【2026年版】丸紅(8002)の今後の業績と株価の見通し|増益の主役2つは、会社の指標では横ばいだった

丸紅(8002)が2026年8月3日に発表した2027年3月期第1四半期(2026年4〜6月)は、収益2兆6,092億円(前年同期比20.6%増)、営業利益1,321億円(同54.7%増)、親会社の所有者に帰属する四半期利益1,864億円(同20.7%増)でした。通期見通し5,800億円に対する進捗率は32.1%です。

数字だけ見れば素直な増益決算です。ただ、この会社は決算説明資料で「実態純利益」という自前の指標を並べて出しています。そちらで見ると、純利益で最も増えた2つのセグメントが、どちらも「横ばい」または「増益幅が半減」に変わります。逆に、純利益で最も減った2つは、減っていないか、むしろ増えています。

この記事では決算短信・IR資料・決算説明会の質疑応答をたどって、①会社の2つの利益指標がどこで食い違うのか ②増益490億円を会社がどう分解したのか ③通期見通しを据え置いた理由とCFOの発言、の3点を確かめます。

この決算を1枚で(2027年3月期 第1四半期)
指標 当期 前年同期 増減率
収益 2兆6,092億円 2兆1,637億円 +20.6%
売上総利益 3,810億円 2,998億円 +27.1%
営業利益 1,321億円 854億円 +54.7%
税引前四半期利益 2,288億円 1,815億円 +26.1%
親会社帰属四半期利益 1,864億円 1,544億円 +20.7%
実態純利益(会社独自) 1,770億円 1,280億円 +38.3%
四半期包括利益 2,695億円 800億円 +237.1%
同じ四半期に「+20.7%」「+38.3%」「+237.1%」の3つの数字が並びます。どれも間違いではありません。

「+54.7%」と「+20.7%」は、ほぼ同じ金額の増加です

まず、いちばん誤解されやすいところから。営業利益は54.7%増、最終利益は20.7%増。上のほうが景気よく見えます。ところが増えた金額を並べると、印象が変わります。

段階 前年同期 当期 増えた金額 伸び率
営業利益 854億円 1,321億円 +467億円 +54.7%
税引前四半期利益 1,815億円 2,288億円 +473億円 +26.1%

増えた金額は467億円と473億円で、ほとんど同じです。それなのに伸び率は54.7%と26.1%で2倍以上違います。理由は単純で、分母が違うだけです。営業利益854億円に467億円を足せば54.7%増になり、税引前1,815億円に473億円を足せば26.1%増にしかなりません。

なぜ分母がこれほど違うかというと、丸紅の「営業利益」は売上総利益から販売費及び一般管理費と貸倒引当金を引いただけの数字だからです(会社自身が「日本の会計慣行に従った自主的な表示であり、IFRS会計基準で求められている表示ではない」と注記しています)。持分法による投資損益888億円も、有価証券損益208億円も、この段階には入っていません。

使える読み方:伸び率が大きい段階を見つけたら、増えた「金額」を確かめる。金額が同じで伸び率だけ違うなら、それは分母の話であって、事業が変わったという話ではありません。

丸紅には「実態純利益」という自前の指標があります

丸紅はIR資料の1ページ目に、純利益と並べて「実態純利益」を出しています。定義は会社の注記どおり「純利益から一過性要因を控除した概数」です。

指標 2025年度Q1 2026年度Q1 増減 通期見通し 進捗率
純利益 1,544億円 1,864億円 +320億円 5,800億円 32%
実態純利益 1,280億円 1,770億円 +490億円 5,400億円 33%
 うち非資源分野 960億円 1,180億円 +220億円 3,820億円 31%
 うち資源分野 280億円 510億円 +230億円 1,610億円 32%
基礎営業キャッシュ・フロー 1,539億円 2,499億円 +960億円 6,600億円 38%

ここで注意したいのは向きです。純利益は+320億円の増益なのに、実態純利益は+490億円の増益。「一過性を除いたほうが、増え方が大きい」のです。

これは会社が自分で作った指標が自分に不利に働いている、という意味ではありません。前年(2025年度Q1)にも一過性の利益が入っていて、そちらのほうが大きかったからです。差額を見ると、前年は純利益1,544億円と実態1,280億円の差で約260億円が一過性、当期は1,864億円と1,770億円の差で約90億円が一過性(会社の一過性要因表でも全社合計90億円)。分母側の一過性が減ったぶん、実態の伸びのほうが大きく出ます。

会社が自分で作った利益指標をどう扱うかは、調整後利益・コア営業利益の見方で整理しています。丸紅の場合は「一過性の明細をセグメント別に金額つきで開示している」点が特徴で、検証できる形になっています。

セグメント別に並べると、5つで評価が変わります

ここがこの決算のいちばん面白いところです。丸紅はセグメントごとに「純利益」と「実態純利益」を両方出しています。並べてみます。

セグメント 純利益の増減 実態純利益の増減 差が出た理由
電力・インフラサービス +122億円 ±0 海外電力IPP事業投資の売却益 約130億円
エアロスペース・モビリティ +113億円 +60億円 DASI社の完全子会社化に伴う既存持分評価益 約60億円
金融・リース・不動産 △130億円 △10億円 前年に北米貨車リース事業の売却益
次世代事業開発 △56億円 +30億円 前年に負ののれん発生益
食料・アグリ △41億円 ±0 前年のヘッジ差益の反動 約10億円ほか
金属 +132億円 +160億円 一過性はむしろマイナス
エネルギー・化学品 +170億円 +220億円 石油・ガス開発事業の売却資産価格調整 約△50億円
全社合計 +320億円 +490億円 一過性が前年約260億円→当期約90億円

読み方を整理します。

純利益で増益トップだった電力・インフラサービス(+122億円)は、実態純利益では横ばいです。増益のほぼ全額が、海外の電力IPP事業への出資分を売った利益でした。会社は一過性要因の表に「海外電力IPP事業投資の売却益 約130億円」と金額を書いています。

2番目のエアロスペース・モビリティ(+113億円)も、半分は一過性です。米国の航空機用部品販売事業者DASI社を完全子会社化したことで、それまで持っていた持分の評価益が約60億円立ちました。これは買収した結果、以前から持っていた株の評価が上がって利益になるという会計処理で、現金は1円も入っていません。

逆方向も見ておきます。純利益で減益幅が最大だった金融・リース・不動産(△130億円)は、実態純利益では△10億円しか減っていません。前年に北米貨車リース事業を売った利益があり、その反動でした。次世代事業開発は純利益△56億円の減益ですが、実態純利益では+30億円の増益に逆転します。前年に負ののれん発生益(安く買収したときに立つ利益)があったためです。

ここまでを一言でまとめると、こうなります。

増益の主役2つ(電力・インフラ、エアロスペース)は、実態では横ばいか半減。減益の主役2つ(金融・リース、次世代事業開発)は、実態では減っていない。実態純利益で本当に増えたのは、金属(+160億円)とエネルギー・化学品(+220億円)——つまり市況の影響を受ける2つでした。

商社の決算では、この「売った益・買った益」がセグメントの見え方を作り替えます。三井物産は増益1,025億円のうち833億円が有価証券損益(CIM Groupの評価益)でした。住友商事は10セグメント合計が△41億円の減益なのに、税金の効果で最終利益が増えました。伊藤忠商事は有価証券損益が△924億円で、営業利益+20.3%が税引前△1.3%に転じました。丸紅は一過性が増益側と減益側の両方に散らばっていて、差し引きするとほとんど残らない——4社4通りです。

増益490億円を、会社は「外部環境+290、自力+290」と説明しました

実態純利益の増益490億円について、丸紅はIR資料2ページ目で内訳を出しています。

要因 金額 内容
投資の回収による取込損益減少 △90億円 売った事業のぶん、利益が減る
為替影響 +50億円 クロスレート(豪ドル/米ドル等)の影響△50億円を含む
市況影響 +240億円 銅+110、原料炭+50、アルミ+40
既存事業の磨き込み +200億円 通期見通し330億円に対して
成長投資の利益貢献 +90億円 通期見通し210億円に対して
合計 +490億円  

会社の説明文はこうです。「為替・市況影響により、前年同期比+290億円の増益」「加えて、既存事業の磨き込みと成長投資の利益貢献も全体として想定通り順調に進捗し、+290億円の増益」。外から来た分と自分でやった分が、たまたま同じ290億円ずつでした。

ここから引かれる△90億円が地味に重要です。事業を売れば、その事業から取り込んでいた利益は翌期から消えます。丸紅はIR資料で「売却/回収した事業の2024年度ROIC:1%程度」とも書いていて、稼げていない資産を売っていることを自分で示しています。売却益(一過性)は増え、取込損益(継続)は減る——この2つは常にセットです。

14.90円の円安なのに、為替の効果は+50億円でした

2026年4〜6月のドル円の期中平均は159.49円。前年同期は144.59円でした。14.90円の円安です。豪ドル円も92.58円→113.16円で20.58円の円安。

ところが、会社が出した為替影響は+50億円だけです。実態純利益の増益490億円のうち、わずか10%です。

理由は注記に書かれています。この+50億円には「クロスレート(豪ドル/米ドル等)の影響△50億円を含む」。つまり対円で見ればプラス約100億円あったものが、豪ドル対米ドルなど円以外の通貨ペアの動きで半分打ち消されたということです。

これは他の日本企業の決算とかなり違います。日立製作所は増収の40.3%が為替でしたし、資生堂は売上+6.2%が実質では△0.2%でした。丸紅の場合、増益の主役は為替ではなく、銅・原料炭・アルミの価格でした。

会社が開示している年間ベースの感応度も見ておきます。

項目 2026年度Q1実績 通期見通しの前提 感応度(年間純利益に対して)
LME銅 平均価格 12,965ドル/トン 12,000ドル 約13億円/100ドル
WTI 平均価格 93ドル/バレル 60ドル 約2億円/1ドル
ドル円 期中平均 159.49円 150円 約19億円/1円
豪ドル円 期中平均 113.16円 100円 約6億円/1円

4項目すべてで、Q1の実績が通期見通しの前提を上回っています。特に原油は93ドルに対して前提60ドル。33ドルの開きがあります。この前提のまま通期見通し5,800億円は据え置かれました。

もっとも、これは「上振れ確定」という意味ではありません。感応度は年間ベースの数字で、Q1は12か月のうち3か月にすぎず、しかも銅・原油の高値は中東情勢を受けた一時的な急騰でした。会社の前提は「そこから戻る」と置いているわけです。

ホルムズ海峡の封鎖は、丸紅では化学品トレードの増益になりました

エネルギー・化学品セグメントは、純利益が89億円から258億円へ+170億円、実態純利益では+220億円。実態純利益ベースの通期見通し430億円に対する進捗率は72%(310億円÷430億円)という、他のセグメントとかけ離れた数字になりました。全社の進捗率33%と比べると倍以上です。

決算説明会でこの点を聞かれた田島知浄CFOの回答が、そのまま答えになっています。

まず、前年の反省から入っています。化学品関連事業は2025年度に「ヘッジを活用していなかったことや不採算契約を抱えていた等に起因して大きな減益」となり、課題として3つの手を打ったと説明しています。①欧州のプロピレンのタンク契約解除や米国顧客との不採算取引終了など、不採算アセット・契約の整理 ②ナフサとオレフィンのトレード組織の統合(従来はナフサをエネルギー部隊、オレフィンを化学品部隊が担当していた) ③トレード・アセットの最適化。

そのうえでCFOはこう述べています。「組織統合により、顧客に対して市況を踏まえた様々な角度での一体化された商品提案ができる体制作りをしている中で、今般の中東情勢が起こった」「価格が市況により変動する商品を取り扱うトレードにおいては、商品市況が凪の状態では機能を発揮する機会がほとんど無いが、市況がボラタイルな状況においては、当社の機能が効力を発揮しながら、利益を上げることができた」。

さらに率直な一言が続きます。「ホルムズ海峡封鎖のような状況がもう1回繰り返されないことを祈っているが、仮に同じようなことが起こったときには再度当社機能を発揮できるのではないかと考えている」。

同じホルムズ海峡封鎖について、日本郵船ではエネルギー輸送+118億円・ドライバルク+222億円の追い風と、自動車輸送△120億円の逆風が同時に起きていました。スズキは「期初に中東1,000億円のリスクを織り込んでいなかった」と明言し、住友商事のCFOは「中東情勢を期初計画にストレスとして織り込んでいる」と述べました。同じ出来事が、会社によって追い風にも逆風にも、想定内にも想定外にもなります。

丸紅の位置づけは、質疑応答の最後にはっきり出ています。

CFOの回答(要旨):「2025年度決算公表時に中東情勢に関するリスクシナリオを三段階に分けて分析しているが、今回の第1四半期決算は、そのうち第一段階として想定していた『価格急騰』の影響を受けたものとなった。価格急騰による影響に加え、ディーゼル燃料などコスト面への影響を合わせると、数十億円規模のインパクトがあった」「下期以降については、仮に同様の事象が再度発生した場合、事象の『深さ』と『期間』の掛け算、いわばその『面積』に比例して影響が拡大する可能性がある

なお同じ回答の中で、CFOは「金属部門、エネルギー・化学品部門の増益については、中東情勢緊迫化による増益分と、それ以外の要因による増益分を明確に切り分けることは非常に難しい」とも認めています。会社自身が切り分けられないと言っている以上、投資家の側も「この増益がどこまで続くか」は保留にしておくのが妥当です。

金属セグメントは、売って稼いでいません

実態純利益で+160億円と増えた金属セグメントの中身を、収益から追ってみます。

項目(2026年度Q1) 金属 金融・リース・不動産 食料・アグリ
収益 3,173億円 28億円 1兆2,346億円
売上総利益 165億円 30億円 1,459億円
営業利益 103億円 △20億円 441億円
持分法による投資損益 361億円 227億円 20億円
親会社帰属四半期利益 420億円 179億円 314億円

金属は収益3,173億円に対して売上総利益が165億円(粗利率5.2%)しかありません。それでも最終利益は420億円。差を埋めているのは持分法による投資損益361億円です。チリの銅事業、豪州の原料炭事業、アルミ事業——これらは持分を保有して利益を取り込む形になっています。

もっと極端なのが金融・リース・不動産で、収益はわずか28億円、営業利益は△20億円の赤字なのに、最終利益は179億円。持分法投資損益227億円が本体です。

逆に食料・アグリは収益1兆2,346億円と全社の47%を占めますが、粗利率11.8%、最終利益は314億円で減益でした。規模がいちばん大きいセグメントが、いちばん稼ぐセグメントとは限りません。

この構造は貸借対照表にも出ています。

項目(2026年6月末) セグメント資産 持分法で会計処理される投資 比率
金属 1兆6,988億円 1兆1,932億円 70.2%
金融・リース・不動産 1兆548億円 9,302億円 88.2%
電力・インフラサービス 1兆8,451億円 8,073億円 43.8%
全社 10兆5,597億円 3兆5,351億円 33.5%

丸紅の総資産の3分の1は「他社の株」です。伊藤忠商事は25.2%でしたから、丸紅のほうが持分法への依存度は高いことになります。総合商社を「モノを売っている会社」として見ると、この構造は見えません。

北米の自動車ローンに、関税の影が出ています

減益側にも、続きが気になる話があります。北米モビリティ事業のNowlake(自動車ローン)です。

質疑応答でCFOはこう説明しています。「Nowlakeにおいて、2023年以前に融資したサブプライム層の貸倒率が、2025年度の第3四半期頃から増えている」「時期的にもトランプ関税等の影響で、最も弱い層に影響が出てきたのではないかと推測される」。

すでに与信を引き締め、顧客層をサブプライム層からニアプライム〜プライム層へ移しているものの、2023年以前の貸出分の影響が今期Q1にも残っているという説明です。会社は「今年度後半には回復すると考えており、今年度予算としても下期に回復する前提」としています。

戦略プラットフォーム型事業として会社が挙げる7事業のうち、北米モビリティ事業は2026年度見通し470億円に対しQ1実績90億円、進捗率19%と最も遅れています。

もうひとつ、米国牛肉事業のCreekstoneについては「現在はキャトルサイクルの底にあり、生体牛価格が高止まりしている。牛肉価格も若干上昇しているが、十分に価格転嫁できる状況ではない」と説明されました。ただし「同業他社であるTyson FoodsやJBSは斯かる状況下で工場閉鎖や生産規模縮小を進めており、需給バランスは今後改善していく」とも述べています。

「ROIC10%まで5年かかる」から自社株買い、と会社は説明しました

この決算と同時に、丸紅は中期経営戦略GC2027の資本配分を見直しました。

項目(GC2027 3か年累計) 従来 見直し後
新規投資・CAPEX等 1兆7,000億円 1兆9,500億円 +2,500億円
株主還元 7,000億円 9,000億円 +2,000億円

そのうえで、2026年度の自己株式取得を450億円から1,450億円(追加1,000億円、上限4,000万株・発行済株式の約2.5%)に引き上げました。

注目したいのは、なぜ「投資」ではなく「自社株買い」なのかをCFOが正面から説明していることです。

CFOの回答(要旨):「新規投資に関しては、当社はROICで管理しているが、目標となるROIC10%を達成するまでには5年程度を要する。中経期間中に、1〜2年目でROICが10%に達するような案件は、極めて優れた案件でない限りなかなか難しい。そうした時間軸や相対的なリターンを考慮し、この資金を自己株式取得に充てることとした

投資をしないという話ではなく、「中期経営戦略の期間内にROEを改善するには、投資より自社株買いのほうが速い」という時間軸の判断だと言っています。実際、新規投資枠は2,500億円増やしています。

決断の速さについても説明があります。「今年5月の2025年度決算公表後に投資家やアナリストとの面談を実施し、さらに6月上旬にはGlobal IR Weekを通じて海外投資家と直接対話を行った」「投資家の皆様との対話から得た気づきや示唆に対して、当社として可能な限り速やかにしっかりと対応していくという意思を示すため、中間決算を待たずして今回このような資本配分の見直しを決定した」。

財務余力については、ネットDEレシオの目標値は示していないとしつつ、「格付けを意識し、規律ある財務体質を維持する方針であるため、『0.6倍前後』が当社にとって一つの目安」と述べています。2026年6月末の実績は0.46倍(前年度末0.43倍)で、余力を残しています。

また、決算短信には「『株主還元後フリーキャッシュ・フロー黒字維持』に必ずしも拘らず、格付を意識した財務規律のもと、レバレッジを柔軟に活用しながら」という一文が入りました。方針の変更を明記した形です。実際、Q1のフリーキャッシュ・フローは営業CF 1,765億円-投資CF 1,834億円で△69億円の赤字でした。

キャッシュの指標を、営業部門の予算に組み込みました

基礎営業キャッシュ・フローは2,499億円(前年同期1,539億円、+960億円)で過去最高、通期6,600億円に対する進捗率は38%です。この改善理由について、CFOは社内の仕組みを変えたと説明しています。

丸紅は「基礎営業キャッシュ・フローを実態純利益で除した数字をキャッシュコンバージョンレートとして呼称・管理している」とのことで、この比率は2025年度Q1の120%から2026年度Q1は140%に改善しました。

そして「今年度からはPLだけでなくキャッシュコンバージョンレートの予算も各営業部門と取り決めている」「これまでは関連会社における調達状況等を考慮して、あまり配当させないといったケースもあったが、キャッシュコンバージョンレートを握ったことによる意識の変化として現れてきている」と述べています。持分法適用会社に配当を出させるようになった、という話です。

これは前述の「総資産の3分の1が他社の株」という構造と表裏です。持分法の利益はPLには載りますが、現金は配当されない限り入ってきません。三井物産が最終利益+53.4%でも営業キャッシュフローが84%減った例と合わせて読むと、商社を見るときに損益とキャッシュを分けて追う必要がわかります。

通期見通しは据え置き。ただしCFOは「貯金は残る」と言いました

通期の親会社帰属当期利益は、2026年5月1日に公表した5,800億円(前期比+6.6%)から修正されていません。Q1の進捗率は32.1%です。

ただし決算説明会では、次のように述べられています。

CFOの回答(要旨):「ROE15%達成に対する自信は相当高まった」「次の第2四半期決算時には足元の市況や為替等も踏まえて通期業績の見直しを行う予定であるが、好調に推移した第1四半期決算の貴重な貯金は残る想定である

据え置きの理由は「Q1が想定を超えなかったから」ではなく、「見直しは次の四半期でやる」という手順の話だと読めます。市況・為替の前提が実績より低いことと合わせると、第2四半期決算での修正はひとつの注目点になります。

もうひとつ、通期見通しの中身で気になる数字があります。会社が出した一過性要因の表では、通期5,800億円のうち400億円が「その他」セグメントの資産入替損益として計上されています。注記に「資産入替損益:子会社・関連会社株式及び固定資産の売却等(ノンキャッシュの交換取引を含む)に伴う一過性要因」とあるとおり、まだ何を売るか公表していない400億円が、通期予想に最初から入っているということです。実態純利益の通期見通し5,400億円と、純利益5,800億円の差がこれにあたります。

配当・株主還元・株価

配当予想は年間115円(中間57.5円、期末57.5円)で据え置き。前期は107.5円でした。方針は累進配当の継続、総還元性向40%程度です。

年度 純利益 年間配当 自己株式取得 方針
2019年度 △1,975億円 35円 連結配当性向25%以上
2022年度 5,430億円 78円 300億円 累進配当の導入・総還元性向30〜35%程度
2025年度 5,439億円 107.5円 550億円  
2026年度(見通し) 5,800億円 115円 1,450億円 累進配当の継続・総還元性向40%程度
2027年度(目標) 6,200億円以上  

2019年度は1,975億円の最終赤字でした。そこから7年で6,200億円以上を目標とするところまで来ています。配当は35円から115円へ。累進配当と総還元性向の考え方は、こうした回復局面の会社を見るときに効きます。

株価については、会社がIR資料に指標を載せています。2026年7月末時点で株価5,201円、時価総額8.6兆円、PER15.7倍、PBR2.0倍(Bloomberg取得値)。2020年3月末は539円・時価総額0.9兆円でしたから、6年強で株価は約9.6倍になりました。

格付も上がっています。S&Pは2025年11月にBBB+からA−へ、JCRは2024年6月にAA−からAAへ引き上げました。なお丸紅は2026年6月19日の株主総会をもって、監査役会設置会社から指名委員会等設置会社へ移行しています。

PBR2.0倍という水準は、総合商社としては高いほうです。三菱商事がバフェットの投資をきっかけに純資産割れから再評価された経緯と比べると、商社株全体の見られ方が変わったことがわかります。PER・PBR・ROEの見方もあわせてどうぞ。

この決算から言えること

整理します。

  • 営業利益+54.7%と税引前+26.1%は、増えた金額で見れば467億円と473億円でほぼ同じ。伸び率の差は分母の違いです。
  • 会社独自の「実態純利益」で見ると、増益の主役2つ(電力・インフラ+122億円、エアロスペース+113億円)は横ばいか半減し、減益の主役2つ(金融・リース△130億円、次世代事業開発△56億円)は減っていないか増益に逆転します。一過性が両方向に散らばっているのが丸紅の特徴です。
  • 実態で本当に増えたのは金属(+160億円)とエネルギー・化学品(+220億円)。ただし会社自身が「中東情勢の影響とそれ以外を切り分けるのは非常に難しい」と認めています。
  • 14.90円の円安なのに、為替の効果は+50億円だけ。クロスレートの影響△50億円が半分を打ち消しました。
  • 通期見通しの前提(原油60ドル、ドル円150円、銅12,000ドル)は、いずれもQ1実績より低い。そのうえでCFOは「第2四半期決算時に見直す予定」「第1四半期の貴重な貯金は残る想定」と述べています。
  • 総資産の33.5%が持分法投資。金属は資産の70.2%、金融・リース・不動産は88.2%が「他社の株」です。
  • 資本配分を見直し、自社株買いを1,450億円に。理由は「新規投資はROIC10%まで5年かかるから」と会社が明言しています。

次の四半期で確かめたいのは3点です。①第2四半期決算で通期見通しがどれだけ上方修正されるか ②エネルギー・化学品の72%という進捗率が、中東情勢が落ち着いた後も維持できるか ③Nowlakeの貸倒率が会社の言うとおり下期に回復するか。

いずれも、次の決算資料で会社が数字を出してくる項目です。

※本記事は2026年8月3日発表の2027年3月期第1四半期決算短信、同日公表のIR資料、および決算説明会の主な質疑応答(要旨)に基づいています。金額は原則として億円未満を四捨五入した会社開示値です。特定の銘柄の売買を推奨するものではありません。投資判断はご自身の責任でお願いいたします。

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