ANAホールディングス(9202)が2026年7月29日に発表した2027年3月期第1四半期(2026年4〜6月)は、売上高6,727億円(前年同期比22.6%増)、営業利益207億円(同43.5%減)、親会社株主に帰属する四半期純利益194億円(同15.4%減)でした。
売上が22.6%増えて、営業利益が43.5%減る。この落差の理由は、決算説明会資料にはっきり書かれています。燃油費・燃料税が1,005億円から1,875億円へ、869億円増えました。費用の増加分1,412億円のうち、6割がこれです。
そしてもうひとつ。増収1,239億円(航空事業)のうち579億円は、前年同期には連結されていなかった会社の売上です。この記事では決算短信・決算説明会資料・解説・質疑応答をたどって、①増収の中身 ②燃油費が利益をどう削ったか ③会社が中東情勢の影響をどう追跡しているか、の3点を確かめます。
| 指標 | 当期 | 前年同期 | 増減率 | 通期予想の前期比 |
|---|---|---|---|---|
| 売上高 | 6,727億円 | 5,487億円 | +22.6% | +9.1% |
| 営業利益 | 207億円 | 367億円 | △43.5% | △31.0% |
| 経常利益 | 225億円 | 359億円 | △37.3% | △37.6% |
| 親会社株主帰属四半期純利益 | 194億円 | 229億円 | △15.4% | △43.2% |
| 燃油費・燃料税(航空事業) | 1,875億円 | 1,005億円 | +86.5% | — |
| 1株当たり年間配当 | — | 65円 | — | 60円(減配) |
増収の半分は、前年同期にいなかった会社です
まず売上の中身から。航空事業の売上は4,968億円から6,208億円へ、1,239億円増えました。その内訳を会社が出しています。
| 項目 | 前年同期 | 当期 | 増減 |
|---|---|---|---|
| ANA 国際旅客 | — | — | +413億円 |
| ANA 国内旅客 | — | — | +17億円 |
| ANA 貨物郵便 | 494億円 | 657億円 | +163億円 |
| ANA その他 | 470億円 | 500億円 | +30億円 |
| NCA(日本貨物航空) | — | 579億円 | +579億円 |
| Peach | 292億円 | 357億円 | +64億円 |
| AirJapan | 29億円 | — | △29億円 |
| 合計 | 4,968億円 | 6,208億円 | +1,239億円 |
NCA(日本貨物航空)の579億円が、増収1,239億円の47%を占めます。NCAは前年度の第2四半期から連結されたため、前年同期(4〜6月)にはまだ入っていませんでした。短信の注記では「連結範囲の重要な変更:無」となっていますが、前年同期との比較では、実質的に新しい会社が1社加わっていることになります。
もうひとつ、AirJapanが前年度末で運航休止となり、29億円が消えています。
費用増1,412億円のうち、869億円が燃油費でした
ここが減益の答えです。航空事業の営業費用を会社が全項目開示しています。
| 営業費用(航空事業) | 前年同期 | 当期 | 増減 |
|---|---|---|---|
| 燃油費・燃料税 | 1,005億円 | 1,875億円 | +869億円 |
| 外部委託費 | 773億円 | 867億円 | +93億円 |
| 整備部品・外注費 | 528億円 | 615億円 | +87億円 |
| 航空機材賃借費 | 385億円 | 463億円 | +78億円 |
| 減価償却費 | 370億円 | 426億円 | +55億円 |
| 空港使用料 | 277億円 | 327億円 | +49億円 |
| 人件費 | 576億円 | 623億円 | +47億円 |
| 販売費 | 151億円 | 161億円 | +10億円 |
| その他 | 544億円 | 665億円 | +120億円 |
| 合計 | 4,614億円 | 6,026億円 | +1,412億円 |
売上が1,239億円増えて、費用が1,412億円増えた。差し引き173億円が航空事業の減益額です。そして費用増の61.5%が燃油費・燃料税でした。
会社の説明は「燃油市況の上昇や円安により、燃油費を中心に増加」。ただし資料には「各費用項目に、NCAの連結化による増加分を含む」という注記もあります。NCAは貨物専用機を運航するため、燃油費の増加にはNCA分も含まれている点は差し引いて読む必要があります。
それでも燃油費が1,005億円から1,875億円へ1.87倍という動きは、航空会社の損益がいかに燃料価格に左右されるかを示しています。
会社は中東情勢の影響を、金額で追跡しています
ANAの資料でいちばん価値があるのが、この1枚です。会社は「中東情勢の緊迫化に伴う燃油急騰影響」を分析し、四半期ごとに金額で開示しています。
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 市況急騰による燃油費の増加(緊急的激変緩和措置の効果を含む) | △710億円 |
| ヘッジ | +160億円 |
| 運賃・燃油サーチャージ(FSC) | +200億円 |
| コスト削減など | +30億円 |
| 第1四半期の収支影響 | △320億円 |
期初(4月30日)に会社が見込んでいた通期の収支影響は△600億円でした。それに対してQ1の実績は△320億円。会社は「収支影響は想定から半減」と説明しています。
理由は2つ挙げられています。
- 燃油市況が前提を下回った——シンガポールケロシンの前提200ドルに対し、実績182.5ドル(3〜5月平均)
- 精緻な価格コントロール——「単価を落とすことなく数量を獲得」。燃油急騰により増加した費用の回収割合(カバー率)を期初計画21%から55%まで改善
一方で為替は前提155円/ドルに対し実績159.2円と円安が進み、こちらは逆風でした。
同じ中東情勢が、他の会社ではまったく違う形で現れています。日本郵船ではエネルギー輸送の追い風と自動車輸送の逆風が同時に、丸紅では化学品トレードの増益に、セブン&アイでは北米のガソリン荒利の改善として。スズキは原材料コストの逆風でした。ANAは、最も直接的に「燃料を買う側」として影響を受けています。
国際線は「座席を4%しか増やさずに、利用率を5.7ポイント上げた」
収入側は、実はかなり good な内容です。国際線旅客の数字を見ます。
| 国際線旅客(ANAブランド) | 前年同期 | 当期 | 増減率 |
|---|---|---|---|
| 旅客収入 | 2,062億円 | 2,476億円 | +20.0% |
| 旅客数 | 206.8万人 | 236.3万人 | +14.3% |
| 座席キロ(供給) | — | — | +4.0% |
| 旅客キロ(需要) | — | — | +11.6% |
| 利用率 | 79.3% | 85.1% | +5.7pt |
供給を4%しか増やさずに、需要を11.6%伸ばしています。その結果、利用率が5.7ポイント改善し、収入は20.0%増えました。飛行機を増やさずに収入を伸ばしたということで、これは効率の良い伸び方です。
単価も上がっています。収入を旅客キロで割ると、前年の約17.3円/人キロから約18.6円へ、7%程度の上昇です。質疑応答でも「燃油サーチャージを除いた第1四半期のイールドは前年及び計画を上回って推移」と説明されています。
ただし第2四半期については、少し込み入った説明がされています。
燃料が安くなるとサーチャージも下がるので、収入としては減る。しかし運賃そのものの単価は上がっている。同じ「イールド」でも、サーチャージを含めるかどうかで向きが逆になります。
国際貨物は、量が横ばいで収入が37.9%増えました
もうひとつ好調なのが国際貨物です。ただし中身が独特です。
| 国際線貨物(ANAブランド) | 前年同期 | 当期 | 増減率 |
|---|---|---|---|
| 貨物収入 | 422億円 | 583億円 | +37.9% |
| 貨物輸送重量 | 17.7万トン | 18.0万トン | +1.2% |
| 貨物トンキロ | — | — | +0.1% |
| 貨物重量利用率 | 57.7% | 57.0% | △0.6pt |
運んだ量はほぼ横ばい(+0.1%)なのに、収入は37.9%増えています。つまり増収のほぼ全部が単価の上昇です。
理由を質疑応答で会社が説明しています。
AI向け半導体の空輸需要と、中東ルートの供給不足。この2つが航空貨物の単価を押し上げました。デンソーではメモリ価格の上昇が部品コストとして現れていましたが、ここでは同じAI需要が「運賃」として現れています。
ただし会社は持続性について慎重です。「第2四半期以降は、第1四半期に比べて需給が緩和していくため、第1四半期ほどの単価の上振れは見込んでおりません」としています。
なお短信では、前年同期に「米国関税政策の影響を受けた北米向け需要」が落ち込んでいた反動もあったと説明されています。
国内線は、旅客数+3.9%でも収入+1.1%
国際線と対照的なのが国内線です。
| 国内線旅客(ANAブランド) | 前年同期 | 当期 | 増減率 |
|---|---|---|---|
| 旅客収入 | 1,619億円 | 1,636億円 | +1.1% |
| 旅客数 | 1,024万人 | 1,064万人 | +3.9% |
| 座席キロ(供給) | — | — | △1.1% |
| 利用率 | 71.6% | 75.6% | +4.0pt |
人は3.9%多く乗ったのに、収入は1.1%しか増えていません。会社は「国内線航空券タイムセール」を実施してレジャー需要を喚起したと説明しており、単価を下げて席を埋めた形です。
そして第2四半期以降については、はっきり弱気です。
万博の反動は、ANAにはQ2以降に来ます。JR西日本ではQ1にすでに反動が出ていました(山陽新幹線△48億円、近畿圏△13億円)。同じイベントの反動が、会社によって出るタイミングが違うという例です。
加えて、質疑応答では新幹線との競合にも触れられています。国内有識者会議を受けて「便数や機材の大きさは維持したまま、新幹線に対して需要シェアが劣後している路線を中心にダイヤの最適化を進めている」とのことです。
通期は△31.0%の減益予想。しかもQ2の前提はすでに崩れています
通期予想は据え置かれました。内容は大幅減益です。
| 項目 | 通期予想 | 前期比 |
|---|---|---|
| 売上高 | 2兆7,700億円 | +9.1% |
| 営業利益 | 1,500億円 | △31.0% |
| 経常利益 | 1,370億円 | △37.6% |
| 親会社株主帰属当期純利益 | 960億円 | △43.2% |
据え置きの理由を、会社は質疑応答ではっきり述べています。
ここで注意したいのは、第2四半期の前提がすでに実勢から乖離している点です。会社が資料に示した数字を並べます。
| 第2四半期の前提 | 会社の前提 | 直近実勢(7月27日終値) |
|---|---|---|
| シンガポールケロシン | 120ドル | 約150ドル |
| 為替 | 155円/ドル | 160円超 |
| 燃油サーチャージ | 基準より1段階低く設定 | 3段階低く設定 |
燃料は前提より3割高く、円は前提より安い。会社も第2四半期の見通しとして「中東情勢:緊張の再燃」「燃油費:市況の悪化」「為替:円安の継続」を挙げています。Q1は前提より市況が良かったので助かりましたが、Q2は逆方向に振れているということです。
配当は65円から60円へ減配
株主還元は後退しました。
| 項目 | 2026年3月期 | 2027年3月期(予想) |
|---|---|---|
| 1株当たり年間配当(普通株式) | 65円 | 60円 |
| 予想EPS | — | 209.26円 |
| 自己資本比率 | 37.7% | 35.6%(6月末) |
最終利益が43.2%の減益予想ですから、配当の5円減は利益の減少幅より小さい対応です。配当性向は約29%になります。
一方で自己株式は3,051万株から4,830万株へ1,779万株増加しており、自社株買いは進めています。期中平均株式数は4億6,995万株から4億4,158万株へ6.0%減少しました。
この会社特有の項目として社債型種類株式があります。ハイブリッド調達(資本と負債の中間的な性質を持つ資金調達)で、2027年3月期の配当予想は1株175円(前期52.73円)。会社は取得条項について「多くの投資家が当社による取得が可能となる発行日の5年後から配当がステップアップする日の前日までに、当社による取得が行われることを期待している点は十分に認識しています」と、市場の期待に言及しています。貸借対照表の見方で触れたとおり、資本と負債の境目にある調達手段は、普通株主の取り分に影響します。
この決算から言えること
整理します。
- 売上+22.6%のうち、航空事業の増収1,239億円の47%(579億円)はNCA(日本貨物航空)。前年度Q2から連結された会社で、前年同期にはありませんでした。
- 費用増1,412億円のうち869億円(61.5%)が燃油費・燃料税。1,005億円から1,875億円へ1.87倍になりました(NCA分を含む)。
- 会社は中東情勢の収支影響を金額で追跡している。通期計画△600億円に対しQ1は△320億円で「想定から半減」。燃油費の増加△710億円を、ヘッジ+160億円・運賃/サーチャージ+200億円で埋めています。
- 国際線旅客は、供給+4.0%で需要+11.6%、利用率+5.7ポイント。飛行機を増やさずに収入を20%伸ばしました。
- 国際貨物は量が+0.1%で収入+37.9%=ほぼ全部が単価。AI半導体の需要と、中東ルートの供給不足が理由です。ただし会社はQ2以降の需給緩和を見込んでいます。
- 国内線は旅客数+3.9%で収入+1.1%。タイムセールで単価を下げて席を埋めました。Q2以降は万博の反動で前年割れの見込みです。
- 通期は△31.0%の減益予想で据え置き。ただしQ2の前提(ケロシン120ドル、155円)は直近実勢(約150ドル、160円超)から乖離しており、会社も「市況前提を見直す方針」としています。
- 配当は65円→60円へ減配。一方で自己株式は1,779万株増やしています。
次の四半期で確かめたいのは3点です。①燃油市況の前提修正がどの方向に出るか ②国際貨物の単価上昇がどこまで続くか ③国内線の万博反動がどの程度の大きさになるか。
この決算は、「売上が増えても、買うものが値上がりすれば利益は消える」という単純な事実を、極端な形で見せています。JR西日本やJR東日本では人件費が、ANAでは燃油費が、増収分を食っていました。国内の運輸・観光は「客は来るが利益は伸びない」局面にある——3社を並べると、それがはっきり見えてきます。
※本記事は2026年7月29日発表の2027年3月期第1四半期決算短信、および同社ウェブサイト掲載の決算説明会資料・解説・質疑応答(要旨)に基づいています。特定の銘柄の売買を推奨するものではありません。投資判断はご自身の責任でお願いいたします。
同じ四半期のJALは正反対でした。ANAが旅客数+14.3%で量を伸ばしたのに対し、JALは旅客数△0.4%で単価+17%。国内線もANAは単価を下げ、JALは上げています。
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