【2026年版】資生堂(4911)決算分析|コア営業利益+90%、売れていないのに利益が戻った理由

資生堂(4911)が2026年8月5日に発表した2026年12月期 第2四半期(中間期/1〜6月)の決算は、見出しの数字だけ見ると力強い回復です。

  • 売上高 4,990億円(前年同期比+6.2%)
  • コア営業利益 444億円(+90.1%)
  • 営業利益 419億円(+131.8%)
  • 親会社の所有者に帰属する中間利益 297億円(+211.4%)
  • 配当は年40円→60円へ、50%の増配

ところが、会社が併記している「実質増減率」を見ると、売上は△0.2%です。

為替と事業譲渡の影響を除くと、売れている量は前年並み。それなのにコア営業利益は9割増えました。売れていないのに、利益だけが戻っている——この決算の中身を確かめていきます。

図解:売上は実質△0.2%。それでもコア営業利益が9割増えた理由
会社が開示している損益の内訳です。コストの比率がすべて下がっています。
売上高
4,698億 → 4,990億円(+6.2%/実質△0.2%
売上総利益率
77.4% → 78.9%(+1.5pt)
販管費率
73.0% → 71.1%(△1.9pt)
コア営業利益率
5.0% → 8.9%(+3.9pt)
ただし「削って作った利益」ではない
マーケティング投資は1,353億→1,462億円(+109億円、+8.1%)と増やしている
人件費 1,081→1,103億(+2.0%)/経費 818→815億(△0.4%)
会社の説明=「昇給等の費用増を構造改革効果・自然減でオフセット」
読み方:売上が伸びないなかでコスト構造を作り替えた結果です。ただし売上が戻らなければ、この改善は一度きりで終わります。
出典:資生堂 2026年12月期 第2四半期(中間期)決算短信・決算説明資料(2026年8月5日)より作成

全体像 ― 3つの利益がすべて跳ねた

単位:百万円 2025年 中間期 2026年 中間期 前年比
売上高 469,831(△7.6%) 498,965 +6.2%
(実質増減率) △0.2%
コア営業利益 23,372 44,432 +90.1%
営業利益 18,084 41,925 +131.8%
税引前中間利益 19,202 44,200 +130.2%
親会社帰属 中間利益 9,535 29,697 +211.4%
1株当たり中間利益 23.87円 74.32円
親会社所有者帰属持分比率 47.4%(前期末) 50.0% +2.6pt

前年の中間期が売上△7.6%の減収だったことを、まず押さえておく必要があります。低いところからの回復です。

「コア営業利益」とは何か

資生堂はコア営業利益を主軸に置いています。定義は短信に明記されています。

コア営業利益=営業利益から、構造改革に伴う費用・減損損失・買収関連費用等、非経常的な要因により発生した損益(非経常項目)を除いて算出

この会社の場合、営業利益(+131.8%)のほうがコア営業利益(+90.1%)より大きく伸びています。理由は前年に非経常項目が多かったからです。

  • 前年中間期:コア23,372 − 営業18,084 = 非経常項目 52.9億円
  • 今期中間期:コア44,432 − 営業41,925 = 非経常項目 25.1億円

構造改革の費用そのものが半分以下に減っています。「改革の途中」から「改革の成果が出る段階」へ移りつつある、と読めます(調整後利益・コア営業利益の見方)。

①「実質△0.2%」という数字を見逃さない

資生堂は売上の増減を3つの尺度で開示しています。

売上高(百万円) 当中間期 構成比 増減率 外貨増減率 実質増減率
日本事業 144,701 29.0% △0.8% △0.8% △0.4%
中国・トラベルリテール事業 191,406 38.4% +10.0% △0.1% △0.1%
アジアパシフィック事業 37,064 7.4% +10.1% +1.9% +2.1%
米州事業 54,572 10.9% +6.0% △0.9% △0.9%
欧州事業 66,863 13.4% +12.4% △1.2% △1.2%
合計 498,965 100% +6.2% △0.6% △0.2%

円建てではすべての海外セグメントが増収ですが、外貨ベースではほぼ全部がマイナスです。

  • 中国・トラベルリテール:円建て+10.0% → 外貨ベース△0.1%
  • 欧州:円建て+12.4% → 外貨ベース△1.2%
  • 米州:円建て+6.0% → 外貨ベース△0.9%

10ポイント以上の差が、すべて為替から来ています。この「実質増減率」の併記は、投資家にとって非常に有用な開示です。デンソーが「物量ベース」を、日立が「為替影響除き」を併記しているのと同じ考え方です。

ただし、明るい材料もあります。会社は四半期ごとの実質成長率を示しており、第1四半期が△3%だったのに対し、第2四半期は+2%とプラスに転換しました。「主要ブランドでモメンタム改善、『エリクシール』『narciso rodriguez』がけん引」としています。

②利益はどこから来たのか ― コスト構造の作り替え

会社が開示している損益の内訳です。

単位:億円 2025年上期 構成比 2026年上期 構成比 前年差
売上高 4,698 100% 4,990 100% +291
売上原価 1,061 22.6% 1,051 21.1% △10
売上総利益 3,637 77.4% 3,939 78.9% +302
販売費及び一般管理費 3,429 73.0% 3,548 71.1% +118
うちマーケティング投資 1,353 28.8% 1,462 29.3% +109
うち人件費 1,081 23.0% 1,103 22.1% +22
うち経費 818 17.4% 815 16.3% △3
その他の営業収益・費用 26 0.6% 53 1.1% +27
コア営業利益 234 5.0% 444 8.9% +211

注目すべきは、マーケティング投資を109億円増やしている点です。「利益が出たのは広告費を削ったから」ではありません。

会社の説明を項目ごとに拾うと、構造がはっきりします。

  • 売上原価——「偏在在庫引当の反動などで原価率改善」
  • 販管費——「為替影響除きでは減少」
  • 人件費——「昇給等の費用増を構造改革効果・自然減でオフセットし減少」
  • 経費——「構造改革効果に伴う外部委託費・償却費の減少、および機動的なコストマネジメント」
  • その他の営業収益・費用——「引当の戻り等」(+27億円)

「昇給はしたが、構造改革と自然減で吸収した」——これが人件費率が23.0%から22.1%へ下がった中身です。

この形はパナソニックHDと同じです。あちらも増益949億円のうち約350億円が構造改革効果でした。ただしパナソニックの記事で書いたとおり、構造改革の効果は「後半に薄れる」性質があります。

③どこが稼いでいるのか ― 中国が利益の7割

コア営業利益(百万円) 2025年 中間期 2026年 中間期 増減 今期の売上比
日本事業 19,506 20,911 +1,404 14.4%
中国・トラベルリテール事業 38,811 47,630 +8,819 24.6%
アジアパシフィック事業 △129 2,222 +2,351 5.9%
米州事業 △5,830 2,015 +7,846 3.6%
欧州事業 △2,557 △3,393 △835 △4.8%
その他 △900 △173 +726
小計 48,899 69,212 +20,313 13.6%
調整額(本社費用等) △25,526 △24,779 +746
合計 23,372 44,432 +21,059 8.9%

3つ、押さえるべき点があります。

  • 中国・トラベルリテールが476億円で、セグメント利益(小計692億円)の68.8%を稼いでいます。売上比24.6%は全セグメントで最高。売上でも38.4%と日本(29.0%)を上回り、この会社の主力は中国です
  • 米州が58億円の赤字から20億円の黒字へ転換。78億円の改善で、増益額の37.3%を占めます。会社は「人件費・経費中心に構造改革効果が発現」としています
  • 欧州だけが赤字を拡大しました(△25億→△34億)。会社は「上期はマーケティングの先行投資もあり減益、下期に利益回収を目指す」と説明しています

もう一つ見落とせないのが調整額(本社費用等)248億円です。セグメント利益の合計692億円のうち、35.8%が本社費用で消えています。ここが縮まなければ、全社の利益率は上がりません。

日本 ― インバウンドは減っているが、利益率は上がった

日本事業は売上1,447億円(△0.4%)とわずかに減収ですが、コア営業利益は209億円(+7.2%)、利益率は13.3%→14.4%へ改善しました。

会社の説明が具体的です。

  • 「インバウンド:中国人旅行者数は減少継続、市場成長は鈍化」——インバウンド売上は△10%台半ば
  • ただし「タイ・台湾・韓国等の国・地域を中心とした顧客基盤の多様化が進展」し、マイナス幅は縮小
  • ローカル(国内客)は緩やかな成長が継続
  • ブランド別では「エリクシール」「アネッサ」が2桁成長継続、「SHISEIDO」も好調。一方「クレ・ド・ポー ボーテ」はマイナス継続

「インバウンドが減っても利益率が上がる」——ここが今回の日本事業の要点です。原価率と人件費率の低減が効いています。

中国 ― 「618」商戦で成長回帰

中国・トラベルリテール事業は、2つの異なる動きが混ざっています。

  • 中国本土:+1桁前半%(オフライン+1桁半ば%、Eコマース+1桁前半%)。会社は「『618』商戦好調で中国が成長回帰しシェアも拡大、収益性も改善」としています
  • トラベルリテール(免税):△1桁後半%「中国大陸ではリテーラー再編影響継続」——ただしマイナス幅は縮減

中国市場そのものは戻りつつあるが、免税チャネルはまだ回復していないという構図です。アリババの決算でも中国の消費環境の変化を追いましたが、プレステージ化粧品市場は「堅調に成長」と会社は見ています。

④上期で通期の7割を稼いだのに、見通しは据え置き

単位:百万円 2026年12月期 通期予想 前期比 中間期の進捗率
売上高 990,000 +2.1% 50.4%
コア営業利益 69,000 +55.0% 64.4%
営業利益 59,000 71.1%
親会社帰属 当期利益 42,000 70.7%
1株当たり当期利益 105.12円

中間期で通期利益の7割を稼いでいますが、通期見通しは据え置きです。会社はその理由を明確に書いています。

上期実績——「売上高:欧米中心の競争激化、一部ブランドでの苦戦継続で想定を下振れ」「コア営業利益:全社を挙げてのコストマネジメント、為替影響等により想定を上回る

通期見通し——「売上高は下期の投資強化で挽回を図る、コア営業利益は計画超過を目指す

売上は計画に届かず、利益は計画を超えた。だから通期は動かさない——という判断です。

会社は通期のプラス・マイナス要因も列挙しています。

  • (+)最適なリソース再配分による成長加速/全社を挙げてのコストマネジメント/円安に伴う為替ポジティブ影響
  • (-)欧米中心の売上未達リスク中国・トラベルリテール市場の不透明感

地政学リスクについても言及があります。「日中関係:1Q公表の通期見通しから乖離なし。多様な国籍の旅行者需要の獲得、中国人の旅行先シフトへの機動的対応継続」「中東情勢:代替品の調達含めた原材料需給状況の改善を受けて、通期の経営影響は軽減される見込み」。

下期は成長投資を加速する計画とされており、上期のような利益率が下期も続くとは会社自身が想定していない点には注意が必要です。

⑤配当は40円→60円へ、50%の増配

2025年12月期 2026年12月期(予想)
中間配当 20.00円 30.00円
期末配当 20.00円 30.00円
年間配当金 40.00円 60.00円(+50%)
1株当たり当期利益(予想) 105.12円
(参考)配当性向 約57%

利益の回復に合わせて、配当を5割増やしました。予想EPS105.12円に対して配当60円ですから、配当性向は約57%になります。

減益局面で下げた配当を、回復とともに戻しているという位置づけです。ただし配当性向57%は高めの水準で、利益が再び落ちれば維持が難しくなります配当利回りと配当性向の見方【図解】)。

財務面では親会社所有者帰属持分比率が47.4%から50.0%へ改善しました。

⑥同じ「日用品・化粧品」を並べて読む

会社 この期の特徴
資生堂(4911) 売上は実質△0.2%でもコア営業利益+90.1%。構造改革とコストマネジメント。中国が利益の7割
花王(4452) 営業利益+38.5%だが増益266億円のうち115億円は土地売却益。実質+21.8%
ユニ・チャーム(8113) 良い会社なのに株価は下落。上期増益でも通期EPS予想を19%下方修正

3社に共通するのは、「見出しの利益」と「実力」がずれていることです。花王は土地売却益、資生堂は構造改革効果と為替。どこから来た利益なのかを分けないと、来期の姿は描けません。

そして資生堂に固有の論点は、中国への依存度です。利益の7割を1つの地域が生んでいる以上、中国市場の動向がそのまま業績を左右します。

この決算から持ち帰る5つのチェック

  • ① 会社が「実質増減率」を出していたら、必ずそちらを見る。売上+6.2%は実質△0.2%。中国は円建て+10.0%でも外貨ベースは△0.1%でした。
  • ② コストは「金額」ではなく「率」で見る。販管費は118億円増えていますが、売上比では73.0%→71.1%へ低下しています。
  • ③ 何を削って何を増やしたかを確認する。資生堂はマーケティング投資を109億円増やしながら、人件費率と経費率を下げました。
  • ④ セグメントの利益集中度を見る。中国・トラベルリテールがセグメント利益の68.8%本社費用が35.8%を食っている点も見落とせません。
  • ⑤ 進捗率が高くても、会社が据え置く理由を読む。中間期で通期利益の7割ですが、「売上は想定を下振れ」「下期は成長投資を加速」と会社は説明しています。

まとめ

2026年12月期中間期の資生堂は、「売れていないのに利益が戻った」決算でした。悪い意味ではありません。売上が伸びない前提でも利益が出る体質に、作り替えている途中だということです。

見出しになりやすい事実 一次資料で確かめた実態
売上高+6.2%の増収 実質増減率は△0.2%。中国は円建て+10.0%だが外貨ベース△0.1%
コア営業利益+90.1% 売上総利益率+1.5pt、販管費率△1.9pt——コスト構造の改善。マーケティング投資は109億円増やしている
全社が回復 欧州だけは赤字が拡大(△25億→△34億)。米州は58億円の赤字から黒字転換
中国が回復した 中国本土は「618」商戦で成長回帰。ただしトラベルリテールは△1桁後半%と未回復
日本はインバウンドで好調 インバウンドは△10%台半ば。それでも利益率は13.3%→14.4%へ改善
上期で通期の7割を達成 通期は据え置き。会社は「売上は想定を下振れ」「下期は成長投資を加速」と説明

次に確かめるべきことは、はっきりしています。

  • 実質増減率がプラスで続くか。第2四半期に+2%へ転換しましたが、コスト改善で作った利益はいずれ頭打ちになります。最後は売上が戻るかどうかです
  • 下期の投資が売上に変わるか。会社は「下期は成長投資を加速」としています。費用は確実に増え、成果は不確実です
  • 中国とトラベルリテールの行方。利益の7割を占める地域であり、会社自身が「市場の不透明感」をマイナス要因に挙げています

本記事は2026年8月5日公表の決算短信および決算説明資料など、資生堂が公開している一次資料に基づいて作成しています。情報提供を目的としたものであり、特定銘柄の売買を推奨するものではありません。投資判断はご自身の責任でお願いいたします。

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