ヤマトホールディングス(9064)が2026年8月3日に発表した2027年3月期第1四半期(2026年4〜6月)は、営業収益4,433億円(前年同期比1.4%増)、営業損失48億円、経常損失49億円、親会社株主に帰属する四半期純損失58億円でした。
赤字ですが、宅配便事業の第1四半期が赤字になるのは季節性によるものです。問題は中身のほうで、営業損失は前年の64億円から48億円へ16億円改善したのに、最終損失は54億円から58億円へ4億円悪化しています。本業が良くなったのに、最後の数字は悪くなった。
そしてもう一段深く見ると、この決算にはいま日本の運輸業で起きていることが、そのまま金額で書かれています。値上げでいくら稼ぎ、その結果いくらの荷物を失ったか。会社はそれを80億円と51億円という数字で開示しました。
この記事では、決算短信・決算説明資料・質疑応答要旨をたどって、①改善と悪化が同時に起きた理由 ②値上げと物量の綱引きの決着 ③通期420億円という計画の実現性の3点を確かめます。
| 指標 | 当期(2026年4〜6月) | 前年同期 | 増減 |
|---|---|---|---|
| 営業収益 | 4,433億円 | 4,373億円 | +1.4% |
| 営業損失 | △48億円 | △64億円 | +16億円(赤字縮小) |
| 経常損失 | △49億円 | △66億円 | +17億円 |
| 特別損失 | 18億円 | 1億円 | うち減損損失16億円 |
| 四半期純損失 | △58億円 | △54億円 | △4億円(赤字拡大) |
| 宅急便 平均単価 | 727円 | 709円 | +2.5% |
| 宅急便 取扱数量 | 449百万個 | 463百万個 | △3.0% |
| 自己資本比率 | 43.5% | 44.6%(前期末) | △1.1pt |
| 通期営業利益(据え置き) | 420億円(前期283億円、+48.4%)。うち上期の計画は「0」 | ||
営業で改善した16億円が、減損16億円でそのまま消えました
まず、営業利益が改善したのに最終損益が悪化した理由を確かめます。損益計算書を上から下まで並べます。
| 損益計算書(億円) | 前年同期 | 当期 | 増減 |
|---|---|---|---|
| 営業収益 | 4,373 | 4,433 | +59 |
| 営業原価 | 4,290 | 4,343 | +52 |
| 営業総利益(率) | 82(1.89%) | 89(2.03%) | +7 |
| 販売費及び一般管理費 | 147 | 138 | △9 |
| 営業損失 | △64 | △48 | +16 |
| 営業外収支 | △1 | △0 | +1 |
| 経常損失 | △66 | △49 | +17 |
| 特別利益 | 1 | 0 | △1 |
| 特別損失 | 1 | 18 | △17 |
| うち減損損失 | 0 | 16 | △16 |
| 税金等調整前四半期純損失 | △66 | △67 | △0 |
| 法人税等 | △12 | △8 | △3 |
| 親会社株主帰属 四半期純損失 | △54 | △58 | △4 |
経常段階までは17億円の改善です。そこに減損損失16億円が乗って、税金等調整前では改善がゼロになりました。数字の上では、本業の改善分がそっくり減損に食われた形です。
ではこの減損は何かというと、会社は説明資料に理由を書いています。
事業がうまくいかなくなって資産価値が落ちた、という種類の減損ではありません。保有資産を減らす方針にもとづいて、自分から見直した結果です。損益計算書の見方で整理したとおり、特別損失は「毎期は起きない項目」を置く場所なので、来期も同じ額が出るとは限りません。ただし、この四半期の最終損益を悪く見せている直接の原因はこれです。
もうひとつ、この表で見ておきたいのが営業総利益率2.03%という数字です。4,433億円売って、原価を引くと89億円しか残りません。宅配という事業の利益率の薄さが、ここに出ています。そして販管費138億円を引くと赤字になる。売上が1%動くだけで44億円、利益が吹き飛ぶ構造です。
その販管費を、今期は9億円削っています。営業損失の改善16億円のうち、半分以上は販管費の削減で作られたことになります。会社は「間接部門の業務効率化と組織のスリム化を図り、創出した人材を第一線へ再配置」と説明しています。
値上げで+80億円、失った荷物で△51億円
ここがこの決算のいちばん面白いところです。会社は営業利益の増減要因を、金額で6つに分解して開示しています。
| 営業利益の増減要因 | 金額 |
|---|---|
| 前年同期(2025年4〜6月) | △64億円 |
| プライシングの適正化 | +80億円 |
| (取扱数量の減少影響) | △51億円 |
| 物価上昇・パートナー含む人的投資 | △48億円 |
| うち拠点先行投資 | △14億円 |
| 間接コストの削減等 | +23億円 |
| オペレーティングコストの適正化 | +13億円 |
| 法人向けビジネスの拡大 | +13億円 |
| 当期(2026年4〜6月) | △48億円(+16億円) |
値上げで80億円稼ぎ、その結果減った荷物で51億円を失いました。差し引き+29億円です。
これは実物の数字とも一致します。
| 宅急便・宅急便コンパクト・EAZY | 前年同期 | 当期 | 増減率 |
|---|---|---|---|
| 平均単価 | 709円 | 727円 | +2.5% |
| 取扱数量 | 463百万個 | 449百万個 | △3.0% |
単価は2.5%上がり、数量は3.0%減りました。率で見るとほぼ相殺ですが、金額では+80億円と△51億円で、値上げのほうが勝っています。単価を上げたぶんはそのまま利益になりますが、荷物が減っても固定費がすぐには減らないため、本来なら逆に振れてもおかしくない場面です。それでもプラスが残ったのは、同時にコストを削っているからです。
その他の増減要因も見ておきます。人的投資による費用増が△48億円で、これがいちばん大きなマイナスです。連結営業費用の内訳を見ると、人件費が1,974億円から1,997億円へ22億円(+1.2%)増えており、うち社員給料が20億円(+1.5%)増えています。会社は「社員やパートナーの待遇向上といった人的投資」と説明しています。
一方でプラス側は、間接コスト削減+23億円、オペレーティングコスト適正化+13億円、法人向けビジネス拡大+13億円。合計49億円を、コスト削減と新規事業で作っています。
値上げの影響は、個人と大口法人で正反対に出ました
ここから先が、この決算のいちばん重要な部分です。会社は取扱数量を部門別に分けて開示しています。
| 取扱数量(百万個) | 前年同期 | 当期 | 増減率 |
|---|---|---|---|
| 宅急便部門(小口法人・個人) | 208.5 | 216.4 | +3.8% |
| 法人部門(大口法人) | 254.6 | 233.0 | △8.5% |
| 宅急便3商品 合計 | 463.2 | 449.4 | △3.0% |
| ネコポス・クロネコゆうパケット | 107.3 | 126.8 | +18.2% |
| クロネコゆうメール | 27.1 | 24.3 | △10.3% |
個人・小口法人は3.8%増えているのに、大口法人は8.5%減っています。宅急便全体が3.0%減ったのは、大口法人が21.6百万個減ったからです。
会社は質疑応答で、この下振れについて答えています。
回答:「法人部門の取扱数量の下振れについては、マクロ要因に伴う荷動きの停滞や、中東情勢による影響等が含まれていると見ており、今後の動向を慎重に見極めていきます。一方で、宅急便部門(個人・小口法人)は堅調に推移しています」
そして決算説明資料には、より踏み込んだ記述があります。
「プライシング適正化等の影響により」と会社自身が書いています。つまり値上げが大口法人の荷物を減らしている、という認識です。マクロ要因だけのせいにはしていません。
では値下げして取り返すのかというと、方針は明確です。
量を捨てて単価を守る、という宣言です。質疑応答では「今後の引き上げ余地も十分にあると見ており、単なる一律改定ではなく、付加価値に応じたオプション料金の設定など『契約の精緻化』と価格戦略の高度化を進め、取扱数量と単価のバランスを見極めながら継続していく方針」とも述べています。
この「量か、単価か」という選択は、この夏の決算で何度も出てきました。
| 会社 | 選んだ道 | 結果 |
|---|---|---|
| ヤマトHD | 単価(+2.5%) | 数量△3.0%。値上げ+80億円 vs 数量減△51億円 |
| JAL | 単価 | 国際線の旅客数△0.4%でも収入+14.4% |
| ANA | 量 | 国際線の旅客数+14.3%、収入+20.0% |
| 積水ハウス | 単価 | 米国の引渡戸数△24.6%、単価54.0→55.3万ドル |
| 大和ハウス | 量 | 米国の引渡戸数+19.9%、ただし粗利率△2.5pt |
業種が航空・住宅・宅配とまったく違っても、需要が弱るときに会社が選べる道は2つしかありません。そしてヤマトの場合は、選択の結果が「+80億円と△51億円」という形で金額まで開示されている点が特徴的です。
なお、数量が18.2%伸びているネコポス・クロネコゆうパケットは、単価192円の小型薄型商品です。宅急便の727円とは4分の1以下の水準なので、個数が伸びても収益への寄与は宅急便とは比べものになりません。「取扱数量の拡大」という言葉を見たら、どの商品の話かを分けて読む必要があります。
中東情勢は、ここでは「荷動きの停滞」として現れました
この夏の決算を読み続けてきて分かったのは、同じ中東情勢が会社によってまったく違う場所に現れる、ということでした。ヤマトの場合は、これまでのどの会社とも違う形で出ています。
燃料費そのものは、政府の補助金で抑えられている、という説明です。これはANAやJALが航空燃油費の直撃を受けたのとは事情が違います。航空燃料には同じ補助制度がないためです。
代わりにヤマトが挙げているのが「荷動き減少」で、質疑応答でも法人部門の数量下振れの要因として中東情勢が挙げられていました。費用ではなく、運ぶ荷物そのものが減るという形です。
| 会社 | 中東情勢の現れ方 |
|---|---|
| ヤマトHD | 荷動きの停滞=物量の下振れ。燃料費は政府補助金で「影響は限定的」 |
| ANA・JAL | 航空燃油費の急騰として費用側に直撃 |
| 大和ハウス | 期初に営業利益△1,000億円を織り込み、Q1後に600億円を取り崩し |
| 積水ハウス | 資材価格上昇として請負型に△65億円 |
| スズキ | 期初に織り込んでいなかったと明言し、通期を下方修正 |
| 住友商事 | CFOが「期初計画にストレスとして織り込んでいる」と発言 |
| 日本郵船 | ホルムズ海峡封鎖が、あるセグメントに追い風・別のセグメントに逆風 |
| 丸紅 | 資源価格を通じて、利益と市況の両面に影響 |
ヤマトでこれが8社目になります。費用として出た会社、計画にリスクとして積んだ会社、追い風になった会社、そして需要そのものが減った会社。ひとつの出来事が、業種とサプライチェーン上の位置によってこれだけ違う形をとる、という例が揃いました。
なお「政府補助金により影響は限定的」という一文は、裏を返せば補助金が縮小・終了すれば燃料費が効いてくるということでもあります。決算資料でこの点を明示している会社は多くないので、覚えておく価値があります。
宅急便事業は赤字で、他の4事業が支えています
セグメント別に見ると、この会社のいまの姿がはっきりします。
| セグメント | 外部顧客への営業収益 | 増減率 | 営業利益 | 増減 |
|---|---|---|---|---|
| エクスプレス(宅急便) | 3,646億円 | +0.4% | △131億円 | +3億円 |
| コントラクト・ロジスティクス | 411億円 | +9.1% | +19億円 | +7億円 |
| グローバル | 263億円 | +6.1% | +26億円 | +0億円 |
| モビリティ | 55億円 | +8.7% | +20億円 | +4億円 |
| その他 | 56億円 | △13.8% | +15億円 | △1億円 |
| 合計(調整前) | 4,433億円 | +1.4% | — | — |
売上の82%を占めるエクスプレス事業が131億円の赤字で、残り4事業の黒字合計81億円がそれを埋めています。全社の営業損失48億円は、この差し引きです。
この構図は、JALとまったく同じです。JALは第1四半期に、フルサービスキャリア事業が△8億円、LCC事業が△1億円と航空2事業が赤字で、黒字127億円を作ったのはマイル/金融・コマース事業の120億円でした。本業が赤字で、周辺事業が黒字を作る。宅配と航空という違う業種で、同じ形が出ています。
成長しているのは法人向けです。コントラクト・ロジスティクス事業とグローバル事業を合わせた外販収益は625億円から674億円へ、営業利益は38億円から45億円へ増えました。とくに案件パイプライン(稼働前案件による営業収益見込み額)が、コントラクト・ロジスティクス事業で272億円から476億円へ75%増えています(受注済225→412億円、交渉中47→64億円)。統合型ビジネスソリューション拠点は東京・滋賀・岡山の3拠点を加えて全国9拠点になりました。
モビリティ事業の増収理由に「エネルギー事業において燃料価格高騰に伴う市場価格調整額が増加」とあるのも、この会社らしいところです。燃料高はエクスプレス事業ではコストですが、エネルギー事業では収益になります。
通期420億円のほぼ全部が、下期の計画です
通期予想は据え置かれました。ただし、その中身が極端です。
| 2027年3月期(億円) | 前期実績 | 今期計画 | 前期比 |
|---|---|---|---|
| 営業収益 | 18,656 | 19,180 | +2.8% |
| 営業利益(率) | 283(1.5%) | 420(2.2%) | +48.4% |
| 経常利益 | 262 | 420 | +59.9% |
| 当期純利益 | 136 | 160 | +17.1% |
| ROE | 2.4% | 2.8% | +0.4pt |
| ROIC | 2.6% | 3.8% | +1.2pt |
そして四半期の割り振りがこうなっています。
| 期間 | 営業利益 |
|---|---|
| 第1四半期(実績) | △48億円 |
| 上期(第2四半期累計・計画) | 0億円 |
| → 第2四半期で必要な利益 | +48億円 |
| 通期(計画) | 420億円 |
| → 下期で必要な利益 | 420億円 |
上期の営業利益計画がちょうど「0」なので、通期420億円は全額が下期の計画ということになります。宅配便は年末が最大の繁忙期なので季節性としては自然ですが、それにしても全額というのは重い前提です。
セグメント別に見ると、さらにはっきりします。エクスプレス事業の通期営業利益は、前期22億円から今期121億円(+426.3%)の計画です。第1四半期が△131億円なので、残り3四半期で252億円を稼ぐ必要があります。
会社が挙げている達成手段は2つです。
②オペレーティングコスト:「都市部近距離輸送」の効率化で、計画通り首都圏で稼働台数を3割超削減し約6億円の効果を創出。下期より、関西・中部地域に展開予定
質疑応答でも「この取り組みは首都圏から着手しており、下期より中部・関西エリアなどへ順次対象を拡大する方針です。ラストマイル領域を含め、オペレーティングコストのさらなる削減余地は大きい」と述べています。下期偏重の計画には、施策の展開スケジュールという根拠があるということです。
ただし、リスクもあります。通期の取扱数量の前提が、期初から動いているためです。
| 通期の数量計画(百万個) | 前期実績 | 期初計画 | 今回 | 期初比 |
|---|---|---|---|---|
| 宅急便部門(小口法人・個人) | 911.7 | 935.4 | 938.4 | +3.0 |
| 法人部門(大口法人) | 1,029.5 | 1,014.6 | 1,006.3 | △8.3 |
| 宅急便3商品 合計 | 1,941.2 | 1,950.0 | 1,944.7 | △5.3 |
| 同・平均単価 | 726円 | 737円 | 737円 | — |
| ネコポス・ゆうパケット | 451.4 | 464.1 | 488.8 | +24.7 |
業績予想の金額は据え置かれていますが、その前提となる数量は動いています。大口法人を8.3百万個減らし、個人・小口を3.0百万個、ネコポスを24.7百万個増やして埋めた形です。単価737円の宅急便が減り、単価194円のネコポスが増える置き換えなので、個数は埋まっても金額は埋まりません。それでも利益計画が変わらないのは、コスト削減で吸収する前提だということです。
ROE 2.8%、配当性向91%という数字
この会社を見るうえで避けて通れないのが、資本効率です。
| 指標 | 前期実績 | 今期計画 |
|---|---|---|
| ROE | 2.4% | 2.8% |
| ROIC | 2.6% | 3.8% |
| 1株当たり当期純利益 | — | 50.52円 |
| 1株当たり年間配当 | 46円 | 46円(据え置き) |
| 配当性向 | — | 約91% |
ROE 2.8%は、日本の上場企業の平均(8〜9%程度)と比べてかなり低い水準です。そして配当は46円で据え置かれており、予想EPS 50.52円に対する配当性向は約91%になります。PER・PBR・ROEの見方で整理したとおり、ROEが低いまま配当性向が高いということは、稼ぐ力が戻らないなかで還元を維持している状態です。
会社もこの点に手を打とうとしています。質疑応答で、新しい組織について説明しています。
「過去のM&A等の投資案件や資産流動化については、設定したハードルレートに対するリターンや、中長期的なキャッシュフロー創出状況を定期的に検証しています。本業の利益回復を通じた営業キャッシュフローの最大化を図るとともにアセットライト経営を進めることで投下資本を最適化します」
取締役会とは別に、資本市場の目線で議論する場を作ったという説明です。先ほど見た減損16億円も、この「アセットライト経営」の一環でした。資産を持たない方向へ舵を切り、投下資本を減らしてROICを上げる、という道筋です。
キャッシュ・フローも見ておきます。営業キャッシュ・フローは前年同期の185億円から92億円へ半減しました。投資キャッシュ・フローは△142億円から△81億円へ、財務キャッシュ・フローは△319億円から△81億円へと、いずれも支出が縮小しています。キャッシュ・フロー計算書の見方で整理したとおり、営業CFの減少は本業の資金創出力が落ちていることを示すので、「営業キャッシュフローの最大化」を掲げている以上、次の四半期で戻るかどうかが見どころになります。
運輸5社を並べて見えること
この夏、国内の運輸会社を5社読んできました。鉄道2社、航空2社、そして宅配1社です。並べると、共通する構図が見えます。
| 会社 | 需要 | 先に上がったコスト | 打ち手 |
|---|---|---|---|
| JR東日本 | 運輸収入+381億円 | 人件費 | 値上げ(381億円のうち200億円) |
| JR西日本 | 運輸収入+2.4% | 人件費(単価増) | —(6期ぶりの減収減益) |
| ANA | 旅客数+14.3% | 燃油費(+869億円) | 量を取る |
| JAL | 旅客数△0.4% | 燃油費(費用増の67%) | 単価を上げる |
| ヤマトHD | 取扱数量△3.0% | 人件費(+22億円) 燃料は政府補助金で限定的 |
単価を上げる(+2.5%) |
5社に共通するのは「運ぶ相手はいるのに、コストのほうが先に上がる」という構図です。鉄道と宅配は人件費、航空は燃料。そしてどの会社も、値上げでそれを取り返そうとしています。
違うのは、値上げの結果をどこまで数字にしているかです。JR東日本は運輸収入の増加381億円のうち200億円が値上げによるものだと開示し、ヤマトは値上げの効果+80億円と、それによって失った荷物の影響△51億円を両方開示しました。片側だけを出す会社が多いなかで、ヤマトの開示は珍しい部類に入ります。
もうひとつ、宅配だけが「本業が赤字」という点も見ておく価値があります。鉄道は鉄道が黒字、航空はQ1こそ赤字でしたがJALは周辺事業が支えました。ヤマトはエクスプレス事業が131億円の赤字で、通期でも121億円(利益率0.8%程度)の計画です。荷物を運ぶこと自体では、ほとんど利益が出ない構造になっています。
この決算から言えること
整理します。
- 営業損失は64億円から48億円へ16億円改善したのに、最終損失は54億円から58億円へ悪化。理由は減損損失16億円で、これは「アセットライト経営の一環として保有資産の見直しを行った結果」と会社が説明しています。事業悪化による減損ではありません。
- 値上げで+80億円、失った荷物で△51億円。差し引き+29億円。会社が両方を金額で開示している点が珍しく、値上げ戦略の損益が見える形になっています。
- 宅急便の単価は+2.5%、数量は△3.0%。部門別では個人・小口法人が+3.8%に対し、大口法人が△8.5%。会社は「プライシング適正化等の影響により、6月以降は法人部門を中心に取扱数量が弱含んで推移」と認めています。
- それでも値下げはしない方針。「短期的な数量確保を目的とした安易なプライシングは行わず、中長期的な収益性向上に向けた適正単価水準を維持」と明記されました。
- 中東情勢は「荷動きの停滞」として現れています。燃料費は「政府補助金により影響は限定的」とされており、ANA・JALのような費用直撃とは違う形です。補助金が縮小すれば話は変わります。
- エクスプレス事業(売上の82%)が131億円の赤字で、他の4事業の黒字81億円が支えています。JALで見た「本業が赤字、周辺事業が黒字」と同じ構図です。
- 通期営業利益420億円は、上期計画が「0」なので全額が下期です。エクスプレス事業は前期22億円→今期121億円(+426.3%)の計画で、第1四半期の△131億円から残り3四半期で252億円を稼ぐ必要があります。
- 業績予想の金額は据え置きでも、数量の前提は動いています。大口法人を8.3百万個下げ、単価194円のネコポスを24.7百万個上げて埋めた形です。個数は埋まっても金額は埋まりません。
- ROE 2.8%、配当性向約91%。「企業価値向上委員会」を取締役会とは別に設置し、ROICとアセットライト経営で資本効率を上げる方針が示されています。
- 営業キャッシュ・フローは185億円から92億円へ半減。「営業キャッシュフローの最大化」を掲げている以上、ここは次の四半期で確かめるべき点です。
次の四半期で確かめたいのは4点です。①大口法人の数量が下げ止まるか、それとも値上げを続けて減り続けるか ②都市部近距離輸送の効率化が中部・関西に展開して効果が出るか ③上期の営業利益が計画どおり「0」に着地するか ④営業キャッシュ・フローが戻るか。
この決算を一言でまとめるなら、「値上げは効いている。ただし、その代償も同じ資料に書いてある」ということになります。+80億円と△51億円を並べて出す会社は多くありません。数字を隠さずに出したうえで、それでも値下げはしないと宣言した——という意味では、読み手にとって判断材料の揃った決算でした。
あとは、通期420億円の全額が下期に乗っているという計画をどう見るかです。第2四半期で48億円を作って上期を「0」に戻せるかどうかが、最初の関門になります。
※本記事は2026年8月3日発表の2027年3月期第1四半期決算短信、同日公表の決算説明資料および2026年8月4日実施の決算説明会「主な質疑応答(要旨)」に基づいています。他社の数値は各社の決算資料によります。特定の銘柄の売買を推奨するものではありません。投資判断はご自身の責任でお願いいたします。
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