【2026年版】日本郵船(9101)決算分析|同じ「ホルムズ海峡封鎖」が、あるセグメントを潰し別のセグメントを儲けさせた

日本郵船(9101)が2026年8月5日に発表した2027年3月期 第1四半期(2026年4〜6月)の決算は、ひとつの出来事が、あるセグメントを潰し、別のセグメントを大きく儲けさせたという点で、他にない読み応えがあります。

その出来事とは、ホルムズ海峡の封鎖です。会社の説明会資料には、この言葉が繰り返し出てきます。

  • 売上高 7,276億円(前年同期比+21.1%)
  • 営業利益 577億円(+69.8%)
  • 経常利益 712億円(+27.3%)
  • 親会社株主に帰属する四半期純利益 671億円(+33.5%)
  • 通期の経常利益予想を1,850億円→2,500億円へ650億円の上方修正、配当も240円へ引き上げ

4つの伸び率が、すべて違います。そして会社は業績予想の前提に「ホルムズ海峡封鎖が2026年9月末まで継続する」と明記しています。

紛争が続くことを前提に立てられた予想。それがどういうことなのか、一次資料で順に確かめていきます。

図解:同じ「ホルムズ海峡封鎖」が、逆向きに効いた
セグメント別の経常損益(前年同期比・億円)。原因は同じ、向きは逆。
得をした側 ― 市況が上がった
ドライバルク △27 → 194(+222) 各船型の市況良化+円安+燃料価格の急上昇に伴う評価性由来の収支影響
エネルギー 120 → 239(+118) 「VLCCの市況は歴史的な高水準に」/中東からの出荷減を北米産が補い輸送距離が伸長
損をした側 ― 燃料とルートのコストが増えた
自動車 288 → 168(△120) 輸送台数は前年並みだがルート変更・燃料費の増加・港湾混雑で運航コスト上昇
定期船 120 → 100(△20) 運賃市況は前年超えだが原油価格上昇で燃料費が上昇
物流 32 → △24(△56) 海上貨物の仕入れ価格が先行して上昇/欧州ヘルスケア物流買収ののれん償却費
経常増益152億円の内訳(会社の要因別分析)
為替 +77(159.89円/$、14.57円の円安)/燃料 △27($722.71/MT、$144.11/MTの上昇)
市況変動・取扱量増減等 +57/為替差損益 +45/その他 △1
市況で作った利益は57億円。為替関連が122億円。
読み方:海運は「何が起きたか」より「その会社がどの船を持っているか」で結果が変わります。
出典:日本郵船 2027年3月期 第1四半期決算短信・決算説明会資料・IRデータブック(2026年8月5日)より作成

全体像 ― 4つの伸び率がすべて違う

単位:百万円 2026年3月期 Q1 2027年3月期 Q1 前年比
売上高 600,926 727,656 +21.1%
売上総利益 102,522 146,372 +42.8%
販売費及び一般管理費 68,545 88,664 +29.4%
営業利益 33,976 57,708 +69.8%
持分法による投資利益 23,785 16,562 △30.4%
支払利息 4,916 8,586 +74.7%
為替差損 △5,072 △582 改善
経常利益 55,943 71,222 +27.3%
固定資産売却益 7,826 17,394 +122.3%
税金等調整前四半期純利益 64,443 91,417 +41.9%
親会社株主帰属 四半期純利益 50,287 67,109 +33.5%
1株当たり四半期純利益 116.74円 166.10円
自己資本比率 59.1%(前期末) 57.7% △1.4pt

営業利益は+69.8%も伸びたのに、経常利益は+27.3%にとどまりました。理由は営業外にあります。

  • 持分法による投資利益が238億円→166億円へ72億円の減少——コンテナ船事業を統合したONE(Ocean Network Express)などの利益が減りました
  • 支払利息が49億円→86億円へ37億円の増加——金利上昇と有利子負債の増加

そして最終利益は+33.5%へ戻ります。ここには固定資産売却益174億円(前年78億円)が入っています。船を売った利益です(損益計算書の見方【図解】)。

本業が伸び、持分法が減り、船の売却益が最終利益を押し上げた。4つの伸び率が違う理由は、この3段階です。

①ホルムズ海峡封鎖 ― 同じ原因が逆向きに効いた

ここがこの決算の核心です。会社のセグメント別説明を、そのまま並べます。

セグメント(経常損益・億円) 前年Q1 今期Q1 増減
定期船 120 100 △20
物流 32 △24 △56
自動車 288 168 △120
ドライバルク △27 194 +222
エネルギー 120 239 +118
その他 29 45 +15
連結 559 712 +152

得をした側

エネルギー 239億円(+118億円)
「VLCC・VLGC・石油製品タンカー——ホルムズ海峡封鎖の影響を受け、市況が上昇。VLCCの市況は歴史的な高水準に。VLGC・石油製品タンカーでは、中東地域からの出荷減少を補う形での北米産貨物の出荷増加に伴い輸送距離が伸長し、船腹需給が引き締まって市況が上昇

ドライバルク 194億円(+222億円)
「各船型の市況は前年同期の水準を大きく上回り、為替が前年同期比で円安に推移したことや、ホルムズ海峡封鎖を背景とした燃料価格の急激な上昇に伴う評価性由来の収支影響等により、利益水準は前年同期を上回る」

タンカーが儲かる仕組みは、少し直感に反します。中東からの出荷が減っても、その分を北米産が補えば、船の航海距離は長くなります。同じ量を運ぶのに船と日数が余計に要るため、船の需給が締まって運賃が上がる——これが「輸送距離の伸長」です。

もう一つ、ドライバルクの「評価性由来の収支影響」にも注目してください。燃料価格が急に上がると、安く仕入れておいた燃料在庫の評価が上がり、会計上の利益になります。これは日本製鉄(5401)の「在庫評価差」とまったく同じ構造で、本業の実力とは別のものです。

損をした側

自動車 168億円(△120億円)
輸送台数は前年同期並みの水準を維持し、為替が前年同期比で円安に推移したこと等により売上高は増加したものの、ホルムズ海峡封鎖に伴うルート変更や燃料費の増加、港湾混雑等による運航コストの上昇等により、利益水準は前年同期を下回る」

定期船 100億円(△20億円)
「堅調な輸送需要を背景に、運賃市況は前年同期を上回った一方、ホルムズ海峡封鎖の影響による原油価格上昇の影響を受け、燃料価格が上昇

自動車船は、決まった台数を決まった港へ運ぶ商売です。だからルートが伸びても運賃は自動的には上がらず、燃料代と日数だけが増えます。タンカーやバルカーとは、収益の作り方が根本的に違います。

同じ出来事が、船の種類によって正反対に効く。「海運株」とひとまとめにできない理由が、この決算に全部出ています。

なお物流事業は32億円の黒字から24億円の赤字へ転落しました。売上は1,852億円→2,711億円(+46.4%)と大きく伸びていますが、会社は「海上貨物取扱事業で仕入れ価格が先行して上昇」「2025年度に実施した欧州地域におけるヘルスケア物流事業の買収に伴い、のれん償却費等を計上」と説明しています。買収で売上は増え、利益は減る——買収直後によくある形です。

②増益152億円のうち、市況で作ったのは57億円

会社は経常利益の増減を、要因別にも分解しています。

要因 金額 内容
為替 +77億円 159.89円/$。14.57円の円安
燃料 △27億円 $722.71/MT。$144.11/MTの上昇
市況変動・取扱量増減等 +57億円 ホルムズ海峡封鎖による影響、M&A後ののれん償却費等
為替差損益 +45億円
その他 △1億円
合計 +152億円

増益152億円のうち、為替と為替差損益で122億円。市況変動と取扱量で作ったのは57億円です。

ここは重要です。セグメント別に見ると「ドライバルク+222億円」「エネルギー+118億円」と派手な数字が並びますが、要因別に足し上げると、円安が最大の貢献者だということが分かります。

会社は感応度も開示しています(2〜4四半期の残り9か月)。

  • 為替:1円の円安で約18.4億円の増益
  • 燃料価格:$10/MTの下落で約5.8億円の増益

円安が10円進めば、それだけで184億円。この会社の利益が、自社の努力の外側で決まる部分の大きさが分かります。

2026年の決算では、為替が利益を動かした会社が並びました。中外製薬(4519)は増益571億円のうち為替が+188億円、スズキ(7269)は外部要因が△298億円でした。ただし日本郵船ほど、為替の比率が高い会社は多くありません。

③通期は上方修正。ただし「上期+770億、下期△120億」

単位:億円 2025年度 実績 2026年度 予想 前回予想比
売上高 24,236 28,810 +2,760
営業損益 1,386 1,850 +400
経常損益 2,111 2,500 +650
当期純損益 2,117 2,400 +450
為替レート 150.23円 157.22円 +2.22円
燃料価格 $539.11/MT $741.44/MT +$0.36

大幅な上方修正です。ところが、上期と下期に分けると景色が変わります。

経常損益(億円) 前回予想 今回予想
上期 830 1,600 +770
下期 1,020 900 △120
通期 1,850 2,500 +650

上期を770億円も引き上げる一方、下期は120億円下げています。とくに定期船は上期140億円→620億円(+480億円)と大幅に引き上げながら、下期は350億円→210億円(△140億円)へ下げました。

会社は「いまが良い」と認めつつ、「この後は落ちる」と見ています。上方修正という見出しだけでは、この形は見えません。

業績予想の前提に書かれていること

そして、この予想が何の上に立っているのかが、資料に明記されています。

<業績予想の前提>
中東情勢の緊迫およびホルムズ海峡封鎖:2026年9月末まで継続
スエズ運河迂回に伴う喜望峰ルート利用:2026年度を通じて継続

紛争と迂回が続くことを前提に、業績予想が組まれています。これは会社が望んでいるという意味ではなく、現時点で最も確からしい前提を置いたということです。

ただし投資家の側から見れば、この前提が崩れたときに何が起きるかを考えておく必要があります。ホルムズ海峡が開けば、エネルギーとドライバルクの市況は落ち、自動車と定期船のコストは下がります。プラスとマイナスの両方が同時に動きます。

実際、通期のセグメント別修正でも自動車だけが下方修正(840億円→810億円)で、その理由を会社は「ホルムズ海峡封鎖が期初想定よりも延長することを見込み」と書いています。同じ前提が、片方では上方修正の理由、もう片方では下方修正の理由になっています。

④配当240円へ引き上げ ― 連結配当性向40%が目安

年間配当金 2026年3月期 2027年3月期(予想)
中間 115.00円 120.00円
期末 115.00円 120.00円
合計 230.00円 240.00円

中間・期末とも、前回予想から20円ずつ引き上げられています。会社は「株主還元の基本方針である連結配当性向40%を目安に決定」と説明しており、利益が増えれば配当も自動的に増える設計です(配当利回りと配当性向の見方【図解】)。

予想EPS594.49円に対して240円ですから、配当性向は約40.4%。方針どおりです。

自己株式取得については「投資機会と事業環境を勘案し、機動的な追加還元の実施を検討」とされています。

市況次第で利益が数倍に振れる業種で、配当性向を固定するということは、配当も同じように振れるということです。海運大手3社を高配当株として見るときは、この点を理解しておく必要があります。

⑤NSユナイテッド海運を1,568億円でTOB ― 売り手は日本製鉄

この決算と同時に、大きな買収案件が説明されています。

項目 内容
対象会社 NSユナイテッド海運株式会社
想定買収総額 1,568億円
公開買付価格 10,600円(自社株公開買付価格7,676円)
ストラクチャー 日本郵船によるTOBに加え、日本製鉄が所有する株式の一部をNSユナイテッド海運が自社株TOBで取得
スケジュール 2026年11月下旬〜12月下旬にTOB開始、2027年4月中旬に株式併合
対象会社の規模 外航130隻・内航81隻、売上高2,474億円・EBITDA 367億円(2026年3月期)

会社が挙げる意義は3つです。

  • 「鉄鋼原料輸送を中心とした重要顧客基盤」の取り込み——海運市況変動の影響を受けやすい事業環境下においても安定的な収益基盤を強化
  • ケープサイズバルク領域で世界トップクラスへ——両社の運航船を合わせて625隻(NSユナイテッド211隻+日本郵船414隻)
  • 国内トップクラスの内航事業の取り込み

ここで前回の記事とつながります。NSユナイテッド海運は日本製鉄(5401)の関連会社であり、日本製鉄は保有株の一部を手放す側です。日本製鉄は「国内の実力ベース事業利益を900億円下方修正」する一方で米国事業に集中しており、この売却もその文脈に置くと理解しやすくなります。

そして日本郵船が買う理由は「市況変動の影響を受けにくくするため」。今回の決算でホルムズ海峡ひとつに翻弄された事業構造を、会社自身が変えようとしていることになります。

この決算から持ち帰る5つのチェック

  • ① 4つの利益の伸び率を並べる。売上+21.1%/営業+69.8%/経常+27.3%/最終+33.5%。段差を作ったのは持分法投資利益△72億円固定資産売却益174億円でした。
  • ② 同じ出来事の効き方を、事業ごとに見る。ホルムズ海峡封鎖はエネルギー+118億円・ドライバルク+222億円の追い風であり、自動車△120億円の逆風でもありました。
  • ③ セグメント別と要因別の両方を見る。増益152億円のうち市況・取扱量は57億円で、為替関連が122億円です。
  • ④ 上方修正は上期と下期に割る。経常+650億円の中身は上期+770億円/下期△120億円。会社は下期を前回より慎重に見ています。
  • ⑤ 業績予想の「前提」を必ず読む。日本郵船は「ホルムズ海峡封鎖が2026年9月末まで継続」「喜望峰ルート利用が2026年度を通じて継続」を前提に予想を立てています。

まとめ

2027年3月期第1四半期の日本郵船は、ホルムズ海峡の封鎖でタンカーとバルカーが大きく稼ぎ、自動車船と定期船が燃料費で削られ、差し引きで為替が最大の増益要因になった決算でした。

見出しになりやすい事実 一次資料で確かめた実態
営業利益+69.8%の大幅増益 経常は+27.3%。持分法投資利益が238億→166億支払利息が49億→86億
最終利益+33.5% 固定資産売却益174億円(前年78億円)を含む。船を売った利益
中東情勢で海運が好調 自動車は△120億円、定期船は△20億円、物流は赤字転落。得をしたのはタンカーとバルカー
市況が利益を押し上げた 要因別では市況・取扱量+57億円に対し、為替関連+122億円
通期を650億円の上方修正 上期+770億円/下期△120億円。会社は下期を前回より下げている
好調が続く前提? 予想の前提は「ホルムズ海峡封鎖が2026年9月末まで継続」

この会社で次に確かめるべきことは3つです。

  • ホルムズ海峡と喜望峰ルートの前提が変わらないか。変わればエネルギー・ドライバルクは下がり、自動車・定期船のコストは下がります
  • 第2四半期の定期船が620億円に届くか。会社は上期の定期船を140億円→620億円へ引き上げており、その大半が第2四半期に乗る計算です
  • NSユナイテッド海運の買収が「市況に振られない収益」を実際に増やすか。1,568億円を投じる目的がそこにあります

海運の決算は、世界で起きたことがそのまま数字になります。ただし同じ出来事でも、持っている船によって符号が変わります。そこまで見て初めて、この業種の決算を読んだことになります。

本記事は2026年8月5日公表の決算短信、決算説明会資料、IRデータブックなど、日本郵船が公開している一次資料に基づいて作成しています。同社は2027年3月期第1四半期より報告セグメントの区分と費用配賦方法を一部変更しており、前年同期の数値は組替再表示後のものです。情報提供を目的としたものであり、特定銘柄の売買を推奨するものではありません。投資判断はご自身の責任でお願いいたします。

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