【2026年版】塩野義製薬(4507)の今後の業績と株価の見通し|最終利益+148%の中身と、次の四半期に利益が10分の1になる予想

塩野義製薬(4507)が2026年8月3日に発表した2027年3月期第1四半期(2026年4〜6月)は、売上収益1,633億円(前年同期比63.7%増)、親会社の所有者に帰属する四半期利益977億円(同148.2%増)でした。会社は「第1四半期として過去最高」と説明しています。

ただし数字を上から下へ追うと、途中で妙なことが起きています。税引前四半期利益は737億円なのに、その下の四半期利益は977億円。税引後のほうが240億円も大きいのです。

そして会社の予想を逆算すると、次の四半期は売上が増えるのに、利益はこの四半期の10分の1になります。

この記事では一次資料をたどって、①売上が63.7%も増えた理由 ②税引後のほうが大きくなった理由 ③次の四半期に何が起きる想定なのか、の3つを確かめます。

この決算を1枚で(2027年3月期 第1四半期)
指標 当期 前年同期 増減率
売上収益 1,633億円 998億円 +63.7%
営業利益 669億円 351億円 +90.6%
コア営業利益 725億円 356億円 +103.5%
税引前四半期利益 737億円 463億円 +59.2%
親会社帰属四半期利益 977億円 394億円 +148.2%
EBITDA 934億円 406億円 +129.8%
税引前737億円より、税引後の977億円のほうが大きい。ここに答えがあります。

売上+63.7%の正体は、買収の積み重ね

まず売上です。1年で6割以上増えるのは、通常の事業成長ではありません。会社は決算短信の冒頭で、この四半期に関係する企業結合を列挙しています。

  • 2026年4月に田辺ファーマからエダラボン事業を承継(ALS等の治療薬「ラジカット」/北米では「RADICAVA」)
  • ViiV Healthcare Ltd.の株式を追加取得し、持分法適用関連会社へ
  • 前期に鳥居薬品の株式を取得して連結子会社化
  • 前期に日本たばこ産業(JT)の医薬事業を承継
  • 前期にAkros Pharma Inc.の株式を取得

売上の内訳を見ると、増加分がどこから来たかがはっきりします。

売上区分 当期 増減率 会社が挙げる要因
国内医療用医薬品 335億円 +137.3% 鳥居薬品の連結子会社化、エダラボン(ラジカット)の承継、不眠症治療薬クービビックの処方拡大
海外子会社および輸出 422億円 +196.6% 北米でのエダラボン(RADICAVA)、セフィデロコル(Fetroja/Fetcroja)の欧米での伸長
ロイヤリティー収入 801億円 +25.3% ViiV社のHIVフランチャイズ、旧JT医薬事業に関連するロイヤリティー

国内が2.4倍、海外が3倍になっていますが、その大半は買った事業の売上です。会社も利益面の説明で「鳥居薬品の連結子会社化およびJT医薬事業の承継並びにエダラボン事業の承継に伴い、売上原価および各種費用が増加した」と書いています。実際、売上原価は123億円から308億円へ、販管費は258億円から452億円へ増えています。

この四半期は、JTの決算と裏表の関係にあります。JT(日本たばこ産業)は医薬事業を塩野義に承継したことで、その分を非継続事業に分類しました。だからJTの決算では前年同期比がすべて「継続事業ベース」で表示されています。同じ取引が、売った側では数字を消し、買った側では数字を増やしています。2社の決算を並べると、1つの取引の両側が見えます。

税引後のほうが大きい理由

ここがこの決算の核心です。

金額
税引前四半期利益 737億円
親会社帰属四半期利益 977億円
+240億円

ふつうは税金を払うので、税引後は税引前より小さくなります。逆転した理由を、会社はこう書いています。

米国子会社においてエダラボン事業承継に伴い将来の課税所得が見込まれることにより繰越欠損金に対して繰延税金資産を計上したことなどにより法人所得税費用が減少したことが主な要因です

米国子会社が過去に抱えていた税務上の赤字(繰越欠損金)が、エダラボン事業を得たことで「将来使える」と判断され、資産として計上された。その結果、法人所得税がマイナスになりました。

これは現金の動きを伴いません。会計上の見積りが変わったことによる利益です。そして、繰延税金資産の計上は一度きりの出来事です。

税金が利益の向きを変える例は、ほかにもあります。住友商事は同じ四半期に、マダガスカルニッケル事業の売却損に伴う税効果で法人所得税が709億円プラスに転じ、税引前△27.6%の減益が最終+11.2%の増益になりました。逆に武田薬品は法人所得税が87.7%増えて最終減益です。営業利益と最終利益で向きが変わったら、必ず税金の行を見ます。

次の四半期は、利益が10分の1になる予想

会社は通期予想を2026年5月12日の公表から変更していません。その数字をQ1実績と並べると、異常な形が浮かびます。

指標 Q1実績 通期予想 進捗率
売上収益 1,633億円 7,000億円(+40.1%) 23.3%
営業利益 669億円 2,200億円(+29.2%) 30.4%
税引前利益 737億円 2,200億円(△9.3% 33.5%
親会社帰属当期利益 977億円 2,100億円(+0.4% 46.5%

下に行くほど進捗率が高くなっています。これは、Q1に一過性の利益が集中していることを示します。

さらに、会社は第2四半期累計の予想も出しています。そこからQ1実績を引くと、第2四半期単独の姿が計算できます。

指標 Q1実績 Q2単独(逆算) Q1との比
売上収益 1,633億円 1,767億円 108%(増える)
営業利益 669億円 291億円 43%
税引前利益 737億円 223億円 30%
当期利益 977億円 103億円 10.5%

売上は増えるのに、当期利益は10分の1になる想定です。Q1の977億円に含まれていた繰延税金資産の効果が、次の四半期にはないためだと読めます。

通期の税引前利益が△9.3%の減益予想である一方、営業利益は+29.2%の増益予想という点も、同じことを示しています。営業利益は増えるが、税引前・最終では前期の一過性要因の反動が出るという構図です。

売上の49%はロイヤリティー収入

塩野義製薬の収益構造には、はっきりした特徴があります。

売上区分 金額 構成比
ロイヤリティー収入 801億円 49.0%
海外子会社および輸出 422億円 25.8%
国内医療用医薬品 335億円 20.5%

売上のほぼ半分が、自社で薬を売って得たものではなく、他社から受け取るロイヤリティーです。主な源はViiV社のHIV治療薬フランチャイズで、これは塩野義が創製した抗HIV薬をグラクソ・スミスクライン系のViiV社が販売し、その売上に応じて受け取る仕組みです。

この四半期からは、旧JT医薬事業に関連するロイヤリティー収入も加わっています。

製薬5社を並べると、稼ぎ方が全部違う

会社 提携の形 収益構造の特徴
塩野義製薬 ViiV社などから受け取る ロイヤリティーが売上の49.0%。自己資本比率66.7%
中外製薬 ロシュから受け取る ロイヤルティと輸出。自己資本比率82.8%、のれんほぼなし
第一三共 アストラゼネカに払う 売れるほどプロフィット・シェアが増える
アステラス製薬 ファイザーに払い、受け取る XTANDI共販費用675億円/PADCEVはコ・プロ収入
武田薬品 買収で取得 有利子負債4兆9,400億円、自己資本比率48.3%

同じ「日本の製薬大手」でも、お金の入り方と財務の形はここまで違います。塩野義は中外製薬に近い「受け取る側」でありながら、武田薬品のように買収でも規模を広げている——両方の性格を持っています。

フリー・キャッシュ・フローは3,806億円の赤字

買収の代金は、当然ながらキャッシュで出ていきます。

項目 当期 前年同期比
営業活動によるキャッシュ・フロー 431億円 +20億円
投資活動によるキャッシュ・フロー △4,237億円 △2,930億円
フリー・キャッシュ・フロー △3,806億円 赤字
財務活動によるキャッシュ・フロー △341億円 △47億円
現金及び現金同等物 2,989億円 △4,124億円

投資キャッシュ・フローの4,237億円の支出は、田辺ファーマからのエダラボン事業の承継によるものです。現金は4,124億円減り、残高は2,989億円になりました。

貸借対照表にも同じ動きが出ています。

  • 非流動資産が4,532億円増加——エダラボン事業承継に伴うのれんや無形資産の増加。ただし「取得原価の配分が完了していないため、暫定的に算定された金額」
  • 流動資産は3,836億円減少——現金の減少
  • 資産合計は2兆6,550億円(+695億円)、資本は1兆7,727億円(+824億円)
  • 親会社所有者帰属持分比率は66.7%(前期末65.3%)

自己資本比率66.7%は、製薬5社のなかでも高い水準です。現金を使って買収しても財務の健全性が保たれているのは、もともとの蓄積が厚いためです。

配当と、暫定的な会計処理

  • 配当は年間71円→76円の予想(中間38円・期末38円)。修正なし
  • 前期は中間33円・期末38円で71円
  • EPSはQ1で114.81円(前年46.26円)、通期予想246.79円

読むうえで注意すべき点があります。この決算には「暫定的な会計処理」が複数含まれています。

  • エダラボン事業の承継——取得原価の配分が未完了。のれんや無形資産の金額は暫定
  • ViiV社の持分法適用——取得原価の配分が未完了
  • 鳥居薬品・JT医薬事業・Akrosの企業結合——この四半期に暫定処理を確定させ、前期の数字を遡及修正

つまり、のれんや無形資産の金額は今後変わる可能性があります。また、前期との比較には遡及修正後の数字が使われています。

この決算から持ち帰れる5つの見方

  • ① 売上が急増したら、買収の有無を確認する。塩野義の+63.7%は、鳥居薬品・JT医薬事業・エダラボン事業の承継によるものです。
  • ② 税引後が税引前より大きかったら、税金の行を読む。ここでは繰延税金資産の計上で240億円の逆転が起きました。
  • ③ 進捗率が「下の行ほど高い」なら、一過性の利益を疑う。売上23.3%、営業利益30.4%、最終46.5%でした。
  • ④ 四半期予想があるなら、単独の姿を逆算する。Q2は売上が増えるのに当期利益はQ1の10.5%という想定です。
  • ⑤ 「暫定的な会計処理」の記載を見逃さない。のれんや無形資産の金額は、今後の確定で変わります。

まとめ:塩野義製薬の将来性をどう見るか

2027年3月期第1四半期の塩野義製薬は、買収で売上を6割増やし、税務上の見積り変更で最終利益を2.5倍にした決算でした。どちらも本業の日常的な成長とは別の動きです。

見出しになりやすい事実 一次資料で確かめた実態
売上+63.7%で過去最高 鳥居薬品・JT医薬事業・エダラボン事業の承継による増加が大半
最終利益+148.2% 税引前は+59.2%。差の240億円は繰延税金資産の計上
好調な決算 フリーCFは△3,806億円。現金は4,124億円減少
Q1で通期の46.5%を達成 それでも通期は+0.4%で据え置き。税引前は△9.3%の減益予想
今後も成長が続く? 会社予想の逆算で、Q2の当期利益はQ1の10.5%
製薬会社としての稼ぎ方 売上の49.0%がロイヤリティー収入

この会社で次に確かめるべきことは3つです。

  • 買収した事業が利益を生み続けるか。売上は買えますが、その分だけ売上原価・販管費・償却費も増えています
  • のれんと無形資産の金額が確定したときにどうなるか。現在は暫定値で、非流動資産は1四半期で4,532億円増えています
  • ロイヤリティー収入の持続性。売上の約半分を占め、その源はViiV社のHIVフランチャイズです

「過去最高」と「通期は横ばい予想」が同居する決算では、その差がどこにあるかを探すのがいちばん早い読み方です。塩野義製薬の場合、答えは税金の行と、四半期予想の逆算にありました。

本記事は2026年8月3日公表の決算短信および決算補足資料など、塩野義製薬が公開している一次資料に基づいて作成しています。同社の第2四半期単独の数値は、公表されている第2四半期累計予想から第1四半期実績を差し引いた計算値です。また企業結合に係る会計処理の一部は暫定的なものであり、今後変更される可能性があります。情報提供を目的としたものであり、特定銘柄の売買を推奨するものではありません。投資判断はご自身の責任でお願いいたします。

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