【2026年版】野村ホールディングス(8604)の今後の業績と株価の見通し|本業は2倍、全社は+32%。差を作った616億円

野村ホールディングス(8604)が2026年7月29日に発表した2027年3月期第1四半期(2026年4〜6月)は、収益合計(金融費用控除後)6,867億円(前年同期比31.2%増)、当社株主に帰属する四半期純利益1,456億円(同39.2%増)でした。ROEは年率換算で15.4%(前年同期12.0%)です。

ただしこの決算には、読み方の分かれ目が2つあります。1つは、本業4部門の利益が2倍になっているのに、全体は32%増にとどまっていること。もう1つは、会社が決算短信と説明会資料で、まったく違う比較軸を使っていることです。

この記事では一次資料をたどって、①本業と全体で伸び率がここまで違う理由 ②2つの比較軸の使い分け ③会社が翌月について何を語ったか、の3つを確かめます。

この決算を1枚で(2027年3月期 第1四半期)
指標 当期 前年同期 増減率
収益合計(金融費用控除後) 6,867億円 5,233億円 +31.2%
4セグメントの税前利益 2,130億円 1,058億円 +101.3%
税引前四半期純利益(全社) 2,115億円 1,603億円 +32.0%
当社株主に帰属する四半期純利益 1,456億円 1,046億円 +39.2%
ROE(年率換算) 15.4% 12.0% +3.4pt
4部門の利益は2倍。それなのに全社は32%増。この差に答えがあります。

本業4部門の利益は2倍になっている

野村は事業を4つのセグメントに分けています。税引前利益を並べると、伸び方がはっきり出ます。

セグメント 前年同期 当期 増減率
ホールセール部門 419億円 933億円 +122.7%
インベストメント・マネジメント部門 215億円 450億円 +109.0%
ウェルス・マネジメント部門 388億円 711億円 +83.4%
バンキング部門 36億円 36億円 +0.6%
4セグメント合計 1,058億円 2,130億円 +101.3%

4部門の合計は2倍を超えています。最大の増益はホールセール部門(法人向けのトレーディング・投資銀行業務)で、514億円増えました。

収益(金融費用控除後)で見ても同じ傾向です。

セグメント 当期 増減率
ホールセール部門 3,691億円 +41.4%
ウェルス・マネジメント部門 1,454億円 +37.5%
インベストメント・マネジメント部門 983億円 +94.4%
バンキング部門 152億円 +18.7%
4セグメント合計 6,281億円 +46.0%

それなのに全社が32%増にとどまる理由

4部門が+101.3%なのに、全社の税引前利益は+32.0%です。差を作っているのは、セグメントに属さない「その他」です。

前年同期 当期 増減
4セグメント合計 1,058億円 2,130億円 +1,072億円
その他 +546億円 △70億円 △616億円
税引前利益(調整前) 1,604億円 2,060億円 +456億円
調整:営業目的で保有する投資持分証券の評価損益 △1億円 +55億円 +57億円
税引前四半期純利益 1,603億円 2,115億円 +32.0%

「その他」が546億円の利益から70億円の損失へ、616億円悪化しています。会社はその内訳も開示しています。

「その他」の内訳 前年同期 当期
経済的ヘッジ取引に関連する損益 +11億円 △20億円
営業目的で保有する投資持分証券の実現損益 0億円 +12億円
関連会社損益の持分額 +123億円 +105億円
本社勘定 △116億円 △160億円
その他 +529億円 △7億円

前年同期の「その他」のなかに、529億円という大きな利益がありました。その反動が、今回の全体の伸び率を抑えています。

言い換えると、この四半期の野村は「本業が倍増したが、前年にあった本業の外の利益が消えた」という決算です。

比べると見えること:住友商事は逆に、10の事業セグメント合計が△41億円の減益で、増益を作ったのは「消去又は全社」の+233億円でした。本業と全社の伸び率が食い違ったら、その差を作っている行を探す——これはセグメント開示のある会社すべてに使えます。

同じ決算が、2つの比較軸で語られている

この決算を読むうえで、いちばん注意が要る点です。

資料 比較軸 税前利益の伸び
決算短信 前年同期比(2025年4〜6月との比較) +32.0%
決算説明資料 前四半期比(2026年1〜3月との比較) +96%

説明会資料には、はっきりこう書かれています。「なお、今から申し上げるパーセンテージは、すべて前四半期との比較となります」

同じ四半期の同じ利益が、+32%とも+96%とも表現できるわけです。どちらも正しい数字ですが、印象はまったく違います。

実際の四半期推移を見ると、その理由がわかります。

四半期 全社の税前利益 4セグメント合計
2026年3月期 1Q 1,603億円 1,058億円
2026年3月期 2Q 1,366億円 1,326億円
2026年3月期 3Q 1,352億円 1,429億円
2026年3月期 4Q 1,077億円 1,256億円
2027年3月期 1Q 2,115億円 2,130億円

前四半期(1,077億円)が直近5四半期でいちばん低い水準でした。そこと比べれば+96%になります。一方、前年同期(1,603億円)と比べれば+32%です。

比較の起点をどこに置くかで、同じ決算の見え方が変わります。資料を読むときは「この%は何との比較か」を必ず確認する価値があります。

海外3地域の税前利益が過去最高

会社が挙げるハイライトは3つです。

  • ストック型ビジネスの拡大により、安定的な収益基盤が強化された
  • 海外3地域の税前利益が752億円となり、2009年3月期の開示以降で過去最高
  • バンキングビジネス強化に向けた預金スイープサービスを開始

質疑応答では、地域ごとの事情がさらに具体的に語られています。

アジアの伸びについて——「エクイティが大きく増収に貢献し、FX・エマージングやフロー・クレジットも大幅増収」「4、5年前から梃入れしてきた海外富裕層ビジネスが収益・利益にしっかりと貢献するようになってきており、今後も比較的安定して成長が続く

そして、欧州が赤字を続けている理由についての説明が、この決算資料でいちばん興味深い部分です。

欧州拠点がプロフィットセンターであると同時に、グループにおけるインターナショナルなブッキングハブとしての役割を担うなど、コストセンターとしての側面も持っていることがあります。また、今期はホールセール部門内で、欧州から好調な米州やアジアのエクイティ関連ビジネスへ財務リソースをややダイナミックに再配分したことも一因です。
欧州拠点がなければ、他の海外地域のビジネスを成立させることは難しいため、ホールセール全体として業績をご覧いただくのが適切かと考えています

「赤字の拠点だが、なくすと他が成立しない」——地域別の数字だけを見て判断してはいけない、という例です。

会社が「翌月の状況」を語っている

証券会社の決算には、他の業種にない特徴があります。市況次第で四半期ごとの振れが大きいため、通期の業績予想を出しません。野村も業績予想を開示していません。

そのかわり、質疑応答でCFOの森内博之氏が、決算発表時点(7月29日)での足元の状況に触れています。

ホールセール収益には例年一定の季節性があり、7月から8月にかけては、傾向としていわゆる”夏枯れ”が多い期間です。そのなかで、前年同四半期と7月単月を比較した場合、現時点では概ね横ばいの水準で推移していると見ています

四半期が終わった直後の月について、会社が数字の方向を語るのは珍しいことです。業績予想を出さない会社を見るときは、こうした発言が実質的なガイダンスになります。

好調だったエクイティ・ビジネスの持続性についても、慎重な見方が示されています。

第1四半期はマーケットが非常に活況であったため、エクイティ・ビジネスも好調に推移しました。今後は、一定程度平準化していく可能性はあると考えています。もっとも、依然としてエクイティ関連の取引に対するお客様の需要は底堅く、平準化するとしても、過去の水準と比較すれば高いレベルで推移するものと見ています

税率が下がったことも効いている

税引前+32.0%に対し、最終利益は+39.2%です。ここにも理由があります。

前年同期 当期
税引前四半期純利益 1,603億円 2,115億円
法人所得税等 528億円 554億円(+4.9%
実効税率(概算) 32.9% 26.2%

税引前利益が32%増えたのに、税金は4.9%しか増えていません。実効税率が6.7ポイント下がったぶん、最終利益の伸びが税引前を上回りました。

税金が利益の伸び方を変える例は、この四半期にいくつも見られます。住友商事は税効果で税引前△27.6%が最終+11.2%に転じ、塩野義製薬は繰延税金資産の計上で税引後が税引前より大きくなりました。営業段階と最終段階で伸び率が違ったら、税金の行を見る習慣が効きます。

財務と株主還元

  • 当社株主資本合計は3兆8,343億円
  • 利益剰余金は期首2兆140億円から期末2兆1,520億円へ
  • この四半期に自己株式を185億円取得
  • 四半期包括利益は1,765億円(前年同期比+186.4%)

配当については、質疑応答で「配当性向40%以上の方針を踏まえると、第1四半期の利益だけで1株当たり配当20円近い水準を確保したと考えてよいか」という質問が出ています。CFOの回答はこうでした。

現時点で今年度の配当性向や総還元性向について申し上げるのはまだ時期尚早と考えています。そのうえで、成長投資と還元のバランスを踏まえて、今後しっかり検討していきたい

「配当性向40%以上」という方針はありますが、具体的な金額はまだ示されていません。市況次第で利益が振れる業種であることが、ここにも表れています。

この決算から持ち帰れる5つの見方

  • ① セグメント合計と全社を比べる。野村は4部門+101.3%に対し全社+32.0%。差は「その他」の616億円の悪化でした。
  • ② その%が「何との比較か」を確認する。短信は前年同期比(+32%)、説明会資料は前四半期比(+96%)です。
  • ③ 業績予想を出さない会社では、質疑応答が実質のガイダンス。CFOが7月単月を「概ね横ばい」と語っています。
  • ④ 地域別の赤字は、その役割まで読む。欧州は赤字ですが「なければ他の地域が成立しない」ブッキングハブです。
  • ⑤ 実効税率の変化を見る。32.9%→26.2%の低下が、最終利益の伸びを税引前より大きくしました。

まとめ:野村ホールディングスの将来性をどう見るか

2027年3月期第1四半期の野村ホールディングスは、本業4部門の利益が2倍になり、ROEが15.4%まで上がった決算でした。一方で、前年にあった本業の外の利益が消えたため、全体の伸び率は32%にとどまっています。

見出しになりやすい事実 一次資料で確かめた実態
税前利益+96%の大幅増益 それは前四半期比。前年同期比では+32.0%
全社の伸びは32% 4セグメント合計は+101.3%。差は「その他」の△616億円
最終利益+39.2% 税引前は+32.0%。実効税率が32.9%→26.2%に低下
海外が好調 海外3地域の税前利益752億円は過去最高。ただし欧州は赤字継続
今後も伸びる? CFOは「7月単月は前年と概ね横ばい」「エクイティは平準化の可能性」と発言
配当はどうなる? 配当性向40%以上の方針だが、金額は「時期尚早」

この会社で次に確かめるべきことは3つです。

  • ホールセール部門の勢いが続くか。税前利益が2.2倍になった最大の増益源で、その中身は市況に左右されるエクイティ・ビジネスです
  • 「その他」がどこで落ち着くか。前年は+546億円、今期は△70億円。この振れが全社の数字を大きく動かします
  • ストック型ビジネスがどこまで積み上がるか。会社が「安定的な収益基盤」として挙げている部分です

証券会社の決算は、市況の影響を強く受けます。だからこそ、どの部門がどれだけ稼いだのか、それは続くものなのかを、セグメント表と質疑応答から読み取る意味があります。野村はそのどちらも詳しく開示しています。

本記事は2026年7月29日公表の決算短信(米国会計基準)、決算説明資料および決算説明テレフォン・カンファレンスの質疑応答要旨など、野村ホールディングスが公開している一次資料に基づいて作成しています。同社は米国会計基準を採用しており、また通期の業績予想を開示していません。実効税率は法人所得税等を税引前四半期純利益で除した概算値です。情報提供を目的としたものであり、特定銘柄の売買を推奨するものではありません。投資判断はご自身の責任でお願いいたします。

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