1% | 4.7% |
| 欧州 | 1,988億円 | +6.3% | △86億円 | 前年は+52億円 | — |
| アジア | 4,892億円 | +6.6% | 418億円 | △12.2% | 8.5% |
| その他 | 370億円 | +23.0% | 73億円 | +31.6% | 19.7% |
3つ、目を引く数字があります。
- 日本は売上1兆1,100億円に対して営業利益76億円。利益率0.7%です。売上の6割近くを占めながら、利益はほとんど出ていません。会社は理由を「円安の進行や操業度差益があるものの、部材費等の高騰や将来成長に向けた投入の強化」と説明しています
- アジアが418億円で最大の利益源です。利益率8.5%は日本の12倍。ただし「車両販売不振」があり、前年比では12.2%の減益
- 欧州は86億円の営業損失。前年は52億円の黒字でした。理由は「品質費用の発生」です
日本で作って日本で利益を出す構造ではない——これはデンソーに限らず、日本の自動車部品メーカーに共通する姿です。ホンダが「二輪の会社」だったように、売上構成と利益構成は一致しません(損益計算書の見方【図解】)。
③通期は「売上だけ上方修正、利益は据え置き」
| 単位:億円 | 2027年3月期 予想 | 前期比 |
|---|---|---|
| 売上収益 | 77,500(上方修正) | +2.8% |
| 営業利益 | 5,000(据え置き) | △9.5% |
| 税引前利益 | 5,530 | △10.4% |
| 親会社所有者帰属 当期利益 | 3,820 | △13.9% |
| 1株当たり当期利益 | 150.08円 | — |
売上だけを引き上げ、利益は動かしませんでした。その理由も質疑応答で説明されています。
つまり「悪い話は想定内、良い話(円安)だけ反映した」という修正です。結果として通期は営業利益△9.5%、最終利益△13.9%の減益予想のままになっています。
第2四半期以降の為替前提は1USD=153円、1EUR=180円。第1四半期の実績(159.5円)より円高に置かれており、ここでも保守的です。
第1四半期の進捗率は679億円 ÷ 3,820億円=17.8%。4分の1に届いていません。
④減益なのに、増配して1.85億株を買い戻した
この決算でもっとも意外な数字が、株主還元です。
| 2026年3月期 | 2027年3月期(予想) | |
|---|---|---|
| 年間配当金 | 67.00円 | 74.00円(+10.4%) |
| 期末自己株式数 | 2億1,904万株 | 4億394万株 |
| 期中平均株式数 | 27億8,143万株 | 26億6,112万株(△4.3%) |
最終利益が14.4%減るなかで、配当は10.4%増やしています。そして自己株式が1億8,490万株増えました。発行済株式数29億1,098万株に対して、1年足らずで6.4%分を買い戻した計算です。
その原資は、貸借対照表に表れています。
| 単位:億円 | 2026年3月末 | 2026年6月末 | 増減 |
|---|---|---|---|
| 資産合計 | 87,309 | 87,960 | +652 |
| 負債 | 30,150 | 34,828 | +4,678 |
| 資本合計 | 57,158 | 53,133 | △4,026 |
| 親会社所有者帰属持分比率 | 62.9% | 58.1% | △4.8pt |
会社の説明はこうです——「負債は、社債及び借入金の増加等により4,678億円増加」「資本は、自己株式の取得等により4,026億円減少」。
借入を増やして自社株を買ったという構図です。自己資本比率が62.9%から58.1%へ4.8ポイント下がったのは、業績悪化ではなく、この資本政策によるものです(貸借対照表の見方【図解】)。
これをどう評価するかは分かれます。「減益局面でも還元を続ける姿勢」と読むこともできますし、「利益が減るなかで負債を増やしている」と読むこともできます。ただし58.1%という自己資本比率は依然として高く、財務の余力は十分です。
なお1株当たり四半期利益の減少幅(△10.5%)が最終利益の減少幅(△14.4%)より小さいのは、この買い戻しで株数が4.3%減ったためです(配当利回りと配当性向の見方【図解】)。
⑤リスク ― 関税と、熊本地震のサプライチェーン
質疑応答では、2つのリスクについて具体的な回答がありました。
北米の関税
北米は今回、営業利益+12.1%と唯一の増益地域でした。会社は理由を「部材費等の高騰があるものの、合理化努力により」としています。現地化が効いていると読めます。
熊本地震 ― 自社は無事だが、仕入先はまだ確認中
自社の工場は無事でも、部品が届かなければ生産は止まります。デンソーは「現状定量的にお答えできるものはない」としており、この時点では業績への影響が織り込まれていません。
同じことはホンダの決算でも確認しました。熊本地震の影響は、この四半期の数字にはまだ表れていない——次の決算で確かめるべき項目です。
⑥トヨタ・ホンダと並べて読む
2026年の自動車関連3社を並べると、それぞれ違う理由で数字が動いています。
| 会社 | この四半期の特徴 |
|---|---|
| トヨタ自動車(7203) | 営業利益△8.8%なのに最終利益+75.6%——豊田自動織機の売却益約6,000億円 |
| ホンダ(7267) | 営業利益+117.4%だが前年のEV関連損失1,220億円の反動。本業4要素は△44億円 |
| デンソー(6902) | 増収+9.1%でも営業利益△21.5%。部材費395億円の悪化が本業を直撃 |
トヨタとホンダは「本業の外」で数字が動きました。デンソーは違います。売却益も一時損失の反動もなく、本業のコストがそのまま利益を削っています。
完成車メーカーは値上げや為替で吸収できる部分がありますが、部品メーカーは原材料の値上がりを直接受けます。同じ自動車産業でも、サプライチェーンのどこにいるかで決算の顔つきが変わる——それがこの3社の比較から見えることです。
この決算から持ち帰る5つのチェック
- ① 増収を「物量」と「為替」に分ける。売上+9.1%のうち、物量ベースは+2.6%。残りは円安でした。
- ② 減益要因は金額で確認する。営業利益△230億円の内訳は増益+590/減益△820で、最大は部材費△395億円です。
- ③ コスト増の中身を質疑応答で探す。「銅・アルミ・白金」に加えて「半導体メモリ」が名指しされました。AI需要の裏側にあるコストです。
- ④ 地域別の利益率を比べる。売上の6割を占める日本の営業利益率は0.7%、最大の利益源はアジア(8.5%)、欧州は営業損失でした。
- ⑤ 自己資本比率の低下理由を確認する。62.9%→58.1%の低下は業績悪化ではなく、借入を増やして1.85億株を買い戻した結果です。
まとめ
2027年3月期第1四半期のデンソーは、本業のコスト増がそのまま利益を削った決算でした。一時的な要因で数字が膨らんだり縮んだりしたのではありません。
| 見出しになりやすい事実 | 一次資料で確かめた実態 |
|---|---|
| 売上収益+9.1%の増収 | 物量ベースでは+2.6%。残りは円安(1ドル144.6円→159.5円) |
| 営業利益△21.5%の減益 | 最大要因は部材費△395億円——銅・アルミ・白金と半導体メモリの値上がり |
| 全社が苦戦 | 北米だけは+12.1%の増益(現地化と合理化)。欧州は品質費用で営業損失 |
| 通期は売上を上方修正 | 利益は据え置き=通期も営業利益△9.5%・最終利益△13.9%の減益予想 |
| 自己資本比率が4.8pt低下 | 借入を増やして1.85億株を買い戻した結果。業績悪化ではない |
| 減益なのに増配 | 配当67→74円(+10.4%)。株数も4.3%減り、EPSの減少幅は利益より小さい |
この会社を追いかけるうえで、次に確かめるべきことは3つです。
- 部材費の高騰が止まるか。とくに半導体メモリの価格は、AIデータセンター需要が続くかぎり下がりにくい可能性があります
- 日本の利益率が戻るか。売上の6割を占める市場で利益率0.7%という状態は、続けられるものではありません
- 熊本地震のサプライチェーン影響。決算発表時点で仕入先30社のうち13社が確認中でした。次の四半期に数字として表れます
AIブームの恩恵を受ける会社と、そのコストを負担する会社。デンソーの決算は、後者の側から見た2026年の記録です。
本記事は2026年7月31日公表の決算短信、決算説明資料、質疑応答要旨など、デンソーが公開している一次資料に基づいて作成しています。情報提供を目的としたものであり、特定銘柄の売買を推奨するものではありません。投資判断はご自身の責任でお願いいたします。
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